うらにわにはにわにわとりがいる
11月10日――
「ねぇラム、ムラムラしない?」
昼休み、昼食が終わって二人きりになった時、ソニアはラムリーザに引っ付いてきて尋ねた。
食後の散歩、昼休みに二人きりの時は、いつも校庭をあてもなくぶらついているものだった。
「せんよ」
らむらむらむらむ言ってるんじゃないと思いながら、ラムリーザは短く答えた。
しかしその足は、無意識のうちに学校の裏山へ向かっていた。
「やろうよ、ラムラムラムー」
ソニアはらむらむ食い下がるが、ラムリーザは一言「やらんよ」と答えるだけだった。
「チュウチュウドラマー」
「しつこいよ」
裏山への入り口に到着すると、ニバスに命じられて見張りをしている生徒と鉢合わせる。ニバスとは、ハーレムを築き上げるのが好きな先輩だ。
ラムリーザの顔は、ここでは知れ渡っているので、ほとんど顔パス状態で裏山に入ることは許されるのだった。
「あまり学校でチュウチュウやるのはなぁ……」
「大丈夫、以下省略があるよ」
「ユコみたいな事言うなよな」
裏山のお気に入りスポット。いつもの川のせせらぎが聞こえる川辺に二人は座り、語り合っていた。
その時、木の陰から一組の男女が姿を現した。男子生徒はじっとラムリーザを見つめている。
ラムリーザは、その男子生徒に見覚えがあった。
「ひょっとして、てめーがラムリーザか?」
その言葉を発した男子生徒はウサリギだ。以前、レフトールとにらみ合っているのを遠巻きに見かけたことがあった。
「ウサリギか……」
ラムリーザが小さくつぶやくと、ソニアは眉をひそめて不満そうな声を張り上げた。
「また襲われるの?! もう嫌! なんで次から次へとラムに付き纏うのよ!」
ウサリギは、ジロリとソニアを睨みつけるが、牽制しているだけで今は手を出してくる気は無さそうだ。
そりゃそうだろう。
ここはニバスの管轄地、ウサリギもここは中立地帯と考えているようで、ここで争うことは無いはずだ。
ソニアは、ウサリギと一緒に居た女子生徒を見て、さらに声を張り上げる。
「ちょっと! あんたフリールじゃないのよ!」
「えっ、この娘が?」
ラムリーザは、以前レフトールがラブレターで罠を仕掛けてきた時の差出人の名前が、フリールだったことを思い出した。
ソニアの方は、呼び出されたときに出てきた女子生徒が、彼女だったことを覚えていた。
しかし、フリール自身は覚えていないのか、こちらに興味は無さそうにしている。
「行くぞ、ミュン」
「ん」
ウサリギは早々とラムリーザと関わりあうのを避け、連れてきた女子生徒に声をかけてその場を立ち去っていった。
フリールの事をウサリギはミュンと呼んだ気がする。それはあだ名なのだろうか、それともやはりレフトールの偽名なのだろうか。
とにかくどっちでもいい。
ラムリーザは、なんとなく疲れてしまい、やる気が無くなってしまった。何のやる気なのかは不明ということにしておこう。
それはソニアも同じようで、「抱いて、それだけでいい」と言って、ラムリーザに抱きついてくるのだった。
「ん~、こういうのも久しぶりにやってみよう」
ラムリーザはそうつぶやき、ソニアの額にじぶんの額を当てた。
「ふえぇ……」
「ふふっ、ソニアって顔を近づけるとものすごい勢いで目をパチパチするね」
「えー、あたしそんなことしてないよ」
「目をパチパチ瞬いた」
「叩いてない!」
「なんでそうなる?」
そのような感じに、ゼロ距離で語り合うというよりいちゃいちゃしていると――
ガサッ
その時、茂みが揺れて、再び一組の男女が現れた。
ラムリーザは、ソニアの額から顔を離して現れた二人を見つめた。あ、この二人は――。
「チロジャル!」
ラムリーザが名前を思い出すより早く、ソニアが女子生徒の名前を呼ぶ。以前偽造写真事件で、ラムリーザと校舎裏でキスしたことになっていた女の子だ。ということは、一緒にいる男子生徒はクロトムガか。
チロジャルは、ソニアに大声で名前を呼ばれ、驚いたようにビクッと身体を震わせる。思わず逃げようとするが、クロトムガにすぐに手を握られてその場に留まる。
ソニアもラムリーザの傍を離れると、チロジャルの手を掴んで引っ張っている。そんなにチロジャルが気に入ったのか?
実際のところ、ソニアはチロジャルを気に入っている。
リリスやメルティアに対して、ソニアは手玉に取られてしまい、遊ばれ続けている。しかし、チロジャルは気弱で大人しく、ソニアが主導権を握ることができた。そういった関係が、ソニアにとって嬉しくもあり、お気に入りでもあるのだ。チロジャルにとってはいい迷惑だが……。
ソニアがチロジャルと戯れている間、ラムリーザはクロトムガと雑談をしていた。
クロトムガの話では、チロジャルとやりたいのだが、家ではお互いに家族が居てなかなかできない。かといって、ホテルに行くような金も無い。
このように悶々としていたところ、この裏山の存在をどこからか聞きつけてやってきたというわけだ。
「そ、そんな私……」
チロジャルの困ったような声が聞こえた。ソニアはチロジャルと向き合い、何やら話し合っている。
「クロトムガ、あの時はソニアが騒ぎ立てて悪かったよ」
ラムリーザは、クロトムガとゆっくり話す機会が無かったので、今この時を利用して偽造写真騒ぎの事を話した。
「いや、写真部に嵌められただけだよ。こっちも荒っぽく対応して悪かった」
「ああ、そういえば発端は偽造写真だったね。ところで、手は大丈夫だった?」
事件の日、激高したクロトムガに掴みかかられた時、ラムリーザは力ずくでその手を引き剥がしたことを思い出した。
「手? ああ、あれか。あの時は痺れてやばいと思ったけど、夜までには痛みは引いたよ」
「そうか、それはよかった……」
「気にしているみたいだけど、何かあったのか?」
「ん~、あの後、レフトールに大怪我させちゃってね……」
「えっ? あのレフトールに? って、そういえば顔とか手とかすごいことになってたな」
クロトムガは、レフトールと同じクラスなので、彼の事はよく知っているようだ。
「レフトールに絡まれたときは、こっちも必死だったから加減できなかったけど、これからは加減を考えなくちゃね」
「それはそれですごいと思うぞ。あのレフトールをあそこまでやっつけるなんてな。……って、チロジャル? 何やってんだお前ら!」
ラムリーザと雑談していたクロトムガは、ようやくチロジャルが困っていることに気がついた。
ソニアはチロジャルに携帯端末を取り出させていて、自分の携帯端末と合わせて何かをしようとしている。
「二人で何をやっているんだ」
クロトムガはソニアの行動を不振がり、チロジャルの傍に寄っていった。
「携帯端末のメール交換しているのよ」
ソニアは悪びれずに言った。それを聞くと、クロトムガはメールアドレスの交換ぐらいなら問題ないだろうと判断して、ラムリーザの所に戻ってきた。
「折角の機会だし、俺たちも交換ととく?」
「あまり使っていないけど、それでよければいいよ」
こうしてラムリーザとクロトムガも、ソニアとチロジャルに倣うこととなった。
「ところでラムリーザは、ここで彼女と何をしているのだ? いや、聞くまでもないと思うが」
「別に18禁なことはしていないよ、あくまで僕たちがやっているのは全年齢対象の範疇だからね」
「ということは、キスまでか」
クロトムガは、腕を組んで頷きながら答えた。それにはラムリーザも驚いた。
「なぜわかる?」
「18禁のゲームを全年齢対象にリメイクしたものをプレイしたらわかるぞ」
「そうなのか?」
「そうだ。エロシーンは全部キスまでに置き換えられている。だからラムリーザの言うような全年齢対象の範疇となると、キスまでとなる」
ラムリーザは、クロトムガがなぜそこまで詳しいのかはあえて突っ込まないことにした。
「さてと、そろそろ僕らも遊ぶか。そろそろ昼休みも終わる頃だからね」
「だな、俺もそんな気がしてきた」
ラムリーザとクロトムガは、お互いに顔を見合わせてクスッと笑う。そのまま二人とも立ち上がり、ソニアたちの方へと向かっていった。
川辺には、テーブルみたいになっている丁度いい大きさの岩が転がっていた。
「はい、二人ともお遊びはそこまでね。お得意の逆さキスを見せてあげよう」
ラムリーザは、ソニアをチロジャルから引き離して呼び寄せて、後ろを向かせて座らせた。
「こっちは普通に正面からだ」
「クロトムガ……、優しくして……」
チロジャルは、この期に及んでクロトムガに懇願する。まだあまり慣れていないのだろうか?
「それは流れる風と、お天道様次第だなぁ」
クロトムガは、かっこつけたようなことを言って、チロジャルの腰を掴んだ。