J&Rも登場! カラオケ喫茶は大盛況!

 
 11月13日――
 

「ラム~、おなかすいた~」

 午後を回ってしばらく経った頃、演奏の合間にソニアは不満そうな顔でラムリーザの方を振り返って訴えた。

「がまんしろ、この時間が一番の書き入れ時なんだからな。書き入れ時、で間違ってないよな、レルフィーナ」

 しかしレルフィーナの方も忙しくて、ラムリーザと話をしている暇は無さそうだ。やはり書き入れ時なのだろう。

「あたし何ももらってないよ? ジャンの店だと給料出るのにここだと出ない」

「そりゃそうだけどね。まぁお祭りなんだよ」

 文化祭、お祭りなのだから楽しんでやればいい。しかし、ソニアは空腹のために不満を言い出してしまったのだ。

「あと一時間がまんしろ。……だよな、おーい、レルフィーナ!」

 ラムリーザは、ソニアをなだめつつもう一度レルフィーナを呼ぶ。

 レルフィーナは、「今忙しいんだけど」と言いながら、それでもラムリーザの傍に来てくれた。ラムリーザは、昼休憩あるんだよな? と確認する。

「そうね、一時半も過ぎればお昼時は終わるはずだから、あと一時間がんばって」

 そういい残してレルフィーナは、給仕の仕事へと戻っていった。

 いつの間にかジャンたちの姿はなくなっている。昼食を済ませて他の所でも見に行ったかな?

 とにかく、一曲終わるごとに不満を言ってくるソニアをその都度なだめつつ、ラムリーザはなんとかレルフィーナの言った一時半まで演奏を続けたのだった。

 

 部室の入り口に、『カラオケは現在休憩中』といった看板を置き、ラムリーザはようやく三十分程の休憩時間を得ることができた。

 その休憩に合わせてジャンたちも戻ってきて、昼食を取っているラムリーザたちの輪に加わった。

「いやぁ、ジャンが来るとは思ってなかったよ。ソニア程じゃないけど僕も驚いたかな?」

「まぁな、いつも来てもらってばかりだから、たまには出向いてみようと思ったわけだ。それに、お前の言っていたカラオケ喫茶というものも気になったからね」

 昨日は帝都でのライブの日だったが、文化祭の準備があるということで休ませてもらっていたのだ。この時の連絡時に、文化祭の出し物としてカラオケ喫茶をやるということを話していたのだった。

「ソニアたん、おっぱい一メートルになったってホント?」

 一方メルティアは、ソニアとどうでもいい会話をしている。

「なってない!」

「うそばっかり、一メートル様の5kg様、くすっ」

 必死で否定するソニアの横から、真実を告げるリリス。

 ソニアは傍にメルティアが居るので、若干胸のガードが堅くなっているように見える。メルティアは、なめるような視線をソニアのはだけた胸に注いでいるので、意識せざるを得ないのだろう。

「そういえばリゲルとロザリーンは居ないのか?」

 ジャンは、メンバーの顔ぶれを見て尋ねた。

「ああ、彼らは天文部でもあるからね。いろいろ発表会しているみたいだから、後で見に行ってあげたらいい」

「星かぁ、星ねぇ。星占術とか詳しくないんだよなぁ」

「メルティア! いかめし買ってきてよ!」

「おっぱい揉ませてくれたら買ってきてあげるよん」

「二つの月が重なったらおもしろいんだけどね」

「む……、こいつ……」

 同じテーブルで二つの会話が同時進行しているので、なんだか妙に賑やかだ。

 このように談話しつつ、昼休憩の時間は過ぎていった。

 

 

「さてと、後半戦いっくぞー」

「おーっ」

 レルフィーナの掛け声に、ソニアは元気良く答える。腹が膨れたのでやる気復活、これで大丈夫だ。

 午後になって客の入りも少し落ち着き始めた頃、ジャンも歌ってみるかと考えてリストを手に取った。

「レパートリー多いな、流石だ。おっ、『本日のよまいごと』があるじゃないか。懐かしいな……って、何々Cランク? 何だ? えーと、とりあえず演奏できるレベル? 妙だな、『本日のよまいごと』はラムリーザにとって馴染みのはず」

 ジャンは、ぶつぶつつぶやきながらリストを眺めていった。

 リストを眺め終わった頃に、丁度前の客の歌が終わったので、ジャンは「いいかな?」とラムリーザに問いかける。

 ラムリーザは、「伺いましょう」と簡潔に答える。

「次は俺が歌う。リクエストは『本日のよまいごと』にするが、これは去年までに何度もやったのに、何故とりあえず演奏できるレベルなんだ?」

「んとね、それはリードギターの完成が間に合わなかったんだ。まぁリズムさえできていれば歌えるので、一曲でも多くリストに載せるためにそういった曲も何曲か入れているんだ」

「ごめんなさいねぇ」

 ラムリーザの説明に、リリスは頭をかきながら、しょうがないでしょとでも言いたそうな顔で頭を下げる。

「ああ、あれのギターフレーズはちょっと複雑だからね。リリスも気にしなくていいよ」

 ジャンは納得したようにうなずくと、壁際においてある一本のギターに気がついた。

「あのギターは使わんの?」

「あれはリゲルのギターだからね」

「ああ彼のか。丁度いい、ちょっと借りよう。俺がリードやるから合わせてくれ」

 ジャンは、リゲルのギターを手に取ると、それを持ったままステージ中央のマイクの前に立った。

 そういうわけで、ジャンの演奏を加えて曲を披露することになった。

「さて、お集まりの皆さんこんにちは。今日はこの『J&R』の演奏による『本日のよまいごと』をお楽しみください」

「うわっ、懐かしい」

 ジャンの紹介に、ソニアは思わず声を上げる。これは、ラムリーザとソニアにとって、去年までは当たり前の光景だった。

 

 演奏が終わった後、ユコはうっとりとした顔で言った。

「これが噂の『J&R』なんですのねぇ」

 ジャンは、ユコの方を振り返り、片目を閉じて親指を立てるポーズをして見せた。

 そう、ラムリーザ、ソニア、ジャン、ラムリーザの妹のソフィリータ、この四人で去年までやっていたグループが『J&R』だ。今回は、ソフィリータの代わりにリリスとユコが入った形になっているが、ジャンがメインで歌い、ラムリーザとソニアが土台を固めるという形は同じだ。

 リリスは、ジャンのプレイを認めたのか、「ふーん、ジャンも上手なんだ」と珍しくリスペクトする。レグルスのグループにはダメ出ししていたというのに、どうしたものだろうか。

「やっぱりリリスよりジャンの方が安定しているし安心できる。清らかさは低いけど……。というわけで、リリスとジャン、メンバー交代しようよ!」

 その代わり、ソニアがリリスを下げている。

 リリスのむっとした顔を見て、ジャンは「そういうわけにもいかんだろうって」と苦笑して言いながら、ギターを元に場所に戻してステージを下りていった。

 続いてメルティアがステージに上がってくる。

「ソニアたん、次は『ニンボートンボーケンボー』をお願いね」

「いや!」

 ソニアは、顔を背けてメルティアを拒絶する。

「こら、客を大事にしなさい」

 ラムリーザにたしなめられて、ソニアは口をへの字にしたまま、メルティアに背を向けて演奏を始めるのだった。

 ジャンたち以外にも、客の入りは午前中ほどでもないがなかなか多く、カラオケ喫茶は大成功だ。

 十五時を過ぎた頃には、リゲルとロザリーンも戻ってきて、「ラムリーズ・フルバージョン」の形で演奏を提供できるのだった。

 

 十八時を回った頃、そろそろ文化祭も終わりだ。

 ラムリーザたちは、結局朝の九時から十八時まで、約九時間演奏し続けたことになった。

「やーん、もう疲れたよぉ。ラム、あたし疲れたよぉ」

 ソニアは、指をニギニギしながらラムリーザに甘えてくる。

「僕は疲れていない」

 その一方で、ラムリーザは平然としている。ラムリーザは、長時間演奏するために、パフォーマンスは極力控え、力まずに淡々と演奏することで披露を抑えたのだった。むろん、過度に鍛えた腕の賜物であったことも否定できない。

「さすがラムリーザ様、鍛え方が全然違いますわね」

 ユコも大きく伸びをしつつ、肩を叩きながら言う。いつも澄ました感じのユコも、お疲れモードのようだ。

 リリスは何も言わずに、少しぼんやりしている感じだ。指先がプルプル震えているのが、疲れを表している。ほんとうにお疲れ様。

 ステージから下りていくラムリーザたちとは反対に、レルフィーナはステージに上がると、クラスを代表して締めの言葉を述べた。

「今日はみんなありがとう、今日はあちきも楽しかったよ。カラオケ喫茶は大成功、出し物の中で一番目立っていたのは間違い無しね、本当にお疲れ様。ラムリーザたちもありがとう、あなたたちが居なかったらこの出し物は成り立たなかったわ。ねぇみんな、来年も同じクラスになったら、またカラオケ喫茶やろうよ、ね! 絶対だよ! 本当にありがとう。片付けは明日になるので、今日はこれで解散! お疲れ様!」

 レルフィーナの挨拶で、カラオケ喫茶はこれでおしまい。みんなやり遂げたといった満足そうな顔で、一人、また一人と部屋から出て行った。

 後は後夜祭のダンスのみ。

 参加は自由なので、休みたい人はもう休んでもかまわない。

 ラムリーザたちは、しばらく部室で休んでから次の事を考えることにしていた。

「ご褒美だ、みんなおいで」

 ラムリーザはメンバーを集めると、まずはリリスを抱擁した。続いてユコを抱擁する。

 ロザリーンはリゲルに悪いので、リゲルに任せることにして、最後はソニアを抱擁した。

 しかしソニアは、リリスとユコを抱擁したことが気に入らないのか不満そうだ。

 だからラムリーザは、ソニアに対してだけ付加価値をつける。二人は顔と顔を近づけ、口と口を合わせるのだった。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き