TRPG第四弾「サーカス団」~後編~
3月6日――
テーブルトークゲーム、今回の舞台は町にやってきたサーカス団。
ソニアが入った大きな箱は、ウルフィニカがドアを閉め、ファンティーナが鍵をかけた。
ステージ上の出し物にソニアが参加することになり、進行のお姉さんのウルフィニカ、ピエロのファンティーナが、ソニアの入った箱をくるくると回している。
ソニアは物語の進行に逆らってばかりだが、ラムリーザのフォローによって彼女の意思を無視する形で話は進んでいる。
「待ってよ、あたし箱の中に入っているだけでショーが見れないよ?!」
「そうなるねぇ」
ラムリーザは、ソニアの訴えをのらりくらりとかわした。
「ステージの上でしばらく箱をくるくる回して、二人で『エンリケ・マルチノ・ボルジェス』と呪文をかけましたわ。んで、二人が箱をあけるとそこはもぬけの殻! 皆さん拍手~!」
ユコは陽気に語るが、プレイヤーは誰一人として実際に拍手をしない。
「あ、拍手します」
キャラクターに拍手をさせる宣言をしたロザリーンが、せめてものノリと言えた。
「で、ソニアはどこにいったの?」
ラムリーザの問いにリリスは「ぐるぐる回したからバターになったのよ」と答えた。
「バターか、パンケーキでも作ってもらおうかな」
「そのケーキ、私は二十七個食べるわ」
「リリスは大食いだね」
「ラムリーザは五十五個食べるのよ」
「そんなに食べられるわけないって」
「ちなみにソニアは百六十九個も食べる化け物」
「それ絶対人の体積よりケーキのほうが大きいよね――って、そうじゃなくて話を進めよう。マジでソニアはどこに消えたの?」
ラムリーザは、再び口論の予感を感じたので、ソニアが気がつく前にユコに話を進めるよう促した。
「え~っと、ソニアはふわっと体が浮いたような感覚にとらわれましたの」
「箱の中で?」
「はい、んで気がつくと薄暗い部屋にいる。隣にはビラまきについてったときに見た人がソニアの手をつかんでますの」
「どこなの?」
「ソニアの手をつかんだ人は、ぶつぶつとつぶやいています。『ふぅ……、せっかくテレキネシスでバラ動かしたのになぁ……』それからソニアが見ていることに気がついて、『あ、ここはざ――おっと内緒』と言いました」
「ソニアは、『ふーん、ま、いいや。会場には戻してくれないの?』と言いました」
物語の進行を妨げるソニア対策で、ソニアの行動はラムリーザが行なっているので、話の進め方が妙になってくる。ユコとラムリーザの二人で物語を作っていて、他の人が置いてきぼりを食らっていた。
「サーカスの方は?」
ロザリーンは精々このぐらいの質問しかできない。
「サーカスの方は消えた直後で、司会の二人が大げさに驚いてるところですの。んでソニアには、『ん~、もうちょっとしたら返してあげるよ。その前にちょっとこっち来て』と言って手を引っ張りました」
「やだ! サーカス続き見たい!」
これはラムリーザの宣言ではなく、ソニア自身の台詞。
「いや、ホントすぐだからさ。こっちも予定外な出来事に困ってるんだからと言って、嫌がるソニアを引きずっていきます」
「あ、これはソニアさんじゃなくて、私にバラを投げるつもりだったのじゃないでしょうか? リングを持っているのは私ですし」
予定外の出来事とユコが言ったので、ロザリーンはそう考えた。
「でもなんでリングを渡したかが分からないんだよね」
「ぶつかった拍子に入っただけなんじゃないでしょうか?」
「さて、ソニアはカーテンの奥に案内される。なんとそこにいたのは座長のキュリアだよ」
「キュリアに、マインド・スマッシャーを突きつける」
「サーカス会場に武器の持ち込みは禁止されてますの。で、キュリアは『ノクティルカご苦労様。さてお嬢ちゃん、早速聞くけれどあなたの傍にいた金髪の女のコは、お知り合い?』とソニアに尋ねてきました。ちなみに「ノクティルカ」ってのはソニアをつれてきた女の人ね」
ユコは、ソニアの無茶な行動をさらりとかわして話を進めた。しかしソニアのへそ曲がり行動は続く。
「ロザリーンなんて知らない。あんな……、あんな……」
しかし、名前を言える時点で知っていることには間違いないし、リリスやユコと違って、ロザリーンを攻撃する言葉はすぐには出てこない。もっとも、リリスやユコに対しても、「吸血鬼」だの「呪いの人形」だの、定着している言葉しか出てきていないのだが。
「ロザリーンがリングを持っているのは相手も知っているのかな?」
「知ってますの。『ノクティルカのロケーションのおかげであの子が私の指輪を持っているのはわかっているの。どうか私に返すよう言ってもらえないかしら?』と、キュリアは言っています。ちなみにキュリアさんの声には静かな怒りがこもってるよ」
「ここは素直に従っておいた方がいいぞ」
ラムリーザは、ソニアに忠告する。しかし、不機嫌モードに突入しているソニアは、徹底的にユコに反抗する姿勢を貫いている。
「やだ、あたし関係ないもん。指輪はロザリーンが持ってるし」
だからそのロザリーンに言ってくれというのが分かっていないようだ。とりあえず反抗すればよし、それしか考えていない。ユコの言った不用意な発言、「牛みたいな胸したお嬢ちゃん」が悪いのだが。
「とりあえず、ソニアは了解したということで話を進めてくれ」
ラムリーザは先ほどから物語のフォローばかりだ。
「ぶつかってきた少年は、サーカスとは関係ないのですか?」
「その少年が盗んで、ロザリーンに濡れ衣を着せようとしているのかもしれないよ」
「何故そんな……」
ラムリーザとロザリーンは推測話をしているが、ユコはサーカスの話を進めている。
「それではちょっとだけ口封じをさせてね、と言って、ソニアの額に冷たい手を乗せて何か唱えてるけど、どうしますか?」
「手に噛み付く」
「それじゃあ抵抗できないですの。んじゃソニアに『ここで見たこと聞いたことを必要以上にしゃべったら汝に災いがかかるであろう』というギアスがかかりましたわ」
「ギアスって?」
「えっとね、目標に禁止命令をする魔法ですの」
「なんかおっかないな……」
「とりあえず、私が指輪を返したら成功でしょうか?」
「う~ん、まだ事件らしい事件がない気がするけどねぇ」
今回の物語は、まだ導入部らしく、指輪を入手したのとサーカスを見たというだけで、ラムリーザの言うとおり事件はまだ起きていない。
「ちょっと導入に手間取りましたわ。あ、ソニアは再び箱の中から現れてみんなの所に戻ってきたよ」
その時、下校時間を告げるいつもの放送が流れ始めた。今日のゲームはここまでだ。
「終わる前に、手品の種明かしが知りたいなぁ」
「それは、ノクティルカのテレポートで箱の中に戻り、それからノクティルカはコンシールセルフで隠れる、これでソニアだけが箱の中から現れるのですわ」
「相手は割りとレベルの高いソーサラーだな。カノコじゃないけど、戦闘になったら厄介かもしれんぞ」
ゲームのルールに詳しいリゲルは、相手が使用している魔法からおおよそのレベルが分かるのだ。
「それで、指輪はどうなるのですか?」
「え~と、本当は犯人探しして欲しかったのだけど、サーカスのイベントに時間を取り過ぎてしまいましたの」
「それじゃあ、物語は後半に続く、だね。明日は練習ということで、明後日よろしく」
「了解! というわけで、次回『指輪の秘密。悲しきサーカス団(仮)』乞うご期待! 時の涙を、君は見たか?」
ユコは、なんだかかっこいいサブタイトルまで付けてみせた。
「待ってください」
ロザリーンが、何かを思い出したかのようにユコを止めた。
「明日から今週末の卒業式関係で、今週いっぱいは放課後の部活動は中止ですよ」
「ぬぅ、それなら来週ですの」
「そういえば来週半ばに終業式があって、それで一年生は終わりだな」
ラムリーザは、この学校での最初の一年が残り少ないことをしみじみと感じていた。
「ああ、来週でもう終わりなんですのね。それじゃあ、終業式まではゲーム優先にして欲しいですの。途中で終わったら、皆さんも続きが気になるでしょうし、私も心残りができちゃいますの」
「そうだな、来週はこの物語が終わるまで練習はお休み……でもいいか」
ラムリーザは、練習するのはユコが抜けた後、来年ソフィリータ等が加わってからでもいいか、と考えた。
今は、ユコとの思い出作りを最優先しよう。それから先のことは、そのままそれから先で考えたらよいのだ。