TRPG第五弾「悲劇のサーカス団! 指輪に込められた願い」~前編~

 
 3月13日――
 

 さて、いよいよ高校一年生としての学校生活は、今週で終わりとなる。

 同時に、ユコと一緒に遊べるのも、今週で終わりである。

 というわけで、ユコがゲームマスターをする、最後のテーブルトークゲームが始まった。

「それでは、時間はあのサーカスの翌日からですの」

 物語は、先週プレイしたサーカス団にまつわる話の続きだ。今回の話で、指輪の秘密が明かされるというが、どうなのだろう?

 ちなみに指輪とは、ロザリーンがスリ入れられて入手した物で、サーカス団の座長キュリアの名前が刻まれているということがわかっている。

 さらに、マジックショーで本部に連れて行かれたソニアに、ロザリーンに指輪を返してもらうよう言っているのだ。

 そんなこんなで、ゲーム時間では前回プレイ時の翌日だそうだ。

「今回は、皆さんは魅惑の壷でたむろっていることにします。時間は昼飯時ですの」

「このゲームに出てくる冒険者の酒場は、魅惑の壷に決まったんだね」

「決まりましたの。そうだわ、折角だから皆さんキャラクターとして酒場で何か一言どうぞ」

「何か一言って……、そうだな、ソーサラーだから……、マハリクマハリタラリアート、エロイヨエッホンホン……、こんな感じ?」

「ラムリーザ様、酒場で怪しい儀式をしないでください!」

 ラムリーザの行動は、どうやら不評だったようだ。

「俺は酒を飲んでる。今日はカシャーサでも飲んでることにする」

 リゲルは未成年なのに、何故か妙にお酒に詳しい。

 お酒の種類がよくわからないのと、リゲルには逆らいづらいというのもあって、ユコは「それでいいですわ」と可もなく不可もなくといった無難な答えをした。

「ええと、プリーストということで、皆さんも竜の神様にお祈りしましょう、竜の神は唯一絶対神なのです、と布教します。こんな感じでどうですか?」

「それでは、現実の竜司祭と変わらないですの」

 残念ながら、ロザリーンも駄目出しを食らった。

「あ、食事じゃなくて、キャラクターに合った一言を言ってね」

 ここですかさずユコは注文をつける。これは、ソニアのナリオ発言を防ぐ意味合いもあった。

「ソニアの生まれは蛮族だから、蛮族らしい――」

 そこまで言いかけて、ラムリーザは口をつぐむ。蛮族らしい行動をされても困るだろう。

「じゃああたしは、リゲルと飲み比べをする」

 飲み比べ、蛮族らしい行動と言えば蛮族らしいか?

 ただ、テーブルトークの世界で飲み比べを競っても、勝負がどのようについたかというのは決めにくい。それこそ十杯でも百杯でも飲み続けることも可能だろう。

「勝手にリゲルさんと飲み比べしてください」

 いまいち面白くない回答だったようだ。

 そして、最後に残ったリリスである。リリスは、淡々と宣言した。

「エア・フィールド・ソードを研いでいます」

「魔法剣だから刃こぼれしません! というか酒場で刀研ぎしないでください! もう本題に入ります、ロザリーンの指輪について話を始めました」

 ユコは、全員の行動があまり面白くなかったので、さっさと本題に入ることにした。

「ああ、指輪ですね。結局指輪をスリ入れた少年には、あれから一度も会えてないのですね……」

「ソニアが座長から指輪のこと聞いていたんだっけ?」

 ラムリーザは、前回の話を思い出しながらユコに尋ねてみた。

「えっとね、ソニアは『座長が指輪を返して欲しがってた』までは言えますの。それ以上は制約の魔法の影響で言えません」

「座長さんが? ああ、そういえば座長さんの名前はキュリアで、指輪にもキュリアと彫られていましたね」

「おい、その指輪を座長に高く売りつけろ、それで事件は解決だ。事件らしい事件も起きてないけどな」

 リゲルは、手っ取り早い方法を提示してくる。

「いえいえ、この指輪が座長さんのならば、素直に返さなくちゃ。でもそれならあの少年はいったい何なのでしょう?」

「泥棒っぽかったから、リゲルの息子なんだわ、きっと」

 リリスは、微笑を浮かべてリゲルを挑発してみた。図太いのか打たれ弱いのか分からないのがリリスだ。過去はどうあれ、今はリゲルに軽口を叩けるぐらい図太い。いや、身内にだけ図太いのかもしれないが……。

「ええと、座長はあの少年については話してなかったのでわかりません、ということですの」

「名前は彫られているが、あの座長の物かどうかははっきりしたもんじゃないのにただで返すのは惜しいぞ」

 リゲルは正論を唱えつつ、物語の進行を邪魔した。ソニアと違って、理に適った行動をとってくるから厄介だ。

「それでは、どうしたらいいのですか?」

「とりあえず指輪を持って、もう一度座長に会いに行こう。といっても、会ったことがあるのはソニアだけか。まあいいや、持ち主が分かったのなら返しに行こう」

 そんなわけで、売るにせよ返すにせよ、もう一度サーカスのテントへ行くことになった。

「またチケットを買うの?」

「いや、チケットを買わなくても指輪を持っていったらタダで見せてくれる、じゃないかな?」

「今行ったら、サーカスの裏側も見られるかもね」

「返しに行って礼金をせびるのを忘れるなよ」

「リゲル、なんか妙に金に汚くないか?」

 ラムリーザの突っ込みに、リゲルはしれっとした顔で「このキャラはシーフだから、そのぐらいのことは考えるさ」と答えた。つまり、そういうロールプレイをしているのだ。生まれは貴族なのにね。

「もらえるものならもらっておこうよ」

「そうね、報酬上乗せできるかも」

 ソニアとリリスも、リゲルの案に賛成のようだ。

 どうやら、穏便に返すラムリーザとロザリーン、少しでも高く売りつけようといった、リゲルとソニア、リリスのグループに分かれてしまったようだ。

「まぁ、サーカスの裏側から見るのは、貴重な体験になりますね」

 というわけで、一同はサーカステントへ向かうことになった。

「サーカステントは閉まっていて、人気は無いですの」

「誰かいませんかーって言うのが筋かもしれないけど、どうする?」

「扉を開けようとする」

 ソニアが、強行突破を提案する。

「んじゃ、ファイター技能と筋力で判定してください」

 ユコに言われて、ソニアはダイスを転がした。ソニアが出した目は六と六の最大値、自動的成功だ。

「あらら、やっちゃいましたね。テントのドアは、バキッ! と音を立てて壊れましたの」

「よし入ろう!」

 扉を壊してしまったことは気にせず、ソニアは中に突っ込むようだった。

「とりあえずソニアについていこう。しかし、よく扉を破壊できたな」

「きっとおっぱいが扉にぶつかったとたん、その勢いで壊れたのよ」

 リリスはまたしても余計なことを言って、ソニアを不機嫌にさせる。これはわざとやっているのだが。

「テントの中に入ったら、シーフ技能と知力、技能が無ければ平目で判定して下さい」

 とりあえず全員、ダイスを転がすことにした。

「シーフ技能があるのは、リゲルさんとリリスさんだけですね」

「あ、私はやっぱり振らない」

 ロザリーンに指摘されて、シーフ技能を所持していることを認めていないリリスは、自分の行動を無かったことにした。

 リリスはシーフキャラを作ったわけではなく、生まれを悪党とソニアに決められてしまったために、初期設定でシーフ技能を持っているだけだ。ちなみにソニアは、酒場での行動であったように、生まれは蛮族だ。

「あ、その目だと、リゲルさんだけは強い視線を感じましたの」

「ん、とりあえず警戒はしておく。が、ソニアには教えない」

「なんでよ! 教えてよ!」

「んで、テントの中にあるステージの上には、でっかい箱に黒い布がかぶせてありますの」

「誰かが見に行く必要があるね」

 ラムリーザは、ソニアとリリスに先陣を促した。だが、リゲルの行動に警戒したソニアは、行動を渋っていた。

「はよ行け」

 リゲルは、冷たく言い放つ。

「な、なによ、レディファーストよ!」

「うむ、だからはよ行け」

 ソニアはリゲルを睨みつけるが、ファイターで前衛である以上自分が出るしかないので、仕方なくステージに上がる宣言をした。

「箱を剣で突きます」

 まずはリリスの行動。

「コンコンと、ガラスのような音がしましたわ」

 次にソニアの行動。

「黒い布を取っちゃう」

「すると、箱――ってか、水槽なんだけど、その中には一人の――、あ! 正体明かす前にセージ技能と知力でこの子の正体がわかるかチャレンジしてみてくださいな」

「なんだろう」と言いながら、ソニアとリリスはダイスを転がした。しかし、二人とも出目は小さい。

「あ~、二人にはきれいなおねぇちゃんが水槽で寝てるとしかわかりませんわ」

「なんか女の人が寝てるの?」

 ソニアもリリスも、蛮族だの悪党だので、セージ技能を持っていない。

 続いて知性派、残りの三人が判定をする。三人とも生まれは貴族でセージ技能を所持している。なのに、何故かリゲルはシーフがメインなのだ。

 貴族がシーフに身を落とす、それだけでも一つの人生を物語ることができそうだが、リゲルは設定などあまり気にせずに、淡々とそういうプレイキャラだというプレイしかやっていない。自分の設定は気にしないのに、ユコの作った設定にはどんどん突っ込む、まあいいでしょう。

「あー、ラムリーザ様もロザリーンも分かりませんねぇ……」

「ラムがわかんないのならあたしが分かるわけが無い」

「リゲル、頼む」

 無事にリゲルは大きな目を出して、それが何だというのが分かったようだ。

「お、リゲルさんにはそれが『マーメイド』だとわかりましたわ!」

「なるほど、これが半魚人か。ユコもあの映画を見たんだな。こいつは手足にヒレや水かきがあり、全身がうろこで覆われ、頭部は魚のもので怖そうな顔をしているぞ」

 マーメイド、人魚と言えば聞こえは良いが、リゲルはあえて半魚人と答えた。

「敵? 戦闘? 先制攻撃! 剣を箱に突き刺す!」

 モンスターの登場に、バトルを楽しめそうだと喜ぶソニアとリリス。逆にユコは、大憤慨だ。

「モンスターじゃありません! 箱は水槽で、その中に居るのは美少女で、下半身が魚のそれの人魚姫ですの!」

「人魚姫でもいいから攻撃する」

 ソニアは強引だが、ユコも強引に「ダメです!」と宣言を無効化させた。ソニアは「自由度が無い!」と言うが、ユコも「市民を攻撃できる設定はありません!」と一歩も引かない。

「それじゃあ水槽から取り出す」

「ダメです。なんて、水槽の外でわいわいやってるとマーメイドちゃんは目を覚ます。そして四人を見て大きな悲鳴をあげちゃいました」

 ユコは、リリスの行動も無効化してから話を進めた。しかし、マーメイドちゃんと半魚人とでは、えらい違いである。なぜ女性系だと美しく、男性系だとモンスターになるのかは謎だ。

「なに? 土の中から引っこ抜くと悲鳴を上げるあれか?」

「それはマンドレイク! ちなみに、昨日サーカスを見に行った人にはわかるけど、そのマーメイドは水中脱出ショウをやってたおねぇちゃんに似てることがわかりますわ」

「ああ、サーカスの団員なのですね。それじゃあ、お静かになさい! と言って騒ぎを鎮めます」

「マーメイドは、ひ、ひどい、あなたたちが勝手に入ってきたのに、と涙目でロザリーンを見つめています」

「気が弱そうだね、名前は何って言うの?」

 ソニアは相手が大人しそうだと悟ると、すぐに馴れ馴れしくなる。この行動が、隣のクラスのチロジャル辺りに迷惑をかけているのだが。

「マーメイドはおどおどしながら、私はレジーナっていうの、と答えましたわ」

 おどおどしている辺りも、ソニアとチロジャルの関係とそっくりだ。

「しかし、人魚が水中脱出って、あんまり危機感が無いね」

「あ、補足ね。昨日のショーをのとき、彼女には足が生えてましたの」

「なぬ、インチキマーメイドか? じやあこの下半身は作り物?」

「たぶん人間の姿になっている時は、喋ることができないということだな」

「そんな設定はありません!」

 再びリゲルが作る勝手な解釈に、ユコは不満の声を漏らした。

「話を戻しましょう、自分も名乗ってから、どうして人魚であるあなたがこんなところにいるんですか? と尋ねます」

 すかさずロザリーンが軌道修正する。ソニアの脱線はラムリーザが、リゲルの脱線はロザリーンがフォローする。お互い良いコンビだ。

「ええと、レジーナは、私はここの一員ですから、とおどおどしながら答えました」

「人魚で水芸なんて、インチキではないのか?」

「えっと、あのぉ……」

「サーカスはマジックと違うと聞くが、お前は人を騙しているのか?」

 今日のリゲルは妙に突っ込む。機嫌が良いのか、口数が多い。ただし、言っていることは冷たいが。

「そんなんじゃありませんわ!」

「あ、レジーナが強気になった」

 思わず素が出てしまったユコは、ソニアの指摘を受けて「小声で、そ、そんなんじゃありません、と言った」と言いなおした。

「などとレジーナがモジモジやっていると、裏から、ウルサ~イ! と怒鳴り込みながら犬耳犬尻尾のお姉さんが飛び出してきましたわ」

「だっ、誰だっ?!」

「ソニアはその声に聞き覚えがありますの。あのチケット売ってたウルフィニカね」

 そこにチケット売り場に居た人が現れた。

 物語は、まだまだ続いている。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き