第一回フォレストピア首脳陣パーティ
4月6日――
今日は、フォレストピアでの首脳会議と称した月に一回のパーティが、大倉庫の会議室で開かれた。
去年までは、月始めにオーバールック・ホテルで地元の有力者の集まるパーティに参加していたが、ここ数回のパーティでの内容は、フォレストピア開発の打ち合わせとなっていた。そこでホテルでのパーティは今年からは参加しないことにして、フォレストピアで個別に打ち合わせ目的のパーティを行なうことにしたのだ。
ラムリーザ側である取りまとめ役として参加するのは、ラムリーザ、リゲル、ロザリーン、そして今回からジャン、最後におまけでソニア。その他の参加者は、運輸系、建築系等、街の発展に必要な現場の責任者だ。
ちなみに、運輸系全体を取り仕切っているのはリゲルの父親だが、フォレストピアに限っての現場を管理しているのが、今年から新たにその職務に付いたユコの父親だ。
この人がうっかりやさんだったため、ユコは転校するという話になってしまい、お別れ会などという茶番劇を演じることになってしまったのだ。
ユコの父ボビーは、ラムリーザたちと会って話をした後、次回からはユコも連れてくるよと言った。
こうなると、グループの中で参加しないのがリリスだけになってしまう。これでは不公平かもしれないので、なんとかしてやりたいが、具体的にどうすれば良いのかはわからなかった。
リリスの家族は、普通にポッターズ・ブラフの会社員なので、このパーティに参加する理由が無い。
あとは、この集まりにロザリーンの兄のユグドラシルも参加している。その理由は後述しよう。
そう言いつつも、ラムリーザたち主要メンバーがまだ学生で未成年だということで、今現在実際に動かしているのはそれぞれの親御さんたちだ。
ラムリーザは未来の領主と言っているが、今はまだ母親ソフィアの補佐という立場であり、リゲルの父親や、ロザリーンの父親もそうである。この辺りのメンバーは、去年までのオーバールック・ホテルのパーティの参加者が、そのままスライドしている。
そして最近リゲルの父親と、ロザリーンの父親の仲が良い。
そのこと自体は、リゲルとロザリーンが付き合っていく上で良い事なのだが、リゲルはそれが面白くない。一年前、高校に上がる前に、リゲルは付き合っていた彼女を、相手が平民だからという理由で、父親に強引に仲を裂かれていた。そのことをまだリゲルは、恨んでいるのである。
ちなみにジャンの父親は、シャングリラ・ナイトフィーバー一号店の営業で忙しいので、二号店はあくまでジャンがメイン。
ジャンは、表向きには調子が良くて、ちょっとスケベオヤジみたいなところがあるが、仕事などやるべきことはきっちりとやりこなすタイプなのだ。それに、ラムリーズのマネージャーのようなこともやってくれている。そこの所はすごいなと、ラムリーザは思っていた。
さて、最初の議題は何か? という話になったが、最初はやはり自己紹介で、ということになった。
今更? とも思えるが、第一回だし、初対面の人もちらほら居る。そこで、ここらで一つ整理をしておこうということだ。
ラムリーザはリゲルに、「整理って何? リゲルもやるんだぞ?」と言い、リゲルもそれを了承した。
そして自己紹介ならジャンも聞きたいと言うので、ラムリーザは仕方なく小さな壇上へと上がった。
「えーと、僕は――」
「あ、ラムリィは知っているからいい。将来はここの領主になるのと、特技はりんご潰し? いや、ドラム演奏にしとくか? 他の初顔の人を聞きたい」
「おまっ……、聞きたいと言っといてそれはないだろう? それに、他の人たちも聞いているのに」
「だって俺、お前のことよく知っているし。代わりにみんなに紹介してやってもいいぜ。それよりも、そっちの二人について俺は知りたいなー」
「ほー、去年一年間の僕については知らなくてもいいんだね? 去年はバンドグループ――」
「――ラムリーズを作ってそのリーダーで、週末ごとに帝都でライブをやっていましたよ、みなさん」
「……、ソニアと――」
「――ようやく幼馴染と手を取り合って二人で歩んでいくと決めて、既に肉体関係あ――」
「ちょっとまった!」
ラムリーザは、慌てて母親ソフィアの方を振り返ったが、彼女はラムリーザたちの会話は聞いていなくて、もっぱらリゲルの父親やユコの父親と話をしている。
それを見てラムリーザは安心する。母親の前では、今もまだソニアとは清い交際をしていることになっているのだ。
「もういい、リゲル後はよろしく」
ラムリーザはそう言って、リゲルにバトンタッチをした。これ以上ジャンに余計なことを言われたくない。
「リゲルか、ラムリィの参謀みたいな感じ? それともご意見番みたいな感じ?」
ジャンは、ラムリーザに対してはそれ以上追求しようとはせずに、興味はリゲルに向いていた。
「どっちも似たようなものだな。正式な役職ってわけではないが、ラムリーザの相談役になっている。今はフォレストピアには住んでいなくて、汽車で三つほど離れたアチェロンという街に住んでいるが、いずれはここに建造中の天文台が完成したら、そこに寝泊りする予定」
「趣味や特技は?」
「ギター演奏にしておく。ああ、天文学にも興味があるな」
「星を見る人?」
「……それでいい、次」
リゲルはそこまで言うと、ロザリーンにバトンタッチした。
「ソニアと違って、知的な感じの女性でいいね」
ジャンの評価に、ソニアは「ジャンの馬鹿!」と騒ぐ。
「こほん、ええと、私もリゲルさんと同じで、ラムリーザさんを補佐する立場です。住んでる場所もリゲルさんと同じ、将来は――、その時考えましょう。特技はピアノ演奏」
「うん、そうだったね、ライブでピアノ担当だったね。あとはクラス委員やってる、え? 去年もやってた? ソニアと違ってすっげー真面目だね!」
ジャンは、再びソニアを引き合いに出してくる。ソニアは、「ジャンなんて嫌い!」と騒ぐ。
「別にソニアに嫌われてもええし、どうせラムリーザ一筋だろー? 俺はリリス一筋だもんねー」
「へー、あんな魔女がいいんだ。それじゃあジャンは科学者だ、魔女と同じ使えないクラス!」
「いや、俺は万能キャラのレンジャーでよろしく。いやいやそんなことはどうでもいい、次は俺ね。俺はジャン、フォレストピア・ナイトフィーバーのオーナーね。特技はギター、だとリゲルと被るから、歌にしとくわ。J&Rではリードボーカルやってたしね。なるほど、みんなのことがよくわかったよ、これからもよろしく」
こうしてジャンは、グループの自己紹介を終えたが、完全にスルーされたソニアが騒ぎ出した。
「ちょっと! あたしは?」
「あれお前おったん? 役職何? なんでおるん?」
ジャンは、いたずらっぽくぶっきらぼうに返事する。ソニアは、一瞬不満顔をしたが、すぐに「うーん」と考え出した。
「あたしの役職は何だろう? 何がいいかなぁ?」
ジャンは、「正直話し合いの場には、居ても居なくても――」と言い掛けたが、すぐにソニアに割り込まれた。
「あたし将軍がいい!」
「青軍曹か?」
リゲルもいたずらっぽい笑みを浮かべてソニアをからかい、ジャンもすかさず同調する。
「いや、緑軍曹? どっちかと言えば、悪魔将軍じゃないか?」
「なにそれ強そう、かっこいい」
ソニアは、からかわれているのもわからずに、嬉しそうな表情をする。
「ダメだな、かっこいいのは似合わない。ラムリィの足を引っ張るお邪魔虫副官でどうだ?」
ジャンの提案に、リゲルは「賛成だ」と答えた。
「うるささ! ラムの足なんて引っ張らない! えーとね、それで趣味や特技は――」
「ソニアの特技は、おっぱいが大きいこと。というわけで、自己紹介おしまい」
「ちょっと待ってよ! それ何よ!」
ジャンの締めくくりで自己紹介は終わった。しかしソニア一人不満そうにしているが、まぁ仕方ない。
彼にとって、ソニアはラムリーザと同じぐらい知り尽くしているのだから。
「さて、現在フォレストピアは、現在未曾有の危機に直面しております。この問題を解決しないと、住民は全て餓死します」
場面は変わり、今度はユライカナンの関係者との打ち合わせだ。
「何それこわい」
「大げさすぎ」
ソニアやジャンは突っ込みを入れたり怖がったりしているが、ラムリーザは話を続けた。
「食糧問題の話ですね?」
一方ユライカナンの生産者代表は、ラムリーザの大げさな前ぶりも気にしていないようだ。
「はい、以前連絡したとおり、この冬の異常気象で、食糧生産が最初の予定の半分も成果をあげられていません。ですので、一刻も早く食料の援助をお願いしたいのです」
「それでしたら、早速一品目の準備が進んでおります。どこかに仮店舗を用意していただければ、すぐにでも用意できますが」
「早いね、これは最優先事項にして、今からこの大倉庫の一角に場所を設ける作業にとりかかりましょう」
大倉庫の管理人の話では、急げば明日にでも開けるとのことだ。
そこで、明日の休日を利用して、ここ大倉庫の一角に設けた仮店舗で、ユライカナンの食料について品定めが行なわれることになった。
こうして明日の予定はできた。だが明後日は学校、平日は学校があるからあまり作業に専念できない。これが学生という立場の辛いところだ。
「次の議題、街にあるそれぞれの公共施設や通りの名称について」
リゲルは帳面をめくって話を進めた。
「えーと、これについては会議に集まる度に一つずつ決めていこうと思います。今回は初めてなので、この場で名前の候補を挙げてもらうのと投票を同時に行ないます。それでは第一回記念に、駅から伸びる大きな一歩道、メイン・ストリートの名称を決めようと思います。それではしばらく時間をおきますので、各自名前を考えて挙げて下さい」
ラムリーザの提示で、しばらくの間会議室はざわざわとしていた。
「ラム~、ご馳走の種類が少ないよぉ」
ソニアは両手に骨付き肉を構えてラムリーザに文句を言った。
「ついさっき食糧問題について話をしたばかりだろ、贅沢は言わない」
「ソニアってやわらかくて美味しそうだな」
ジャンの舌なめずりを見て、ソニアはラムリーザの後ろに隠れてしまった。
そんなことをやっているうちに、参加者の間からいくつか名前の候補が挙がった。
「ええと、ペニーレインですか、シンプルでいいね。それと、ロング・アンド・ワインディング・ロード、いや、確かに街で一番長いけど曲がりくねった道じゃないんだけどね。次は、ブルー・ジェイ・ウェイ、なんかかっこいいね。最後は、グンキ・ンサ? 何だろう?」
とりあえず四つほど候補が上がったので、この場で投票を行なうことにした。会場の全員に小さな紙を配って、それぞれ名称を記入してもらって投票するのだ。
集まった投票用紙を見て、ラムリーザはうんざりしてしまった。意外と多い……。
こういった開票作業が得意なロザリーンが手伝ってくれることになった。クラス委員をこなしていただけあって、慣れている。そういえば去年、進路希望のアンケートをまとめていた実績があった。
「話も一段落付いたところで、二号店のスケジュールについて話しておきたいのだけどいいかな?」
頃合いを見計らってジャンは、個人的な事の相談を持ちかけた。
ジャンは、ラムリーズには週三回出て欲しいと言った。メインで扱いたいし、まだ他のバンドグループの確保が進んでいないので、去年よりも出演回数が多くなった。
「まぁ部活代わりに出てもいいかな、去年より場所が近くなって、気軽に参加できるようになったし」
部活と言っても遊びと練習が半分半分な現状、それほど日々のスケジュールはラムリーザたちにとっては変わらないだろう。ユコも結局居なくならなかったので、問題ない。
こうなると、部室は遊び場メインとなってしまうな……。
そう考えながら、ラムリーザはロザリーンと一緒に開票作業を進めていた。
「大変だったら俺も演奏に参加するよ」
ジャンはそう言ってくれる。ソフィリータも来たことだし、ローテーションで休みながら演奏できるだろう。
「待てよ……」
そこでラムリーザは気が付いた。ドラム役が自分しか居ないので、自分は休むことができない、と。
「ジャン、ドラムの練習もしておいてくれないかなぁ……。僕が休めない……」
「おうふ、ん、まぁやってみよう」
ジャンは了承してくれたが、ソニアは「ラムが叩かないとあたしベースやらないよ」といつもの決まり文句を並べた。
「いいよ、俺が叩くときは、リゲルにベースやってもらうから」
ジャンは、全く気にしていない。
「他に話をしておくことあるかな?」
もうそろそろ会議もお開きかな、という時間になってから、ユグドラシルがラムリーザに尋ねた。
「ユライカナンの文化を取り入れたお祭りとかをやってみる、とかは無いのかな?」
ユグドラシルは生徒会としての活動で、ユライカナンの文化交流を挙げていたので、早速情報収集を始めたのだ。彼がこの場に参加する目的は、主にこういった内容だった。
「祭り、何かありますか?」
ラムリーザは、近くにいたユライカナンの大使に尋ねてみたところ、「お祭りで近いものは、ミルキーウェイ・フェスティバルかな」と答えた。
「いつですか?」
「七月ですね」
まだまだ先の話だった。
さて、そんなこんなで時間は夜の九時を過ぎたので、今日のパーティと称した会議はここで終わりとなった。
リゲルもここからだと帰宅に車で三十分強しかかからないので、あまり負担にはならない。
「それじゃあ明日またここに集まってね、いよいよ始まるよ、食事体験が」
ラムリーザは、メンバーにそう伝えると、小さな壇上に上がってパーティの終わりの挨拶をした。