バットバットサルフ後編 ~L式打法に吸血式ショット~
9月8日――
本日晴天なり。ユライカナンの最東端ゾーフィタスにて、バターサルフを楽しむ一同。
ラムリーザとジャン、そしてソニアとリリス。ユライカナンからイシュトが参戦して、五人で勝負することになっていた。ごんにゃ店主ヒミツの親戚、シクレトの案内でコースを回っている。
「イシュトはサルフをやったことがあるのかい?」
「わたくしは何度か遊んだことはありますが、ちっとも上手くできないのですよ」
ラムリーザとイシュトが話しているところにリリスが口を挟んできた。
「ソニアがビリになるから安心して」
「うるっさいわね!」
ソニアは胸が大きすぎていて、普通のやり方ではまともにプレイできない。そこで不自然なポーズでプレイしているものだから、その結果もいまいち不自然なものになってしまっていた。
最初のコースはただの直線コースだったが、第二コースは同じ直線コースでも少し難易度が上がっていた。平坦だった第一コースと違い、両サイドが谷になっていて、直線コースから外れてしまうと落ちてしまうのだ。
第二コースは、ラムリーザからの挑戦となった。
ラムリーザは、最初のコースですでにコツは掴んでいた。要は、棒で球を転がして穴に入れるゲームだ。球を打つ面の角度をうまく調整して、まっすぐに転がせば問題ない。後は力加減の調整でなんとかなるだろう。
そう考えながら、きちんとまっすぐ転がるように球を打つ。打った玉はコロコロと転がり、穴にスコーンと入った。
「おみごとです!」
イシュトが拍手をしてラムリーザを褒め称える。
「簡単なゲームだな」
そう言いながら、二番手にジャンが挑んできた。
ジャンもラムリーザと同じように打ったが、少しばかり力が入っていたようだ。少し強く飛び出した球は、穴を飛び越えてしまった。
「しまった……」
ジャンは頭に手をやったが、球はそのまま転がり壁にぶつかり跳ね返った。跳ね返ることで勢いが削がれた球は、上手い具合に穴に転がり込んだのだ。
「入ったぞ?」
「バターサルフは、上手く壁を使うのもテクニックだぞ」
シクレトの説明で、ラムリーザは「こういうやりかたもあるのか」と感心する。
結果的に上手く行ったジャンは、リリスに「どうだ~」などと言いながら嬉しそうである。
そして次は、リリスが挑むことになった。しかし、ここでトラブルが発生することになったのだ。
リリスがまさに打とうとした瞬間、突然ソニアが大声で「あっ、大変!」と叫んだのであった。一同はびっくりするが、リリスも当然びっくりした。その結果手元が狂い、球は斜めに進んで谷に落ちてしまった。
「ちょっと何すんのよ、邪魔しないでくれる?」
「ジュース買ってこなくちゃ!」
ソニアは知らん顔で、ジュースの自動販売機へとかけていった。しかしその顔は、妙に嬉しそうにニヤニヤしていた。要するに、リリスを驚かせて失敗させることなのだ。
リリスは二打目で谷から登り、三打目でゴールの穴に入れたのだった。
ソニアが他所に行っているので、四番手はイシュトが打つことになった。
イシュトは、あまり力を入れて打たないようで、ゆっくりと転がっていった球は、ゴールまでの距離が七割ぐらいの所で止まった。それでも少しは慣れているのか、二打目でゴールすることができたのだ。
そこにソニアが戻ってきて、最後の挑戦者として挑んだ。
ソニアは足元の球が見えないので、下がって打つか勘で打つか、横向きになって不自然なポーズで打つしかなかった。
「早くL式打法を見せなさいよ」
リリスが余計な野次を飛ばすので、ソニアはむっとしてそのまま普通の打ち方で、球を見ずに勘で打つことにしたようだ。当然正確に打てるわけがないので、球は明らかに斜めに進み、谷に転がり落ちてしまった。
「何よこれ! おもしろくない!」
ソニアは不満を叫び、リリスはくすっと笑う。しかしソニアが次に取った行動は、それを見ていた者の理解を超えていた。
なんとソニアは、谷に転がり落ちた球を拾って、直線コースの上に置いて打ち始めたのだ。
「ちょっとあなた、何ズルをしているのよ」
当然リリスは文句を言ってコースに乱入してくる。
「うるさいっ! 打ち直しなの!」
「だったらスタート地点から打ちなさいよ」
そもそも打ち直しというものが認められるものか? ソニアはリリスを押しのけて、二打目を打ちにかかった。
しかし空振り。
「ソニアさん落ち着いて。バターの平面を球に当てるの、ちゃんと平行にしてね」
イシュトはソニアが球を置き直したことについては文句を言わない。
「難しいよー」
イシュトのアドバイスになんとか応えようとしているようだが、実態は違う。難しいのではなく、見えないのだ、胸が大きすぎて。
二打目も斜めに進み谷にコロコロ。しかしソニアは再び球を拾って、直線コースの上、ゴール近くに戻す。そしてリリスが文句を言ってくる前に、身体を斜めにして球を見ながら打って、三打目でゴールしてしまった。
「あなたズルいわ」
リリスは冷たく言い放つ。しかしソニアも負けていない。
「三回まで球を修正してもいいの!」
そんなルールは無い。
しかし文句を言っているのはリリスだけ。ラムリーザとジャンは、打数など気にせずに次のコースの下見をしているし、イシュトは「あらあら」と言っているだけだ。案内役のシクレトも、小さなことは特に何も言わない。手で持って球をコースに戻す行為が小さいことなのかどうかは不明であるのだが。
次のコースは、スタート地点から一メートルぐらいの直線が続いた先は、大きな正方形をした広間になっているコースだった。その広間の中央にゴールの穴があり、その上に穴を塞ぐような形で鉄柱がぶら下がっている。
ますは先ほどと同じように、ラムリーザが一番手で打ってみた。しかし球は、鉄柱に当たって跳ね返ってしまった。
「これ、入れられないよ?」
ラムリーザは、いきなりゴール不可能ステージが現れたのかと思った。ゴール不可能ステージと言えば、例の金塊集めゲームでソニアが作ったエディットステージで、散々煮え湯を飲まされてきていた。
「おっと、ここはゲーム開始前に鉄柱を揺らすのだ」
シクレトは、コースに入ってぶら下がっている鉄柱を大きく押した。すると鉄柱は、ゴールの穴の上で大きく揺れ始めたのだった。
「面白そうだね」
ラムリーザはスタート地点からやり直した。しかし、それほどゴールまでの距離は無いので打つ方向は良かったものの、タイミングが悪かった。球は穴に入る前に、鉄柱に弾かれてしまったのだ。
「タイミングを考えないとダメだなー」
鉄柱の揺れが少しずつ小さくなってきたので、再び大きく揺らしてから再チャレンジ。今度は穴を塞いでいない時を狙って、無事にゴールイン。
仕組みがわかれば、特に何の問題も無いステージ。しかし、リリスが打った時に、偶然妙なことが発生。
球が微妙なタイミングでゴールの穴に入ろうとしたため、穴のふちと鉄柱の間に挟まって球が落ちずに鉄柱の動きも止まってしまった。
「なんか変な事になったな」
シクレトは、初めて見る展開にちょっと感心している。
「これはどうすればいいのかしら?」とリリス。当然の如く、すぐにソニアは噛み付いた。
「リリスはこのステージクリアできなかったということで!」
「こんなの鉄柱押したら、球は穴に落ちるわよ」
「プレイ中に鉄柱触ったら反則。反則でリリスは罰として7打ペナルティ!」
「あなた最初のステージで、打った球を触ったじゃないの。あれこそ反則でしょう?」
「あたしはいいの!」
ソニアに勝手に言わせておけば、所謂無理が通れば道理が引っ込むというやつだ。リリスは、鉄柱を足で軽く蹴った。すると、鉄柱が離れて球は穴へと落ちていった。ゴールイン。
ソニアだけは納得いかないようだが、一同は次のステージへと向かった。
次のステージは、途中に大きな山があるような感じ。コースの中央部が坂になっていて、先が見えない。
ラムリーザはとりあえずコースの先を確認しに行く。見たところ、山があるだけで後は直線コースと何も変わらないようだ。
今回も一番手はラムリーザ。まずは様子見として普通に打ってみる。しかし山を越えることができずに、戻ってきてしまった。二打目で山を超えてゴールの近くまで持っていき、三打目でゴールイン。
二番手に飛び出たソニアは、一打目から思いっきりスイング。空振り。
「ちゃんと球を見て打とうね、くすっ」
リリスはここぞとばかりにからかってくる。
頭にきたソニアは、さらに思いっきり打ち付ける。当たった。
しかし勢い良く飛び出した球は、山を飛び越えてコースから出て行ってしまった。リリスはそれを見て、思わず「あははっ」と笑った。しかししかし、今回も妙な結果になってしまった。
ソニアの打った球はコースを飛び出し、別のコースへと飛び込んでいった。そのまま別コースの壁にコンコンぶつかったあげく、そのコースにあるゴールの穴にホールインワン。
「やったーっ! 一打で入ったーっ!」
ソニアはガッツポーズで飛び跳ねる。おっぱいも一緒に飛び跳ねる。
「そんなの認められるわけ無いわ」
当然ながら、リリスは文句を言った。しかしソニアも負けていない。
「ちょっと記録係! このステージの結果は大きく『1』って書いていて!」
「きっ、記録係ー?」
シクレトは思わず声が裏返る。しかしよく考えてみたら、自分が結果の記録をしていることを思い出して、そのまま「1」と書き込んでしまった。
リリスは不満そうな顔をしながらステージに挑む。結局このステージをクリアするのに一番苦労したのは、あまり力に自信の無いイシュトであった。
次のステージは、コースの途中から直角に折れ曲がっている。普通に打ったのでは、ゴールさせることはできないだろう。
「これはどうやって?」
ラムリーザの問いに、シクレトは「壁を使って跳ね返らせて狙うんだ」と答えた。しかしここで、ソニアが無茶を言ってくる。
「あたしここのステージさっきクリアしたから、0打で入れたことにして」
要するに、先ほど山を飛び越えてコースアウトした先にあったステージなのだ。
「それならばさっきのステージはゴールしていないからやり直してきなさいよ」
リリスの突っ込みも、もっともである。
しかし結局のところ、ソニアもちゃんとこのステージをプレイするということで決着がついた。
そしてこのステージは、壁を使ってカンカン言わせながらプレイするだけで、特に問題なく終わった。
次のステージは、ゴールの穴周辺にやたらと杭のような突起物が立っている。何も考えずに打ったら、その障害物にぶつかってゴールできないというのだろう。
この辺りになると、ソニアも巨大な胸に視界を奪われるための独特な打ち方にも慣れたのか、不自然なポーズから普通にまっすぐ球を転がせられるようになっていた。
リリスは相変わらず「L式打法」と言ってからかうが、ソニアもリリスの打ち方を「吸血式ショット」などと呼び始めた。主に左利きのリリスが、他の人とは反対向きに打つからというしょうもない理由である。
そんなわけで、特に問題なくステージをクリアしていく。ソニアもほぼ正確に打てる様になったので、球を手で持ってコースに戻すという無茶苦茶なプレイをやらなくなっていた。
そして、最終ステージまで、特に山もなく谷も無く、平凡なプレイで進んでいった。スコアはほぼ互角だろう。最初の方は、ソニアやリリスは遅れ気味だったが、慣れてきてからはそんなに差は無い。ちょっとイシュトが遅れ気味といったところか。
最後のコースは、スタート地点からすぐに坂になっていて、その頂上は少し広いスペースになっていて、その中央にゴールがあるといった平凡なものであった。
珍しくリリスが、コースの下見をする。高台になっているコースに登って行くと、ソニアもそれについていった。
リリスはゴールの穴を見ると、素早く振り返ってソニアを押し返した。まるでゴールを見せないかのように。そしてソニアに言う。
「その坂道の壁を歩いてみなさいよ」
とくに意味は無いようだ。ソニアは何も考えずに、鉄製でできた幅5cm高さ10cmぐらいの壁で、まるで平均台の上を歩くみたいに渡ってみせた。単純な奴だ。
リリスは何も言わずに、コースの人工芝の坂を歩いて下りる。ソニアも壁の上を歩いて下り始めたが、足を滑らせて転んでしまった。壁の上に尻餅をついて悶絶。
「ふっ、ふえぇっ、おけつが割れた……」
リリスはクスッと笑う。リリス自身も想定してなかったことで、ソニアに攻撃成功。ほとんどソニアの自滅だが、そんなことはどうでもいい。
「何をやっているんだよ」
ラムリーザはソニアの手を取って立たせる。何処までも手間のかかる娘だ、と内心思ったりもしていた。
「さあ、ソニアから打ちなさいよ」
リリスは、顔をしかめさせて尻をさすっているソニアに、一番に打つよう促した。
「ん? 僕から打つよ」
ラムリーザはこれまでどおりに先陣を切ろうとしたが、すぐにリリスが前に立ち塞がって邪魔をしてくる。そんなにソニアに一番を打たせたいのだろうか? ラムリーザはリリスの意図が全然読めなかったが、誰から打っても同じであるため、ソニアに一番手を譲ることにした。
「まさか転ばせて尻を痛めさせて、それが回復する前にやらせて調子を狂わせるのか?」
ラムリーザは、ふと思ったことをリリスに尋ねた。
「その程度で調子を狂わすなら、ソニアもその程度ね。あなたはいつも尻を甘やかせているから」
リリスは、もうお馴染みとなった怪しげな笑みを浮かべて、ソニアを挑発する。
「何よ! こんなの大したこと無い!」
「じゃあ打ってみなさいよ」
何故かリリスの強い要望にも近い言動で、最終ステージだけソニアから打つ事となった。
ソニアは身体を横に向け、左腕で巨大な胸を押しつぶして少しでも足元の視界を確保し、まっすぐに、力強く球を打った。球は勢いよく飛び出し、坂を登っていく。
高台の高さは腰よりも高く、穴の位置は地面からだとわかりにくい。しかし高台を転がっていた球は、その姿を消した。どうやらゴールの穴に転がり込んだようだ。
「ナイス、ホールインワン」
シクレトは、ソニアの活躍を称える。イシュトも笑顔で拍手を送っている。
しかし次にリリスが提案したことは、意味不明だった。
「さあ、ここから一つずつ逆走して最初のステージを目指しましょう」
そう言ってリリスは、最終ステージの一つ前から再びプレイし始めようとした。
「なんでまたそんなことを?」
「もうちょっと遊び足りないでしょう? 面白かったステージを、もう一度リプレイしてもいいわ」
「なるほどね」
ラムリーザは周囲を見渡して、自分が面白いと感じたステージを探し始めた。
「それじゃあたしはあのステージもう一度やりたい」
ソニアはそう言って、最終ステージの高台に登って、穴から球を取り出そうとした。しかし――
「あれっ、球が無いよ?!」
穴を覗いたソニアは、驚いたような声を出す。ここだけはこれまでと違い、穴の底が見えなく真っ暗になっていた。
「ああ、最終ステージでは球の回収も兼ねているから、ゴールに入った球はその下にある格納庫に球は収納されるのだよ」
シクレトはソニアに説明する。
「何よそれーっ?」
一人憤慨するソニアを他所に、リリスはラムリーザに迫った。
「さあ、ラムリーザはどのステージをリプレイするのかしら?」
「あのねぇ……」
ここでようやくラムリーザは、リリスの魂胆を全て読みきった。
リリスは、最終ステージのゴールを下見して、そこに球が入ったら収納されて無くなる事がわかっていた。それでソニアに一番を打たせて球を無くさせた所で、他のステージをリプレイしようと言い出したのだ。ソニアに壁の上を歩かせたのは、ただゴールの穴を見せないためのものであり、転ばせるところまでは想定していなかった。
そんなことをするから「根暗吸血鬼」という陰口が生まれるんだよ……、と突っ込みたくなるのを押さえるラムリーザの隣で、ジャンはあははと笑っている。
「それじゃあ次は僕が打つね」
ラムリーザはめんどくさそうに言うと、最終ステージに挑んだ。一打目で坂を登り高台に乗せ、二打目でゴールインさせた。高台の床の下で、コトンと軽い音がした。
イシュトもそれに続き、ジャンも三人がプレイを終えてしまったので、リプレイはすることもなく最終ステージを終わらせてしまった。
一つ前のコースで一人遊んでいたリリスは、しょうがないなぁと言った表情で、自分も最後のステージを終わらせた。何がしょうがないんだか。
こうして、全部のステージを終えたときには、空は橙色に変わろうとしていた。
ラムリーザは、いろいろと問題――特にソニアとリリスのしょうもない争い――はあったものの、それなりに楽しいときを過ごせたと思った。
帰りの車の中で、シクレトに「フォレストピアにもサルフ場如何でしょうか?」などと問われ、「良いと思いますよ」と返しておいた。民衆の娯楽場所や対象が増えるのはよいことだ。それにより人が集まり、街はどんどん発展していくだろう。
駅でイシュトと別れ、フォレストピアに帰ったところで今日はおしまい。