降竜祭後編 ~吸血鬼のしもべ~
12月24日――
愛のことば、ザ・ワードを竜神に誓うと称された告白タイムイベントは、異様な盛り上がりを見せていた。
強烈なのは、一人で一気に六人ほど告白したハーレム野郎が登場した時で、その時は歓声に交じって野次やブーイングが飛び交っていた。
その次に強烈なのは、最初の一人に振られたらその直後、別の人に「それなら誰それさん、好きですお願いします」などと来たものだ。数打てば当たる論法も、ここまでくると清々しさを通り越してあきれ返る。
逆の意味でぶっ飛んでいたのは、「俺は俺が好きだ」などと自己陶酔する奴だった。
ジャンの思惑通りか、それを上回る狂気を披露したのか。このままでは竜神が狂気の神と称されても不思議ではない雰囲気になっていた。
最終的に、三十人ほど告白をぶちまけただろうか? 時計は夜の七時を回り、そろそろ最後のイベントに移行しないと、あまり遅くなるのも問題がある。
最後の告白タイムが終わると、ステージの上は実行委員のジャンとリリス、そしてコンパニオン化した三人の竜巫女、そしてその一人を監視するラムリーザだけとなった。竜巫女の一人は、はだけそうになる胸元を押さえながら、告白タイム中ずっと不思議な踊りを披露中だった。
「それでは最後の一人、行きます」
ジャンは、本当の最後の一人を紹介した。しかしステージの上には、五人しかいない。ジャンの本題が始まったことを悟ったラムリーザは、踊っているソニアを引き寄せて大人しくさせた。
ステージの周囲が少し静まり返った後、ジャンはリリスの方に向き直った。
「リリス、今日はありがとう」
「えっ?」
「君のおかげで、降竜祭も最高の盛り上がりを見せられたよ。それに、開催できるかも怪しかったけど、それも君のおかげで無事こうして実行できた」
「あ、うん」
ジャンが雄弁に語るのに対して、リリスはしどろもどろにつぶやくだけだ。
「ほんとうにありがとう。俺は、無謀なことにもじっくりと取り組んでくれる、そんなリリスが好きだ」
じっと見つめるジャンに対してリリスが硬直するのが、後方から眺めているラムリーザにもわかった。
「あ、ドロヌリバチジャンのリベンジ、こんなところで始めた」
「今度はうまくいくといいね」
「ふんっ、またリリスに振られたらいいんだ」
「こらこら」
一方観客席側から見ていたユグドラシルもつぶやく。
「実はこの場面を作り出すために、全て二人に任せたんだよね」
「ほんと、ややこしい人ですね、リリスさんって」
ソフィリータと手をつないで仲良く並び、ステージ上の状況を見守っている。
「ほんま、あほらしいイベントだよな」
ステージ上のリリスを心配そうに見つめるユコの後ろに、お調子者の番長レフトールが現れた。
「あら番長さん、番長も祭を楽しむんですのね」
「てんぷら食ってた」
「ふーん、てんぷら番長」
「なぁ、もしもユコに告白する番長があったらどうする?」
「なんですのそれは! 私は極道の妻は嫌ですの!」
おどけるレフトールと、プイと顔をそむけるユコであった。
ジャンの二度目のリリスに対する告白。しかしリリスは――
「ダメ、やっぱり無理」
やはりリリスは……、なぜだろう?
「そんに俺ってダメか?」
後方でソニアは「エロトピアだからよ」と聞こえないようにつぶやいた。
「いや、私が……」
「ん~? そんなに自分を卑下しなくてもいいじゃないか。みんな知ってるよ、この降竜祭を成功させたのは、俺とリリスの功績だって」
「そんなこと言ったって、私は根暗吸血鬼……」
「おー、なんかかっこいいじゃん。ヴァンパイアに憧れる奴って一定数居るよな。でも君は自分で名乗らずとも、周りが勝手にヴァンパイア認定してる。しかも太陽もニンニクも平気だよな? 完璧じゃん」
「なっ?!」
初めて僭称以外で吸血鬼を使われてしまい、リリスは戸惑いを見せる。かっこいいなんて言われたのは初めてだ。
「でも、ちびりちゃんだし」
「萌えるシチュエーションだね」
「バカ、エロトピア!」
戸惑いは怒りに取って代わり、リリスは顔を赤くする。
「はっはっはっ、な、いいだろ? 俺と付き合おうぜ」
ここに来て、急にジャンは軽い口調になる。ソニアと同程度の精神構造を持った娘には、真面目に堅苦しく行くよりは、こちらの方が有効だ。内面を知らずに、見た目だけ妖艶な外見に合わせてみたら、リリスと話していて違和感を感じるものだ。
事実、リリスの表情は、怒りから微笑に変わる。しかしすぐに、マジな顔になった。ただし、そのマジモードに流されてはいけない。あくまでソニアと接するように。
「私、がさつだよ」
「俺の親友ラムリィは、がさつな女と付き合っているよ」
「う……」
リリスはちらりと舞台の端を見る。そこには、竜巫女と化したソニアと、それを監視するラムリーザの姿があった。
なんとなくソニアは怒っているように見える? さっきのジャンの台詞が耳に届いたか?
「私は陰湿な女よ」
それでもリリスはまだ抵抗する。しかしリリスの全てを受け入れるつもりのジャンには、予定調和であった。
「俺に対しては陰湿さを感じなかったがけどな」
実際にリリスが計略を仕掛けるのは、ほぼ全てにおいてソニアが対象となっていた。というより、ソニアぐらいの精神構造でないと、ただのくだらないいたずらレベルと取られて相手にしてくれない。
「それに、幼稚な女よ」
これが全てである。幼稚なソニアにはお似合いの友人となっていた。
「あれ? 知らなかったのか? 俺も結構幼稚だぞ。似たもの同士、仲良くしようや」
「そうかしら?」
「幼稚なソニア、そいつと付き合うラムリィの親友だぜ」
ジャンは先ほどからラムリーザの名前を出してくる。自分はラムリーザと同格なのだということを、リリスに思い込ませているのだ。
リリスの欠点として、ラムリーザの愛人を狙うというものがあったが、こうしてそれを打ち砕くのだ。
「ジャン死ね――っむーっむーっ」
自分のことを立て続けに悪く言われ、ついにソニアは野次を飛ばし始めたが、すぐにラムリーザに押さえこまれてしまった。
今はジャンとリリスの恋を成熟させるため、甘んじて汚名を着るが、暴言に対する追及は後でいいだろう。
「私は何も成せない女なのよ」
「降竜祭の実行委員として成し遂げたじゃないか」
「――私はあなたから逃げた女よ」
「地獄の果てまで追いかけてやるさ」
「――吸血鬼なのよ!」
「それじゃあ吸血して、俺を眷属にしてくれよ」
「はむっ――、ちゅんっ!」
リリスは食い下がってくるジャンに、どんどん押し込まれていた。しまいには自分で自分のことを吸血鬼などと思い込んでしまっていた。しかしそれも、ジャンは受け入れてくる。そこまで押されると、あとは意味不明な言葉しか出てこない。
後ろの方で見物しているソニアなどは、「やっぱり吸血鬼だったんだ」と言っている。
「――きっ、キスもしたことないのに」
「じゃあ今やろうか」
狼狽してわたわたしているリリスを、ジャンはガシッと捕まえる。そしてそのまま勢いに任せて、唇を奪っていた。
会場は突然の出来事に、シーンと静まり返っていた。
数秒後、ステージの後方から拍手をする者が一人現れた。ラムリーザは、親友の恋愛成就を祝福して、笑顔で手を打ち鳴らす。
それを聞いた今日の竜巫女コンパニオンの内、二人までがラムリーザに乗せられる形で拍手を始めた。
「ほら、ソニアも」
ラムリーザは、まだ祝福してないコンパニオンの一人を促す。
「あーあ、ラムのキープ女が減った」
「なんやそれ」
「これでラムはリリスとの道が閉ざされたんだ」
「いや、最初からそんな道は無いからね」
「やったね! ラムリーザ争奪戦からリリス脱落!」
ソニアはそう叫んで、嬉しそうに拍手を始めるのだった。
ソニアにとって周りの女子仲間は、全てラムリーザを寝取ろうとする泥棒猫なのかもしれない。
優等生や媚び媚び娘は氷柱になびき、実妹はモテない会長になびき、これで吸血鬼は悪友になびいた。
残る危険人物は、呪いの人形だけだ。いや、隣国のおっとりお嬢様もその候補に入るかもしれないが、どうだろうか?
なにはともあれ、キープ女であり泥棒猫――ソニアが勝手に思い込んでいる――が減ることは、ソニアにとってめでたいことであった。
ラムリーザから始まった小さな輪は、やがて会場に広まっていき、最後には大きなうねりを生み出すこととなった。
「リリス、お互いがんばったな。最高の思い出ができたよ」
拍手の海の中、ジャンは優しくリリスに語り掛けた。
「ジャン……、ありがとう」
リリスの瞳から、一筋の涙がこぼれた。
「リリス、幸せにしてやるよ」
ここでジャンは、ラムリーザの口癖を流用してみる。彼は、日ごろからラムリーザに、ソニアを幸せにしてやるんだと何度も聞かされていた。だから思わず同じことを口走ったのだった。
「うぶっ――っ」
変な声がリリスの口から洩れる。感極まって号泣していた。泣き方が変と言われたら、それまでである。
ジャンがよく聞いていた言葉を、リリスも聞いたことはあった。それを聞いて、いつもソニアに嫉妬していた毎日。それがソニアに対して、陰湿な嫌がらせに発展しているのは自覚していた。なのにソニアは、ラムリーザと言う後ろ盾のおかげで、リリスが攻めても攻めてもすぐに立ち直ってくる。ふえぇなど、一瞬の勝利でしかなかった。
『リリスがからかってきても、あたしにはラムが居るんだって思うと、何ともなくなる』
これは、何度か聞いたソニアの強がりなのか強みなのか、恐らく後者である。
しかし今日、リリスはようやくソニアと対等な立場に並べた。自分にも、自分を一番大事にしてくれる人がいる。
数日前までは、そんな好意を受け取る資格など自分には無いと考えていた。しかし、その相手は、昨日から丸一日、共に難題に取り組み、それを成し遂げたもの同士だった。
「ソニアが生意気なこと言ってきても、私にはジャンが居るんだって思うと、何ともなくなる」
リリスはジャンに抱きついていた。
その行為を見て、ソニアはさらに嬉しそうに指さすのであった。
こうして、リリスはジャンと結ばれた。ソニアにとっての大きな脅威が、一つ取り除かれた瞬間であった。
しかし、過去はどうであれ、見た目だけは妖艶なる美少女。ただで終わるわけがなかった。
その時、突然ステージに数人の男子生徒が乱入してしまった。
「ジャンお前なんだよ、どうなってんだよ?!」
「どしたん? 何だよ藪から棒に」
なんだか知らないが、彼らは怒っているようだ。
「とぼけんなよ! 今年突然やってきてリリスをかっさらう、それって都合よくないか?」
「ほーお、今更妬いているのか。つーか、突然妬きだしたか。十六年も先行する機会がありながら動けなかった連中のお前が、リリスの何を知ってるのか?」
「そんなことはどーでもいいんだよっ! どうやってリリスに近づいたんだ?!」
「んん? フリーみたいだったから普通に」
ジャンから見たら、リリスはラムリーザの身内を除く男子生徒の誰からも相手にされていなかった。高嶺の花と思われていたのか、過去の根倉吸血鬼が浸透しすぎていて避けていたのか。ほぼ全てが後者だろうが、ごくわずかな前者が今頃になって糾弾したというのだろう。
「お前の普通ってなんだよこの野郎! 俺たちを馬鹿にしているんかよ?!」
「で、お前はリリスに何をしたん?」
「何をって?」
「リリスのゲーム実況動画見た?」
「ちょっ――!!」
ジャンに黒歴史を発掘されて、リリスは赤面する。一週間ほどで数万回も再生された、しかしそれはほぼ全て機械で自動的にクリックされたもので、その無茶なやり方が原因で、今はリリスの作った動画はネット上には存在しない。
「そんなの知らんわ!」
「ほーお、俺はダウンロードして持ってるぞ。二本あって、どっちもマインビルダーズ、俺の宝だ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
しかもその黒歴史を、ジャンは自分の宝にしてしまっていた。リリスは今初めて知ったジャンの収集に、完全にうろたえてしまった。
むろんリリスはその動画自体をマイコンから削除して、完全に黒歴史として葬ったつもりだった。しかしまだ残っていたとは知らなかった。
ネットワーク上で物を公開するというのはそういうことだ。本人は消去したつもりでも、どこに広まっているか分かったものではない。
この場合でも、ジャンに転載されたらどうなることやら、といった具合だ。
「そもそもだな、散々根暗吸血鬼とからかってきて、今更突然手のひら返すほうが都合よくないか?」
「俺たちはそんなこと言ってなかった!」
「言ってなかったけど、リリスと付き合おうとすると周囲から『根暗吸血鬼の男』と揶揄されるのが怖くて手が出せなかっただけだろう」
ジャンは、見下したような口調で皮肉めいたことを言ってのけた。
「くっ――、だからと言ってお前がリリスと付き合うのは認めん! リリスは見ているだけで良かったんだよ。誰かの物になるのは気に入らん」
「あほらし」
「きっ、貴様っ!」
一人の男子生徒が殴りかかってくる。しかしジャンは、素早くそれを受け止めて言った。
「やめとけ、俺たちは強いぞ」
「あなた今まで戦いになると見ていただけの癖に、よくそんなはったりが言えるわね、くすっ」
「りっ、リリス~っ……」
自分が争いの火種になっているのを自覚しながらも、リリスはジャンをからかってくる。
「へへっ、根暗吸血鬼もそう言っているぞ」
「そうね」
リリスは顔色一つ変えずに受け流すと、そっとジャンの首筋に口を近づけていって、そこに歯を立てた。
「なっ?」
ジャンも、リリスの隠れファン(?)も、突然の出来事にあっけにとられる。
「さ、吸血したわ」
「――わかったよ、俺はリリスの下僕です」
ジャンは、胸の前で手を×印に組むと、一歩下がってうなだれた。
「ふっ、ふざけんなよぉっ!」
ジャンとリリスの芝居を見せつけられ、隠れファンはさらに激高し、再び殴りかかった。しかし、その手を後ろから掴んで止める者がいた。
「誰だっ?! 邪魔するなよ」
右後方から現れたラムリーザは、左手で一人の隠れファンの右腕を掴んだまま、自分の右手を差し出した。そこには、白いゴムまりが握られていた。
「よぉ、ラムリィ」
ジャンは、親しげに愛称を呼ぶ。
ラムリーザは、黙ったまま腕を掴んだ生徒の前に右手を差し出す。力を籠めると、握ったゴムまりが不自然な形に歪み、そして――
パァーン!
「うわっ」
目の前で突然破裂するゴムまりに、その男子生徒は驚く。
ラムリーザは、彼に潰したゴムまりを手渡した。
「うわっ」
それが、普通にはつぶれそうもない物だと知って、さらに驚く。
「なんだよ曲芸師か?」
それでも残りの二人は、まだいきり立ったままだ。
「よぉ、番長」
つづいてジャンは、さらにステージに上がってきた仲間に声をかけた。
「番長だと? あっ――!」
ラムリーザがジャンに加勢したのを見て、ラムリーザの騎士を自称するレフトールが黙っていられるわけがない。まだ気の折れていない二人が振り返ると、そこには腕組みをしたまま二人を見つめる視線。その目は細く閉じられ、眉を八の字にして眉間にしわを寄せている。
「やっ、やばいよ」
「逃げよう」
ポッターズ・ブラフ悪の双璧といった恐怖の象徴は伊達ではない。二人はリリスをかっさらったジャンにいちゃもんをつけることを忘れてステージ上から逃げていった。
「待ってくれよぉ」
ラムリーザに腕を掴まれている最後の一人も、ラムリーザが手を放してやると二人を追いかけて逃げていってしまった。
邪魔者が居なくなったところで、ジャンは再びマイクを片手にステージ前へと進み出た。
「さーて諸君、様々な困難を打ち砕く竜神の加護を理解いただけたでしょうか? 今宵結ばれた二人は、このように護られているのです!」
三人の襲撃はトラブルだ。しかしそのトラブルも、アドリブで祭の一環、アトラクションに組み込んでしまった。ジャンは天性の司会役なのだ。
「でもやっぱりジャンは何もしなかったね、くすっ」
「うるささ、加護されているというのが分かればいいんだよ」
ちょっと締まらないのも、彼の良いところ。
そして降竜祭は、最後のイベントへと移行する。
「さあ、祭も終わり。竜神テフラウィリスが天に帰る時がやってきました。みんなで見送りましょう!」
ジャンの合図で、リリスはステージ周辺の照明を消した。遠くの照明だけが残り、ステージ周りは真っ暗になってしまった。その代わり、星空がくっきりと浮かび上がる。
「ゴジリさん、お願いします」
続いて、スポーツジムのトレーナー、この場所では花火職人に声をかけた。
暗闇の中、一筋の光が空へと昇っていった。
その光が星空と重なったとき、轟音と共にはじけ飛んだ。
満天に光る星の海、その中に光でできた大輪の花が咲いた。
ほとんどの生徒は、ぽか~んと空を見上げていた。ユライカナンから伝わった打ち上げ花火を、初めて見た人たちは、驚き、感激、人によっては恐怖を感じながら、光の筋が消えるまで空に釘付けだった。
「竜神よさらば! また来年、降臨してくれたまえ!」
ジャンの締めの言葉で、降竜祭は終わった。後は、屋台の品物が無くなるまで自由行動。残った食べ物を食い漁ってもいいし、帰宅してもよいとなった。
しかし、帰ろうとする者はしばらくは一人もいなかった。
ゴジリは大きな一発だけでなく、中規模の打ち上げ花火を持ち込んでいたのだ。しばらくの間、最初の一発よりは劣るが、中小様々な光の玉が夜空を彩っていた。
わいわいと騒がしい中、リリスはジャンに寄り添ってつぶやいた。
「ジャン、ありがとう。私のこと好きになってくれて」
「リリスこそ、俺を受け入れてくれてありがとう」
小さな花火が次々に打ちあがっているのをステージの上から眺めながら、そこに二人の時だけが流れていた。
「こらジャンっ、あたしジャンのこと好きだから、こんな魔女なんかと別れてあたしと付き合って!」
「なんや突然。別にえーよ、どんとこいや」
「どうだ参ったかリリス、寝取られる気分が分かっただろう!」
ソニアは、ジャンに後ろから抱きつきながら、リリスの方へ意地の悪い笑みを見せるのであった。
「そう? ならばご自由に」
全然ひるまないリリスは、そのままラムリーザの腕に絡みついて身体を押し付けた。
「あっ! ラムに引っ付くな! この泥棒猫!」
「私はラムリーザと付き合うから、あなたジャンと付き合いなさいよ」
「やだっ!」
「お前さっき俺のこと好きだと言ったじゃんか」
「言ってない――むーっ! むーっ!」
「花火に見とれていて監視の目が緩んでしまった、二人の時を邪魔してすまん」
「結局お前がハーレム築くのかよ! 右手でソニアを抱きかかえて口をふさぎ、左腕にはリリスを侍らせてさーっ!」
「これもひとえに私の判断ミスが原因であり、弁解の言葉もございません!」
「テンプレ謝罪述べられてもなんとも思わんわっ!」
こうして、降竜祭は全て大成功に終わった。
ジャン、おめでとう。リリス、おめでとう。
ラムリーザは、左右に娘を引っ付けたまま、ジャンに祝福を心の中で述べるのであった。
打ち上げ花火の音が大きすぎて、後日近隣住民から苦情が入ったというトラブルも発生したが、それはまた別の話。
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