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特訓の邪魔をするおっぱいちゃん

 

 夜になって、シャングリラ・ナイト・フィーバーに少しずつ客が入ってくるようになってきた。

 ラムリーザはジャンに頼み込んで、今日の本演奏が始まる前に少し時間を取らせてもらう事にした。そこでリリスを慣らすというのと、リリスの様子を観察しようと考えたのだ。普段の演奏の配置では、ラムリーザはリリスの後姿ぐらいしか確認できないので、今日は近い位置で見るということにしたのだ。

「お集まりの皆さん、今日は懐かしい人がやってきましたよ。どうぞ!」

 ジャンの紹介で、ラムリーザはリリスを連れてステージを進んでいった。今日はソニアは必要ないので、舞台袖に置いてきたが。そして、この時もリリスの様子をそれとなく観察していた。

 ラムリーザについてステージを進むリリスは、いつものモデルのような優雅な歩きで、落ち着いている。彼女は、観察しているラムリーザの視線に気がついて、にっこりと微笑み返す。

 ……普通じゃないか、とラムリーザは思った。

 すぐにステージの真ん中に到達し、ラムリーザは客の方を見た。ステージはそれほど高くないし、客席も離れていないので、客の視線も近い。よく見ると、懐かしい顔もちらほら居る。

「ラムリーザです。帰ってきました、お久しぶりです」

 最初は無難に、丁寧に挨拶しておく。挨拶しながらも、チラッとリリスの様子を確認してみるが、彼女はじっとラムリーザの顔を見ているだけだ。そして、その表情に戸惑いはない。

「ラムリーザ、生きていたんだねぇ」

 客席からひやかしの声が上がったので、ラムリーザは「死んだら騒ぎになってるって」と突っ込んでおいた。

「で、この娘は誰? 無茶苦茶美人なんだけど」

「リリスっていうんだ、僕の新しい仲間だよ」

 客の関心がリリスに移ったので、ラムリーザは彼女を紹介した。

 リリスはラムリーザから目をそらし、観客の方を向く。客の目は、リリスに集中している。

 その瞬間、リリスの表情が一転する。目を見開き、固まってしまった。

 そんな様子を、ラムリーザはじっと観察していて、リリスの取り乱す原因がなんとなくわかった。

 大勢の客の目だ。リリスは、自分を見るたくさんの視線に耐えられないのだ。

 そこでラムリーザは、そんなリリスの肩に手を回し、耳元で「がんばれ」と囁いた。

 リリスは、ハッとした感じでラムリーザの顔を見て、少し情けないような顔をしたが、すぐに真顔に戻って客の方に向き直って言った。

「リリス・フロンティアです、よろしく」

 だが目が泳いでいる。まるで客の視線から逃げ回るかのように。

「すっげー美人。あ、ラムリーザ、ひょっとしてその娘は彼女か何か?」

「いや、それは……」

 ラムリーザは、慌ててリリスの肩に回していた手を引っ込める。

「そういえばいつも一緒に居たソニアはどうした? ソニアも最近帝都で見かけないけど……あ、やっぱソニアと別れて、その娘にしたんじゃない?」

「ええーっ、なんでなんでー。ソニアが居たから遠慮していたのに、別れたのなら教えてくれたらよかったのにー」

 これは女性客の発言だ。ラムリーザの去年までのクラスメイトの一人だった。

「ダメダメ、その女は危険な香りがするわ、まるで男をたぶらかして操りそう。ラムリーザー、フリーになったのならー」

「あ、抜け駆けする気? 折角あのうるさいソニアが居なくなったんだから、ラムリーザはあたしとー」

「いや、だから君たち、ね」

 ソニアが居なくなってしまったと勘違いしたのか、今度は女性客が騒ぎ出した。声を上げている娘たちは、みんな去年までの知り合いだ。

「とにかく、ソニアと別れたのだったら――」

 客のその一言が終わるか終わらないかのうちに、舞台袖で控えていたソニアが慌てたようにステージに駆け込んでくる。そして、スピーカーに繋がっている太いケーブルに足を引っ掛けて、ステージ中央に向かって派手に転んだ。

 予想外の乱入者に、客席の女の子達は、ポカーンとなって場が静かになる。

「いや、足元気をつけ――ううむ……」

 注意しかけてたが、ラムリーザは唸って口をつぐむ。胸が大きすぎて足元が見えていないという、ソニアならではの事情を知ってしまって以来、このような状況の時にかける言葉が見つからないのだ。

 ソニアは、うつ伏せに倒れた状態から身体を起こして、涙目で叫ぶ。いいから、まずは捲れあがったスカートを直しましょうね、見えてるよ。

「別れてないわよ!」

 そんなソニアの滑稽な様子に、客席から笑い声が上がり、シーンとなっていた会場は再び時が動き出したようにザワザワし始める。

「あー、ソニアも久しぶりー」

「久しぶりー、じゃない! ヒュンナあんた、あたしがうるさいって?!」

「そんな事言ったかな。ていうかー、ソニアあんたどこ行ってたの?」

「帝都を離れるラムについて行っただけよ」

「なんだもー、別れたのじゃなかったのか残念」

 ソニアは、ラムリーザの服を掴んで立ち上がり、そのままステージを下りて客の女子達に近づいて行きながら、彼女達に言い聞かせるように力強く語る。

「と、に、か、く! あたしはラムと別れてない、リリスはラムの彼女じゃない! あれはただの魔女!」

 ソニアは腰に手を当てて、胸を張ってきっぱりと言い切った。胸を張ると、その大きな胸が強調されるのだが。

「はいはい」

 ソニアにヒュンナと呼ばれた娘は、諦めたように両手を広げてソニアから目を逸らした。

 ヒュンナは静かになったが、次にその隣に居た娘がソニアに話しかけてきた。

「ソニアさぁ、去年は胸隠すような地味な格好していたけど、見せ付ける様になったのね」

「え?」

「こんなにはだけさせて」

 その娘は、ブラウスに収まりきらなくて、むき出しになったソニアの胸の上部を、ニヤニヤしながら突く。

「ちょっと突かないでよメルティア! 制服なんだから仕方ないじゃない!」

「あー制服かぁ。リリスって言ったあの娘と同じ格好だね、胸以外」

 ソニアにメルティアと呼ばれた娘は、リリスを見て、それからソニアに視線を戻して上から下まで見てから言った。最後の言葉を強調して。そして、指で突くのをやめて、おもむろソニアの乳房を握ろうとする。

「さわんな、ちっぱい!」

 ソニアはメルティアの手首を掴んで、胸から引き放して睨み付ける。メルティアは、今反対側の手をソニアの胸に伸ばそうとするが、すぐにそちらの手首もソニアに掴まれる。

 すると今度は、隣に居たヒュンナが、メルティアに加勢するようにソニアの胸に手を伸ばして来るのだった。

「ちょっと、なんなのよもう!」

 ソニアは掴んでいた手を放して、二人から距離を取るために一歩下がる。だが、二人はニヤニヤしながら、さらにソニアに手を伸ばそうとしてきた。

「ソニアちゃーん、揉ませなさーい」

「やっ、やだっ、やめてっ。助けてラム!」

 ソニアは助けを求めるようにステージを振り返ったが、頼みの綱は既に居なくなっていた。

 

 ラムリーザは、ソニアが乱入してきたとことで、当初の予定が狂ってしまったので、早々と舞台から引っ込んでいたのだ。

 リリスが取り乱す原因がわかったので、今日のところはこれで収穫があったとし、騒ぎ出したソニアを放置して、リリスと共にジャンの所に戻る。

 前座は終わり、本演奏が始まった。

 数人の観客は謎の追いかけっこをしているが、それ以外はいつも通りの風景が戻ってきている。

 ラムリーザは、ジャンに礼を言って帰ろうとしたが、ソニアが見つからないのに気が付いた。

「あれ、観客席に居た友達と遊んでいたはずなのに、どこ行った?」

 テーブルが並ぶ広間を見渡すが、人が多くてよくわからない。

 ラムリーザが二階席に上がって見下ろしてみようと考えた時、広間の影の方から悲鳴が聞こえた。

「やだーっ、助けてーっ」

「あの声は、ソニア!」

 ラムリーザは急いで悲鳴が聞こえた方に駆けて行った。そこで見たものは……。

 

 壁際に追い詰められて、女の子二人に胸を揉み揉みされているソニア――。

 

「……君達は一体何をやっているんだい?」

 その光景に呆れて、先程まで心配していた気持ちはどこかに飛んで行ってしまっていた。

「あっ、ラム! ふええぇぇん……」

 ラムリーザの姿が目に入ったソニアは、メルティアとヒュンナを振りほどいて、涙声をあげながらラムリーザの後ろに隠れる。ソニアの姿は、上から三番目のボタンまで外され、大きな胸があらわになっている。

「あら、ラムリーザ。ソニアが胸いじって欲しそうに突き出してくるのよねー」

「そーそー、それでさらに『ちっぱい』とか言って挑発してくるのよん」

「挑発してない、あたしは挑発なんかしてないよ!」

「わかったわかった、今日はもう帰るぞ」

「もう帰っちゃうのね、ばいばーい」

 メルティアとヒュンナの二人は、軽く挨拶してステージの方に駆けて行った。そしてその後ろ姿に、ソニアはあっかんべーをするのであった。

「ねぇ、さっきの二人、何?」

 静かになったところで、リリスがおそるおそる尋ねてくる。

「ん、去年まで居たこっちの学校でのソニアの友達。えっと、ヒュンナとメルティアだっけ?」

 ソニアは興奮していて答えないので、代わりにラムリーザが答えてあげた。ソニアが遊ばれているだけのように見えたりするが、仲が良い証拠だろう。ソニアは、いじられて輝く……のかな。

「ふーん」

 リリスは、二人が立ち去っていったあたりを見つめながら頷いた。何を思っているのやらわからないが、ソニアの方を見たりしている。

「さてと、明日も練習したいので、今日は帝都に泊まるぞ。リリス、家の方に連絡入れといた方が良いかな?」

 そこでリリスはOKと言い、携帯電話で家に連絡を入れた。

 ラムリーザも下宿先に連絡を入れ、今日は実家に泊まることを伝えた。

 

 この夜、ラムリーザの部屋でひと悶着あった。

 寝る時になって、いろいろと弊害が出てきてしまったのだ。

 着替えに関してリリスには、ソニアのパジャマを一着貸してあげることにした。身体の一部分以外は、体形が類似しているので気にならない。これが逆だと、胸の関係で着られない物が出てくるかもしれないが、リリスが着る分には全く問題なかった。

 そして、ラムリーザは、ベッドはソニアとリリスが使うといいと言って、自分はリクライニングチェアで寝ることにしようとしたのだ。

 そうすると、ソニアは無理やりチェアに乗りかかってきて一緒に寝ようとする。

 ラムリーザが「二人でベッド使いなよ」と言うと、ソニアは「あたしとラムがベッド使う、リリスは床で寝て」とか言い出すのだ。

 チェアは二人で寝るには狭すぎる、というより、ソニアはラムリーザの上に乗っているだけ。寝返りを打ったら、落下してしまうだろう。

 これでは危なっかしくて仕方ないし、ソニアは離れようとしないので、ラムリーザはめんどくさくなって掛け布団を手に取り、床の絨毯の上で横になった。絨毯は硬くなくふわふわしているので、寝るのに不都合があるわけではない。

 そうなると、ソニアも掛け布団を取って、ラムリーザの横に引っ付いてくる。

 この流れを見て、リリスは自分一人ベッドを使うのは申し訳なく感じたのか、先程までラムリーザの居たリクライニングチェアに横になったのだ。

 

 明かりを消して暗くなった部屋の中で、柱時計が鐘の音で時報を告げた時、すやすやと寝息が聞こえていたが、大きなベッドは無人のまま放置されているのであった。

 
 
 
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