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領地にまず必要なものは何だろう?

 

 この日の朝、ほとんど起床直後に、ラムリーザの母ソフィアから連絡が入ってきた。

 まずは、先日発生したレフトール騒動の話。ソフィアは暴徒――レフトールのこと――とはどうなった? と聞いてきたので、仲間になったみたいだよと返しておいた。

 事実、今では乱暴を働くことはなく、脅してくることもなく、むしろ仲間として溶け込もうと行動しているようだ。

 ただ、ソニア達女性陣の印象は最悪で、それに対してはじわじわと挽回していくしかないだろう。

 ソフィアは、その件に対しては「わかりました」と答えて話を終わらせ、本題に入ってきた。

「私がやってもいいことですが、以前神殿の話のときにもあったように、極力あなたが判断してやっていくことにしようと考えています。私はあなたが間違ったことをしている時に助言を贈る程度にします。あなたの領地となるのです、あなたがやりたいようにやりなさい」

「いったいどうしたんですか?」

 ソフィアが改まって大事な話をしてきたので、ラムリーザは思わず聞き返す。新開地の件で連絡してくるのは珍しいことだった。

「これまでは、連絡網や倉庫などの完成を待っていましたが、そろそろ動き出してもいい頃です。領地を持ち、領民を生活させるのにまず必要なものを揃えなさい。あなたは今、領民の心の拠り所となる竜神殿を作ることにしました。それと、領民に娯楽、楽しみを与えるためにナイトクラブを作ることにしましたね?」

「あ、ジャンの話がもう広まってるのか、まずかった?」

「いえ、あなたは間違っていません」

 ジャンと話したシャングリラ・ナイト・フィーバー二号店の話は、ラムリーザが独断で話を進めてしまったことだが、特に問題は無かったようだ。

 ソフィアは話を続ける。

「友人を大切にするのはよいことです。彼はあなたの心強い味方になってくれるでしょう」

「うん、ジャンとは長い付き合いの親友だよ」

「それはわかってます。でもやるべきことが他にもあります。何だかわかりますか? 基本ですよ」

 ラムリーザは、携帯電話を持ったまま少し考えた。

 領地でやることはたくさんある。必要なものの基本とは何だろうか? 街の名前かな? ラムちゃんシティは却下だが、そういえばジャンが響きの良い名前を挙げていた気がする。後で暇な時、ジャンに電話してもう一度聞いてみるとしよう。

「まだ時間はたっぷりとあります。今週いっぱい考えてみなさい。もしわからなければ、答えを出します」

 ソフィアはそれだけ言うと、通信を終わらせた。ラムリーザは、なんだか宿題を与えられた気持ちになって、通話の切れた携帯電話を持ったまま、しばらく考えていた。

「ねー、話は終わった? またリリス? リリスだったらリリス殺す」

 ラムリーザがぼんやりしていると、丁度制服に着替え終わったソニアが傍にやってきた。相変わらずリリスがラムリーザに連絡するのは気に入らないようだ。

「リリスじゃない、母さんだ。あと、殺すなんて物騒な事を言うのはやめようね」

 ソニアの姿を見て、慌ててラムリーザも着替え始める。自分の方が着替えるのが遅くなったのは今日が始めてだ。

 ラムリーザは、制服に着替えながらソニアに尋ねてみた。

「領地でまず必要なものがあるって聞いたけど、何だろうね?」

「ん~、お城かな?」

 ソニアは、ほとんど即答だった。しかしそれは違う、違うだろう。

「いや、僕は王様にも皇帝にもならないよ。お城は要らないだろ?」

「将来どうなるかわかんないじゃないのよ~」

「独立や反乱はソニアに任せるよ。僕はエルドラード帝国の忠実なる臣民として生きていくからね」

「でも、住む所は必要じゃないの?」

「少し山に入った所に屋敷を建てているのは、ソニアも見たよね?」

 ソニアは、腕を組んでう~んと唸る。どうでもいいことだが、ソニアは胸が大きすぎるので、正面からは普通には腕は組めない。そこで今は、その大きな胸の下で腕を組んでいる。そのため下から胸を抱える形になり、より大きく盛り上がらせているのだった。

 1メートルのバストは伊達じゃない。さすがJカップ様、いや、ひょっとしたら今はKカップかもしれない。夏休みにサイズが合わなくてブラを新調したこともあった。

 閑話休題。

 朝食を取り、下宿先の屋敷を出た後、登校しながらも二人は新開地について話し合っていた。

「じゃあ、学校かな?」

「人が増えて街の形が出来上がる頃には必要かな。人が住むと子供も住むことになるわけだしね。まぁ、近くに通わせたいと考える幼稚園や小学校とかは急いで作るかな。高校まで来ると、こっちにいいのが揃っているからね。今通っているところは駅からも近いし」

「あたし、学校の先生になろうかなぁ」

「赤点ギリギリじゃなくなったらね。あ、大学は作るよ」

 大学、それは夏休みのキャンプの夜、ラムリーズのメンバーで語り合った夢物語のことだ。みんなで一日でも長く、遊んでいられるための手段。それも決定事項の一つであった。

 ラムリーザは、ソニアの肩に手を回し、抱き寄せながら歩いた。ソニアの身体はいろいろと柔らかい。大きな胸やお尻や足や――こほん、話を進めよう。

「あっ」

 ソニアは、何かを思い出したかのように叫んだ。

「たなからぼたもち球場が必要! いっぱい必要だよ!」

「なんやそれ……」

 どうせゲームの話だろう。ソニアはゲームから離れなさい。

 仕方がないのでラムリーザは、ソニアに頼ることは諦めて一人で考えることにした。

 こんな時に参謀みたいな人が居てくれたらなぁ……。そう思いながらラムリーザは、学校に着いたらリゲルにでも聞いてみようと考えた。

 南国ゆえ、まだ暑さが少し残る道を、二人は並んで歩いていくのだった。

 

 

「領地で最初にやること?」

 教室にて、リゲルはラムリーザの質問を受けて聞き返してきた。

「うん、ソニアに聞いてもまともな答えが返ってこないから、リゲルならちゃんとした意見が聞けるかなってね」

「ラムちゃんシティにたなからぼたもち球場を建てまく――むーむーむー!」

 ラムリーザは、傍に寄ってきていらんことを言い始めるソニアの口を押えて、リゲルの方に困った顔を向けた。

「そうだな、俺ならまずは開墾かな。何をするにもまずは領民を食わせなければならない。飢えた領民は暴動を起こす。これは避けねばならんことだ。だから、やることは食糧生産だ。つまり、農業従事者の確保が必要だと俺は思う」

 リゲルの話を聞いて、ラムリーザは目から鱗が落ちる気分だった。食わせること、ラムリーザは普段当たり前のように食べ物が出てくる生活をしていたので、生産するという考えには至らなかったのだ。

「リゲルはすごいな、僕の参謀になってくれよ」

 ラムリーザは、やはりリゲルはいろいろと頼りになると思った。ゲームの話ばかりするソニアとは大違いだ。

「参謀か、悪くないポジションだ。考えておく」

 リゲルが頷いたところで、ソニアが口を挟んできた。

「さんぼうって、三角形ABCの面積の事? まあリゲルは三番目ってことでさんぼうでいいよ。あたしはいちぼうになるから」

 ラムリーザは、どう答えたらよいものか思いつかなくて黙っていた。ソニアが何を言っているのかさっぱりわからない。すると、そこにリゲルが一言追加してきた。

「俺を参謀にする条件は、お前の周囲から馬鹿を排除することだな。どうも俺は知性が低い奴を目の前にすると、頭を叩きたくなる」

 リゲルが手を振り上げて見せるので、ソニアは「な、なによー」と言いながらラムリーザに抱きついてきた。

「こら、教室で抱きつかない。リゲルもその手を下ろして」

「ふっ、聖者を目指すなら、徳の前に知性も上げることだな」

「知性はいいから。それよりも、リゲルはいろいろなことを知ってるけど、領地経営のコツはどこで知ったの?」

 ラムリーザはなんとなく聞いてみたが、リゲルの答えに何も言えなくなってしまった。

「シミュレーションゲーム。食糧生産は基本だからな。それは実際の領地経営にも言えることだろう」

「そうか……」

 結局リゲルも、ゲームの知識だったわけだ。ラムリーザの周りはゲーマーしか居ないということだった。

 しかし、ゲームの受け売りとはいえ、リゲルはいろいろなことを知っているし、いつも冷静な判断をしてくれる。これはジャンとは違った特性だ。将来リゲルは、頭脳面でラムリーザの右腕として働いてくれるだろう。

 

 

 部活では、今日もカラオケ喫茶に向けての練習だ。

 ボーカル争奪戦は後回しにして、まずは伴奏できることを最優先して黙々と演奏していた。

 カラオケ喫茶をやると言ってから十日余り。今では何とか演奏の形になっている物を入れると、全部でそろそろ百曲に到達しようとしていた。

 ゲームソングがやたらと多い。中には、これ絶対エロゲソングだろうというのも混ざっていた。

 というより、アンケートの結果がやたらとゲーム音楽が多かったのだ。この辺りは田舎で他に遊ぶものが少ないということで、地域ぐるみでゲーム好きなのだろうか。

 ラムリーザはそう考えながら、ドラムの前で休憩していた。

 ラムリーザ担当のドラムスでは、とりあえず8ビート叩いていれば形になるのが多いのが助かっていた。所々適当にフィルインでも入れていればごまかせる。ゲームソングだと、似たような雰囲気の曲が多いから助かる。これがジャズだとそうもいかないのだが……。

 逆に大変なのはリリスのリードギターパートかもしれない。リリスもめんどくさくなれば適当にがなりたてているだけに聞こえるのだが……。

 うーんっ、と伸びをすると、ソファーの方からソニアの芝居がかった声が聞こえてきた。

「ルーク! あたしはルークが大好きっ! もうずっとはなれないからねっ!」

「よしOK、次の台詞いくよ、はいっ」

「あたしはあなたを愛しているの! あたしのラム、あいや、ルークに手を出さないで!」

「カット、台詞間違えたね。主人公はラムじゃないよ」

 何をしているのかと思えば、電脳部の二人がやってきて、ゲームの台詞を収録していた。

 まあ、いろいろと動きを見せているが、当分の間メインとなるのは文化祭の準備となるだろう。

 領地経営も、学校生活も、平行して進めていこう。

 

 この素晴らしき仲間達と共に……。

 

 
 
 
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