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十七年目の付き合い

 

 新しい年が始まった。

 年始は、帝国内の各種竜神殿で、年始祭が行なわれている。年始祭は年の初日から三日の間開かれていて、この一年の幸福などを願うといった、どこにでもよくあるイベントだ。

 ラムリーザは、家族と共に帝都の竜神殿へ赴き、ありきたりな祈願をしに行った。

 年末年始にかけては、城勤めをしている父ラムニアスと兄ラムリアースも帰ってきており、年に少ない一家団欒の場を設けていた。

 さらに、使用人という立場だが、家族ぐるみの付き合いがあるソニアのルミナス一家、兄嫁となったペルモドフ家とも一緒に出掛けており、集団は結構な大所帯となっていた。

 こうなると、ソニアは大はしゃぎだ。フォレスター家メイドである母親につかまるまで、不思議な踊りの行進だったから困る。

 帝都の竜神殿、それも年始祭となると大勢の人でごった返している。ソニアははぐれないようにラムリーザの腕を掴んで離さない。そのうち、手を掴むが腕を組む形になり、気が付けば横に抱きついて引っ付いていた。清くない交際を隠す気があるのかないのか分からない。

 ただ、すぐ近くでは兄のラムリアースと、兄嫁のラキアが引っ付いているので、それを免罪符にできないことはない。それに、ラムリアース自体も、ラムリーザとソニアがベタベタすることに否定的ではない。

「ねぇ、ラムは竜のお告げを引かないの?」

 竜のお告げとは、竜神ルヴァル二アに今年一年の運勢を占ってもらうもの。いわゆる「おみくじ」みたいなものだ。

「んー。今年はね、フォレストピアにできた竜神殿に、みんなと一緒に行くことにしているだろ? 折角だから、その時にみんなで引こうかなと思ってね」

 年末に、グループメールでリリス達と通信した時に決めたことだ。初日に行くことはできないので、最後の三日目に、みんなで行こうという話になっていた。

 つまり帰省は明日まで。明日、ポッターズ・ブラフへ戻り一休みして、その翌日に行こうという話になったのだ。

「んー、それならあたしも引かない。ソフィーちゃんは引いたんだね、どうだった?」

 ソニアはお告げ所から離れると、ソフィリータに駆け寄って、お告げの紙を覗き込んだ。

「今年は当たり年みたいです」

 そこには、フォーチュネイトと書かれていた。幸運を意味する竜語だ。

「えーと、詳細は……。『同胞も失わず新しい出会いもあるであろう』だって、なんだろうね」

「たぶんアレだと思います。この春から、ソニア姉様と同じ地方の学校に行くので、そこで新しい出会いがあるってことだと思います」

 ソフィリータはうれしそうに言うが、ソニアは難しい顔をして忠告めいたことを言う。

「あー、そういうことね。でもあの学校最悪だよ、制服のブラウスきっついし、ボタン閉まらないよ?」

「それはソニア姉様のバストサイズが――」

「誰が風船おっぱいお化けだ!!」

 ソニアがソフィリータに殴りかかろうとするので、ラムリーザは「誰もそんなこと言ってないだろ」と言いながら引き離すはめになりましたとさ。

 

 その夜、ラムリーザはいつもと同じように窓際のリクライニングチェアに身を沈め、ソニアはその上にのしかかり、「ふにゅ~」などとつぶやきながら甘えている。

 窓の外には、二つの月が引かれ合うように重なりかけて輝いていた。

「なぁソニア、ひょっとしたらこの屋敷でのんびりと過ごす、最後の夜になるかもしれないぞ?」

 ラムリーザは、ソニアの頭をなでながらつぶやいた。

「えぇ? ラムはもう帰ってこないの?」

「春になったら新開地の新しい屋敷に引っ越すよ。そこは僕の生涯の家になるかもしれない。母も引っ越すと言っていたし、ここに戻ってくることはほとんど無くなると思う」

 母親が来る事は想定外だったため、この春からは清くない交際をなんとかしなければならない。

「でもソフィーちゃんが残るじゃないの」

「いや、ソフィリータも言っていただろ、春から僕達と同じ学校に通うと。そうなれば、向こうでまた一緒だよ」

 その時ソニアは、ちょっと真剣な顔つきになった。奇行ばかりのソニアだが、こういった顔はすごく可愛い。めったに見せない真面目な顔は、すごく整っていた。

「最後の夜かぁ、なんだかドキドキしてきた」

 ラムリーザは、ソニアの青い瞳をみつめながら、しんみりと言った。

「いろいろあったなぁ、十六年も一緒に過ごしてきたんだよ?」

 十六年という時間は、一生の中では短いかもしれないが、今のラムリーザとソニアにとっては、それが全てだった。

 ソニアは、ラムリーザの頭の後ろに手を回して、顔を近づけながら尋ねてきた。

「ラムは何を一番に思い出す?」

「ん~……、お――いや……」

 ラムリーザは、思い出の中のソニアを回想し、思わず口に出てきそうになった言葉を飲み込んだ。

「一番に思い出したことを言って!」

 ソニアはさらにら顔を近づけて大声を出す。ラムリーザは、目の前に迫ったソニアの鼻先をペロリとなめてみると、ソニアは「ひゃん」と言って、すこし身を引いた。

「……えーと、ソニアと一緒に音楽を始めたことかなぁ」

 数年前、何の影響を受けたのかわからないが、ソニアが楽器で遊ぼうと言ってきたことが、今のラムリーズに繋がる発端だった。

「ラムはギター全然上達しなかったね」

「ああ、そんなこともあったね」

 それで、ソニアに無理やりドラムスに転向させられて、今に至る。

 ただ、ラムリーザが真っ先に思い出したのは、小学校の時分にソニアが学校でおもらしをしたことだったが、それを言うと怒り出すことが目に見えていたので、一生懸命他の事を考えて口にしたということは、この際内緒にしておこう。

「ラム~」

 再びソニアの顔が、ラムリーザの目の前に迫ってくる。

 ラムリーザは、部屋の入り口に意識を集中させながら、そっと唇を合わせた。ドアの向こうに人の気配を感じたら、すぐにソニアを引き剥がすつもりだった。

 屋敷内の各部屋にも鍵が付いていればいいのに――。

 ラムリーザは、ふとそんなことを思ったりしていた。鍵が付いていればいいのに。

「これだ!」

 ラムリーザは、ソニアの顔を手で挟んで引く。

「なっ、何?!」

 突然の行動に、びっくりするソニア。

 ラムリーザは、ソニアの顔を見つめながら、笑みを浮かべて言った。

「来春からも、清くない交際続ける方法思いついた」

「ふ~ん」

 不思議そうな顔をするソニアを、ラムリーザはぎゅっと抱きしめて、再び窓の外で輝いている二つの月へと視線を戻した。

 

 

 翌日、ラムリーザとソニアの二人は、昼過ぎに屋敷を出て、ソニアの父であるフォレスター家執事の運転する車で駅へと向かった。

「ソニアや、来春からはまた一緒に過ごせることになるぞ」

「あ、うん」

 ソニアは、初めて父親と離れたときは少し寂しい気がしていたが、半年以上もラムリーザと二人で生活するのに慣れていて、今は気が抜けたような返事しかできなかった。

「ラムリーザ様、後三ヶ月、ソニアをよろしく頼みます」

 以前と同じことをラムリーザは言われ、ラムリーザもまた同じ言葉で返す。

 帝都シャングリラ駅に到着し、見送りのソフィリータと共に駅へ入る。

「ソフィリータ、またな」

 ラムリーザは、ソフィリータの頭をなでて言った。

「はい、リザ兄様。春からはまた一緒にお願いします」

 入試はまだだが、ソニアが入学できたのだから、よほどのことが無い限り問題ないだろう。

 その時ラムリーザは、ソフィリータがここに居るのに車はもう帰ってしまったことに気がついて尋ねてみた。

「ソフィリータは、帰りはどうするんだ?」

「ソフィーちゃんも一緒に来るの?」

「いいえ、今日は昼食をミーシャと一緒にって話で、駅前集合にしていたの」

 ミーシャか、変わった娘だったなとラムリーザは思い出していた。遊んだのは一日だけだったが、妙に印象に残る娘であった。

 そうこう言っている間に、電車の発車時間となった。

「ん、なるほどね。それでは今度はフォレストピアで会おう」

「ソフィーちゃん、またねっ」

 ラムリーザとソニアは、ソフィリータと別れて電車に乗り込んだ。ソフィリータは、電車が見えなくなるまで見つめ続けていた。

 

「ソフィーたんっ!」

 突然後ろから声をかけられて、ソフィリータはびっくりして振り返った。そこには、紫色の長い髪をツインテールにして両側にたらしている娘が立っていた。

「ミーシャ、あ、もうこんな時間?」

「何してたのぉん? 撮り鉄?」

 いつもの甘ったるい媚びた声で、ミーシャは尋ねてきた。

「電車に興味は、無いっ。えっと、どこに行くんだつけ?」

「ゴンヂュウ! 骨付鳥ゴンヂュウ!」

 ソフィリータとミーシャの二人は、駅前にある鳥肉料理店へと向かっていった。

 その途中でソフィリータは、思い出したかのように言った。

「あ、そうそう、春から通う学校の名前分かったよ。ポッターズ・ブラフの帝立ソリチュード学院っていうの」

「おお~、なんかかっちょいー名前だぬ」

 などと話をしながら、二人は店の中へと入っていった。

 
 
 
 
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