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らうめん

 

 フォレストピア駅前の大倉庫前にて。

 ラムリーザはいつものメンバーといっしょに集まっていた。時間は試食会ということで、昼前。ついでに昼食にしてしまおうということだ。

「言うほど曲がりくねっているか?」

 レフトールに聞かれて、ラムリーザは「知らん、投票で決まった」と答えた。

 先日行なった会議の議題に出てきた、メインストリートの名称を決める投票では、結局「ロング・アンド・ワイディング・ロード」と決まってしまった。

 なんか知らんけど、心に響くような名称だという気持ちで投票した人がほとんどで、メインストリートの景観を考えて投票した人は居なかった。

「別に通りの名前なんて知らんけどな。俺もエルム街のメインストリートの名前は知らんし」

 名前なんて問題が出たら後から変えてもいいだろう、ラムリーザは軽くそう考えていた。

 

 さて、今日はフォレストピアの食糧問題を解決すべく、また隣国ユライカナンの文化に触れるという名目の元、ユライカナンの料理を体験してみようという企画だ。もしその料理が口にあうようなら、早速取り入れて民衆に開放するといった流れにする予定だ。

 ラムリーザ達は、駅前の大倉庫内に作られた仮店舗へと向かっていった。

「あれ見てごんな、来てごんにゃ、一口食べて、みてごんにゃ、って書いてるよ」

 一番先頭を歩いていたソニアは、仮店舗の前でみんなの方を振り返って言った。

「そう、来てごんにゃ、食べてみてごんにゃ」

 店の中からひょいと顔を出した主人に、ソニアは驚いて飛び上がってしまう。

「なっなによっ! びっくりするじゃないの!」

「おおっ、元気のいい嬢ちゃんだねぇ。ちょっと胸の大きさが不自然だが……」

 店主のいぶかしむ視線を胸に感じたソニアは、ススッと後ずさりしてラムリーザの後ろに隠れてしまった。

「それで、今日紹介してくれるユライカナンの食事メニューは何ですか?」

 店内に入って、店主と話しをするためにラムリーザはカウンター席に座り、ソニアがすかさず隣に来てその隣にジャンと続き、リゲルはラムリーザの反対側の隣に座った。残りのメンバーは、後方の四人掛けの席に男女のグループに分かれて座っている。

 また一般公開していないので、ラムリーザ達以外の客は無く、他に居るのは店主とお手伝いが一人だけだ。

 それから早速ラムリーザは、店主とメニューについて語り始めた。

「リョーメンって知っているかな?」

「リョーメンですか? 初めて聞きますね、何でしょう?」

「小麦粉を練って、細長くしたものです。作り方は――、そこはいいか。一般的には麺と呼ばれているが、できの良い物をリョーメンと呼ぶ。良い、リョウという言葉と麺を合わせたものだな」

 ラムリーザは、頷きながら聞いている。小麦粉なら帝国でも使われているが、麺というものは初めて聞く。

「上質なものはそう呼び、出来が普通の物は、ゴーメンと言う。これは、高品質ではないが十分出せるので行ってみよう。行く、ゴーという言葉と麺を合わせたものだ」

「味は変わらないのですよね?」

「うむ、だがこだわる人はこだわる品でな。で、あまり出来が良くない物は、マーメンと言う。出して良い物か、と悩むが、捨てるのももったいないので、まぁ気にしないで出そう。まぁ出してみようのマーメンだ」

「マーメンを出す意味はあるのですか?」

「質を気にしなければ、味は同じなので低価格で出しているので財布にやさしい」

「なるほどね、食材を無駄にしないのは良い事だと思います」

「さて、何を注文するかな?」

 店主に促されてラムリーザは、壁にかけてあるメニューを見てみた。そこには、「うまいぶん」だの、「えーぶん」だの書かれている。

「うまいぶん、えーぶんはどっちがいいのですか?」

「うまいぶんは、美味しい物。えーぶんは上質な物という意味。えーぶんの方がいろいろ入っている」

「今日はラムリーザのおごりよね?」

 突然ラムリーザの耳元でリリスが囁いた。

「おごる理由は無いけど、おごって欲しいならおごってあげようか」

「あ、リリスのは俺がおごるよ」

 そう横から口を出したのはジャンだ。リリスは微笑を浮かべると、四人掛けの席からジャンの隣へと移動してしまった。

 これでカウンター席以外は、ロザリーンとユコのテーブルと、レフトールとマックスウェルのテーブルに分かれたことになる。

「ラムズハーレムの住民を、ジャンに奪われつつあるな。あ、俺はおごらなくていいぞ」

 リゲルは、自分でさっさとリョーメンのえーぶんを注文してしまった。

「ラムさん、俺にもおごってくれるのかなー?」

 レフトールは、何も臆することなくラムリーザにたかる。

「女の子だけおごって男の子におごらないのは差別っぽいから、全員どんとこいだ」

「俺はいいからな」

 リゲルは確認するようにおごられることを否定する。そういうわけで、リゲルとジャンとリリス以外のメンバーにはラムリーザがおごることになり、全員きっちりとリョーメンのえーぶんとこの店一番のメニューを選ぶのだった。

 最後に残ったのはラムリーザとソニアの二人だ。

「ソニアは何にする?」

「あたし、ラムと一緒でいいよ」

「ん、それじゃあ店主さん、冷たいのあるかな?」

「冷たいのかい? つけるぶんだと冷やした麺を使うから冷たいと思うぞ」

「よし、じゃあリョーメンでつけるぶんを二つ」

「あいよ」

 こうしてラムリーザもメニューを決めたが、そこでソニアがおかしなことを言ってきた。

「あたしもリョーメンのつけるぶん二つ」

「えっ?」「えっ?」

 ラムリーザと店主が同時に固まる。二人の視線を受けても、ソニアはきょとんとしている。

「えっと、ラムリーザ君は、その娘のもいっしょに注文したんだよね?」

 店主はラムリーザに確認を取るが、会話の流れから行ってそう取るのが普通である。

「そのつもりだけど、なんでソニアも注文するの?」

「あたしラムと同じのにするって言ったよ」

 ラムリーザはめんどくさ、と思いながら、ソニアに右手を差し出した。ソニアは何も考えずに、ラムリーザの右手を握り返す。

 そこでラムリーザは、「巨握の掌」と言いながらソニアの手を強く握って、空気を読まない発言をこらしめることにした。

「ふえぇ……」

 そんなどうでもよいことは置いといて、しばらく全員は初めて食べるユライカナンのメニューを堪能していた。

「この肉の味付けもはじめてだなぁ」

「それは豚肉を煮込んだものだね。煮込み方が、ユライカナン独特なのだよ」

「このサクッとした歯ざわりのものは?」

「それはタケノコを煮込んだものだね」

 ラムリーザは、店主とメニューの中に入っている、見慣れない具について説明を受けていた。他は玉子とか、もやしが入っていたりしている。スープの味も、初めてのものだった。

 その一方で、食べ終わったユコ達は別の雑談をしていたりした。

「そういえば、この春休みに楽譜を一つ仕上げましたわ。タイトルは『暑い夏の歌物語』ですの」

 ユコの言ったことを聞いて、リゲルはラムリーザの耳元で「またエロゲソングだぞ、例のカノコが出てくるやつ」とつぶやいた。

 ラムリーザは、どうせ歌うのはソニアかリリスだから、別に元ネタが何であろうが気にしていなかった。割とどうでもいい。

 リリスは、何かを思いついたのか、「そうだわ」と言いながらジャンの隣の席を移動して別のテーブル席へと移った。さらに、ソニアにもこっちに来るように促す。

 ソニアがリリスと相席になる形で移動した後で、リリスはまずは店主に尋ねてきた。

「このリョーメンのおかわりみたいなの、あるかしら?」

 リリスの問いに店主は、「替え玉というのがあるぞ」と答えた。

 次にリリスは、ラムリーザに「いいこと思いついたから、もう少しおごってね」とお願いしたきた。

 リリスは、普通の「ゴーメン」の、普通の「うまいぶん」を二つ注文した。リリスは、ソニアと共にもう一杯食べるようだ。

「何よ、二杯目食べるの?」

 ソニアは不思議そうな顔をして尋ねるが、リリスはいつもの微笑を浮かべてこれから行なおうとしていることを説明した。

「さっきユコは、新しい楽譜ができたと言ったわ。だから、リードボーカルを決めなくちゃね。ここの新メニューはおいしかったから、どちらがたくさん食べられるかで勝負よ」

「むっ……」

 ソニアは、とたんに真剣な顔になるが、なんてことはない、ただの大食い合戦だ。二人とも一杯食べただけだから、スタート地点では互角だ。

「替え玉とかいうの、たくさん用意しておいてね」

 そういうわけでリリスとソニアは、リードボーカルの座を巡って、二杯目の、今度は普通品質のゴーメンを食べ始めた。

 そんな二人を尻目に、店主は替え玉の用意をしながらラムリーザに尋ねてきた。

「それで、どうです? ここ『ごんにゃ』のリョーメンは美味かったかな? ここで出店させてもらえるかな?」

 そう、最も重要なのはこれだ。別に昼食に来たわけではない。ユライカナン特産の新メニューを吟味して、ここフォレストピアで店を出すかどうかを決めるのが目的だ。

「そうだね、僕は良いと思うよ。リゲルやジャンはどうだった?」

 ラムリーザがカウンター席に残った二人に聞いてみると、二人とも「良いんじゃないの?」と答えた。

 その時、カウンター席の背後から「替え玉お願い!」「あたしも!」などと聞こえてきた。本気で大食い合戦をやっているらしい。しかもペースが早い。

 店主は、お手伝いに替え玉の準備を任せて、自分はラムリーザとの会話に専念している。

「でもこの店が一番に来たってことは、この料理店がユライカナンでは一番なのですか?」

「うむ、そう思ってくれていいぞ。君から国へ、食糧問題についての話が来た時、国中の料理店が競って出店申請をしたものだ。それでこの店が選ばれたのだから、一番なのだろう」

「抽選の結果だな」

 リゲルが小さくつぶやくと、店主はごほんと咳払いをした。

「リョーメンは店でしか出さない。ゴーメンは食料の量販店にも出品するぞ」

「マーメンは?」

「えーと、この街にはスラムはあるかい?」

「街自体ができたばかりだから、まだ無いよ」

「じゃあ、マーメンも店限定だな。安く食べたいって人だけが買えばいい」

 その背後で、またしても替え玉を要求する声が聞こえた。最初の一杯を合わせて、これで四杯目だ。

 ラムリーザは、少し心配になって振り返る。見てみるとソニアもリリスも、険しい顔を真っ赤にして、汗をダラダラとかきながらひたすら食べ続けている。レフトール達は周囲に立って、二人を応援しているようだ。ラムリーザはやれやれだ、と首を振って店主の方へと向き直った。

「あの娘たち、ただの大食いでしょう? どうせだからマーメンも混ぜときますね」

 お手伝いの台詞に、ラムリーザは「任せます」とだけ答えた。どうせお金を払うのは自分だし、放っておこうと考えた。しかし、後にここで二人を放置したことを、ラムリーザは後悔するのだったが、この地点では特に何も考えていなかった。

「このスープの味付けは何ですか? 初めての味ですが」

 ラムリーザは、今度はスープについて尋ねてみた。

「それは店によって違うが、うちで使っているのは主に牛骨、牛の骨のことな、それを使っている。細かいところまで語れば、一晩中でも話せるが聞くかい?」

 店主はニヤリと笑ってラムリーザに尋ねてきた。店主なりのこだわりを語りたいのだろう。

「そ、それはまたの機会に……」

 ラムリーザは、そこまで食マニアではない。不味くなければそれでよいぐらいだったので、深く話を聞いても理解できないだろうからここは遠慮しておくことにした。

 店主は「つれないなぁ」と面白く無さそうだが、仕方が無い。

 そんな中、五杯目のお代わりの声が、店内に響いた。

 

 ………

 ……

 …

 

 限界は先にリリスに現れた。

 八杯目の途中、リリスは顔をしかめてソニアをにらみつけた。ソニアも苦悶の表情を浮かべながら、それでも八杯目の替え玉を完食できた。

 ソニアは、苦しそうな声で九杯目のお代わりを注文する。リリスもひとつ深呼吸をしてから、一気に八杯目を食べ終え、ソニアに数秒遅れたが九杯目に突入した。

 リリスは九杯目の替え玉に箸を突っ込んで口に運んだが、そこが限界だった。

 これまでに食べた物は、ぱんぱんに膨らんだ胃から喉へと逆流し、そのまま口から流れ出てきてしまい、リリスはついに意識を失ってテーブルに突っ伏してしまった。リリスが倒れながら顔を突っ込んだどんぶりは、派手な音を立ててひっくり返り、リリスとその周囲にスープを飛び散らかせた。

「お、おい、ちょっとあれ!」

 お手伝いの驚いた声とどんぶりの転がる激しい音で、ラムリーザはただ事ではない何かか起きたことを悟った。

 一方ソニアは、リリスのダウンを見て勝利を勝ち取ったかに見えたが、意識を失いながらもリリスの口から流れ出る吐しゃ物を見て、たちまち気持ち悪くなってしまった。

 それでなくとも、リリスに勝ちたいがために無理をしていた状態。ソニアも胃袋から何かこみ上げてくるものを感じ――。

「おべーっ!」

「きゃーっ!」

 ソニアの気持ち悪いうめき声と、ユコのけたたましい悲鳴が重なった。

 応援というか、観戦を間近でするためにソニアのすぐ横に立っていたユコは、ソニアが突然横を向いて嘔吐したので、その吐しゃ物を足に受けることになってしまった。

「ちょっとお嬢さん!」

 店主も慌てたような驚いたような怒ったような、様々な感情が込められた声を張り上げる。

 騒然とする店の中、レフトールだけがただ一人カラカラと笑い声を上げていた。

 

 意識を失ったリリスと、両手で口を押えたまま固まっているソニアを別の場所へ移動させ、お手伝いはテーブルの後始末に取り掛かっていた。

「困りますね、一体何をしているのですか!」

「ごめんなさい……」

 憤慨する店主に、ラムリーザはただ頭を下げるしかなかった。

「領主に迷惑をかける女、最悪だな。おい、こいつはお前の足を引っ張ることしかしないぞ」

 リゲルの辛辣な台詞にラムリーザは言い返すことができず、ソニアも文句を言う気力は残っていなかった。

「あっ、フォレストピアに出店することは許可します。店の場所は区画担当者と、内装については建築業者と打ち合わせて進めて下さい。それまでは、この仮店舗で明日から一般住民にも開放することにしますので、宜しくお願いします」

 ラムリーザは、多少うわずった声で事務的に今後の事を伝えた。うろたえた視線は、店主とソニアの間をうろうろしている。

「それはありがとうございます。しかしこういうのは――」

「ごめんなさい!」

 ラムリーザは、くい気味で再び謝り、そのまま帰路に付くことにした。

 

 レフトールは、一人楽しそうにヘラヘラしながら、「それじゃあまた明日学校で」と言い残し、子分一号のマックスウェルを連れて駅へと消えていった。

 しかし、ソニアとリリスはどうしようか。ソニアはぐったりしているし、リリスは全身汁まみれで意識を失っている。また、ユコもソニアの吐しゃ物で衣服を汚してしまっている。

「ひとまず僕の屋敷に運び込もう」

 ラムリーザが、意識を失っているリリスを抱き上げようとした所、ジャンが「俺が運ぶよ」と言ってラムリーザの手から奪ってしまった。

「あほのお守りも大変だな。それじゃあ失敬するぞ」

 リゲルはそう言い残して、ロザリーンと共に駐車場へと向かっていった。ロザリーンは、少し心配そうな視線でラムリーザ達を見ていたが、リゲルに促されて後を追っていった。

「リリスはソニアと胸以外体格ほとんど一緒だし、ユコも下だけなら問題ないだろう。うちにきて着替えていくといいよ」

「あ、大丈夫ですの。私も今は近くに住んでますので、このまま帰ります」

「ああ、そうだったね。それじゃあまた明日。ソニアがスカート汚してごめんよ」

「いいですの。それじゃあ失礼致しますわ」

 この日、リリスは意識が戻るまで、ラムリーザの屋敷で過ごすことになった。ソニアも、屋敷に戻るとすぐに便所へと駆け込んだ。楽になるまで出すつもりらしい。

 

 こうして、最後はぐちゃぐちゃな展開となってしまったが、一つ目のユライカナン食文化の店を出すことが決まったのである。

 
 
 
 
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