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ジャンとユコ ~リリスの行方とジャンの信念~

 
 11月21日――

 

 この日の放課後、ジャンとユコは二人でごんにゃを訪れていた。二人そろってカウンター席に陣取り、「えーぶん」を注文する。うまいぶんの方は、あまり注文されないのはラムリーザたちの贅沢か?

「なんだか珍しい組み合わせだな」

 店主のヒミツが言うのも頷ける。店主の知る範囲では、初めての組み合わせであった。

「たまにはな」

 ジャンは軽く答える。

「領主さんや、あの賑やかな娘や雰囲気美女はどうしたんだな?」

 ジャンは「う~む」と唸り、ユコは「その表現的確ですの」と答えた。

「先月、領主さんと雰囲気美女さんの二人で来た事があるけど、いろいろな組み合わせがあるのだな」

 店主は、えーぶんの準備をしながら話している。この店ではボックス席よりもカウンター席に座ることが多く、店主とよく会話しているのだ。

 その台詞にジャンは「マジかよっ――」と驚き、ユコは「リリスも抜け駆けですのね」と答えた。

「なんだか雰囲気美女さんの方が、領主さんに相談しているみたいだったな。そうだ、君のことを聞いていた気がするよ」

「俺のことをですか?」

「そうだな。君と雰囲気美女さんが付き合うとかどうとか」

 それを聞いて、ジャンは再び「う~む」と唸った。

「はいどうぞっ、えーぶんだよ」

 店主は二人の前にできあがりを置くと、別の客の所へと向かって行った。

 

 少しの間だけ、二人はしずかにリョーメンをすすっていた。珍しい組み合わせなだけあって、ジャンもいつも通りにはいかない。

 しかし今日の組み合わせは、ジャンが所望したものだった。リリスは失踪し、今日のラムリーザとソニアは変だった。前者はともかく、後者は昨夜プレイしたのだまゲームが原因でぎくしゃくしているというしょうもない物だとは、ジャンもユコも知る由は無かった。

「あのさぁ、リリスってさぁ――」

 最初に話を切り出したのは、ジャンであった。ユコの方はジャンから「ちょっと今日いいかな?」と言って誘われたので、話があるならジャンから切り出してもらわないと、わからないものであった。

「リリスがどうしましたの?」

 ジャンは少しの間言葉をためらうかのように間を置き、

「リリスって付き合っている人、実は居るとか?」

 そう切り出した。

 文化祭の日に告白を拒まれたということは、リリスはジャンが気に入らないのか、既に付き合っている人がいるのか、そのどちらかとジャンは考えていた。

「それは無いですの、少なくとも私が知っている間では。ただし――」

「ただし?」

「ネット恋愛していたら別ですの。流石に私も、リリスのメールとかチェックできませんので」

 ジャンから見ると、去年出会ってから今年近づくまで、メールで付き合っていたようなものだ。だからネット恋愛と言うものにも理解があった。

 今日ジャンは、リリスのことを一番知っているであろうユコに、相談を持ち掛けるつもりでごんにゃに誘った。ジャンがリリスに告白しようとした後、なぜリリスは逃げるように失踪することとなったのか。

「リリスは君と付き合っているとか?」

「百合には興味ありませんですの!」

「冗談冗談、さてと――」

 ジャンは一旦箸を置いて、ユコに向き合う。

「リリスって俺の事どう思っているか聞いたことあるか?」

「リリスのシャンさんに対する評価ねぇ……」

 ユコも一旦リョーメンを食べるのを中断して考える。これまでのリリスとの会話を思い出したりしてみた。

「う~ん、リリスとはあまりそういう話はしてませんね」

 ユコはともかく、リリスが愛だの恋だのといった話題を口にすることは無かった。リリスは基本的に一人で籠っているような娘だ。例えばマインビルダーズというサンドボックスゲームを、延々と一人でやり続けるみたいな。

「恋バナの類は無し?」

「ゲームでこのキャラとこのキャラは付き合っているとか、そういう話ばかりでしたの。例えば、ミルクとヨーグルは付き合っているとか」

「ん~」

 ジャンは、改めてリリスの見た目と実状とのギャップを思い知るのであった。だが世の中にはギャップ萌えという言葉もある。問題児ソニアと同レベルの幼稚さを持ち合わせた見た目だけ妖艶な美女。それでいいじゃないか。

「――で、リリスがどこに行ったかわからないかなぁ。その為にラムリィは要約フォレストピアに憲兵を作り上げて、最初の任務がリリスの捜索となっているのだが……」

「リリスは私の所にメール送ってきてますの。でもジャンさんに言っていいものでしょうか?」

「なっ、何っ? 聞いてくれよ!」

 ジャンは思わずユコの方に乗り出す。腕がリョーメンのどんぶりに当たって大きく揺れたのを慌てて抱える。

「聞いていい物か、言っていい物か」

 ユコはそうつぶやきながらも、持っていた携帯端末を操作し始めた。やはりジャンの考えは合っていた。ユコならこんな時でもリリスと繋がっているのでは? その可能性に賭けたのだった。それに、ユコとメールで連絡が取れるということは、変な事件に巻き込まれているのではなく普通に無事だということだ。それだけで、ジャンは少し安心していた。

 しばらくしてから、ユコは顔を上げてジャンの方を向く。

「ど、どうだった?」

 緊張した顔でユコを見つめるジャン。

「リリスの命の消滅を見ておりませぬ」

「な、何だぁ?」

「冗談ですの。えーと、何って言ったらいいのかしら? 実家、かな? 実家に帰っているみたいですの」

「実家? リリスの実家? どこだそれは?」

「ポッターズ・ブラフですの。ジャンさんのホテルに泊るようになるまで、リリスは他所に住んでいたでしょう?」

「ん? ああ、そうか」

 そこでジャンは思い出した。元々リリスはフォレストピアの住民ではなかったことを。月一度の会議の時に、リリスだけその場に居ないことが不満で呼び寄せたことなど。

「リリスはね――」

 ユコは少し深刻そうな雰囲気で語り始めた。ジャンは、ん? と振り返る。

「リリスは今回みたいなこと、慣れてないんですの」

「今回みたいなこと?」

「ジャンさんみたいな方に、強い好意を向けられるということ」

 ユコの言葉に、ジャンは黙り込む。ジャンが何も言わないので、ユコはそのまま言葉を続ける。

「リリスは――、あぁジャンさんはまだ知らなかったのですね」

 そこでユコは、以前ラムリーザに語ったことを同じように述べる。数年前ユコがリリスと初めて出会った頃、リリスはただの根暗な女の子だったこと。ユコと家が隣同士にならなければ、ひょっとしたらユコはリリスと交流していなかったかもしれないということ。そんなわけだがユコはリリスと行動を共にし、リリスが見向きもしなかったおしゃれなどをユコなりに伝えて変えていったこと。

「初めて会った頃のリリスは、皆の嘲笑の対象となっていました。たまにレフトールさんが口にするから聞いたことあるでしょう? あとソニアも口喧嘩の時に遠慮なく言うようになりましたが」

「根暗吸血鬼――か」

「そう、それがリリスの全てでした」

「やっぱり田舎の人間の考えはわからんね。リリスがもしも帝都に生を受けていれば、誰もが放っておかないはずだぜ」

 ジャンが言うのは、所謂学園のマドンナ的な立ち位置だと言うことだ。しかユコは、否定する。

「いえ、ほとんどの人は、昔のリリスのイメージをずっと持っているのでしょうね。だから去年、ラムリーザ様が来て私の育てたリリスを見た時は、魅力的だと思ったようですの」

「そりゃあラムリーザは生まれが帝都の人間だからな。田舎者とは違うのさ。ユコも元々この地方に住んでいたわけではないのだろう?」

「私はここに来る前は、アントニオ・ベイに住んでましたの。とにかくリリスは、今までの辛い人生が、ジャンの好意をにわかに信じることができず、逃げ出した――と私は予想しますの。別に彼女が語ったわけではありませんので、違うかもしれませんが」

「う~む……」

 ふたたび唸るジャン。リリスはやはり、見た目は好物件、触れてみると地雷の類なのだろうか? しかしジャンは、

「でもソニアとのやり取りを見ていたら、リリスは別に地雷ってわけではないと思うのだけどな。友達の友達は、友達だろ?」

「敵の敵は味方と言いますが、その理論から行けば味方の味方は敵ではなくて?」

「なんか変だな? まあいいや、どうやったらリリスから警戒心が取り除けるだろうか……」

 話がそれかけたので、ジャンはさっさと次の話へと移動させた。

「リリスは、自己肯定感が異様に低いのよね。だからジャンさんの好意も、簡単に疑ってしまう。ジャンさんが持ち上げても、委縮してしまうだけ」

「でもさ、リリスはリードボーカル、リードギターとバンドでは大車輪の活躍だぜ? ライブも普通にこなせるようになったし、何がダメなんだろう?」

「ポッターズ・ブラフで公演してごらんなさい」

「は?」

「去年は帝都でライブ、今年はフォレストピアやユライカナンでライブ。過去とのしがらみのない場所だから、リリスものびのびとプレイできたのですわ」

「そ、そうなのか」

「リリスの過去は暗かった。他人から好意を向けられることに慣れていないんですの。だからジャンさんが褒めても、遊びとしか思ってないんです。だからエロトピアに合わせるのよ」

 そういえばリリスは、ジャンが望むと挑発的なポーズも平気でやっていたような気がする。

「エロトピアやめてくれぇ」

「だめですの。ジャンさんはエロトピアです」

 エロいジャンは、もうそのエロさを否定することなどできない。まぁそんなことはどうでもいい。

「まぁ何だ、もったいないよな。結局この辺りに住む田舎者は、この一七年リリスの良さがわからなかったんだ」

「ジャンさんはすごいですのね。自分のお店もしっかり経営されてますし。流石ラムリーザ様の親友ですの」

「ユコもすごいよ、あの楽譜作成能力」

「誰かが歌詞を書いてくれれば、オリジナル曲も作成できるのよ」

「よし、作ってやろう――じゃなくてだな。リリスと一緒に店を盛り上げたいのだけどな」

 また話がそれかかっていたのを、やや強引に引き寄せた。すぐに歌詞が思い浮かばないというのを誤魔化す意味合いも強かった。

「そうだよねぇ、フォレストピア・ナイトフィーバーだったかな? おっちゃんもたまに晩飯頂きに行っているさね」

 そこに、手の空いたごんにゃ店主が会話に入ってきた。

「毎度ありがとうございます」

 急に店主と客の立場の入れ替わる、ごんにゃ店主とジャンであった。

「おっちゃんはここに来てから帝国のことをいろいろと勉強したけど、帝国って資源とか豊富に集めていて金はいくらでも生まれるのだよね? おかけでおっちゃんもここで働かせてもらっているのだが。でも普通帝国の人間って働く必要無かったりしないかな? 特にジャンくん、君ぐらい領主さんと距離が近い貴族みたいな立場ならば、そのおこぼれだけで困らないのではないかな? あの領主さんの一族、南方の島々開拓で、それこそ国が成り立つぐらいの資産があるのだろう?」

 ごんにゃ店主が言っているのは、夏休みにキャンプしたマトゥール島や、その周辺の島々のことである。原油やリン航跡など、天然資源が豊富な島を複数支配下に治めている。

「そうだねぇ」

 ジャンは否定せずに、軽く肯定する。

「ジャンくん、でも君は違う。なぜかなぁ?」

「おやじさん、帝国貴族は富を得るために働くのが人生の目的では無くなっているのさ。より良い自分になるために、そして臣民のために働く。これが帝国の貴族が持つべき信念なのさ」

 ジャンの言葉に、店主は目を丸くして驚く。数秒後、店主はくすりと笑って言った。

「帝国には敵わないな」

「ま、大人はそうでも子供は違うみたいだけどな」

 ジャンは、まるで自分が子供ではないと言いたそうに付け加える。そう言えば、金塊がどうのこうのと大騒ぎしていた人の中の一人が、ここに居る。仮想通貨で荒稼ぎして、企業に迷惑をかけた一人が、ここに居る。

「お嬢さんもそうかね?」

「私もやりたいことはありますの」

 店主に振られて、その一人もさぞ自分は大人であると言いたげに語るのであった。

「ラムリィんとこのメイドか?」

「それもありますが、その前にやっておきたいことがありますの」

「メイドで正解かよ! で、その前とは?」

「内緒ですの。その内、機会ができたら挑戦してみます。いや、絶対に再現してみせますの」

 なんだか力強そうに語るユコであった。ま、機会とやらが来たときは、邪魔をせずに見守ってあげようというものだ。

「それよりもだ」

 リョーメンのえーぶんを食べ終わったジャンは、立ち上がって勘定を支払いながら言った。

「リリスの居る場所はどこだって? どこに行きそうだ?」

「リリスの行きそうな場所? そんなの無いですの」

「えっ?」

 ジャンはユコの答えに驚く。どこにも行くことがないって何だ?

「私が連れ出さないと、ずっと家に籠ってますの」

「あ、そうか……」

 それにはジャンも思い当たる点はあった。リリスはジャンの店の上階にあるホテルに住んでいた時も、ジャンが出かけようと誘った時や、ユコが遊びに来たときは出かけていた。しかし、リリスから出かけようと誘われたことは、一度も無かった。

「それじゃあどこに――」

「実家の自室に籠ってますわねぇ……」

「ああ、実家に戻ったと言っていたな。どこだっけ?」

「ポッターズ・ブラフ地方の――。後で地図を教えてあげますの」

 そういうわけで、後日ジャンは頃合いを見計らってリリスの住んでいる実家を尋ねてみることにしたのであった。
 
 
 
 




 
 
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