新開地に行ってみよう その2 ~初めての地~
5月14日――
さて、今日はポッターズ・ブラフから新たに作られる貿易拠点である新開地の間を通る鉄道の開通記念で、下見に出かけることになっていた。
朝早くに準備を済ませ、ラムリーザはソニアと共に下宿先の屋敷を出た。ソニアにとっては、先日リリスたちと買い物に行った時に買った新しい服で出かける機会ができたということで、少しばかり張り切っている。
「ほぉ、新しい服、似合ってていいじゃん。胸の所がゆったりしているから、お前のわがままボディも大人しくしているな」
ソニアは、似合っていると言われて嬉しそうに目を細めるが、すぐに「ん?」と首をひねって鋭い目つきで睨みつける。
「わがままボディって何なの?」
「何だろうねぇ、不思議な言葉だねぇ」
ラムリーザは、睨まれても平然としている。ソニアの怒った顔もかわいいと言ったところだ。
「そういやスカートは変わらないな。まあ、いろんな色を揃えているみたいだけど」
実際、ソニアのクローゼットにはやたらと色違いのスカートがあるのだ。ほぼミニスカートだが、上着に比べて種類が豊富だ。ただし、それはラムリーザがちらりと見た程度の判断であり、実際は色違いで同じ型のミニスカートがほとんどなのだ。
ソニアは、上着はジャージで下はミニのプリーツスカートとか、よく分からない組み合わせをやってしまうところが残念だった。まぁ上着に関しては、胸が大きくなりすぎて、これまで着ていた服がほとんど着られなくなったからという理由があるのだが……。
「ミニスカートだけは譲らない、足を隠すなんて愚の骨頂。ラムが許しても天が許さない!」
「なんやそれ……」
ソニアは、腰に腕を当ててドヤ顔で胸を張るが、どうせゲームの台詞をパクッたんだろ、とラムリーザは思った。
「てかさぁ、ラムはロングスカートの方がいいの?」
ソニアは、できるだけラムリーザの期待に応えたいと考えて、念のために確認してみた。
ラムリーザは、今更何を言ってるんだ、ドレス以外の私服でロングスカートなんて履いた事無いくせにと突っ込みたくなった。そのまま何も言わずに少し屈みこみ、むき出しになっているソニアのふとももをひと揉みする。そして「うむ」と一言だけ言うと、突然の行動にあっけに取られているソニアを置いて、スタスタと先に進んで行ってしまった。
我に返ったソニアは、「なによー、あたしの足が好きなのなら好きってちゃんと言いなさいよー」と文句を言いながら後を追うのであった。
駅には既にリゲル、リリス、ユコ、ロザリーンの四人は集まっていた。
「ごめん、待った?」
というラムリーザの言葉に、「大丈夫、待ってないよ」と、「待ったぞ」の声が同時に上がる。
ラムリーザは、待ってないよと言った女の子三人が、待ったというリゲルの顔をそれぞれ見比べた。そしてその視線に気がついたリゲルは、「長かれ短かれ、俺が待ったのは事実だ」と言い放つ。
「すまんのぉ、家から出ようとしたところでソニアがセカンドうんこが催してきてのぉ、大変だったんだから大目に見てやってくれや」
ちょっとむっとしたラムリーザは、妙なことを言ってリゲルに反撃を試みたが、特に効果は無かったのが残念だった。
「だっ、なっ、セカンドうんこって何? あたしそんなことやってないよ?!」
ラムリーザの意味不明な言い訳に、ソニアは戸惑う。そんな二人をリリスは「下品ね……」と半目で睨んでいる。
「あたし関係ないもん! ふーんだ、ラムなんかノーエアーうんこして取り返しのつかないことになっちゃえばいいんだ、ふん!」
ソニアも同じように思わずわけの分からないことを口走ってしまい、さらにジト目見られてしまうのであった。
「ソニア、女の子がそんな下品なことを言っちゃダメですよ」
「……ごめん」
ロザリーンにたしなめられて、冷静になったソニアは恥ずかしくなり、顔をそむける。すると、そのそむけた先に駅の時計が目に入ったのだ。
時計は八時五十五分を指している。
「ちょっと待って、まだ五分前じゃないの。なんで間に合ってるのにあたしたち責められなくちゃいけないの?」
間に合っていたのに遅い呼ばわりされて、ソニアは憤慨している。
「私は待ってないって言ったわ。遅いって言ったのはリゲルよ」
リリスはリゲルの方を指差しながら自己弁護する。
「集合時間の五分前に遅れてきて、正直すまんかった!」
「遅いとは言ってない、待ったと言っただけだ……」
ラムリーザの五分遅刻ではなく、五分前の遅れというよくわからない理論に、リゲルも困ったような表情を浮かべる。初めて六人で出かけるということもあり、ラムリーザのテンションは気がつかないうちに上がっていた。
この様子を見て、女の子たちはくすくすと笑い出す。
「チッ、これだから――」リゲルは額に手を当てて続けた「――研修旅行がピクニックになってしまったというのだ」
ピクニックという言葉に反応して、ロザリーンが一歩前に出た。
「ピクニックにはお弁当。たくさんサンドイッチ作ってきたので、お昼を楽しみにしてね」
ロザリーンを見ると、大き目のバスケットケースを持ってきている。
「わーい、サンドイッチ楽しみー」
食べ物を目の前にして、ソニアはうれしそうにはしゃぎだした。それに釣られて、リリスとユコも歓声を上げている。その様子を見て、リゲルは左手で頭を抱え、右手でラムリーザの肩をつかんで引き寄せて言った。
「昨日は『変なこと』などと言って失敗した。素直に俺はお前と二人きりで行くべきだった……」
「まぁ、たまには群れるのもいいんじゃないかい?」
「こんなお花畑みたいな雰囲気は、俺は趣味じゃない……が、仕方ないか……」
リゲルは、はしゃぎまわる娘たちを見て、ため息をついた。
その後、にぎやかになった一行は、揃って駅の中に入っていった。
これまでは、ここポッターズブラフは終点で、帝都シャングリラ方面行きの列車しか出ていなかった。今回は、そこに逆方向へ向かう路線が追加されたのだ。
六人はその追加された方面行きの列車に乗り込む。
まだ作業段階なので、乗客らしいのは六人だけで、それ以外の人は作業着を来た作業員の移動って感じのようだ。列車もまだ一両編成でしか走っていないし、乗っている人はほとんど居ない。
「こっち方面って初めてよね。どんな景色なんだろう」
列車は、ポッターズ・ブラフの西側に広がっているアンテロック山脈に向かって進んでいて、ゆるやかな山道を登っている感じだ。
山の中腹までは、なだらかで広いすそ野が広がっている感じでそれほど急な坂になっていないので、山岳鉄道でなくとも登って行けるようだ。
「ずっと住んでたけど、この山に登ったことは無いわ」
リリスは、木々が生い茂る山道を見ながら呟いた。
「避暑地として使われているホテルがあるぐらいだからね。他に何があったっけ?」
「自動車教習所があったと思う」
ラムリーザの問いにリゲルは答えた。
そしてしばらくすると、途中の駅に停まった。
『オーバールックホテル前――』
オーバールックホテルとは、入学前にパーティが開催された場所だ。前回のパーティ時には、汽車はここまで臨時で使えるようになっていた。
ホテル前の駅を過ぎると、今度はゆるやかな下り坂になっている。アンテロック山脈を登って下るという路線になっているのだろう。トンネルにしなくて山道にしたのは、ホテルの前を経由するためということである。
そしてしばらく進んで行くと……。
『終点――』
「終点か、まだ名前は無いんだね」
着いた駅は、まだ簡易的な造りで閑散としている。しかもまだ名前が無い。
すぐ近くでは、大きな倉庫が建設中だった。おそらくそこで貿易品とかを管理するのだろう。
そして列車は走っていないが、もう一つ別の路線があって、さらに先に伸びている。これがユライカナンに続いていて、国と国を繋ぐ鉄道になることになっている。
さて、新しい貿易拠点に着いたが、今現在建設中の倉庫しか無い。
後はだだっ広い平野が広がっているだけ、まだ開発は始まったばかりの状態であった。