グループのリーダーはラムリーザ様 ん? 様?
5月30日――
「ア・ルシーアゥ!」
軽音楽部の部室に、ソニアのけたたましいシャウトが響き渡る。
この日の部活は、もはや雑談部ではなく、れっきとした軽音楽部になっていた。
先週までと違い、ソニアとリリスは、ユコの持ってきた楽譜集から、二人の知っている曲をいくつか抜き出して気ままに演奏している。楽器はリードギターとベースで即興に近い形で演奏しているだけだが、それなりに形になっている様だ。そしてその様子をロザリーンが楽しそうに見ているのだった。
とりあえず今の所は雰囲気は良好だが、この二人は口喧嘩に発展しやすいから油断できない。主にリリスがからかってそれにソニアが反応しているのがいつもの流れだが……。
一方ラムリーザは、ユコのスコア集から知っている曲や、すぐに演奏できそうな曲を選別していた。
ジャンの話では、持ち時間が一時間から二時間。そして一曲演奏するのにかかる時間が、曲と曲の間を含めてが大体三分から五分ぐらいとして、最低十二曲は必要なわけだ。
そして、ユコがこれまでに作成していた楽譜集は、それを満たす為に選ぶのに十分な数があった。
「ラムリーザさん、グループとして何か拘りはありますの?」
「そうだなぁ、ユコはたくさん歌いたい?」
「いえ、私は特に……」
「そうか、それならこのグループは、ソニアとリリスを主体にやっていこうと思う」
「ふーん」
「見てごらん」
そう言って、ラムリーザは並んで演奏しているソニアとリリスを見る。
リリスの美貌は言わずもがな、ソニアも並べてみて引けを取らない。多少ソニアに対する贔屓目はあったが、ラムリーザ自身はそう思っていた。
「ソニアが右利きで、リリスが左利きか……」
そういうこともあって、演奏する二人が並ぶと対称になっていて、これも絵になっている。
これを見ながら、ラムリーザの中では少しばかりメンバー配置のイメージが出来上がってきていた。
ステージに向かって、左からリリス、ソニアと置いて、右側にキーボードのユコを置こうと考えた。ロザリーンはピアノだから前に配置することができないので、前列はソニアとリリスとユコの三人でいいだろう。
さりげなくソニアがセンターになるように考えているのは、やはり贔屓目か?
「だから、歌は二人で歌うものメインで。ユニゾンになっているものはいいとして、主旋律になるのは二人で半々に、ソロで歌うものも半々になるようにしよう」
「ラムリーザさんは歌わないのですか?」
「僕は縁の下の力持ちでいいよ」
「もったいないですわ、優しい声をしているのに」
「それを言ったらユコも優しい声をしているじゃないか」
「そ……そう?」
うれしそうに頬を赤らめるユコ。「はは」「うふふ」と二人で笑いあうのだった。
「ラムとユコがいい感じになっている、なんでだろー、なんでだろー」
伴奏に合わせてソニアが適当な歌詞で歌いはじめた。ラムリーザとユコが仲良さそうに二人で楽譜を見ているので、また嫉妬したようだ。彼女にラムリーザが困ったような笑顔を見せると、ぷいと顔を背けてしまう。
「ところでグループ名は何にするのかしら? それも決めないとダメじゃないの?」
一通り演奏を終えたリリスが、二人が楽譜を選別中のテーブルにやってきて尋ねた。
「あ……」
ラムリーザは昨晩、勢いで勝手にグループ名を登録したことを思い出した。今更取り繕っても仕方がないので、少し決まりが悪そうに答えることとなった。
「ごめん、『ラムリーズ』で登録しちゃった、ははは……」
「ラムリーズ?」
リリスは眉をひそめて復唱して、「うーん」と唸った。
「ラムリーズいいじゃん、あたしたちの夢だった」
昔から、ラムリーザとその妹のソフィリータと一緒にやっていた時の名前だったので、ソニアに異議は無いようだ。
「リゲルはグループ名は何がいい?」
ラムリーザは、とりあえずみんなに聞いて、それで改めて名前を決めるのでいいかなと考えて話題を振ってみた。別にプロデビューするわけじゃない。途中でいくらでも変更しても問題ないだろう。
「ん、とくにこだわりは無い。ラムリーズに決めたのならそれでいい」
これからは真面目に活動するという話を信じて、再び部活に顔を出したリゲルは、とくにこだわりは無いようで、持っているギターをいじりながら静かに答えた。
「はい二票、ロザリーンは?」
「えっ? ああ、ラムリーザさんが決めたのなら、それでいいと思います」
「ラムリーズに三票、半分入りましたわね」
「そういうユコは?」
「私もラムリーザさんに従いますわ。グループの顔はリリスとソニアでも、グループの頭脳はラムリーザさんですし」
「いや、頭脳って……」
「この話を持ち込んでくれたのもラムリーザさんですし。あなたが居なかったら、何も始まりませんでしたわ」
妙にラムリーザを持ち上げるユコを見て、ソニアは少しむっとした顔をする。
「グループの顔は私とソニアって何かしら? リードボーカルは私に任せておけばいいのよ」
リリスは、ラムリーザの横に立つソニアを押しのけて自分をアピールする。
「ちょっと押さないでよ、あたしも歌うんだから」
ソニアも負けじとリリスを押し返してラムリーザの隣に乗り出す。
「あなたは裏方に回って、黙々とベース弾いてたらいいのよ」
「あたしの方が声がいいんだから、あたしが歌ったほうがいいって」
「そうかしら? ぎゃーぎゃーうるさいだけにしか聞こえないけど」
「ちょっ、なっ、うるさいって何よ!」
「ストップ!」
ラムリーザは、先日と全く同じ言い合いが始まりかけたので、声を上げて二人を制する。
「……うるさい奴だ、そもそも目立ちたい癖になんでベースやってるんだ?」
リゲルがうんざりしたような言い方でソニアに問いかける。その目は冷たく睨みつけていた。
「だって、ラムと一体感得られるんだもん……」
「ちっ」
ソニアの答えが気に入らなかったのか、舌打ちしてリゲルはソニアから目をそらす。
「あー、こほん。ラムリーズは、ソニアとリリスの二枚看板で行く。喧嘩せずに仲良く半分こ、これは決定事項だからね」
ラムリーザは力強く言い放つ。どちらかだけにしたところで喧嘩するだけだし、選ばれなかった方に不満が残る。それなら最初から二人は平等、そうしていた方が無用の争いは発生しない。
「ふう、しょうがないわね」
リリスはため息をつきながら、それでも納得してくれたようだ。
「うふふ、ラムリーザさんがやっぱり中心人物ですわね。それに、あのゲームで命令できる権利獲得できましたものね」
「おい……、あのゲームの一番賞の命令権って永続だったのか?」
「すばらしいですわ。ラムリーザ様と呼んでもよろしいでしょうか?」
「いや……、様って……」
ラムリーザは、命令権とか様付けとかいろいろと突っ込みたいが、ユコは自己陶酔しているみたいで全然聞いていない。
「だーかーらー、なんで二人がいい感じになるのよ!」
ソニアは、突っ込みどころ以外に不満があるようだ。
「何ですの?! 今、私はラムリーザ様とお話していますの」
どうやらユコは、今後はラムリーザ様と呼び続けるようだ。だからラムリーザは、、ちょっと無茶なことを言ってみた。
「じゃあ何だ? ユコは脱げと命令すれば脱ぐのか?」
「ソニア! ラムリーザ様が脱げと言ってますわよ!」
「なんでそうなるのよ!」
ユコは、さらりと命令をソニアに受け流し、それでいて得意げな顔をしているのだ。
「あーもう訳分からん! ……っといかん、また雑談部になっとる。えーとソニア、リズムの練習するぞ。ギターはえーと、リリス?」
「私はリードギター」
「それじゃあリゲル来てくれ。リズム合わせてみよう」
「いいだろう。リズムに乗れないのなら一人で弾いていた方がいいからな」
それを聞いて、リリスはちょっとむっとした顔を見せる。
このグループの二枚看板は我侭だ、と少し思いながらラムリーザは雑談部になりかけた雰囲気を元に戻した。
何はともあれ、目標ができたグループは、それを目指して一緒に進んで行くことができるようになったのである。
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