リリス共通ルート ソフィリータは姉か妹かわからなくする
6月12日――
昨夜は、またナイトクラブ帰りで遅くなったので、ラムリーザたちは、結局フォレスター邸に泊まることになった。
その時、三人が同室に泊まることになると、ラムリーザはソニアとリリス二人の対応に困ることが分かったので、昨夜はリリスに客室を使ってもらうことにした。それでリリスは、「まあ仕方ないか」と言って、素直に客室を使ってくれたのだ。
そういうことで、ソニアは邪魔者を追い払うことができ、ベッドでラムリーザと寝ることができたのであった。
そして翌朝。休日は今日で終わるので、この日はゆっくりと過ごして、日が暮れる前にポッターズ・ブラフに帰ることにしていた。
少し早く目が覚めた三人は、食堂で朝食が出来上がるのを待っていた。
「あ、お兄様、おはようございます。こちらに戻っていたのですね、言ってくれたらよかったのに」
そこに現れたのは、ラムリーザの妹ソフィリータだ。
「いや、ごめんごめん。昨夜もその前も遅かったし、食事も外で取ってきたからね」
「ふーん、あ、ソニア姉様も久しぶりです」
「久しぶり、ソフィーちゃん」
ソニアとソフィリータは実の姉妹ではないが、ずっといっしょに過ごしてきたので姉妹みたいな感じになっているのだ。
「あれ、この方は誰ですか?」
「新しい学校でできた友達、リリスって言うんだ」
ラムリーザの紹介で、リリスはソフィリータに軽く微笑んで挨拶する。
「よろしくね、えっと、ソフィーチャン?」
「ソフィリータです。ラムリーザ兄様の妹をやっています」
「ああ、ソフィリータだからソフィーちゃんね」
そう言って、リリスはソフィリータを観察する。
鎖骨の辺りの長さに切りそろえた金髪が、毛先でカールしている。表情は恍惚としたような目つきと金色の瞳が特徴で、穏やかな雰囲気を感じる。ラフなTシャツを着ている上半身は華奢だが、ショートパンツから伸びた、白いサイハイソックスで太もも半ばまで覆われた長く伸びた脚が、妙に筋肉質で太めなのが気になっていた。そして、女の子としては割と長身である。
「妹をやっているって、それって妹を演じているみたいだな」
「はい、実は姉なんです」
ラムリーザは、どうでもいいと思いながら一応突っ込んでみたが、返事はボケで返ってきた。
「ほう、まだ中学生の姉か。留年何年目だ?」
「ねぇ、私今日、友達のミーシャと、昼に公園ライブするのよ。よろしければ見に来てくださいな」
「話を逸らすな……」
そこでリリスは、「いいね」と言って頷く。
「公園で演奏ね、人前に慣れるためにそれも取り入れるかな。しかしこの娘がラムリーザの妹か、兄妹仲良さそうで従順そうね」
「ラムに攻撃してみて、面白いことになるから」
ソニアがニヤニヤしながら、リリスに物騒なことを提案してくる。
リリスは、「そんなことするわけないでしょ」と一蹴しながら、何かひっかかる点でもあるのか、チラッとソフィリータの脚を再び見た。ソフィリータの穏やかな物腰、声に対して、脚だけがその雰囲気にそぐわないのだ。
「ところでミーシャって友達居たっけ?」
ラムリーザは、この春まで帝都でソフィリータといっしょに過ごしていたが、そんな友達が居るという話は聞いたことがなかった。というより、今日初めて聞いた名前である。
「えっと、今年の四月に転入してきたの。歌を歌うのが好きで、意気投合して組むことになったのです。あ、その娘、ダンスも得意なのよ」
「ふーん、そっか。まぁ楽しそうに過ごしていて安心したよ」
というわけで、特に今日はこれといった用事もないので、昼になったら公園に行ってみることにしたのである。
昼前に、ソフィリータは準備があるということで、昼食を早々と済ませて先に出かけて行った。
ラムリーザたちも、今日は屋敷を出たらそのままポッターズ・ブラフに戻ることにしていたので、忘れ物のないように気をつけた。と言っても、何も持たずに制服のまま来たわけなのだが。
そこで、ラムリーザは、昨日からソニアが素足のままということを思い出した。
「ソニア、靴下忘れるなよ」
「いらない」
「いらないって、学校で困るだろ? 太ももまで持ち上げなくていいから履きなさい。せめて持って帰るぐらいはしなさい」
「むー……」
ソニアは不満そうな顔をしていたが、ラムリーザの言うことには従って部屋に戻り、制服のサイハイソックスをくるぶしの所でモコモコにして現れた。
今日は学校じゃないので、それでもいいと言う事で、ラムリーザはそれ以上何も言わなかった。
「なんだかだらしなく見えるわね、せめて折って履いたら?」
「めんどくさいからこれでいい」
「ほら、そろそろ二人とも出かけるぞ」
ラムリーザは、母のソフィアに挨拶して、屋敷を出て行った。
ソニアも、母のナンシーに挨拶して、ラムリーザの後を追っていく。
リリスも、二人に軽く頭を下げて、後に続きながら呟いた。
「ふーん、本当にメイドの娘ってあるんだ……」
帝都中央公園、繁華街に囲まれている憩いの場である。
石を切り出してできたライブステージのような場所もあり、そこは自由に使っていいことになっていた。
そして、今日はそこで二人の女の子が演奏していた。ラムリーザの妹のソフィリータと、その友人のミーシャだ。
ソフィリータが奏でるギターのリズムに合わせて、ミーシャは歌を歌いながら踊っている。ミーシャは、甘えたような媚びた声で歌うだけで、楽器は演奏していない。
「まるでアイドルね」
その様子を見て、リリスは呟いた。
「うむ、誰かさんの不思議な踊りとは違って、見ていて可愛らしいな」
「不思議な踊りってなーに?」
お前だ、という言葉をラムリーザは飲み込んでおくことにした。
「ふーん、ソフィリータってギターできるのね」
「まーね、リリスたちに出会う前、と言ったら帝都での話になるけど、こっちではソフィリータとソニアとジャンの四人でグループやってたんだよ」
「あーあ、私ももっと外に出て慣れておけばよかったかな。ユコと部屋でやってるばかりじゃなくてさ」
「リリスは技術持ってるんだから、もっと自分に自信持とうね。客に圧倒されるのじゃなく、客を圧倒していこうよ」
「ありがとう、ラムリーザ。これからもよろしくね、ラムリーズのリーダーさん、頼りにしてるわ。というわけで、リリスルートに入りました、くすっ」
「ちょっと待ってよ!」
なんだかいい感じになってきたラムリーザとリリスの間にソニアが割り込んでくる。
「リリスルートって何? いつリリスルートに入ったのよ、ラムはずっとソニアルートを進んでいたのに、シナリオ分岐点どこよ!」
「そうねぇ――
・リリスを帝都に誘う
・リリスを帝都に誘わない
――二日前に発生したこの選択肢かしら」
「残念! そのイベントあたしも同行しているから、それ共通ルート!」
「やれやれ、君たちはドキドキパラダイスのヒロインにでもなったつもりでいるのかい?」
ラムリーザは、いろいろと因縁のあるゲームタイトルを例に出して言ってみた。
この二人は「魅惑的な高嶺の花粋」と「巨乳粋」、どちらもパッケージヒロインって柄じゃないな、などとどうでもいいことをラムリーザは考えながら、これまでのことを思い返してした。最初に会った時と比べて、ソニアとリリスは仲が良くなったなと。最初の頃は、ソニアはリリスを無駄に警戒していたものだ。
「さてと、そろそろ帰るかな?」
「日が暮れるまでまだ時間あるから、帝都の服屋に行ってみたいかな」
「えー……」
リリスは服屋に行くことを提案したが、ソニアは不満があるようだ。
「ソニアの分、また選んであげるから。ラムリーザもいいでしょ?」
「まあ、特に断る理由もないけどね」
ということで、日が暮れるまで服屋に行くことになった。
ラムリーザとしては、レパートリーの少ないソニアの服が増えるのはよいことだ、と思うところがあった。だから、彼女たちの買い物に付き合うことにしたのだ。
夕方までショッピングは続き、その間ラムリーザは、二人に付き添っているだけになっていた。
そして、荷物は増える一方であった。
「えっと、やっぱり僕が荷物持ちになるってことかな? それに、支払いも僕がしていたような気がするのは、気のせいだよね?」
ラムリーザの問いに、リリスはくすっと笑って、先程と同じ答えを発した。
「頼りにしてるわ」
はぁ……、これから汽車に乗って帰るのになぁ……。