つまり、馬子にも衣装ってことですかな?
4月1日
「ラムリーザ様、今日もソニアはそちらですか?」
午前中、朝食を終えて自室でのんびりしていると、部屋の外からメイドのナンシーの声が聞こえた。
ソニアはすぐに「居ないよ」と答える。自分が声を出したら意味がないということを、相変わらず理解していない。
ラムリーザがドアを開けると、ナンシーは衣類一式を手に持って入ってきた。
「ソニア、あなたは最近ラムリーザ様の部屋にずっと居るような気がしますが?」
「そ、そんなことない! 今たまたま遊びに来ているだけっ! 今日は何の用なのよー?」
不自然なテンションの高さが怪しさを際立たせているが、ナンシーは追及するのは後回しにして要件を先に済ませるようにした様だ。持ってきた衣類は、ドレスの類の様に見える。
「ソニアの着るパーティドレスの仕立てが終わりましたので、一度試着してもらいましょう」
「パーティドレス? あたし、パーティに出てもいいの?」
ソニアはプレイしていたゲームを一旦中断して、衣類に怪訝な顔を向けた。昨日、この春から通う新しい学校の制服を試着した際に大変な思いをしたので、明らかにパーティドレスを警戒している。要するに、それだけやっかいな巨乳、いや爆乳ということである。それに、ソニアはこうした社交の場に出たことが無かった。ラムリーザの住む屋敷で生活しているとはいえ、所詮は執事とメイドの娘である庶民だ。
そんなことも事情にあり、ソニアはただ一言「やだ」と答えてそっぽを向く。そのままゲームを再開してしまった。
「ダメです。折角仕上がったのだから一度着てみないと。ほら、ラムリーザ様からも言ってやって下さいな」
「仕方ないな……」
頼み込まれてラムリーザは、絨毯の上にぺたりと座り込んでゲームをしているソニアを引っ張って起こし、両肩に手を置いて正面から顔を見ながら、「ソニアの着飾った姿が見てみたいな」と言った。
「むー、ラムがそう言うのなら」
ラムリーザに言われたら断ることができなくなり、ソニアはしぶしぶ試着することに応じた。
メイドのナンシーの手伝いもあって、着替えはスムーズに進んでいった。
だがソニアは、昨日試着してみた制服のブラウスも散々だったこともあり、どうせこの胸が邪魔で変になっちゃうんだと不貞腐れていた。
しかし、着替えが進んで行く中、ソニアは「あれ?」と思った。パーティドレスが違和感なく身体にフィットしているのだ。
「あ、普通に胸が入った……?」
「それは当然です。何のために身体計測をやったと思っているのですか?」
そのパーティドレスは体型に合わせて仕立てられたオーダーメイドの一品だった。そのおかげで無理の無い着こなしができたのだ。無論98cmの胸は、それなりの存在感を放っているのだが、ドレスはしっかりとその胸を覆っている。
「ラム、どう?」
昨日の投げやりなポーズではなく、うれしそうにくるりと回ってラムリーザに見せる。パーティドレスの裾がふわっと浮き上がった。
ドレスは、ソニアの要望で明るい緑色をしている。その要望の背景には、ソニアはラムリーザが緑色が好きだということを知っていて、仕立ててもらう際に色を要求したという背景があった。
「へ~、なるほど。それなりに着こなせば、見た目に関しては名家の令嬢もそうじゃない娘も関係無いんだね」
ソニアは美人というよりは可愛いタイプで、それでいて整った顔つきをしている。お淑やかというよりは、元気いっぱい、そして力強い感じの表情をしているが、ラムリーザはそういったところが好きだったりした。
これまでにも何度か名家の令嬢と会うことはあったのだが、ソニアに比べると物足りなさを感じていた。大人しい娘も優雅な娘も嫌いではなかったが、天真爛漫なソニアに比べたら霞んでしまうのだ。
そんなソニアの可愛さに満足していたが、ラムリーザはあえて茶化して「流石に普段より露出は減るんだね」と言ってみた。これまでの長い付き合いの間で、冗談を言い合える仲になっていたのだ。
無論そのことに気がついたソニアは、調子に乗って「それもそうね、お母さん、ミニのドレスとか無いの?」と聞くが、帰ってきた返事は「ありません」の一言だった。
「あ、そうだ!」
ソニアは何かに気がついたように、突然元気な声でメイドのナンシー、つまり母親に話しかけた。
「学校の制服も体型に合った形にオーダーメイドしてくれたら苦労しないのに。あと素足許可とか、ラムの力でなんとかならない?」
やはり先日の制服を試し着してみたことを気にしていたようだ。それに加えて靴下嫌いなところも付け加えてきた。
「オーダーメイドって、制服はブラウスだろ?」
「そうよ。あたしの胸でも普通に入るようなブラウス」
「何だろう? 乳袋でもつけるのかな?」
「何それ……」
「胸を入れるための袋をつけたら、ボタンもきちんと留まるだろう?」
「嫌……、なんか胡散臭い」
「まあいいや、僕は別にリアリティがどうとかそんな些細な事は気にしないからね」
ラムリーザはどうでもいい方向に進みかけた会話を終わらせることにした。そもそもブラウスと言った時点で、ソニアの大きな胸を収めきれる物がそうそう無いと思われる。無理に収めることができるようなサイズのものは、全体的に見て不恰好になるような気もしていた。
乳袋についても、イラストの描き方について話をした時に出てきたような気がするものであり、胸が大きすぎる場合でも見栄えが良くなるための物であるということしか知らなかったりするのだ。
「それはさておき、似合ってるよソニア」
「えへ、ありがとう。やったね!」
ソニアはうれしそうな顔をしてお礼を言いながらお辞儀をして見せると、その場にぺたりと座り込み、再びゲームを再開した。お嬢様のようにドレスを着込んだ姿と、テレビゲームの組み合わせが噛み合っていない。
だが、すぐにゲームを一旦停止して立ち上がって言った。
「やっぱりこれ脱ぐ。試着できたからいいでしょ?」
やはり座り込むにはドレスでは邪魔になったようだ。
「うん、よろしいですよ。ああ、それとこれ。昨日お願いしてきたハーフカップのブラもできていますよ」
「あ、それつける。なんか最近きつくなってたのよね」
そしてソニアは、パーティドレスを脱ぎ、下着も付け替えて普段着のだぼだぼニットとミニスカートに戻った。それに伴い、目立つ部分が胸から脚と変わっていく。そしてそのまま特に何も言わずに、ソニアはゲームのプレイに戻っていった。
メイドのナンシーは、「それでは失礼致します」と言って、パーティドレスを持って部屋から出て行った。
「なんだ? もうドレス飽きたのか?」
「やっぱりドレスよりミニスカートの方がいい。なんだか生地が脚にからみついてると、鬱陶しい」
「そうか、僕も今のソニアの方が見ていて面白いからそっちの方が良いよ」
「面白いって何よ~」
「いいっていいって」
そう言いながらラムリーザはソニアの隣に座り、今日もまた太ももに手を伸ばす。だぼだほニットは変だが、ミニスカートから伸びる健康的な足は大好きなのであった。
こうして再びのんびりとした一日が戻ってきた。二人の生活は、部屋が同じになっただけで、やっていることはそれぞれ一人だった時とほとんど変わらないこと。こうしてベタベタと引っ付き合う時間が増えたぐらいで、普段はラムリーザはリクライニングチェアで半分眠っているし、ソニアはずっとゲームをしているだけだった。
ソニアにとって初めての参加となる社交界のパーティは週末に行われることになっている。