思い出の地で二人は何を思う? ~前編~
8月12日――
一家団欒プラス二名の朝食を終えた後、ラムリーザとソニアは、ラムリーザの部屋に戻って、とくに変わったことなくダラダラと過ごしていた。
ソニアは、ゲーム機をポッターズ・ブラフの下宿先から持ってきていて遊んでいるが、相変わらず格闘ゲームで緑色の軍服キャラであるヴェガを使って、コンピュータ相手にハメ技ばっかり使って戦っている。だからラムリーザは対戦に応じることも無く、リクライニングチェアに横たわったまま外の景色を眺めていた。
「ちょっと待てよ……」
ラムリーザは、思うところがあって立ち上がり、ソニアの方へと近づいていく。
「なあにラム、対戦する?」
「お前がそのキャラ以外を使うのならやってもいいぞ……じゃなくて、折角帝都に戻ってきているんだし、久しぶりに出掛けないか?」
帰省してから一週間弱、二人はずっと屋敷の中に居た。外に出たといえば、庭を散歩するぐらいで、先日は野外でちょめちょめしたぐらいだ。これでは折角帰省したのに、下宿先に居るのと何も変わらない。
だから、ラムリーザはいつもと違うことをやろうと誘ったわけだ。
「ん、わかったー」
ソニアは素直に格闘ゲームを止めて立ち上がり、ラムリーザについて部屋を出て行った。
ラムリーザは、折角なのでソフィリータも連れて行こうと思い声をかけてみたが、ソフィリータは今日は友達のミーシャと約束があるということで、ご一緒できないと言った。
次にラムリアースの所に行って声をかけてみたが、こちらも婚約者のラキアが来ているということで、一緒に行くことはできないと言った。
「というかさ、それってソニアとデートだろ? 二人で行ってきたらいいじゃないか」
「ああ、デートになるのか。全くそんなつもり無かったよ」
「そうだろうな、これまで何度も二人ででかけていたしな。正直言って、お前らの関係って付き合うようになったことによる肉体関係以外、何も変わってないだろ?」
「そんなことはない。なんか付き合う前と比べて、ソニアが妙に嫉妬深くなった気がする。他の女の子が僕に近づいてきたら、妙に攻撃的になるし」
他の女の子とは、リリスやユコのことである。
「なるほどな、あいつはそういうタイプの女だったか」
「しかしデートかぁ……」
「今までの友達として歩くのではなく、恋人として歩くのを楽しんできたらいいさ」
そこまで話したところで、ラムリアースの部屋にラキアがやってきたので、ラムリーザはすぐに退散するのであった。
そういうわけで、ラムリーザとソニアは二人ででかけることになった。友達同士としてではなく、恋人同士として。それは、ほんの半年前とはまた違うものなのかもしれない。
繁華街には、ライブのある明日に行くことになっているので、今日は去年まで通っていた学校の近くにある公園に来ていた。遊具と広場のある公園で、小さい頃等はよくここに来て遊んだものだ。
「わぁ、遊具残ってるんだね。滑り台だ!」
ソニアは、懐かしそうに声を上げると滑り台に登っていった。公園は手入れが行き届いているようで、遊具は錆びたりペンキが剥げたりはしていない。
その光景を見て、ラムリーザは八年ほど前の事を思い出していた。小学生になったばかりの頃だ。あの頃は、下から見上げてパンツ見て喜んでいたっけ。
ラムリーザは、そういったことを思い出して、僕もガキだったな――などと思い、ふふっと軽く笑った。もっとも、今の方がもっと怪しげなことをやっている自覚もあるから不思議なものだ。
「ラムも登っておいでよー」
「いや、僕は下から見ているだけでいい……」
「じゃあ、滑るから見ててね」
うん、あの頃と変わっていないね。今もソニアは、いつものきわどい丈のスカートだ。見上げればいくらでも下着を拝むことはできる。
だが、ラムリーザは正直ソニアの下着は少々見飽きていた。なにしろ今の同居生活だと、ソニアが下着のままで部屋をうろつくのは日常茶飯事となっていたのだから。
チラリズムならともかく、こうあからさまなのは……、とかそんなことはどうでもいいね。
ラムリーザは、滑り台に背を向けて空を眺めた。西から飛んできた赤い鳥が、ほっちょんほっちょん鳴きながら公園の木々の中に消えていった。
「あれ? ちょっと、何これ?!」
ラムリーザがソニアから視線を外していたら、突然ソニアは慌てたような声を上げた。
振り返ると、ソニアは滑り台を滑り始めた所で止まっている。どうやら尻が挟まってしまったようだ。
「ラム、動かないよ……。ふえぇ、どうしよう……」
「しょうがない奴だな」
ラムリーザはソニアに近づき、左手を背中に添えて支え、右手をソニアのふとももの間に潜り込ませて股の間に突っ込んだ。
「ちょっ、ラムっ、どっ、どこを?!」
慌ててラムリーザの右手を掴むソニアをそのままに、ラムリーザは腕に力をこめて持ち上げた。スポッといった感じに、ソニアの尻は滑り台から抜け出すことができたのだった。
「もう昔のように小さくないんだから、自分の大きさを知ろうね」
「むー……、太ったんじゃないよぉ。ウエスト57cmだよ?」
「挟まったのはお腹じゃなくてお尻だろ? お尻の大きさは?」
「忘れたよ……、もういい!」
ソニアは滑り台を滑るのを諦めて飛び降りると、今度はブランコに向かっていった。
ブランコか。ラムリーザとソニアは、小さい頃にどっちが大きくこげるか勝負したものだ。
今日は、ソニアがこいでいるのをラムリーザは正面から眺めているだけだ。大きく揺れるたびに、胸も揺れたりスカートがまくり上がってパンツが……ね。
「ラム、見てるだけなんだったら二人で乗ろうよ」
「二人乗り?」
「あたしの足の間に座ってちょうだい」
ラムリーザは言われるままに、向かい合うようにして立っているソニアの足の間に座ってみた。そこで、なんだか既視感を覚える。最近どこかでこの光景見たような気がする。
だがしかし、ソニア以外とブランコで遊ぶなんてありえない。それならば、一体どこで?
「この既視感は一体……」
「あれだね。あのゲーム、ドキドキパラダイスで後輩の娘と遊んだイベントだね」
「しまった、それか!」
ラムリーザは、またしてもソニアのゲームイベント再現に付き合わされてしまった。その場から逃げ出そうとしたが、すでにこぎ始めていて降りることができない。飛び降りようにも、前にはソニアが立っているし、後ろに飛び降りるのはうまくできそうもなかった。
「ソニア、パンツ丸見えだぞ」
ゲームとは違う部分は、ソニアの短すぎるスカートから覗く下着があらわになっている点だ。ラムリーザはそこを指摘して、ソニアの羞恥心を煽ってみた。
「ラムはパンツ好きだから見えるの! 心が清い人なら見えない!」
「なんやそれ!」
だめだった。ソニアは部屋を下着姿でうろつくにも飽き足らず、時には下着すら付けずに現れたこともあった。今更ラムリーザに対する遠慮や羞恥心など、持ち合わせていないだろう。
そういうわけで、ソニアが飽きるまで、二人はブランコに揺られているのだった。
ブランコから解放されたラムリーザは、次にシーソーに付き合わされた。
ソニアはブランコから降りると、ラムリーザの手を引っ張ってシーソーの傍まで連れて行った。
「次はこれ、ぎっこんばったんしよう。ラムはそっちに座って」
最初はそれぞれ同じ位置に座ったが、それではラムリーザの方が重過ぎる。シーソーには座る部分が前後についていて、二人が縦に並んで座って遊べるようになっている。
しかしラムリーザが前に座ってもまだ重く、その手すりのようなものにもたれるように座ることで、やっとバランスがよくなった感じだ。
それでも少しばかりラムリーザが重いので、ソニアは毎回思いっきり跳ね上げられてしまう。その度に、大きな胸のバウンドが凄まじい。
すぐにソニアは、顔をしかめて胸を押さえ始めた。揺れすぎて痛いのだろう。
「どうした? しんどいなら止めるか?」
ラムリーザは、あえて胸のことには触れずに聞いてみる。
「う、ううん、平気!」
「そうか、ならば――」
ラムリーザは、下がるときに後方に体重を掛けてさらに勢いをつけてみた。その度にソニアの身体は10cm程浮き上がり、「ひゃうんっ」とか悲鳴を上げることになるのだ。
そういえばシーソーと言えば、昔よくソニアは一人遊びしていた。シーソーの中央部に立って乗り、バランスをとりながら左右の足に力を入れてバタバタ上げ下げしていたものだ。
シーソーの端には、地面に当たったときの衝撃を和らげるクッション代わりになっているらせん状のばねが付いている。その遊びを続けていると、地面の砂がばねの形にお椀状に盛り上がるのだ。
ラムリーザは、その盛り上がった砂が面白くて触りに行こうとした時、シーソーを頭に激しくぶつけられたことがあった。あの頃はまだ身体も大きくなく、頑丈ではなかったので相当痛かったな……とか思い出していた。
そんなことはさて置き、ラムリーザはソニアを跳ね上げる度に笑みを浮かべながら見つめていた。八年前はさすがのソニアも胸はつるぺただったな、などと思いながらラムリーザは激しくシーソーを叩きつけるのだった。
「ふえぇ……、もうやだ!」
とうとうソニアが泣き言を言い出したので、ラムリーザはシーソーの動きを止めて言った。
「泣くぐらいならもっと早くから止めたいと言えばよかったのに」
「胸のせいで止めることになるなんて腹立たしいもん!」
「自分の身体の特徴ぐらい理解してろよ、まったく……」
こんな感じで、ソニアはどこに行ってもソニアだった。
公園の木陰のベンチで涼んでいる人が居たが、その人たちもソニアを不思議そうな目で見ているのだ。