TRPG第六弾「指輪に込められた願い 完結編」 第二話
6月6日――
久しぶりに開催されたテーブルトークゲーム。
サーカス団の指輪についての話は、三月にゲームマスターユコによって進められていたが、転校騒動などがあって忘れていたところを思い出して再開したものだった。
下水道に流れ落ちたはずの指輪は、ロケーションで場所を調べてみたところ、下水道ではない別の場所にその反応が確認されたのであった。
「とりあえず行ってみることにしよう。雑談してないでゲームするぞ」
ラムリーザは、自分も雑談していたことは棚に上げて皆を促した。
「そうですね、地図上ではよくわかりませんですし」
ロザリーンと続き、良識派二人に話を進められて、ソニアとリリスは口論を止める。
「下水道の地図だけでなく、国の地図も確認しましょうと言ってますよ」
ユコはそう促すが、国の地図とは何だろうか?
「国ってどこの?」
「ここの」
「エルドラード帝国?」
「いえ、ゲームの中での国ですの」
「それはどこ?」
「……クルクルランドですわ」
ユコは、たった今思いついたような名前をつけてしまった。まぁゲームの中の世界、国の名前などさほど重要ではないだろう。次回に国の名前を尋ねると、おそらく別の名前になっているだろう。
「で、そのクルクルランドの地図は誰が持っているのかな?」
ラムリーザの問いにユコは「ラムリーザ様が持っていますの」と答えた。ご都合主義全開だが、ゲームが停滞するよりは良いだろうと考えて、ラムリーザは気にせずに話を進めた。
「こんな事もあろうかと、クルクルランドの地図を持ってきていた!」
なんだよクルクルランドって、いつも回っているのか? などと思いながら。
「ではノクティルカは、ラムリーザ様から地図を借りて、下水地図と照らし合わせました。え~っと、この辺を通って……、などと言っていますの」
「この辺は?」
「――なんだこりゃ? カタコンベ? と驚いているようです」
「カタコンベって何? 息吸いボンベみたいなもの?」
ソニアはよく分かっていないようだ。息吸いボンベという物も、いまいちよく分からない品物ではあるが。
「じゃあ知力判定してみましょう。知力+セージ技能でダイスロールしてくださいな」
「あたしセージ技能無いよ」
「じゃあ平目で」
そういうわけで、皆コロコロとダイスを転がした。その結果は?
「最高10ですの? そうですと、建国以前からある地下墓地ってことぐらいしかわからないですわね」
「地下墓地かぁ」
「あまり近寄りたくないですね」
とロザリーンは少し顔をしかめ、ソニアはなんだかわくわくしている。ラムリーザとリリスはあまり気にしていないようで、リゲルは――
「不思議なことに墓地から死体が消え、残されていたものは――」
「いや、もう死霊伝説はいいから」
すかさずラムリーザは突っ込みを入れて、リゲルのホラー談義をストップさせた。
「ではロザリーンは治安を守る人だから知ってるけど、そのカタコンベはもう盗掘されきって何もないけど、柄の悪い奴らの溜まり場ってことは知ってますの」
「墓地にはやく行ってみようよ」
なんか知らんけど、ソニアはわくわくしている。ゾンビは苦手じゃなかったのか?
「あそこですか。奴等が拾って持っているのかもしれませんね」
ロザリーンは、ダイスロールの結果に従った台詞を言った。
「奴らってなぁに?」
ソニアはロザリーンに尋ねるが、ロザリーンはゲームマスターの意に沿った台詞を述べただけなので、設定までは知らない。だがユコがそれ以上語ろうとしないので、適当に設定を作ってみた。
「そのカタコンベは、いまはぐれ者のたまり場になっているのですよ」
「はぐれ者って息吸いボンベのこと?」
「なるほど、その者たちが持っている可能性が高いってことだな」
ソニアの無用な質問に被せるようにラムリーザは発言してみた。ソニアの中では、息吸いボンベとは道具ではなくて人の名前だったようだ。
「カタコンベ周辺に、何か文字は書かれていますか?」
ロザリーンの質問にユコは「聖人、ここに眠る」と答えた。
「それは一部で全貌は、巨乳星から来たおっぱい星人、ここに眠ると書いて――」
「聖人か、気になるな!」
リリスの呟きをかき消すように、ラムリーザは大声で台詞を述べた。
「聖人ってなぁに?」
ソニアの問いに、ユコは「地元の民話くらい皆知っているということで、聖人ってのは、大昔この土地にいた悪い悪魔を追い払った英雄ってことを思い出したことにしますわ」と答えた。ソニアの質問にいちいち律儀に答えていたら話は進まないのだが、この設定はある程度重要だったようだ。
「だから、爆乳星から来た――」
「まぁ、行ってみようじゃないか! ココにいてもどうしようもないからな!」
場を乱さないように必死になるラムリーザを、リゲルはニヤニヤしながら見つめていた。
「ノクティルカは、あぁ、もう行くのかい? じゃあ、これと同じ型の指輪を見つけたらよろしく、と言ってキュリアの指輪によく似た金の指輪をロザリーンに渡しました」
「今度は落とすなよ」
「いえ、それはあなたの考えたシナリオですから」
数ヶ月前の話を忘れかけていたラムリーザと、覚えていたロザリーンの違い。
「もちろん、その指輪には文字が刻まれてて、リンケージリングの片割れだってことは容易に想像つくよね?」
ユコはそう言うが、ソニアは「想像できない」と答える。無論ゲームマスターはその発言をスルーして「じゃあ、ノクティルカは一行を見送るよ」と話を進めた。
「想像力の欠如はおっぱ――」
「必ず見つけて来ます!」
執拗なリリスのソニア攻めを事前に防ぐラムリーザ。おっぱいと想像力に何の関係があるというのだ? いや、おっぱいを想像するのは――、まあいい。
「ああそうですわ、去り際にノクティルカは『ただ……。もし、そのカタコンベに「レスター・アレサンドロ」って僧侶の墓があったら……、おいてきてくれる?』と依頼してきましたの」
「レスター・アレサンドロって誰かしら?」
「行くぞ――」
リリスが何か言いかけたので、すかさずラムリーザは台詞を被せようとしたが、まともな質問だったのですぐに口をつぐんだ。リゲルはもうニヤニヤが止まらないといった感じだ。
「金の指輪は、キュリアの元恋人『レスター・アレサンドロ』のものだと説明してきて、さらに盗掘されたのをやっとの思いで取り返したものだからと言っていますわ。さて、レスター氏の正体を知りたい人は、レベルと知力でダイスロールしてくださいな。ああ、プリーストは補正ボーナス+1ですの」
そこで一同は、再びダイスを転がした。ダイスを転がすときだけソニアとリリスは楽しそうだ。まぁ戦闘がないと二人はあまり表に出てこない。
「さすがプリーストですの。ロザリーンはこの土地の悪魔を封じた聖人の名前こそ『レスター・アレサンドロ』って事を知っていますの。リゲルさんはギリギリのどまで出かかっている程度で、他の人はそんな偉い人が居たなぁとぼんやり思い出せる程度ですね」
なんだか今日はロザリーンが活躍している。
「ふーん、あの人が元恋人なんですね。と他の皆に説明してあげます」
ロザリーンは、再びゲームマスターの意に沿った台詞を口にして見せた。
「ラムリーザの元恋人はソニア、今の恋人はカノコ」
「しゅっぱーーつ!!」
ラムリーザのリリスに対する被せはすこし出遅れた。
「リリスは未来永劫恋人が居ない!」
「その指輪の持ち主はそんなに凄いんだね! 墓荒らしに遭ってないといいね!」
ラムリーザは、ソニアを押さえ込みながら話を元に戻そうとする。
「さて、カタコンベについたのはいいんだけど、その入り口に二人の男が立っていますわ」
「こんにちはーっ!」
「こら、何故そこで唐突に話しかける!」
ラムリーザは、先ほどからソニアを押さえてばかりだ。
「あなたは誰かしら?」
そうしているうちに、リリスもソニアに引き続いて前に出たようだ。用心もクソもあったものではない。これまでずっと暇だったので、明らかにゲームを破壊しようとしている二人だ。
「えっ、話しかけるんですの? あからさまに人相のわっる~いオッサン二人組みですのよ?」
ユコも突然の二人の行動に慌てふためく。
「まずは聞き耳立てて二人の会話を盗み聞きする場面だろ?」
「顔が怖いから悪者。戦闘開始よ」
リリスはいつもの怪しげな笑みを浮かべて、戦う気満々なようだ。
「初めまして、ソニアでーすっ!」
一方ソニアは、嬉しそうに話しかける風を装っている。
「……えーと、それじゃあこうしますわ。ラムリーザ様が聞き耳を立てると、男Aがまったく見張りもたるいぜ、なぁジェットと言います」
「見張りはジェットさんだ!」
何がやりたいのか分からないソニア。いや、ゲームの妨害だということは分かるのだが。
「次に、男Bが無愛想にあぁ……と言ったので、男Aが何だよ、話し甲斐のないやつだなぁとか言っているところで、ソニアがこんにちはと言って、リリスがあなたは誰かしら? と言ったことにします。気がついたら、ラムリーザ様の元に二人は居ない、と」
「なんか無茶な展開だな……」
ラムリーザは、無茶苦茶嬉しそうにしているソニアと、いつもの微笑を浮かべているリリスを見つめてそうつぶやいた。
「成り行きを見守りましょう……」
ロザリーンもそうつぶやくのが精一杯のようだった。
「なんだなんだ!? このガキャァ? あっち行けと男Aが言いますの。ああ、アイボリーという名前にしましょう」
「アイボリーさんだーっ!」
「やかましいですの! この風船おっぱいお化け! ……とアイボリーが言ってきました。男Bのジェットは、女……、帰れ。俺たち、おまえ用ない、などと言ってますの」
ユコは執拗なソニアの嫌がらせに一瞬怒りかけたが、すぐに冷静を取り戻して話を進めた。
「ずいぶんと片言ですね」
ロザリーンはラムリーザにそうつぶやき、ラムリーザはうんと頷いた。
「私たちは指輪を探しに来たの、知ってる?」
リリスもゲームを妨害するつもりなのだろうが、今回の発言はそれなりに物語に沿った内容だった。
「アイボリーは、あぁん、指輪だぁ? そんなもなぁ、ピンからキリまで持ってるぜ? だからどうしたってんだ? いいかげんにしねぇとオシオキだぞ? などと言ってますの」
「指輪頂戴!」
ソニアはリリスの話に乗っかって指輪を求めるが、元々話を進める気のないリリスは、また余計なことを言い始めた。
「ふっ、蛮族風情が。そこの蛮族生まれの奇乳と仲良くしたらいいのに」
二人の男を罵っているのか、ソニアに喧嘩をしかけているのか。恐らく両者、いやリリスのことだから後者である可能性も高い。
「何よ、悪党生まれのべらぼうめ!」
案の定、あっさりと牙をむくソニア。簡単に仲間割れだ。
「アイボリーとジェットは、ソニアを捕まえてレイプし始めた」
「なっ、なっ――」
リリスのとんでもない宣言に、ソニアは口をぱくぱくさせてそれ以上何も言えない。
「そんな展開はありません! オレは蛮族じゃねぇ! 頂戴だぁ? それなりのモンは持ってるんだろうな? あん? とアイボリーは怒鳴りつけてきますの」
ユコはなんとかゲームを進行させようとするが、リリスはさらに煽ってくる。
「私たちはそこを通るので、退きなさい――」
あ、今度はゲームを進行させる内容だった――
「――邪魔だわ、そこの足元が見えない原因のように」
――と思ったが、しっかりとソニアを煽ることは忘れない。
「風船はもういいですの! ジェットの方が、おんな、俺たち一族バカにした……ユ・ル・サ・ン! などと言ってリリスに突進してきましたわ」
「あら、怒りを表現するくらいの脳はあったみたいね、まぁそっちのみどりんぼも怒るくらいならできるけど、くすっ」
みどりんぼって何だろう? ソニアの髪の色のことだろうか? おそらくそうだろう。
「いや、煽ってないでどうするんですの?」
「避けるわ」
「では回避力でダイスロールしてください」
そう言われてリリスはダイスを転がした。ソニアも真似て転がすが、今回は彼女は関係ない。
ユコもダイスを転がして、「ああ、それなら回避できますね」と言った。
「えーと、ジェットはだだだっとあさっての方向に走り去ってまた振り向きました」
「ああユコ、敵の二人を眠らせる――魔法はなんだっけ?」
ラムリーザはリゲルの方を振り返った。それに対してリゲルは短く答えた。
「スリープクラウド」
「――をかけます」
ラムリーザは、リゲルの答えをそのまま利用して宣言した。
「魔法かける? じゃあ、魔力でダイスロールしてみてくださいな。その一方で、ジェットは再びリリスに向かって、コロス……、などとつぶやきながら突進してきましたの。リリスもまた避けるなら回避でダイスロールを」
ラムリーザとリリスは、ユコに言われるままにダイスを転がす。誰かがダイスを転がすと、ソニアも一緒になって転がす。これでなんとなくゲームらしくなってきた。
「うーん、今度はギリギリで避けていますね」
リリスは先ほどより出た目が低かったのでギリギリなのだそうだ。
「わざと紙一重でよけて相手にプレッシャーをあたえたのよ。不必要に大きな膨らみがあったら紙一重なんて無理だけどね、くすっ」
何をやってもリリスはソニアを煽ることは忘れない。
「膨らみはいいから! ええと、抵抗できるかな?」
ユコはそう言いながら二度ダイスで魔法の抵抗ロールを行った。
「その隙に間合いをつめておきましょう」
ロザリーンも仕方なく場面に登場した。このままだとリリスが一人暴走するだけだ。
「あ、ジェットは眠ったけどアイボリーは抵抗しましたね。ではこうしましょうか、ロザリーンが出てきたところでアイボリーは、こいつは上玉だと言いながら詰め寄ってきたけど、スリープクラウドが飛んできて、おわち! んなろ、こしゃくな真似を~! ってなったことにしましょう」
「なにそれ、ロザリーンは上玉だけど私は違うのかしら?」
関係ないところでリリスは不満げだ。
「だってロザリーンは貴族のお嬢様だもん。悪党のリリスとは違う」
「黙れ蛮族おっぱい」
「吸血狼男!」
やはりソニアとリリスの小競り合いは続く。勝手に狼男、つまり男にされてしまったリリスであった。
「こっちは指輪持っていますか? 眠ったほうのポケットを探ります」
ロザリーンの行動宣言に対してユコは「ジェットのポケットに指輪はないですの」と答えた。
「では、探し物したいんで通らせてもらいたいんですけど……って無理ですね、もう臨戦態勢ですし」
「ソニアとリリスがおもいっきり神経逆撫でしましたからね」
「あたししてない、リリスだけが勝手にやった!」
「責任の押し付け合いをしていないで、もう仕方がないから攻撃しなさい」
ラムリーザに諭されて、ソニアは「じゃあアイボリーに攻撃する」と宣言した。