TRPG第七弾「髑髏仮面の秘密」 後編
7月11日――
学校部室にて――
久しぶりに、テーブルトークゲームプレイヤーのみが集まったということで、今日はゲームに興じていた。
ラムリーザがゲームマスターをする物語は順調に進み、怪しげな髑髏仮面をつけたゲーム内のラムリーザが暴れているところを皆で取り押さえたところだ。
「リゲル早く仮面をクロスボウで撃って」
ソニアはリゲルにそう急かすが、リゲルはなかなか次の行動を宣言しない。
「あれ? 撃たないのか?」
ゲームマスターのラムリーザも、少し間が開いたのでそう尋ねた。
「いや、ふと思ったんだが、そのままお前らに近づく」
「なんでよ! はやく仮面を撃ってよ!」
「お前ら四人がかりで押さえているんだろ?」
「ええ、そうですの」
「それならそのまま普通に仮面を奪う、それで済むじゃないか」
「…………」
リゲルの理にかなった行動により、その場はシンと静まり返ってしまった。
確かに四人がかりでしがみついて動きを封じているのだ。わざわざ誤爆の危険性があるクロスボウを撃つより、そのまま近づいて取ってしまった方が早い。
「で、どうなる?」
だれも発言しようとしないので、リゲルはラムリーザに尋ねた。そこでラムリーザは、ハッと気がついた。
「仮面が取れ素顔になり。ラムリーザは、そのまま動きません」
「やっぱり仮面が悪かったの?」
「実力も無いのに強そうに見せかけるためにつけるからそうなるのだ」
なんだかリゲルは偉そうに言ってのけるのだった。
「へぇ~、これがラムリーザの素顔なのね」
リリスは今まで素顔を知らなかった風に発言する。
「素顔から光が放出されて、ドブ川を魚の泳ぐ川に変えたり、鋼鉄を飴のように溶かしたりするの?」
ソニアの意図の分からない質問に、ラムリーザは「そんなものは、ない」と言い放った。
「あっ、目玉が三つありますの!」
ユコの冗談に、今度は「三つも無い、一つだ」と言い放つ。いい間違えたと思ったが、後の祭りだ。
「ラムリーザはサイクロプスだったのね、つまりソニアの彼氏はサイクロプス」
リリスの都合の良いように、ラムリーザの彼氏がカノコだったりソニアになったりする。
「サイクロプスなんか雑魚! あたしとラムはギガンテス!」
「それじゃあ私はアトラスで」
「――そんな話をしているところに、今更ながら憲兵隊が駆けつけてきた」
ラムリーザ風のスルーが発動したところで、物語は再び動き出した。
「待って、今のうちにサニティをかけておきたいのですが」
ロザリーンの宣言に、ラムリーザは「ラムリーザは気絶しているけど効果あるかな?」と答えた。
「仮面を外したら意識を失った。ひょっとして仮面が無ければ生きられない身体になったのか?」
リゲルの問いに、「そんな設定は、ない」と答える。
「アウウ……」
「黙れ。憲兵隊は、一体、なにがあったのですか? と尋ねてきます」
ソニアの意図がわからないうめき声を一喝して、話を先に進めた。
「カノコの婚約者が暴れていたようだけど、沈静化したわ、くすっ」
「だまれクリボーの婚約者!」
「憲兵隊は、ここでは何なんで、みなさん本部に」
「本部ですか?」
「うん、憲兵隊本部」
「憲兵総監はロリコン?」
「そんな設定は、ない! 場所移動ね!」
ラムリーザは話が脱線しないように、強引にどんどん話を進めていった。ここで、ユコのストーリーはいつも強引だな、と思っていた理由がラムリーザにもわかった。こいつら要らんことを言い過ぎる。
「うっ、憲兵隊本部……、なの?」
何故かソニアはおびえる。何か悪いことでもやっているのか?
「市民の皆さん、ご迷惑をお掛けしてすみません、竜の神のご加護と共にあらんことを――。こんなところですか?」
「いい感じだね」
妙な空気になりかけたところを、ロザリーンの機転で再びファンタジーの世界に戻った。
「でもなんで暴れていたんだろう?」
「この仮面に何かわけがありそうだね」
「ソニアあなたかぶってみなさいよ」
「なんでよ!」
「こほん、それでは、我々はラムリーザさんを運びますので、この部屋で少しお待ちください――ってところだね。しかしなんだ、自分のキャラを扱うのも妙な話だなぁ」
「クリボーにしたらよかったのに。そしたらあたしが仮面クリボーを簡単に始末して、リリスを未亡人に仕立て上げてやったのに」
「はい、ソニアとリリスとクリボーの三角関係の恋の行方は今度語るとして、みなさんがそれぞれの時間を過ごしていると、扉が開きました」
「クリボーが出てきたの?」
「しつこい!」
ラムリーザの少しきつめの一喝で、ソニアは首をすくめる。
「出てきたのは、いかにも研究者って雰囲気の人です」
「名前は?」
「特に重要ではないので、クルミワリという名前にしておこうかな」
「何よその胡桃割りみたいな名前」
「いや、そのまんまですの」
「でもラムは胡桃割りなんて要らないじゃないのよ」
ソニアとユコが何か言っているが、気にせずに話を進める。
「その研究者は、彼は一体どうしたんだ? 一体何をしたら、あんな状態になるのかが、大変興味がそそられる、と言ってきました」
「仮面被ってみたらわかる……でいいのかな?」
あまり確信が無いので、ロザリーンもはっきりとは宣言できない。
「彼の体内の精霊が、異常に暴れ回っていたぞ、と教えてくれました」
「狂気の精霊ですか、センスオーラすればよかったですの」
シャーマン技能を所持しているユコは、チョッと舌を鳴らす。
「とりあえず仮面を渡して調べてもらいましょう」
ロザリーンの提案で、仮面を持っていることになっていたリゲルは、研究者クルミワリに髑髏仮面を手渡した。
「仮面を外したら静かになったけど……。で、今も体内の精霊は暴れまわっているのです?」
「えっと、博士は今も多分な、と答えた」
「博士? 研究者はどこいったんですの?」
「博士が研究者ね」
ゲームマスターで話を作るのも難しいな、などとラムリーザは考え始めていた。物語の流れは作ってきたけど、細かい設定はあまり考えないでいた。だからクルミワリと言う名前も即興だし、博士と研究者が混同してしまっている。
「とりあえず、仮面は調べておくと言って、クルミワリは部屋の奥へと消えていった。ということで、結果の分かる翌日まで飛ぶけど、何かやっておくことある?」
ラムリーザは、一応自由行動について尋ねてみた。どうせソニアとリリスは要らんことしか言わないのは目に見えていたが。
「ラムリーザが寝ている部屋に行くわ」
リリスは早速夜這いを宣言した。そこまでは想定内だったので、あっさりと対処する。
「憲兵隊本部の医務室で寝ていて、入り口の前には警護の者が立っています」
「あらお勤めご苦労様。私はラムリーザの妻のリリス、旦那様に会わせて頂けないかしら?」
「警備員はダメですの一点張りです」
「ちょっと待って! なんでリリスが妻なのよ!」
「そして夜が空けた!」
ソニアが騒ぎ出したところで、場面は一転した。何のための自由時間だったのかさっぱり分からない。
「ちっ、私とラムリーザの甘い夜について語ってあげようと思ったのに」
「リリスとクリボーの蜜月が見たい」
「こほん、丁度その時扉がひらいて、博士が入ってきます」
「出た、マッドサイエンティスト」
「マッドちゃうわ。フンッ、結構来てるなと言ってます。それで何から聞きたい?」
「何からって、仮面を調べていたのではないか?」
リゲルは細かい突っ込みを入れる。
「血液型は何ですの?」
何故かユコは、関係ないことを聞いてくる。
「L型だよ」
「なんですのそれは!」
ラムリーザは関係ないことなので適当に答えておいた。しかし、適当にLと言ったのがまずかった。
「ソニアのおっぱいはL型ね、くすっ」
「仮面を調べていたところ、中に魔法の掛かった石が発見されました、と研究者は言った!」
ラムリーザは、口論が発生する前に物語を進めた。しかしそれを利用してソニアは反撃をしてくる。
「石の入った仮面を被ったら吸血鬼になる。リリスが生き証人!」
「魔法ですか?」
物語の進行と、口論の進行が折り重なっている。
「魔法のかかった石、その石がラムリーザ様の意志をおかしくしていたんですの?」
「博士は、効果の程を調べた結果、どうもあの仮面は体内の精霊を調整して性格矯正の力があるみたいです、と言っています」
「リリスの性格を矯正してもらって、根暗吸血鬼じゃなくしてもらったらいいのに」
「髑髏仮面をソニアのおっぱいに被せて、正常な大きさに矯正してもらいなさいよ」
ソニアとリリスはいつもどおり、物語の内容はそっちのけでお互いを煽ってばかりになってしまった。
「で、お前はなんで性格矯正が必要だったのだ?」
「ん? 僕はそんなの要らないよ」
「いや、性格矯正の力を持った石付きの髑髏仮面を被っていたのはお前だろ?」
「ああ、そうなるか」
ラムリーザの物語、設定はいまいち煮詰められていないようだ。多少の行き当たりばったり感がある。
「普段のラムリーザは偽りなのよ。私に興味があるのに、かわいそうだから無理にソニアと付き合ってあげているのよ」
「何よ! リリスと付き合ったらラムがかわいそう!」
「まぁ何か別の意図を持って使ったのだろうが、副作用が出てしまったということだな」
口論をする二人を他所に、リゲルは腕組みをして頷く。
「石の効果をもっと調べたければ、セージ技能と知力でロールしてみよう」
ころころとダイスを転がす一同。ただし前衛二人組みはセージ技能を所持していない。
「その結果だと、ロザリーンは石自体は珍しいものではないが、かかってる魔法が特殊な感じと気がつくね」
「特殊な魔法ですか?」
「あと、この状態を抑えるには、沈黙の石というものがあれば効果があると気がつきます」
「沈黙の石……。ではそのことを皆さんに伝えます」
ロザリーンの的確な行動で、物語は滞りなく進む。しかし――
「その石ならソニアに使いなさいよ。うるさくて仕方ないし」
「リリスの嫌味しか言わない口に押し込んだら、世の中平和!」
何か物語が進展するたびに、その内容をネタにお互いを煽りだしてしまう二人。
「で、ラムリーザ様の状態はどうなんですの?」
「また暴れ出されてはかなわんから、牢に入れている」
「それは酷い……」
「まぁ牢屋というか、安置所というか、隔離施設ね」
「それなら仕方ないわ。で、その沈黙の石はどこにあるんですの? それよりも、沈黙の石の効果は何ですの?」
「えーと、単に精霊たちを落ちつかせるだけの石だね。あと、石のことならドワーフに聞けばいいと博士は言っています」
相変わらず研究者か博士が安定していない。
「暴れまわっている精霊を鎮めることができれば、ラムリーザさんは助かるのですね」
「それで、そのドワーフさんはどこに居るんですの?」
「ドワーフなら地底に住んでいるね。そして、町外れにドワーフが住んでいるという洞穴を知っていたことにしましょう」
そこはご都合主義で町では常識ということにしておく。ドワーフ探しまでやろうという物が足りは、ラムリーザには思いつかなかったようだ。
「リリスは地底人だから目が退化しているのよ」
「物は進化すると小型化するものよ。昔の携帯端末はすごく大きかったけど、今は片手で扱えるサイズになっているからね。だからソニアのおっぱいは進化していない、旧態依然の大きいだけの代物」
「何よ! 大は小をかねる! ちっぱいは進化の途中! 動物は進化して大きくなるものなの!」
「――などと雑談をしている人も居るが、これからどうしますか? ドワーフの洞穴に向かいますか?」
ラムリーザは、うるさい二人は置いてきぼりにして話を進めた。どうせ戦闘でしか役に立たない二人だ、謎解き場面では放置していても問題ない。
「それしかないですわね。ソーサラー抜きで出かけるのも残念ですが」
「そして研究者は、探しにいくなら5~6個くらい取ってこい、と言ってきました」
「そんなに必要なのですか?」
「研究対象に使うそうです。もちろん報酬も出ますよ」
「行く!」
報酬と言う言葉を聞いて、ソニアはリリスとの口論を中断して乗りかかった。ただし、依頼内容は聞いていないだろう。
「それでは一同は町外れに――」
ラムリーザが言いかけた時、下校の時間を告げる校内放送が流れた。どうやら今回の物語は、一旦ここまでのようだ。
「ああもう、いよいよ冒険って時に。あなたたち二人が口論ばかりして邪魔をするから物語の進展が滞るんですの!」
「リリスが悪い」
「ソニアが悪い」
なんだかよくわからないが、口論にユコまで参戦してしまった。
ラムリーザは物語の進行度をシナリオシートに記録して、「それじゃあ冒険の続きはまた今度の機会にね」と話を締めくくった。まぁ場面の切り替わり場所だったので、切るには丁度良い場所だっただろう。
そんなわけで、ラムリーザの初ゲームマスターでのテーブルトークゲームは一旦終了した。
初めてにしてはまあまあできたかな、ラムリーザはそう思うのだった。校内放送の音楽がなっている中、この次に開催できるのはいつだろうか? と考える。