島でのキャンプ一日目
7月18日――
海賊の親分、もとい、副管理人メナードの案内で、マトゥール島の港へと船は進んでいった。
島からやってきた二隻のうち、現在同行しているのは一隻のみ。ラムリーザたちと海賊ごっこをやった方の船は、現在後始末中だった。海上に漂う砲弾、もとい、ゴム鞠などの回収。海は奇麗にしなければならない。
昼食までにはまだしばらく時間があり、それまでは自由時間となった。
ソニアは「海だー」などと叫びながら、砂浜を走り抜けて海へと飛び込んでいった。それにミーシャが続き、その後リリス、ユコ、ロザリーン、ソフィリータも後に続いていった。昨日も沖で泳いだばかりなのに、ソニアはまだ海が珍しくてはしゃいでいるらしい。
ラムリーザはマックスウェルと並んで、砂浜に横たわってのんびりとしている。特別気があっているわけでもなく、会話が弾んでいるわけでもない。どちらかと言えばのんびり屋の二人、一人で居るよりは二人というわけでもないが、こうしてぼんやりと過ごすのだった。
リゲルは島にやってきても釣りの準備をまた始めている。本気で釣りが好きなようだ。そこにユグドラシルが参加しようとしている。
こうした普段とは違う組み合わせで過ごすのも、キャンプならではの出来事だ。
一方ジャンは、リリス目当てで女性陣に混ざりこんで海で遊んでいる。
しかしレフトールの姿が無い、いったいどこに行ってしまったのだろうか?
昼前、そろそろ昼食かな? という時間になった頃、海岸脇の森からラムリアースとレフトールが現れた。二人とも、長さ80cm、太さ10cmぐらいの角材を何本か運んでいる。ラムリーザは、立ち上がるとラムリアースの傍へと向かった。
「何その角材、どうするの?」
「どっかの夜でキャンプファイヤーをやるのは定番だろ? その準備を先に済ませとおこうかなってね」
ラムリアースは、角材を軽々と運びながら答えた。
「それで、レフトールは?」
「お前を傷つけたから――というのは冗談で、今回のメンバーの中で一番力がありそうに見えるから」
「ラム兄さん、俺よりラムさんの方が力強いっすよ?」
「ほう、そうか。さすがだな、お前も手伝え、昼食前に運べるだけ運んでおくぞ」
「わかったよ」
「こらぁマックスウェル! お前もこっちゃー来いっ」
レフトールに呼ばれて、ラムリーザと並んで寝ていたマックスウェルも、雑用に駆り出されてしまった。
こうしてラムリーザたちの島での生活は、重労働からの始まりとなってしまったのである。
一方波打ち際では、泳ぎ疲れたのか早くも休憩モードだ。ソニアたちは、膝まで水が来ていない場所に並んで座って雑談中。
「私たちの他に誰も居ませんの。これがプライベートビーチってのですね。お金持ちはやっぱり違うんですのね」
「えっへん」
ユコの感嘆に、何故か得意気になるソニア。
「ソニアは金持ちじゃないけどね、くすっ」
「うるさいっ、ラムの物はあたしの物、あたしの物はあたしの物」
今度はリリスにからかわれ、強引な持論を展開する。
「あなたのものじゃなくて、ソフィリータのものじゃないのかしら?」
「ソフィーちゃんはあたしの味方だよね?!」
ソニアは、ソフィリータを強引に味方に引き込もうとするが、「えっ、ええ……?」と戸惑わせてしまうだけだった。
そこに、近くの岩場を漁っていたミーシャが戻ってきた。
「ねぇ、ミーシャサザエ見つけたよ。リゲルおにーやんが教えてくれたけど、これ食べられるからみんなで集めようよ」
「やだ、それ苦い」
ソニアは、昨日海底から見つけてきたサザエを食べているが、あまりお気に召さなかったようだ。しかし、ソニア以外のメンバーは、次はサザエ探しをすることではなしを決めてしまった。仕方ないのでソニアも岩場に行ったり深い場所で素潜りをやりはじめた。
「ソニアはおっぱいがLで浮き袋になるから潜りにくい」
すぐにからかってくるリリス。それにソニアは反論するから収拾がつかなくなる。
「リリスは胸が錘になって沈む」
「重くないわ。重いのは水から出た後のそのエル饅頭」
六人でがんばって集めた結果、結構多くのサザエを手に入れられたのだった。ソニアは一人、不満そうな顔をしていた。昼ごはんのメニューに、サザエのつぼ焼きが再び加わりそうである。
しばらくして昼食時間。
食材は昨日と同じ、サメの肉とサザエとリゲルの釣った魚。早いうちにサメの肉を消費しておこうというわけで、同じような料理が続いている。
「まぁこの方が、食堂で食べるよりもいかにもキャンプって感じだね」
ラムリーザは、普段と違う雰囲気を楽しんでいた。こんなワイルドな食事は、普段は絶対出てこない。
「私たちの他に誰も居ないプライベートビーチってのもいいですの」
ユコは、プライベートビーチがよっぽど気に入ったようだ。
「違う」
しかしラムリアースは短く否定する。
「ビーチだけではない、島自体がフォレスター家のもの。プライベート・アイランドだ」
それを聞いて、再び何故か得意そうな表情になるソニア。彼女にとっては、フォレスター家の所有物は自分の物でもあるらしい。
「規模がでかすぎるよ」
ユグドラシルはそう漏らすが、ほとんどの者がそう考えるのであった。
「じゃあ言い換えて、無人島キャンプ、すごいですの」
「違う」
今度はレフトールが短く返答した。
「ここには俺が居る、そしてお前らが居る。よって、ここは無人島ではない!」
どや顔でポーズを決めて言い放つが、ユコたちの冷めた視線が鋭い。
「レフトールつまんない」
「うるさいおっぱいちゃん!」
ソニアとレフトールの一悶着があるかと思われたが、ラムリアースは「確かにここは無人島ではないな、一応住民――島民は住んでいる」と説明した。
島の北側は居住区にはなってなくて人も少なく、フォレスター家の別荘があるぐらいだが、島の南側にはある程度の規模をした町があるのだ。
「そういえば、ラムリアースさんとはこの度が初めてですね」
ロザリーンに話しかけられ、ラムリアースは「なんでも質問してね」と答えた。
「彼女居るのー?」
真っ先に質問したのはミーシャだった。
ラムリアースはただ一言、「たわけ」とだけ答えておいた。しかしミーシャは、「たわけさんが彼女なんだー」などと返してくるので、ラムリアースはわざわざ説明するハメになってしまったのであった。
昼食が終われば、再び午前中と同じグループに分かれての行動が始まった。ラムリーザたちはいろいろと準備に走り回り、リゲルたちは再び釣りへ。ソニアたちは今度はビーチバレーで遊び始めた。
「喧嘩するなよ、おっぱい攻めるなよ」
ラムリーザは、去年の海での出来事を覚えていたので、念入りに注意しておくのだった。
………
……
…
夕方、太陽が西に沈み始めた頃、ラムリアースは宿舎について皆に聞かせるために一同を岩場の影に集めた。
「暗くなる前に、部屋を割り振りしておく。これから船に積んだままの荷物を宿舎の入り口に運ぶ。さあ行こう」
一同は港に戻り、船からそれぞれ自分の荷物を持ち出す。そしてラムリアースの案内で、北の海岸を少しぐるりと歩いた。しばらく歩くと、白い家が数件並んでいるのが目に入る。
「この島での君たちの住居はあそこのコテージになる。えっと、十二人だったかな、二人か三人ずつ分かれてもらえば、全員入れると思う。じゃあラムリーザ、後は任せたぞ。俺は母屋の屋敷に戻るからな。あ、そうそう。サメはもう無くなったから、今日の晩御飯は屋敷の食堂だ。部屋割り決まったら食堂に集合な」
そう言って、ラムリアースはラキアと共に両親の泊まる母屋へと帰っていった。
「よし決めよう」
ラムリアースが居なくなって仕切りだしたのはジャンだ。
「ラムリーザはソニアと二人部屋、ソフィリータはミーシャと、リゲルはロザリーンと、ユコはレフトールと、俺はリリスと泊まるからそれぞれ部屋に向かおう」
「ちょっと待ってくださいの、なんで私がレフトールさんと相部屋なのですか?」
「俺は一向にかまわんが」
「私がかまいますの!」
「ミーシャリゲルおにーやんと一緒がいいなぁ」
「自分は名前が挙がらなかったぞ?」
ジャンの提案に、次々に反論が上がる。ラムリーザは、場を沈めるために無難な代案を提示した。
「やっぱりカップルで泊まるのは無しにしよう。健全で清いキャンプにしよう」
「ほーお、清くない交際をしているくせに」
しかしラムリーザの案もジャンから反論を食らってしまう。そしてそれに言い返すことができないのであった。
「そ、それなら、いつもの違う人と一緒になるってのはどう?」
「えー?」
ラムリーザの次の案は、ソニアが難色を見せる。キャンプに来てもラムリーザと一緒に寝たいらしい。いや、去年のキャンプでも、リゲルが居るにもかかわらずラムリーザのベッドに入り込んで来たっけ?
「俺いつもはおっぱいちゃんと一緒になってないから、キャンプでは一緒になってみようや」
「絶対やだ!」
ソニアは、近づいてくるレフトールから逃げ出した。
「私はラムリーザ様と一緒になっていませんの」
ユコがそんなことを言い出すと、ソニアは「呪いの人形は海の底に沈んでいろ」などと言い出してしまう。これでは決まるものも決まらないようだ。カップルもダメ、いつもと違う人もダメ。ではどうしろというのだ?
「くじ引きで決めたらどうだー?」
めんどくさそうにマックスウェルが提案する。彼的には誰と一緒でも別に構わないといった立場だから出せる案だ。
「外れが出たら揉めるに決まっている。無難な部屋割りは俺が考える」
業を煮やしたリゲルは、各自手にしている荷物を奪い取って部屋に投げ込みだした。
まずはソニアとリリスとユコの荷物を奪って、一つ目のコテージへ投げ込んだ。次はユグドラシルとロザリーンの荷物を奪って投げ込む。ソフィリータとミーシャの荷物を奪って投げ込む。レフトールとマクスウェルの荷物を奪って投げ込む。
「さ、行くぞ」
リゲルは、ラムリーザとジャンを促して、別のコテージへと向かっていった。
これがとりあえず無難な分け方だろう。こうしてリゲルの強引なやりかたで十二人を五つの部屋に振り分けて、部屋割りは決定した。
そして晩御飯では、「仲間が増えたなー、ホントだなー」とテーブル席で不思議な踊りを踊るソニアは、母親であるメイドのナンシーに、いつものように頭を叩かれるのであった。