ハッキョイノコリッ! 中編 ~ソフィリータの八百長?~
ハッキョイノコリッ! 中編 ~ソフィリータの八百長?~
7月20日――
この日はハッキョイという競技のリーグ戦が、砂浜で行われている。
リリスの言いだしっぺで、リリス有利、ソニア不利の極端な試合表を作り、リリス主導でゲームは進んでいた。
一節目が終わって、リリスの六戦全勝、ソニアが三勝一敗、ロザリーンとソフィリータが三勝二敗、ユコとミーシャが五連敗という結果に終わっていた。
そしてすぐに第二節目が始まった。
「はい、ソニアは次はミーシャと試合始めっ」
「待ってよ! なんでまたあたしだけ四試合しか無いのよ! リリスは六試合あってずるい!」
「細かいところにぐちぐちとうるさいわね、早くミーシャと試合するのよ」
「ミーシャ疲れたよぉ~」
ソニアは試合表の不自然さを責めるが、リリスは相手にしない。勝てないミーシャはお疲れモードだ。
ソニアは不満そうな顔をしているが、ミーシャとの勝負を始めた。
ミーシャは今回も逃げようとするが、ソニアは素早く捕まえて持ち上げる。そして釣り上げたまま円の外へと運んでいった。吊り出しでソニアの勝ちで四勝目。リリスに白星配給係にされたミーシャは、これで六連敗。
次はロザリーン対ユコだ。
白星配給係の双璧の片割れユコは、この試合でもその能力を遺憾なく発揮して、ロザリーンに組み付かれたままそのまま円の外へと寄り切られてしまった。ロザリーンも四勝目で、ユコは六連敗。
そしてリリス対ソフィリータ。
リリスは七連勝に伸ばしてソニアたちに差をつけようとする。しかしソフィリータも徐々にハッキョイでの戦い方にも順応していった。
ソフィリータは、自分の足をリリスの足に外側から回して押してみる。リリスはソフィリータに足を引っ掛けられる形で後ろ側に倒れてしまった。所謂外掛けという技でソフィリータの勝ち。リリスの連勝は六でストップ、そしてソフィリータも四勝目を挙げた。
このリーグ戦は、リリスがトップを走り、それをソニアとロザリーンとソフィリータが追いかけ、ユコとミーシャが白星配給係という形に決まっていったようである。
そして二戦目が始まる。
ソニア対ミーシャでは、ソニアは順当にミーシャ銀行でしっかりと貯金を増やして五勝目を挙げた。
ロザリーン対ユコでも、同じくロザリーンもユコ銀行で貯金を増やす。
そしてリリス対ソフィリータ。
連敗だけは避けたいリリスは、ソフィリータを近づけないように突き押し攻めを仕掛けた。
「ちょっと? 殴るのはルール違反じゃありませんでしたか?」
ソフィリータは抗議するが、「殴っているのではなくて押しているのよ」と言って、リリスは突き押しを止めない。そこでソフィリータも押す作戦に切り替えたが、その瞬間リリスは素早くソフィリータに接近してガッチリと捕まえてしまった。その勢いのまま、ソフィリータを円から押し出す。
リリスの勝ちで七勝目、ソフィリータは四勝止まりで一歩後退した。
「次はソニアとロザリーンは移動日、私とソフィリータの試合だけよ」
「だから移動日って何よ! どこに移動するのよ!」
「この試合表は、リリスさん有利に作られていますからね」
ソニアは強く抗議しロザリーンも不審がるが、リリスは知ったことかと言った感じでソフィリータとの三試合目を始めた。
今回は、最初からお互い突き合う形で始まった。ただ、蹴りがルール違反なのがソフィリータにとって馴染みの無い戦いとなっていた。ソフィリータは格闘技の心得があるが、主に足技が得意で突き技はそれほど得意ではない。
だがそこは格闘経験者、ソフィリータはリリスが突いてきた左腕を、自分の小脇に抱え込んだ。リリスは引き離そうと右腕も伸ばすが、ソフィリータはその右腕も小脇に抱えてしまった。所謂かんぬきという技で、リリスの動きを封じてしまったわけだ。
リリスはもがくが、ソフィリータはがっちりと掴んだまま離さない。そのままじりじりと押していく。リリスはさらにもがくが、極められた腕を抜き取ることはできなかった。
そのまま円の外へと押し出されてしまった。所謂極め出しでソフィリータの勝ち、五勝目を挙げてソニアとロザリーンに追いつき、リリスは七勝止まりだ。
「これでリリスさんの七勝、私とソニアさんとソフィリータさんが五勝ですね」
「あたし一回しか負けてないのに!」
「勝率ならソニアさんが一番なのですけどねぇ」
「勝率なんて知らないわ、勝った数が多いほうが優勝よ。そして私が二勝リード、くすっ」
リリスはソフィリータに極められて少し痛めた腕をさすりながら、あくまで勝った数にこだわる。勝率なら確かにロザリーンが言うとおり、ソニアが一番高くなる。
「このルール変!」
ソニアが文句を言うのも頷ける。しかしさらにソニアを不満にさせる展開が続く。
「さて、ソニアは移動日。私は今度はロザリーンと勝負ね」
「また移動日?! あたし移動日ばっかりじゃない!」
「うるさいわね、ロザリーン勝負よ」
リリス対ロザリーン。試合表の関係で不利な状況を強要されているソニアを除けば、この組み合わせの結果次第で優勝が誰になるか大きく動くかもしれない。
現在二勝差、ロザリーンは三連勝で逆転、逆にリリスは一勝でも挙げれば勝った数でまだリードできる。
ユコの合図で、リリスとロザリーンは円の中央でがっつりと組み合った。体格なら少しばかりロザリーンが大きいが、誤差レベルと言ってよいだろう。
動きを仕掛けたのはロザリーンの方だ。力を込めて前へと進み、リリスを寄り切ってしまおうとしたのだ。しかしリリスも考えていた。ロザリーンが押してくるのに抵抗せずにそのまま後退すると、円のふちで組み合ったまま後方に飛び上がったのだった。その結果リリスは中に浮いたまま、ロザリーンは前進してしまい円から出てしまったのだ。リリスも円から出ているが、先に円の外に足をつけてしまったのはロザリーン。勇み足というべきか、リリスの頭脳作戦でリリスの勝ち。
「これで再び三勝差。このリーグ戦頂きね、くすっ」
してやったりのリリスは、首を傾げるロザリーンへいつもの微笑を向けるのであった。
「何よ、リリスなんか負けてしまえばいいのに」
試合をさせてもらえないソニアは不満たらたらだ。
今日もソニアは移動日(?)なので、次はユコ対ミーシャである。
「ドベ決定戦ね」
リリスはそう評するが、ユコとミーシャは共に七連敗中。所謂裏天王山と言ったところか?
二人とも既にこの大会に対する興味はほとんど失っていたが、リリスに促されて無理矢理円の中に送り込まれてしまった。そしてリリスの合図で、事実上最下位決定戦が始まった。
両者ともにぶつかり組み合い、その瞬間ミーシャはしまったといった顔をする。ユコ相手でも小柄なミーシャは組み合うと不利だ。
ユコは「えいっ」と力を込めてミーシャを持ち上げようとしたところ、簡単に浮き上がった。そして三歩ほど運ぶが、そこでミーシャを下ろしてしまった。疲れたか?
「戯れにミーシャを担いで、そのあまり軽きに泣きて三歩歩まず」
ロザリーンが、なんだか格言めいたことをつぶやく。
しかし一度捕まったミーシャは何もできない。再びユコに持ち上げられて数歩運ばれる。それを繰り返し、円の外へと運び出されてしまったのだ。
「もうやだぁ……」
不満そうな声を挙げるミーシャとは対照的に、ユコは「やっと勝てましたの」と、少し肩で息をしながら笑顔を浮かべる。
しかしリリスは、裏天王山の勝負なんて興味が無いといった感じに、次の試合へと淡々と進めていった。
「それじゃあ次は、ソニアとソフィリータの試合よ。よかったね、やっと移動日から解禁よ」
「解禁される移動日って何よ!」
「早く始めなさいよ、後がつかえているのよ」
「むーっ」
リリスに急かされてソニアは円の中に入り、続いてソフィリータが入る。お互いに五勝同士、優勝へ向けてどちらも星を落とせない。ただしソニアは1敗、ソフィリータは3敗である。そこは試合数の差だ。
9試合目ともなるとソフィリータは試合に慣れ、このルールでの勝ち方も解ってきていた。円の中央で組み合った後、ソフィリータはソニアの又の間に自分の右足を差し込み、ソニアの左足を内側から極めてしまった。そのまま押すと、ソニアは軽く後ろに倒れてしまうのだった。
「何よこのリーグ戦変だからあたしもうやらない!」
倒れたままソニアは、じたばたともがきながらわめく。それをソフィリータは、困ったような顔をして見下ろしているのだった。
これでリリス場が八勝でトップ、ロザリーンとソフィリータが六勝で追いかけ、次点がソニアの五勝だ。
「さて、大事な試合を続けましょう」
そしてリリス対ロザリーンの二試合目が始まった。
リリスは今度もロザリーンを引き込んで、先に足を出させる手に出た。しかし同じ手を二度も食らうロザリーンではなかった。リリスが飛び上がったところで落ち着いて円のふちで一旦止まり、そのままリリスは円の外へと着地してしまった。
「やった、ロザリーン勝った、すごーいっ!」
アンチリリスと化したソニアは、ロザリーンに声援を送る。
「まだもう一本残ってるわ、次早くドベ決定戦続けなさいよ」
負けてしまったリリスは、忌々しそうにリーグ戦の進行を促すのであった。
「何がドベ決定戦ですの!」
ユコは憤慨するが、事実だから仕方が無い。そしてユコ対ミーシャの二戦目が始まった。
ミーシャは今度は捕まらないように、勝負開始と共に左側に飛び跳ねて移動する。捕まえようと思ったユコは、突然ミーシャが居なくなったのでその動きについていず、そのままバランスを崩して前のめりに倒れて自滅してしまった。
これでミーシャも一勝となり、全敗が居なくなった。ドベ決定戦も何気に盛り上がっている。
「はい、次はソニア対ソフィリータ」
「あたしもうやらない!」
「不戦敗でソフィリータの勝ちね、くすっ」
「何よその不戦敗! ソフイーちゃん勝負だ!」
リーグ戦はやりたくなくても、不戦敗にされるのはもっと嫌だ。ソニアはそう考えて円の中へと飛び込んでいった。ソフィリータもそれに続く。そして、ソニア対ソフィリータの二戦目が始まった。
再びがっちりと円の中央で組み合い、ソフィリータは再びソニアの又の間へ足を指し込みかけてたが、そぐにその足を引っ込めてしまった。そしてソニアの押してくる力に抵抗せず、そのままずるずると下がり、あっさりと円から出てしまった。
「さすがソニアお姉様、力が強いですね」
「当然っ!」
褒めるソフィリータと得意がるソニア。
実際の所、ソフィリータはソニアに簡単に勝つことができた。しかしその実力があったものの、うまくあしらって一勝一敗に留めておいたのだ。ソニアを不機嫌にさせて文句を言われるのを避けたのが大きい。
だが、ソフィリータの意図を読み取ったものは、この中には誰も居なかったのである。八百長も気づかれなければ、普通の試合として成立してしまう前例を作ってしまった瞬間だった。
「じゃあ次は私たちの試合よ」
リリスはそう言って、リリス対ロザリーンの三試合目が始まった。
三戦目にロザリーンは、戦法を変えた。今度は組み合わずに、リリスを突き始めたのだ。組み合おうとするリリスを近寄せないように、肩や胸を左右交互に手のひらで押し続ける。
「くっ……」
リリスはなんとか抵抗するが、ロザリーンの運動神経もなかなかのものだ。どっしりと構えてリリスを押し続け、少しずつ前進して追い詰めていった。リリスは横へ避けようとするが、ロザリーンは逃がさなかった。そしてとうとうロザリーンの突き攻撃に耐えられなくなったリリスは、バランスを崩して後ろに倒れて座り込んでしまったのだった。
ロザリーンが勝ち越したことで、リーグ戦の結果は混戦に近づいたのであった。このリーグ戦、まだまだ最後まで目の離せない展開となりそうだ。
「なんかすげー盛り上がっているな」
「ハッキョイのリーグ戦ってだけであそこまで盛り上がるのか」
離れた場所から、砂浜に寝そべってラムリーザたちはこの大会を観戦していた。
「ソフィリータって格闘技得意なんだろ? それにしては地味な戦績になっているじゃないか?」
「だな、あいつなら全勝しててもおかしくない」
ジャンとレフトールは、ある程度ソフィリータのことを知っているので今の結果を疑問視していた。
「ソフィリータの得意技は蹴りだからな、慣れていないルールなんだろう」
ラムリーザは、そう評する。
「しかし戦っているうちに対応できるだろ? 他の奴らは素人だぜ?」
レフトールはソフィリータの攻撃を知っているので、ソフィリータ推しだ。
「だな、最後のソニアとの一試合は怪しかったな。足を引っ掛けに行ってたけど、なんか戸惑ったかのように引っ込めて、そのまま抵抗せずに押し切られたし」
ラムリーザは、ソフィリータの八百長に気が付きつつあった。
「でも相変わらずソニアは文句ばっかし言ってるな。移動日がどうのこうのって騒いでいるし」
「詳しくはよくわからんけど、またリリスにやり込められているだけだよ。いちいち気にしていたら、きりが無い」
ジャンにソニアの事を言われて、ラムリーザはソフィリータ疑惑を考えるのをやめてしまった。