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ネットゲームをやろう その二 ~他の事は目に入らない~

 

 この日、ラムリーザが目覚めたとき、ソニアはベッドに居なかった。

 いつもなら、この春に恋人として付き合うようになって以来、二人は寄り添って寝るようになっていたのだ。

 ソニアは早起きしたのかな? と思ったが、どうやらそうではないようだ。

 ラムリーザは身体を起こして、伸びをしながら周囲を見回す。

 そしたらソニアは、昨夜寝る前に見た時と同じ所、ソファの後ろのテーブルに居た。彼女は、携帯型の情報端末キュリオを握り締めたまま、テーブルに突っ伏している。キュリオとは、この世界のスマートフォンみたいなものだ。

 何をやっているのだ……? と、ラムリーザはベッドを出て、ソニアの方へ向かっていった。

 キュリオの画面は、昨日やっていたゲームが立ち上がったままだった、これは寝落ちしたな……。

「ソニア起きろ、朝だぞ」

 ラムリーザは突っ伏しているソニアを揺すって起こそうとする。

「うーん……、あ……」

 起きたと思ったら、またキュリオの画面を覗き込んでゲームを再開してしまった。

「…………」

 その姿を見て、ラムリーザは何とも言えない不安を感じるのであった。

 

 朝食中も登校中も、ソニアはゲームをやりっぱなしだ。

 ソニアはキュリオの画面を見つめたままで、ふらふらと歩いていて危ないので、ラムリーザは肩に手を回して支えてあげるが、ソニアは特に関心は示さない。

「そのゲーム、おもしろいか?」

「うん、ラムもやってみたらいいよ」

 ラムリーザの問いに、画面から目を離さずに彼女は答える。

「…………」

「…………」

 それ以上会話は無かった。

 

 

 この状況は、教室についてからも続いていた。

 ソニアは、いつもならカバンを置くとすぐにラムリーザに引っ付いてくるのだが、今日は自分の席から動かずに、じっとキュリオの画面を見つめ続けている。

 そのうち、リリスとユコも教室に姿を現した。二人とも手に持ったキュリオの画面を覗き込んだまま、ふらふらとした足取りだ。

「…………」

「…………」

 言葉も無く現れて席につくリリスとユコ。

 二人とも目が充血していて赤い。そういえばソニアの目もやばい。どれだけ夜更かししたのだろうか……。

 長い髪も、少しよれよれだ。今朝手入れしてきていないというのが丸分かりである。

 折角の美少女が台無しになってる……と、心配するラムリーザをよそに、ゲームに熱中している三人であった。

 そして授業中。授業中には流石にゲームはやらやいようだが、三人は机につっぷして眠りこけている。

 それでいて、休み時間になると、再びゲームを再開するのであった。

 ちょっと熱中しすぎじゃないのか? と思うラムリーザであった。

 

 昼休み、三人はパンを買ってきて、それをかじりながら相変わらずゲームを続けていた。

 三人とも目は血走っていて、必死な様子が伺える。

 ラムリーザは、何がそこまで必死にさせるのだろうと考え、ふと昨日のことを思い出した。そういえば「一週間育てて勝負しよう」、そんなことを言っていた気がする。

 この状況が一週間も続くのか……大丈夫か? と思うのであった。

 

 放課後。

 リリスとユコは、さっさと帰り支度をして帰ろうとしていた。

 ラムリーザが「部活は?」と聞いても、「今日は行かない」とそっけなく言って二人とも帰ってしまった。

 隣の席に居るソニアを見ると、彼女は帰ろうとはしなかったが、そのままゲームを続けている。

「ソニア、どうするんだ?」

 とりあえずラムリーザは声をかけてみることにした。

「え? もう帰るの? あ、こんな時間?」

 だがソニアは、心ここにあらずと言った感じで画面を見たまま答えるだけであった。

 この時、ラムリーザはこれは明らかにまずい兆候だなと思ったのである。

 しかし、この調子だと部活に行っても仕方ないと思い、今日はソニアを連れてこのまま帰宅することにしたのだ。

 むろん、帰宅中もソニアはゲームを続けていた。

 

 

 下宿先の屋敷に戻ってきてからも、ソニアはゲームに熱中したままであった。

 ラムリーザが夜風に当たっている時も、部屋でくつろいでいる時も、ソニアはひたすらやり続けていた。どうやらソニアは、入浴すら放棄したようである。

 ラムリーザは、黙々とキュリオの画面を凝視しているソニアが可愛くないので見ていても面白くない。しかたなくドラムでも叩いて時間を潰すか、ということでドコドコやっていたところ……。

「うるさいなぁ!」

 ソニアは不満そうな声を上げた。

 ちょっと待て、とラムリーザは思った。これまではラムリーザがドラムを叩き出すと、進んでベースギターを手に取って参加してきたものだ。そもそもこの軽音楽は本来ソニアが……、つまりソニアは軽音楽も放棄したというのだろうか……。

 仕方が無いので、ラムリーザはゲーム機を立ち上げて、四月にソニアが買ってきたギャルゲーを始めてみた。それでソニアの反応を伺ってみるのだ。

 ひとまずゲームの概要を知るために、ソニアがプレイしていたセーブデータを立ち上げてみることにした。

 主人公の名前がラムリーザだ……。ソニアはいったいこのゲームで何をしたかったのか……、というのはすぐに思い出した。確かゲームのイベントをそのまま演じることで、ラムリーザの関心を引こうとしていたんだっけな。

 テレビ画面からは、女の子の可愛らしい台詞が流れている。

 だが、ソニアは何も関心を示さない。本来ならば、ラムリーザがこのゲームをプレイしてみようとしたら、「あたしが居るんだからそんなゲームやらなくていい」と、自分が買ってきたくせに邪魔してきたものだ。

 しばらくゲームを進めてみて、これはいい、という台詞が出てきたので、ソニアに投げかけてみた。

「ソニアはかわいいなあ!!!」

 だが、何も反応も返って来なかった……。

  

 寝る時間になって、ラムリーザがベッドに入っても、まだまだやり続けていた。帰宅してから七時間近く、ぶっ通しでキュリオの画面とにらめっこだ。

 昨日と同じだな、と思いながらもラムリーザは「おーい、そろそろ寝るぞ」と言ってみたが、「うん、もうちょっと」と同じ返事が帰ってくるだけで、その場から動こうとはしなかった。

 これはちょっとヤバイかもしれないな……と思うものも、どうすることもできずに、ラムリーザは眠りにつくのであった……。

 おそらくリリスとユコも同じ状況だと思われる。確実にネットゲーム廃人への道を歩んでいるようであるのだった。

 
 
 
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