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砂時計体型の幼馴染は理想のために手を汚す

 

 昼下がり、ラムリーザの自室にて。

 あの日以来、ソニアはほとんどラムリーザの部屋で過ごすようになっていた。

 今日は自室から持ち込んだゲーム機で、『T.O.』というシミュレーションゲームに取り組んでいる。

 そして、ある場面でプレイを進める手が止まった。その場面は、主人公の上司である騎士が、主人公に理想と現実、どちらを選択するかという問いを課しているところだった。

 ソニアはそこで選択に迷い、一旦手をおいたのだ。

「う~ん……、ラムは理想と現実ならどっちを選ぶ?」

「ん、理想」

 窓辺に置かれたリクライニングチェアで、外の景色を見ながらくつろいでいたラムリーザは軽く答えた。

 現実を見るだけではおもしろくない。やはり理想を持つというのは大切なことだ、とラムリーザは思っていた。だから、幼馴染と別れ別れになるという現実を受け入れずに、理想を押し通してソニアを無理やり連れて行くことを選んだのだ。

 ラムリーザのそういう考えを察することはなく、ソニアは不満そうな声を上げる。

「えー、でもそれだと虐殺しちゃうよ……」

「話がわからんな、ゲームの話だろ? お前の属する陣営の方針はどうなってるんだ?」

「敵国を装って民を皆殺しにすることで、民の団結を固めたり、敵国の反体制派を煽って戦力分散させるとか考えてるみたい」

「なるほど、考えてるね。少数の犠牲で、多数の成果を得るってやつか」

「でも、罪も無い人々を虐殺するなんて……」

「ソニアはここにいますか?」

 そのとき、部屋の入り口の外から、フォレスター家のメイドであるナンシーの声が聞こえた。ソニアはほとんど自室に戻っていないので、ここに居ると察したのだろう。

「居ないよ」

 そう答えたのはソニアだ。自分で居ないよと言っても、まったく意味がないということに、この娘は気付かないのだろうか。

「そこに居るのですね。ちょっと用があるので入ってもよろしいでしょうか?」

 夜中ならともかく、今は別にやましい事はしていないので、ラムリーザは「ああ、どうぞ」と答え、入室を促した。

「失礼します」

「あ、お母さん」

 部屋に入ってきたメイドのナンシーは、紐状の巻尺を持っていた。

「ソニア、ちょっといいかしら? 身体のサイズを計らせてもらいますよ」

「えー、いきなり何?」

「社交の場に出るためのパーティドレスを仕立てるためです」

 これまでソニアは社交の場に出ることは無かった。だが、ラムリーザの恋人という立場になったので、それを示すために同伴する必要が出てきたというわけだ。

「ゲームやってる途中なんだけど……」

「すぐ終わるから、少しの間着てるもの脱ぎなさい」

「えっと、僕は外に出ていた方がいいかな?」

「別にラムになら見られても平気」

 確かに、あの日から毎日のように同じベッドで寝る仲になっているのだ。下着姿など今更ってことだ。ソニアはそう言って、来ていた白いニットと、キャミソールを脱ぎ去る。そしてラムリーザの部屋で身体測定を始めた。

 ラムリーザは、終わるまでリクライニングチェアでくつろいだまま、遠い空をみつめていることにした。

 

「それでは胸回りから……トップは98cmですね、アンダーは……66cm」

 メイドのナンシーは淡々と計っていく。

 98cm……、それがどのくらいのサイズになるのかラムリーザにはいまいちわからなかった。これまで女性の体つきに対してそれほど考えたことがなかったというのもあった。ソニアとずっと一緒に居たが、マジマジと体つきを観察したことは無い。

 後で自分も計って比べてみたら分かるかな……とか考えていた。

「胴回り……56cm」

 胸囲に対して胴回りが細いなとラムリーザは考える。そして頭の中で勝手にイメージを作り上げていた。

「腰回り……90cmですね」

「まるで巨大な砂時計だな……」

「えっ? ラム、何か言った?」

「なんでもない」

 ラムリーザは、頭から砂時計のイメージが消えずにいたので、そのイメージを払拭させるために、チラッとソニアの方を見てみた。

 ソニアはこちらに背を向けていたが、確かに脇から胴にかけて細くなっていて、そして尻の所で太くなっている。そして、肉付きの良い太ももがいいな、とか思うのであった。

 たが、胴の細さが意外だった。

 これまでソニアは、大きなサイズのニットを着ていて、腹の周りをだぶつかせていたので、見た目は胸から腰にかけて太い感じだった。服を着ている時と、脱いだ時の感じが全然違うな、とラムリーザは思った。

「最後に身長……163cm。はい、これで終わりです」

 計測から開放されたソニアは、もそもそと着替えなおしていた。そして服を着れば、やっぱり上半身はでっぷりしているのだ。

 ソニアの計測が終わったのを見計らって、ラムリーザも上着を脱ぎながらリクライニングチェアから身を起こした。

「ついでに僕も計ってくれないかな?」

「わかりました、それでは胸囲から……89cmですね」

 えっ、89cm? とラムリーザは思った。

 確かソニアは98cmとなってなかったか?

 つまりそれって……

「ソニア、僕より胸太い?!」

「あっ、あたりまえよ、見りゃわかるでしょ!」

 ソニアは、顔を真っ赤にして恥ずかしがる。そしてそのまま、ラムリーザの部屋から逃げ出すように出て行ってしまった。

「あれ、なんか困ること言ったかな?」

「それは、あの子はバストが普通の子よりちょっと……いえ、かなり大きいから」

「確かに大きいよな……、いやまぁ、太っているとは思ってたけど、僕より太いとはなぁ」

「太ってはいませんよ。まぁ、お腹の辺りでだぶつかせて、わざわざ太って見えるように変な着こなししてますが……」

 ラムリーザは、ソニアが居なくなったので自分の測定は必要なくなったと考えた。

 そしてもう計測はいいと告げ、メイドを下がらせることにした。

 

「ラムリーザ様」

 メイドはドアから出る前に振り返って言った。

「ん?」

「これからもソニアを宜しくお願いします」

「……ああ」

 

 そう言い残してメイドのナンシーは退室していった。

 ふとテレビの画面を見ると、ゲームの選択肢部分で止まっている。

『……従ってくれるな? こうしなければウォル○タに明日はないッ!』

 ラムリーザはコントローラーを拾い上げ――

『……わかっています。理想のためにこの手を汚しましょう』

――そのままボタンを押した。

 うむ、大事なのは理想を貫くこと。ラムリーザは、ソニアにも理想を追い求めることを強要させた。

 

 こうして、英雄ソニアは自らの手を血で汚すことになったのである。
 
 
 
 
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