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ラブレター騒動

 

 放課後、学校の体育館裏で、緊張が高まっていた。

 そこには、ソニアともう一人の女子生徒が対面している。

 ソニアの表情は険しく、刺すような視線を相手に向けている。一方の女子生徒は、若干戸惑っている風に見えている。

 ソニアは、両手を腰に当てて威嚇するようなポーズを取り、厳しい口調で語り掛けてきた。

「あたしが見逃すと思ってんの? 馬鹿ね!」

「そんな、酷い……。何故……?」

「あんたがフリール? あたしは知っているんだからね!」

 一触即発の雰囲気。ソニアは相当怒っている。いったい何が……?

 

 話は数時間前に遡る……。

 

 

 移動教室での授業後、教室の自席に戻ったラムリーザは、座席の引き出しに見慣れない物が入っていることに気が付いた。

 パッと見手紙の封筒、普通に見ても手紙の封筒、それ以外の何物にも見えない。

 ただ、移動教室に行く前は、そのような物は入っていなかったはずだ。

 封筒の裏は、ハート形のシールで封されていた。これは……、ラブレター?

 ラムリーザは、そっと封を切り中身を取り出す。

 入っていたのは一枚の紙きれ、ラムリーザはそこに書かれている文章を読み始めた。

 

『はじめまして、突然の手紙ごめんなさい。ラムリーザさんのこと、ずっと見てました。あなたのことを初めて知ったのは、校庭でやってたバンド活動です。メンバーをまとめる姿に憧れてしまいました。よかったら付き合ってください。いきなりこんなこと言われて、あっと驚くためごろうだと思いますが、放課後、体育館裏で返事を待ってます。それではバイなら。 フリール・レガイトレ』

 放課後、体育館裏か……。

 ずっと見ていた割には、ラムリーザとソニアが付き合っていることを知らずにこのようなラブレターを送ってくるのも妙な話だな、などとラムリーザは考えていた。

 ためごろうって何だろう?

 とにかく、会ってきちんと断っておかなければ……。

「ねーえ、それ何ー?」

 ラムリーザはぼんやりとラブレターを読んでいたので、ソニアの接近に気が付かなかった。

 ソニアはただ、いつもの休み時間のように座席を移動して引っ付いてきただけだ。

「あ、なんでもな――」

「ラブレターだ!」

 ラムリーザは慌てて隠そうとしたが、遅かった。

 ソニアは険しい顔になって、ラブレターをラムリーザの手からサッと奪い取ってしまった。まずい、荒れる……。

 ソニアは、神妙な顔つきでラブレターを読んでいる。

 最後まで読むと、「フリールか……」と呟いて、ラブレターわくしゃくしゃと丸めてしまった。

「あ、いや、ちゃんと断りに行くからソニアが荒れる必要は無いよ」

「え、ラムリーザにラブレター?」

 リリスまで顔を突っ込んできてしまった。

 リリスは、丸められたラブレターをソニアから奪うと、広げ直して中を読む。そこにユコも覗きこんできた。

「何ですの? 長く付き合っている私達を差し置いて、ラムリーザ様を奪おうとするなんて、なんて泥棒猫なんでしょう!」

「泥棒猫はあんた達もだ!」

 ソニアの突っ込みも適格だ。ラムリーザは、妙に納得する気分で居たりする。

「恋は戦って勝ち取るものでしょ?」

 リリスもいらんことを言う。今現在、ソニアは荒れやすい状況なのだから、そっとしておいてほしいものだ。

「とにかく! 体育館裏にはあたしが行く! どこの馬の骨だかわからん癖に寝取るような奴には、あたしが目に物を見せてやるんだ!」

 ソニアは完全にいきり立ってしまい、ラムリーザが行くと言っても聞かなくなってしまった。

 まあいいか、とラムリーザは考えた。ソニアの口から自分が居るから諦めろ、と言い聞かせるのでも同じことだ。

 そういうわけで、放課後に体育館裏へ行くのはソニア一人ということになった。

 

 

「というわけで、ラムにはあたしが居るんだから、手を出すな!」

「いやです、関係ありません!」

「この分からず屋め!!」

 とうとうソニアは、体育館裏に現れた女子生徒めがけて拳を振り上げた。

 リリスやユコと違い、友人でもないのにラムリーザにしつこく付きまとおうとする娘が許せなかったのだ。

 だが、その女子生徒は、一歩下がって笑みを浮かべて呟いた。

「なんちゃって」

 そこには、さっきまでの戸惑っていた表情は無かった。それはまるで、獲物を捕らえた獣のような瞳でソニアを見つめているのだった。

「な、何? 急に何よ……」

 ソニアは振り上げた拳を下す場所を失って、そのまま固まっていた。

 その時、女子生徒の後ろ、体育館の陰から三人の男子生徒が現れた。男子生徒達は、ソニアと対面している女子生徒に近づいてくる。

 女子生徒はソニアのことはどうでもいいかのようにきびすを返すと、三人の中央に居たリーダー格と思われる男子生徒とハイタッチして去って行ってしまった。

「な、何?」

 ソニアはわけがわからなかった。

 ラブレターで呼び出されたのに、今目の前に居るのは三人の男子生徒だ。

 リーダー格の男子生徒は、肩の上ぐらいの黒髪だが、一部分、一房だけ長く伸ばしていて、肩から前に垂らしているのが特徴的だ。

「なるほど、ブラウスに胸が収まらないが特徴か。確かにその通りだ」
レフトールとソニア
 軽く微笑を浮かべながら、じろじろとソニアの胸を凝視する。

「あんた誰よ?!」

 ソニアは、嫌らしい視線を感じて、腕で胸を隠しながら言った。多少声色に不安が現れていた。

「へっへっ、悪いな。癒し猫に頼まれてな」

「なんで? だってあのラブレター……」

「依頼通りに窓際後ろから二番目の席に、俺が仕掛けた」

「なっ?!」

 ソニアは、まさか? という気分だった。ラムリーザにラブレターを出した相手が男とは想像していなかった。

「驚いたか? アッと驚くためごろう、はっはっはっ」

「なにそれ、意味わかんない! 寝取る相手がゲイだったってこと?!」

「違うわ!」

 リーダー格の男子生徒は、ソニアをどついた。その勢いで、ソニアはよろよろと数歩下がる。

「何すんのよ!」

 ソニアは相手を睨み付けて言い放った。

 リーダー格は、ソニアの怒声に怯むこともなく、笑みを浮かべたまま話を続けた。

「お前、付き合ってる男が居るってな? あの席の奴? とりあえずそいつと別れないと、痛い目に合うぜ」

 そう言って、ソニアに当たらないように上段蹴りを放ってきた。ソニアの目の前を、鋭いスピードで脚が横切っていく。

 その蹴りの鋭さにソニアは脅え、離れようと後ずさった。

 しかし、その背中に何かがドンと当たる。いつの間にか残り二人の生徒が、ソニアの後ろに回り込んでいたようだ。

 普段強気のソニアも、男子三人に囲まれた状態では、少々顔色が悪い。

 リーダー格の男子生徒は、ソニアに近づいて手を伸ばしてきた。

「とりあえずそのボイン揉ませてみろよ。不自然だな、それ一体どうなっているんだ?」

「ふ、不自然言うな……」

 ソニアは伸ばしてきた手から逃れようとしたが、後ろの二人にがっちりと腕を握られてしまって、その場から動けなくなってしまった。

「残念、逃げられないぜ。そうだ、お前は俺と付き合おう。それで万事うまくいく」

「やっ、やだっ……」

 胸に手が伸びてきたので、ソニアは顔を背けて目をつぶった。

 

 

 

「こら待て!」

 そこに現れたのが、ラムリーザとリゲルだ。

 リーダー格はびっくりして、伸ばしかけていた手を引っ込める。

 ソニアの腕を掴んでいた二人も、突然の来訪者に驚いて手を放していた。

 ソニアはラムリーザの姿を見ると、素早くその場を振り切って、ラムリーザの後ろに隠れた。

 ソニアが無事なことを確かめるラムリーザの横で、リゲルは少々威圧感を放ちながら語った。

「レフトール、お前美人局やってんのか? で、男の方が来なかったから襲おうとしたわけだ」

「ちっ、リゲルか。なんでここに来る、……待てよ? ひょっとしてこいつお前の女だったとか?」

「そんな下品な女は知らん」

 ソニアは怖かったためか反論する気力が無いようだ。

 リーダー格の男子生徒レフトールは、しばらくリゲルを見たまま何かを言いたそうにしていたが、ソニアを襲うことは諦めて、二人の仲間と共に立ち去っていった。

 

「ふえぇ、怖かったよぉ……」

 ラムリーザに抱き着いてソニアは泣きそうな声を出す。

「レフトールが美人局狙ってきてるな、気をつけろよ」

「そうだよ! あの手紙あいつが仕掛けたんだって!」

 リゲルの発言に、ソニアは思い出したかのように言ってきた。

 どうなってるんだまったく……、学校が始まってから、ラムリーザとソニアの関係を邪魔する奴が増えてきているような気がする。

「でも、来てくれてありがとう……。あのまま一人だったら、あたし何されていたかわかんない……」

「いやまぁ、それはなんというか……、ソニアの事だから相手の女の子と喧嘩になったらまずいなと思ってさ。ほら、偽造写真の時もソニアすごく荒れていたじゃないか」

「俺もついてきて正解だったな。あの偽ラブレターで引っかかる点があってな」

「変な所あったっけ?」

「ためごろうだったっけか? あいつはそういう妙な台詞を使うことが多いんだ」

「あっ、襲ってきた時も言ってたよ!」

「それに名前もな、『フリール・レガイトレ』。レガイトレなんて名前は聞いたことない。なんて思ってたから、この名前をなんとなく並び替えたらな……」

 

 フリール・レガイトレ。

 レフトール・ガリレイ。

 

「……偶然かもしれないけどな」

 なにはともあれ、美人局? もソニアが襲われることも未遂に終わった。

 この学校には、ラムリーザとソニアの交際を快く思っていない者が居るのかもしれない。

 そう思いながら、体育館裏から立ち去るラムリーザであった。

 
 
 
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