home > 物語 > > 幻滅したでしょ?

幻滅したでしょ?

 

 ラムリーザが校舎の屋上で、レフトールに一撃を食らって意識を失った直後の話。

 実はソニア達がリゲルを連れて戻ってくるよりも先に、屋上に現れた女生徒が居たりした。

 その女生徒は、倒れているラムリーザを見ると、鋭い目つきでレフトール達三人を睨みつけて言った。

「あなた達、ここまでやれとは言ってないわ。加減もできないの?」

 レフトールは、困った顔をして答えた。

「あ、癒し猫……、すみません。でもさぁ、そいつワンパンでそれだぜ……、加減とかそういう以前の問題ですよ」

「え……?」

 レフトールは、その女生徒に対しては、妙に低姿勢で事実を説明していた。

「それよりもお前どうした? 右手が痛いのか?」

 レフトールが心配して声をかけたのは、先程ラムリーザに掴みかかっていった方の生徒だ。右手をさすりながら、多少顔色が悪い。

「いや、こいつに思いっきり捕まれた手がしびれて動かねぇ……」

 レフトールは「何だそれは……」とつぶやいたところで、校舎の方から人の気配を感じだ。

「誰か上がってくるぞ」

 レフトールの一言で、女生徒は建物の影に隠れた。

 その後、ソニアが騒いだり、リゲルに睨まれてレフトールが逃げ出したり、である。

 話し声が聞こえなくなって、その女生徒がそっと建物の影から覗くと、もうそこには誰も居なかった。

 女生徒はため息を吐いてつぶやいた。

「ラムリーザが打たれ弱いとは……。情報とはぜんぜん違うのね、これは作戦変えなくちゃ……か」

 

 

 保健室のベッドにラムリーザを寝かせた後、授業が始まるということで先生に追い出されたソニア達は、教室へと戻っていっていた。

 しかし、いつものほんわかした雰囲気ではなく、緊張と落胆がその場を支配していた。

 みんなの仲でラムリーザは平和の象徴だったが。だがそれが、暴力の前に崩壊してしまったのだ。

「でもなんだか腑に落ちませんわ。リンゴやゴムマリ握り潰せて、パンチングマシーンですごい記録出すのに、なんでやられちゃうんですの?」

 最初に口を開いたユコは、不満をぶつけてきた。平和の象徴である前に、力の象徴であったはずなのだ。

「それは、そのっ……」

 ユコに責められるような視線を向けられて、ソニアは悔しそうに俯いた。

「あれだろ、打たれ弱いんだろ。バレーボールが頭にぶつかっただけで、意識飛ばしてたしな」

 リゲルの指摘に、ソニアは小さく頷く。そうなることがわかっていたから、ソニアは慌てて屋上へ戻っていったのだ。

 そのまま再び黙ったまま歩き続けていた。

 

「幻滅したでしょ?」

 唐突にソニアがつぶやいた。

 えっ? といった表情で、リリスとユコは、ソニアを振り返った。一方リゲルは無関心を装っている。

「ラムは戦ったら簡単に負けるんだ。『ラムリーザ様』って何? 馬鹿みたい、ざまーみろ!」

 ソニアは不貞腐れた感じで、二人の美少女、とくに慕っているユコに対して皮肉っぽいことを言う。

 ユコは言葉を失ったが、リリスは微笑を浮かべてソニアに反論してきた。

「あなた、ラムリーザの株を下げて、私達を追い払って独占するつもりでしょう?」

「そっ、それは……、ふんっ、何よ!」

 図星をつかれたのか、ソニアはそっぽを向く。

「あなたの方こそ、がっかりしたんじゃなくて?」

「違うわ! あたしはラムがすぐやられちやうこと知ってたもん! でもね、でもね、ラムのほかの魅力に比べたら、そんな弱点なんてたいしたこと無いわ!」

 ソニアは、まるで自分に言い聞かせるかのように力説するのだった。年季の入った思いは、ぶれることは無い。

 それを聞いてリリスは、励ますようにユコの肩を叩いて言った。

「それなら、私達も同じよねぇ、ユコ」

「うん、そうですわ。別に私はラムリーザ様が喧嘩強いかもしれないって所に惚れたわけじゃありませんの。あの人は、いつも私達のことを大切にしてくれます。あの時だって、自分を犠牲にしてまで私達を逃がしてくれたじゃありませんか。ラムリーザ様は、すばらしい方です!」

 ユコの剣幕に、ソニアは思わず「ちっ」と舌打ちする。しかしすぐに笑顔を浮かべて言った。

「なんだ、結局何も変わらないじゃないの」

「そうね、くすっ」

 三人は、何事も無かったかのように、いつもの無邪気な笑顔を取り戻していた。

 

「……で、またあいつらが来たらどうするんだ?」

 教室に戻ってから、リゲルはその雰囲気に水を差すようなことを言ってきた。

 感情では解決しても、物事がすべて解決したわけではない。この先、ラムリーザと仲良くしている度に絡まれたのでは、楽しい学校生活を行なうことはできない。

「リゲルさんになんとかしてもらいましょう。あの時だって、リゲルさんを見て逃げていきましたし」

「リゲルって喧嘩強いの?」

 ユコとソニアは、リゲルの方を振り返ってそれぞれの思いを述べた。

「それもあるが、レフトールなら本来ならラムリーザにも手を出すはずは――」

 その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「――授業だ」

 そういうわけで、リゲルはそれ以上語ることはなかった。

 席についた後、リリスはソニアの方を振り返って言った。

「私はね、リゲルに頼るんじゃなくて、ラムリーザ自身にけりをつけて欲しいと思ってるわ」

「あたしだってラムになんとかしてもらいたいよ。でも、無理なものは無理なのよ……」

「一発で沈む……ねぇ」

 それだけ言うと、リリスはため息を吐いて前に向き直っていった。

「また来たら、『ラム兄』に連絡してやるんだから……」

 ソニアはそうつぶやいて、頬杖をついてぼんやりと隣を眺めた。しかし当然ながら、そこには誰も居ない。

「ラム……」

 寂しそうな瞳を向けるしかできなかった。

 

 

 ラムリーザがハッと気がつくと、いつの間にかベッドで横になっていた。

 屋上にソニア達と遊びに行っていた記憶はあるのだが、その後がぼんやりとしていて何が起きたのかわからなかった。ということは……。

「はぁ、またやっちまったか……」

 ラムリーザは身を起こすと、周囲をうかがった。すると、ベッドの脇には、見覚えのある娘が椅子に座ったまま待っていた。

「ラムリーザ、気がついたかしら?」

「あ、ケルムさん」

 この地方の領主の娘であるケルムが、ラムリーザを見守っていたのだ。

 なぜここに居るんだろう……。ラムリーザがそう思っていると、ケルムはラムリーザに尋ねてきた。

「あなたが暴力を受けて保健室へ担ぎ込まれたと聞きました。いったい何があったのですか?」

「いやぁ、覚えてない……、なるほどそうか。そういうことがあったんだね」

 ラムリーザは、自分が保健室で寝ている理由がなんとなくわかった。ケルムの話では、誰かにやられたということらしい。

 それと、ケルムがここに居る理由もなんとなくわかった。風紀委員として、暴力沙汰を放っておけないとでも言うのだろう。

「覚えてない?」

 ケルムは、怪訝な目つきでラムリーザを見つめてきた。

「うん。僕はちょっと頭が弱い所があって、強い衝撃を受けると簡単に意識を失って、その前後の記憶が抜け落ちてしまうんだ」

「…………」

 ラムリーザの話を聞いて、ケルムは言葉を失ったようだ。

 

 しばらくの間、沈黙が流れていった。

 

 ラムリーザは、頭がはっきりしてきたのでそろそろ起きるかと考えた。体調が回復した以上、いつまでも寝ているわけにはいかない。

 ベッドから降りて立ち上がると、ケルムも一緒に立ち上がってきた。

「えっと、その……」

 ケルムは、何かを言いたそうにラムリーザの方を見上げてきた。

「ん? 僕に何か用事でもあるのかな?」

 ラムリーザは、実際の所ケルムは苦手なのだ。ただ、私的に考えると苦手なだけであって、公の場でのケルムは、評価するに値すると考えていた。

「ラムリーザ、何か困ったことがあったら、すぐに私に言ってくるのですよ」

「うん、頼りにするよ」

 ケルムし少しの間ラムリーザの顔を見ていたが、保健室の外に誰かが近づいてくる気配を感じると、身を翻すとラムリーザの傍から離れて、保健室から立ち去っていった。

 

「ラム! 気がついたんだね!」

 外からやってきたのはソニアだった。

 少し遅れてリリスとユコもやってくる。

「うん、もう大丈夫。心配かけたね」

「もう……、死んじゃうかもしれないんだよ? 無茶はやめてよ」

「そんな大げさな……」

 ラムリーザは笑って答えたが、ソニアは泣きそうな顔をしている。しょうがないな、と思いながらラムリーザはソニアの頭を撫でてあげた。

「ふえぇ……」

「ふえぇじゃない。ほら、……えーと、もう放課後か、帰るぞ」

 ラムリーザは、リリスとユコにも、もう大丈夫だということを示してあげながら、ソニアの肩を抱いて保健室から出て行くのだった。

 

 平和だった学校生活に、突然降りかかってきた暗雲。

 だが、これで終わりではなかったのだ……。

 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2016
新しい記事
古い記事

return to page top

©発行年-2018 らむの夢日記