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女の子達を安心させるために、決闘することになったわけだが……

 

 放課後、ラムリーザは、ソニア、リリス、ユコを引き連れて校庭を横切っていた。

 今日はなんだかいろいろあって、部活をする気になれずにそのまま帰ろうということになったのだ。

「ラム、やられたところ痛くない?」

 ソニアは、心配そうにラムリーザの顔を見つめながら言った。

「うーん、痛みは残ってないんだよね。たぶん顔のどこかを殴られたんだと思うけど」

 ラムリーザは、ソニアの前では強がって見せた。実際は、あごの辺りに鈍い痛みが残っている。おそらくそこに一発もらったのだろう。

「でも、一発でよかったね。一発で済んだから、やられた場所も一箇所だけ」

 リリスは、ラムリーザの前に立って顔をじっと覗き込みながら言った。その顔が徐々に近づいていって――。

「リリス近い!」

 すぐにソニアは間に割って入る。ソニアとリリスが睨み合いを始めた所で、今度はユコがラムリーザに接近。

「あごの所、少し腫れてますわ。やられた所、私がなでなでして差し上げますの」

「いや、今はそれはまずいって」

「こりゃあ! ユッコも近寄るなってば!」

「いいから、遊んでないで帰るぞ」

 ラムリーザはそう言って三人をかわして進みだそうとしたが、校門に差し掛かったところで脚を止める。

 そこには、今日屋上で襲い掛かってきたレフトールが待ち構えていたのだ。

「やれやれ、懲りずに見せ付けてくれるねぇ」

 やはりレフトールは、ラムリーザがソニア達と仲良くしているのが気に入らないようだ。

 ソニア達は、レフトールの姿を見ると、寄り添って固まる。しかし、ラムリーザには屋上でレフトールと遭遇した前後のことが記憶から消えていたりするのだ。

「えっと、レフトール……だったっけ? 僕に何か用かな?」

「は?」

 ラムリーザの台詞に、レフトールは眉をひそめた。レフトールからしてみれば、昼休みに叩きのめしたはずなのに、ちっとも怯えるどころか普通に接してきているように見えるのだ。むろん、ラムリーザには叩きのめされた記憶が無いということは知らない。

「ラム、一緒に逃げようよ。今はソフィーちゃん居ないんだし」

 ソニアは、後ろからラムリーザの袖を引っ張って催促する。だが、リリスはそれが少し気に入らないかのようだ。

「待って、負けたままでいいの? 私はラムリーザに勝ってほしい」

「無理だってば!」

 リリスはラムリーザに男を見せてもらいたいようだが、ソニアはそれに反論して、ラムリーザの手を引っ張って逃げようとした。

 二人の話を聞いて、ラムリーザは昼休みに失神させられた相手が、このレフトールだということを察した。

「えーと、僕は彼にやられたんだね?」

 ソニアたちは、揃って首を縦に振った。

「おい、何を話してんだ? お前が弱いせいで、癒し猫に怒られただろうが、怒るでしかし!」

 レフトールはイラついている。ラムリーザが平然としているのも気に入らない。

「君がやったんだね? 困ったやつらだ」

「おいおい、何を言っているんだ? お前はワンパンで沈んだだろうが。お前は俺に負けたんだよ」

「悪いが、全く覚えていない」

「何だ? 記憶障害か?」

「そうなっちゃうんだよね。君は僕の頭を打っただろ? そんなことしたら、意識失うのとその前後の記憶無くしてしまうんだ。だから悪いけど、昼休みに君がやったこと、何一つ覚えていないんだよね」

「……そういうことか」

 レフトールは、ラムリーザが自分を見ても平然としている理由がわかった。やられたことを覚えていないのだから、怯えるわけがない。

「ま、そんな局地戦で僕に勝っても、何も変わらないけどね。事実、ソニア達とは今まで通りだ。何故かわからないけど、君はそれが気に入らないんだろう? というより、奇襲してきたようなものじゃないかなぁ」

「奇襲だと? そう言うのか……、じゃあ二度と立ち上がれないぐらいに叩きのめしてやる」

「本当うに困った奴だ」

 ラムリーザは、リゲルを呼ぼうと思ったが、それはやめておくことにした。リリスに煽られたわけではないが、ここは自分の力でなんとかしておこうと思ったのだ。

 一方ソニアたちはハラハラしている。ラムリーザがレフトールを前にしても堂々としているし、三人は置いていかれている感じになってしまっている。いつもののんびりとしたラムリーザではなくて、薄気味悪いぐらいだ。

「何? 何? 何なんですの? ソニア、ラムリーザ様はどうしたんですの?」

「い、いや、あたしもあんなの見たこと無いよ……、いや、あったような……」

 うろたえ、そわそわしているソニア達を他所に、ラムリーザは落ち着いた感じでレフトールを見据えている。レフトールに勝てるにせよ勝てないにせよ、ソニア達に余計な心配はかけさせたくない。だから、極力自然体を装っていた。

「やんのかコラ!」

 レフトールは凄んで見せるが、ラムリーザは動じない。帝都ではアキラ達がよく口にしていた決め台詞だ。珍しくも何とも無い。

「また奇襲するのかな? もう、飽き飽き」

 ラムリーザの奇襲という言葉を聞いて、レフトールは少し考えた。こいつの頭を殴って気絶させたのでは、何も変わらないのでは、と。

 校門前ということもあり、他の生徒がいぶかしむ視線を向けてくる。だが、レフトールはそっち方面では有名らしく、誰も近寄ってこようとしない。

 ラムリーザは、めんどくさい相手に目を付けられたものだと思い、可能なら少しでも早くこの騒動を終わらせたいと考えた。だから、レフトールに提案してみる。

「そうだねぇ……。どうしても僕が気に入らないのなら、はっきりとした形で決着つけるとかどうだい?」

「決着だと?」

「うん。でも、ここだと人目に付き過ぎるよなぁ。……確か駅の裏に人気の少ないところがあったよね。えーと、今日の二十時頃、三時間後だね。陳腐なやり方だけど、そこで決闘でもするか?」

「ラム!」

 何かを言いかけたソニアを制して、ラムリーザはレフトールをじっと見つめた。

 レフトールも戸惑いっぱなしだ。ワンパン入れたら気絶するような奴が、堂々としすぎている。

「そこまで話を大きく……、癒し猫の依頼じゃなければこんな面倒な……。じゃなくて、駅裏で三時間後か、いいだろう。来なかったときは、その女共を好きにさせてもらうぜ」

 だが、決闘と言われて引き下がる気は無いレフトールは、嫌味も交えてみる。

「彼女達に手を出すのは感心しないなぁ。君の狙いは僕なのか? 彼女達と遊びたいのか?」

「ふん!」

 レフトールは鼻を鳴らして、その場から立ち去っていった。

 

 ラムリーザは、ソニア達の方を振り返ってにこっと笑顔を見せ、「戦いの準備があるから、今日はこれで失礼するね」と言って、三人を残して下宿先の屋敷へと帰っていった。

 リリスやユコはともかく、ソニアも一緒に住んでいることも忘れて呆然として、立ち去っていくラムリーザを見つめていた。

 

 

 

「はい、こちらフォレスター邸でございます」

 下宿先の屋敷へ戻ってきたラムリーザは、実家に電話をかけていた。

 暴力で突っかかってくる奴に対しては、こちらも暴力で対抗するつもりだった。そのための、保険というか……。

 電話の相手はメイドのナンシー、ソニアの母親だった。

「ラムリーザだけど、母をお願いします」

「あらあら、ラムリーザ様でしたか。承知しました、すぐにお取次ぎを致します」

 しばらく待った後、ラムリーザの母親ソフィアが電話口に現れた。

「どうしましたか?」

「あー、母さん。えーとねー、レイジィはまだ暇しているんだっけ?」

「レイジィ? ああ、彼なら最近は仕事が無くて暇そうにしているわ。そろそろお暇を出そうかと思っていたところです……っ、レイジィ? まさかあなた……」

「うん、まあちょっとめんどくさいことになってね。まだ居てよかった、これで保険がかけられる」

 レイジィとは、ラムリーザに幼い頃から専属で付けられていた警護のような者だ。今はラムリーザも大きくなったので、主に屋敷の警護にあたっている。

「彼をまだ置いておいてよかった。すぐに向かわせますね」

「よろしく」

 帝都から、ここポッターズブラフまで約二時間ってところだ。十分間に合うだろう。

 ラムリーザは、連絡があるまで自室でのんびりと待つことにした。多少遅れても気にしない。レイジィが来てから、決闘の場所へ向かうことにしたのだ。

 そこにソニアが帰ってきた。

 ソニアは、まだラムリーザが部屋に居るのを見て、少し安心したような顔をしたが、すぐに心配そうに駆け寄ってきた。

「ラム、大丈夫なの? 決闘、あたしも行って戦うよ? これで首絞めてやるんだ!」

 ソニアは、履いていたサイハイソックスを脱いで、それをロープのようにして両手で握り締めて見せた。

「いや、危ないって」

「ラムも危ないの一緒じゃない!」

「ふっ、男にはそうせねば、ならぬ時があるんだよ」

「何かっこつけてんのよ! ラムはね……、ラムはあたし達の平和の象徴だったのよ!」

「なんだよそれは……」

 そう言いながらも、ラムリーザは考える。現在、ソニアは不安と心配でいっぱいで、幸せとは言えないだろう。ソニアを幸せにする、それがラムリーザのファーストオーダーである以上、この状況はさっさと片付けなければならない。

 ただ、今は待つだけだ。

「ラムは怖くないの?」

 ソニアは、遠慮がちに尋ねてくる。あまりにもラムリーザが平然としているので、疑問にでも思ったのだろう。

「ん~、あまり怖くないかなぁ。精々小競り合いをするしかできない連中だろうし、フォレスター家の敵になるとは思えないかな」

「話大きくしすぎ。フォレスター家の敵って、ほとんど帝国に反逆しているようなものじゃないの……」

 ラムリーザの父親、ミレニアム・フォレスターは帝国宰相。つまり、ソニアの言う通りなのである。

「そうだね。だから、今回は僕だけでやる。また兄さんが介入してきたら、話が大きくなりすぎるからね」

「でもね、殴られたら痛いでしょ?」

「ん~、覚えてない……かな」

「そっか……、そうなんだよね……」

 ラムリーザは、幸か不幸か少々特異な体質をしていた。

 何度もラムリーザ自身が語ってきたように、ある一定以上の力で一発攻撃を頭に食らうと、その地点で意識を失ってしまう。極端な打たれ弱さとでもいうのか。

 そしてその時、その前後のことは都合よく記憶から消えてしまうのだ。

 この事は、ラムリーザを暴力で屈させようとする者にとっては、やっかいな特質となる。

 まず、一発で気を失うので、それ以上痛い思いをさせることができない。しかも、記憶に残らないので、後から凄んで見せても、その力に怯えることはない。

 それ故に、レフトールと後からでも平然と話せたりするのだ。

 もっとも、軽い打撃だと意識は飛ばない。だがそれでは意味が無い。

 ついこの間のパンチングマシーンでは、少なくともひ100ギガ以上の打撃を与えなければ、それだけでやつけることはできない。

 つまり、ソニアが怒って叩いてきた所で気絶するわけではないので、普通の生活をする上では何の問題も無かったりする。

 

 そうこうしている内に二十時に近づき、ラムリーザの携帯電話に着信が入った。レイジィからだ。

「そういうわけだから、そろそろ行ってくる。あ、食事は帰ってからするって伝えておいてね」

「ほんとうに行っちゃうんだ……」

 ソニアは、鳴きそうな声でつぶやいた。

「大丈夫だって」

 ラムリーザは、ソニアの頭をひと撫ですると、ソファーから立ち上がった。すぐにソニアも立ち上がって言う。

「絶対に無事に戻ってきてね! それだけは約束して!」

「善処する」

 それだけ言うと、ラムリーザはソニアを残して部屋から出て行った。

 

 

 一人残されたソニアは、しばらくラムリーザが出て行った扉を見つめていたが、一度しゃくりあげるともう涙が止まらなくなってしまった。

 しばらく泣いた後、ソニアは涙を流しながら電話をかけた。ソニアが、この世でラムリーザの次に信頼している人物に……。

 

「『ラム兄』助けて、ラムが殺される……」

 
 
 
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