home > 物語 > > TRPG第二弾「カノコの依頼」 第三話

TRPG第二弾「カノコの依頼」 第三話

 

 エア・フィールド・ソードを誇らしく掲げるプリースト、ロザリーンが誕生した。

 

 今日は部室に集まって、テーブルトークゲームで前回の続きをすることになったが、結局魔剣の所持者は、ソニア、リリス、互いに譲らず、結局ロザリーンが持つことでその場を収めることにした。

 というより、そうでもしないと二人が争ってばかりで話を開始することができない。

 前衛が持つことで活躍の場を得ることができる魔剣だが、これは苦肉の策なのだ。ソーサラーのラムリーザは武器で戦う機会が無いし、シーフのリゲルはゲームのルール上この魔剣を使いこなすことができなかった。そこで、剣で戦う機会もあるプリーストのロザリーンが持つことにしたのだ。

「はい、それでは続きを始めますの」

 無駄な時間を過ごしてしまい、ゲームを開始する前からユコは疲れきっていた。前衛二人もゲーム開始前からいがみ合っている。

 ユコは、とりあえずスケルトン・ウォーリアーを出して、戦闘場面にすることで場の空気を回復させようとした。

 だが――。

「敵が出たん? それなら魔剣を装備したローザが戦えばいいんだ。あたしの剣弱いから戦わない」

 早速ソニアは、不貞腐れたような態度を取ってしまう。

「そうねぇロザリーン、魔剣の威力を見せてもらおうかしら」

 リリスも機嫌が悪い。

「ちょっとあなた達! 真面目にプレイしてください!」

「まあいい、このぐらいの敵なら僕達だけでなんとかなるよ」

 ラムリーザはそう言って前に出ると、四体のスケルトン・ウォーリアーの群れにファイアボールをぶち込んだ。

 しかし、スケルトン・ウォーリアーを殲滅することはできず、致命傷を受けた一体を除く他の三体が襲い掛かってきた。

「一体は私が何とかします」

 ロザリーンは、魔剣を振り上げて一体の敵に切り込んでいった。だが、残りの二体がラムリーザに飛び掛ってくる。

「やばい、ソーサラーは装甲が薄いから、こいつらの攻撃ですぐやられるかもしれん」

 ラムリーザも一応ファイター技能を持っているが、ソーサラーの魔法を使うための制約のため、盾を持っていたり鎧を着込んでいるわけではない。

 リゲルも、直接戦闘には不向きなシーフなので、身を挺してラムリーザを救うことはできない。

「大体ソーサラーが前に出すぎているのがいかんのだ」

 リゲルは、ラムリーザの猪突をとがめてきた。

「そんなこと言ったって、前衛が働かないのだから仕方が無いじゃないか」

「ふむ、ソニアは自分勝手な考えでラムリーザを危険な目に合わせるんだな」

 リゲルの辛辣な意見に、ソニアは強気で反論する。

「前衛は魔剣を持ったローザ! ローザがちゃんと戦わないからピンチになるんだ!」

 戦闘放棄してちゃんと戦っていないソニアが、普通に戦っているロザリーンを糾弾する。無茶苦茶だ。

「スケルトン・ウォーリアーの打撃点いくつ? 僕は装甲薄いよ?」

「その時カノコが、ファイア・シュートという炎の矢を飛ばす魔法を使って一体に攻撃すると同時に、プロテクションの魔法をラムリーザにかけて防御を援護してきた」

 ラムリーザは、一体の敵に対して回避ロールを行なうが、回避できずにダメージを食らう。しかし、カノコのかけてくれたプロテクションの効果で、致命傷は免れることができた。

「ありがとう、カノコちゃん」

 ラムリーザは、実際にはこの場に居ないNPCのカノコにお礼を言う。

 だがリゲルは、「待てよ」と口を挟んできた。

「さっき同時に魔法と言わなかったか? 魔法は一ターンに一つしか使えないはずだが?」

「はい、カノコはスピード・スペルという魔法技能を持っていて、一ターンに二つの魔法を使うことができるのですわ」

「なんやそれ……」

 リゲルは、ユコの作り上げたオリジナルルールに眉をひそめた。だが、それほどルールを熟知していないラムリーザには、ものすごく魅力的に見えていた。

「へぇ、それはすごいね。僕もそれを使って、右手からファイアボール、左手からブリザード、合わせてヘルファイア! とか合成魔法ができるんだね」

「いいえ、スピード・スペルはカノコが独自に開発したもので、一部の人しか知りません。また、彼女以外が使用することは、事実上不可能ですの」

「なんやそれ……」

 ラムリーザは落胆して、リゲルと同じ台詞をつぶやいた。

「まあよい。それよりもだ、今回の敵が魔剣でも隠し持っていたことにして出せよ」

 リゲルは、ゲームマスターに命令するという越権行為を仕掛けてきた。自分の作ってきたシナリオ口を出されたユコは、一瞬嫌な顔をしたが、ソニアとリリスの様子を見て、「それもそうですね」と答えた。

「ええと、スケルトン・ウォーリアを退治したあなたたちは、敵の持っていた装備の一つ魔剣マインド・スマッシャー を手に入れることができましたわ」

「あ、それならソニアとリリスで魔剣を一本ずつ分けることができるね」

「スケルトン・ウォーリアーは、剣まで含めて一つのパペットゴーレムのはずだが……」

 いいアイデアだねと喜ぶラムリーザと、その判断に突っ込みを入れるリゲル。

「何ですの! あなたが出せと言ったんじゃないですか!」

 リゲルは、自分で良い案を出しておきながら、後でその案の欠点を突いてくる。そう、先日のネットオークションでの海賊船長エルリグのように。

「あたしエア・フィールド・ソードがいいから、リリスがマインド・スマッシャー持ったらいい」

「ダメよ、私がエア・フィールド・ソードを使うわ」

 どうやら魔剣を二本出しても、この二人はいがみ合うようだ。

「マインド・スマッシャーの方ががっこいいと思うから、ソニアはそっちにしなさい」

 ほっといたら延々と平行線を辿るので、ラムリーザは根拠の無い理論を作り上げて、ソニアを一歩引かせることにした。

 ラムリーザに諭されて、ソニアは大人しく引き下がった――、と見せかけて、最後っ屁を放つ。

「エア・フィールド・ソードを使ってたら、ノーエアーうんこが出やすくなってとりかえしのつかないことになるんだ。陰湿なリリスにぴったりね」

「マインド・スマッシャーって呪われた剣で、装備すると足元が見えなくなるのよ、怖いわね。まぁあなたは元から見えてないから関係ないけどね、くすっ」

 不毛な争いならリリスも負けてはいない。

「二本とも呪われた魔剣でいいから、ゲームマスター、話を進めてくれ」

 ラムリーザは、どうでもいいことはスルーして、ユコにゲームの続きを語らせた。

 

「さて、地下四階まで潜ったあなたたちは、また新しい部屋へたどり着いた。カノコが――」

「カノコの傍を離れない」

 ラムリーザは、くい気味でカノコを守ろうとしてみた。前回、カノコが閉じ込められたことがあったからだ。

「カノコが部屋に入ったとたん、クリスタル状の物質に閉じ込められてしまった」

 ――が、残念ながら無理だった。カノコを救うことはできなかった。

「部屋に持って帰って飾る」

「その時、どこからともなく『彼女を助けたくば、汝らの覚悟を見せよ』という言葉が聞こえてきましたわ」

 ソニアの宣言を無視して、ユコは物語を進めた。

「覚悟か……」

「今は十七時だよ」

 ラムリーザは、ソニアがいきなり時刻を告げてきたので何事かと思って聞き返した。

「だってさっきユコが、何時? って聞いたから」

「いや、それ『なんじ』違いだから……」

「あほはほっといて、カノコを助ける方法を考えましょう」

 リリスは、またソニアに喧嘩を売ってくる。

 ラムリーザは、いきり立つソニアを抱えて押さえ、「覚悟って何だろうね?」とみんなに聞いた。

「そうだソニア、あなたそのJカップかKカップか知らないけど、それでクリスタルを挟んでみなさいよ」

 リリスはさらに喧嘩を売ってくる。どうも魔剣絡みの件で、今日の二人はいつもに増して仲が悪い。

「なんでそんな変態じみたことしなくちゃダメなのよ!」

「そのぐらい覚悟をみせなさい、一メートル様」

「だまれちっぱい! この大平原!」

 リリスのどこが大平原なのかわからないが、比較の問題でソニアから見たら大平原なのだろう。

「覚悟を見せるって、他の作品――、あの、ユコさんが知っている作品でそのようなケースはありましたか?」

 ソニアとリリスが喧嘩をしている一方で、ロザリーンはリゲルと相談している。ラムリーザは、どちらに加わるか考えようとして、その考え自体が無意味だということにすぐ気が付いた。

「クリスタルを破壊……、いや削ることはできないかな?」

 ラムリーザの質問は、「クリスタルは破壊不可能です」という答えだった。

「あっ、そうだ。覚悟を決めてクリスタルにナリオふりかけをかけます!」

 ソニアはは、ゲームマスターユコではなく、リリスの方を向いて宣言した。明らかにゲームではなくて、単純にリリスに嫌味を言っていること間違いなし。

 ナリオ製品で痛い目に合ったリリスは、ギリリと歯軋りをする。

 場は、ユコから見て真っ二つに割れていた。二人掛けのソファーと、一人掛けのソファーが二つずつ向き合った場所。

 ゲームマスターのユコは一人掛けのソファーに座り、マスターシートで手元を隠している。ユコの正面の一人掛けにはリゲルが陣取り、二人掛けにはユコから見て、リリスとロザリーン、ソニアとラムリーザが座っていた。

 ゲームマスターの手前に不真面目な二人が居るものだから、非常にやりにくい。

 結局ソニアとリリスはお互い正面を向いたまま罵り合い、それを無視して残りの三人は相談していた。

「この場合、クリスタルの前で何かしらの行動を見せるか、クリスタルに何か手を加えるかのどちらかだ」

「あなた、クリスタルの前で着ている物を全部脱ぎ捨てなさいよ」

「クリスタルに水でもかけてみるか?」

「クリスタルにナリオカレーをかける」

「水をかけることが覚悟になるかしら? 覚悟と言うぐらいだから、それなりのことはやって見せないと」

「あなた、クリスタルの前でオ○ニーしてみなさいよ」

「覚悟を決めた時、リゲルなら何をする?」

「そうだな、商談とかなら土下座もありうるが、俺はそこまで卑屈になれない」

「リリスをクリスタルの前で土下座させる」

「ユコさんの持ってきたシナリオですから、元ネタがあるはず。カノコって何でしたっけ?」

「エロゲ――こほん、美少女ゲームのヒロインだ」

「というと、覚悟を決めるとなると、告白かな?」

「ラムリーザ告白してみろ」

「な、なんで僕が……」

「あなた、ラムリーザよりカノコが好きと言いなさい。それでラムリーザは私に譲りなさい」

「な、なんであんたなんかに!」

「ラムリーザ……」

「ん?」

「とりあえずそっちのあほを黙らせろ」

「リリスにクリスタルをなめさせ――むーっむーっ!」

 ラムリーザは、ソニアを抱え込んで、自分の胸にソニアの顔を押し付けて抱きしめた。片方が黙れば、罵り合いは終わる。

 雑音は消え去り、再び作戦会議が始まった。

「覚悟を見せる、覚悟を決めたとき、どのようなことをするのか……」

「カノコというキャラはこの際関係ないだろう。ユコはただゲームから名前を取っただけで、実体はオリジナルルールを振りかざすチート魔導師だ」

「そういえば――、いえ、関係ないかもしれませんが――」

 ロザリーンは、あらかじめそう断って話を続けた。

「私、先日新開地の開発について聞いてから、シロヴィーリについていろいろ調べてみたのです」

「シロヴィーリ?」

「まぁ、確かにゲームとは関係無さそうだがな」

「シロヴィーリでは、誓いの文章などで血判状というものが使われているそうです。書状で覚悟を見せる際に、自らの血液で捺印するらしいです」

「血液か……」

 少しの間、部室内に沈黙が訪れた。

 その沈黙を破ったのは、リリスとラムリーザだった。

「ソニアは処女じゃないから血液は――」

「マスター! クリスタルに血液で捺印します!」

 リリスがいらんことを言いそうになったので、ラムリーザは慌てて遮って宣言した。

「もっと豪勢に言って欲しいですの!」

「手の甲を切りつけて、鮮血を浴びせる!」

「ビンゴ! クリスタルは砕け散り、カノコは解き放たれました」

 ラムリーザ達三人は、やれやれと肩をなでおろす。ソニアは顔を押し付けられていたラムリーザから開放されて、プハーッと深呼吸をする。リリスはすまし顔でとくに何もしない。

「さて、地下四階は他に行くところは無く、いよいよ最後の地下五階に通じる階段へと辿りついた。あなたたちは――」

 そこで、いつもの下校の時間を告げる放送が流れ始めた。

「今日はここまでだね」

「ああもう、リリスとソニアが文句ばっかり言うから、あまり話が進みませんでしたの!」

「リリスが悪い」

「ソニアが悪い」

「魔剣を二本用意するという機転を利かせられないユコが悪い」

「リゲルさん!」

 ソニアとリリスの言い合いはいつものことだから無視するものの、リゲルの指摘してきた所はユコも痛かったので思わず怒鳴り返してしまった。

 リゲルは肩をすくめると、さっさと鞄を手にとって帰宅してしまった。

「続きは明日――、いや明日は練習する日にして、明後日にしようね」

 年末頃は遊んでばかりだったので、今年に入ってからはせめて遊びと練習を半々にしようとしていた。

 というわけで、次回はいよいよダンジョン最深部。

 霊薬エリクシャーは見つかるのか?

 強敵が待ち構えていたりするのか?

 今は、わからない……

 
 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2018
新しい記事
古い記事

return to page top

©発行年-2019 らむの夢日記