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動画再生回数戦争 ~前編 自作自演~

 

 翌日、朝の会話は昨日の結果についての話から始まった。

 ソニアとリリスは、次の新曲のリードボーカルの座を賭けて、ゲームの実況動画を動画投稿サイトに載せて、その再生数を競うという話になったのだ。二人とも動画を作成しているはずだ。

 中立の立場に居るロザリーンが、二人のアカウントをチェックして、再生数を確認する。

「ええと、ソニアさんの再生数は六回で、リリスさんの再生数は十回ですね」

「少ないですわね」

 ロザリーンの結果を聞いて、ユコは素直に感想を述べた。

「こういった動画が、一晩でどれだけ再生されるのが普通なのか私はわかりませんから、何とも言えませんが」

 ロザリーンの方は、判断しかねるといった具合だ。

「でも、S&Mのゲリラダンス動画は、すぐに数百回再生されていますわ」

 ユコはS&M、ソフィリータとミーシャが投稿している動画を比較に挙げて、ソニアとリリスが如何に再生されていないかを語った。

「むっ……」

 ソニアとリリスは、同時に唸って黙り込む。

 ラムリーザは、ソニアの動画がどんなものか知っているので、「面白い」というタイトルに吊られて見てしまった人が六人居るんだな、としか思わなかった。

「まぁソニアに四回差をつけて勝っているし――、あ、そうだわ。ラムリーザ、あなたも私の動画を見なさいよ」

 リリスは、自分の携帯型情報端末をラムリーザに渡しながら言ってきた。ついでに再生数を一つ稼ぐつもりなのだろう。

「あ、それずるい、あたしのも見て!」

 ソニアは文句を言うが、ソニアの動画は昨夜一度みた限りで十分、ラムリーザは二度と見ようとは思わない。ソニアの動画を見るより、ソニアと一緒に遊んでいる方が、よっぽど楽しい。

 それでもとりあえず、リリスも作ったというのだから、友人のよしみで一度は見てあげよう。

 ラムリーザはそう思って、リリスから端末を受け取ると、イヤホンを取り付けて視聴し始めた。

 リリスの扱ったゲームは、以前みんなで遊んだ箱庭ゲーム、マインビルダーズだ。まだプレイしているということは、よっぽど気に入ったのだろう。

『え、あ、えと、今から、マインビルダーズのプレイ、始めま、す』

 最初の挨拶もぎこちないが、途切れ途切れにぼそぼそとつぶやくリリスの声がかぶさっている。無理をして話をしているのが丸分かりだ。というか、注意して聞いていないと、何を言っているのかよくわからない。

 リリスは、ソニアと騒いでいる時は、感情が高ぶって声が大きいが、普段は誘うような囁き声で話しかけてくる。

 ラムリーザに対して話すように、誘うような話し方をすればそれなりに聞いていて面白いかもしれないが、ラムリーザを誘惑しようという気が起きない、一人でゲームプレイ中にそのような声色を使おうという気にはならず、酷い棒読みでつぶやいているだけだ。

 さらに酷い言い方をすれば、元々「根暗吸血鬼」とはやし立てられていたような人物。ソニアみたいな爆弾と一緒に居ないと、リリスは基本的に物静かだ。

『えっと……、石を、積んで家を、作り……』

 終始、こんな具合にしゃべる声が入っている。

 要するに、ソニア同様リリスの動画も、ほとんど実況をしていない。ゲームの中で石や土を盛りながら、時々ぼそっとつぶやいているだけだ。これなら台詞の入っていないプレイ動画とほとんど変わらない。

「うん、面白かったよ」

 ここでもラムリーザは、無難な返事をしておく。流石につまらなかったよ、とは言えない。

 正直な感想を述べると、リリスが一人で遊んでいる動画を見るより、みんなで集まってわいわい言いながらプレイする方が面白いと感じていた。久しぶりに集まってプレイしようかな、という気持ちも浮かんでいた。

 そこでリリスは、勝ち誇った表情をソニアに向けて言った。

「これで私は再生数十一回、あなたとの差は五回、私が勝ってるわ」

「ずいぶんと低レベルな争いですわねぇ」

 リリスはむっとした顔つきになり、ソニアは面白く無さそうな顔をしているが、ユコの言うとおり、なんともまぁ低レベルな争いだ。

 ただこの日は何事も無く過ごし、放課後もとりあえずバンドの練習をして解散となった。

 明日か明後日までに、ユコは新しいテーブルトークゲームでカノコ絡みのシナリオを作成すると言っていた。

 

 その日の夜、ソニアはマイコンで自分のアカウントをじっと観察しながら過ごしていた。

「う~ん、なんで再生数伸びないかな、こんなに面白いのに」

 ソニアは楽しんで動画を作っているが、見て面白いとはまた別次元の話だ。

 ラムリーザは、マイコンとにらめっこをしているソニアを他所に、四国無双の練習をしていた。じっくりプレイしてみると、なかなか面白い。

 この面白いゲームを、ソニアが実況すると面白くなくなるから不思議だ。

 ソニアは、マイコンで自分の動画を再生してみた。

 再生回数は十回に増えている。数人の誰かが「面白い」タイトルに吊られて開いたのだろう。

 ソニアは、最初から見直そうと思って、画面の更新ボタンを押した。すると、再生回数は、十一回になっていた。

 ソニアは、そこで何かに気がついた。すぐに気がついたことを実行してみる。

「ひょっとして……」

 ラムリーザは、ぼそっとつぶやいたソニアをちらっと見たが、すぐにゲームの画面へと視線を戻した。気を抜くと敵に囲まれてボコボコにされてしまう。

 ソニアは、再び画面の更新ボタンを押す。再生回数は、十二回。もう一度押す、十三回。さらに押す……。

 

 ………

 ……

 …

 

 ソニアは、黙々とマイコンに向かって作業を続けている。

「何をやってんだ?」

「いいの!」

 ラムリーザは不審に思って尋ねたが、ソニアはキーボードのボタンの一つを、カチッ、カチッとクリックし続けていた。そしてその行為は、寝る前の時間まで続いた。

 

 

 翌日――。

 

 ロザリーンの確認から朝の会話は始まった。

「ええと、リリスさんは動画が二つで、一本目の再生回数が二十三回、二本目が六回、合わせて二十九回ですね。それでソニアさんは、あっすごい、昨日の動画が七百三十六回再生されてますよ。でも二本目は投稿されてませんね」

「ちょっと、何よそれ! 何でソニアの動画がそんなに伸びるのよ!」

 リリスは、ガバッと身を起こして激高する。

「知らないわよ! 面白い動画だからみんな見てくれたんじゃないの?! 何も不正はしてないわ!」

 ソニアは、知らん顔で反論する。ただ、その目は多少泳いでいる。不正かどうか知らないが、その再生回数のほとんど全てが自分のクリックだ。

 リリスは、じっとラムリーザの目を見つめてきた。その目は、ラムリーザを疑っている。

「いや、僕は何もしてないよ」

 ラムリーザは首を振りながら素直に答える。ソニアが何かマイコンで操作していたが、何をやっていたかまでは、はっきりとわかっていなかった。

「昨夜、ソニアは何をしていたのかしら?」

 リリスは、ラムリーザにソニアの行動を尋ねてきた。ラムリーザは、とくに隠す必要も無いので、これも素直に答えようとした。

「何かマイコンでクリック――」

「ココちゃんぷにぷにクッション! ココちゃんはクッションだから、クッションらしくしないとダメ!」

 突然ソニアが被さってきて、ラムリーザの発言を遮った。

「マイコンで何?」

 リリスは、さらに問い詰めてくる。

「自分の動画を――」

「はげぼうず! ココちゃん、はげぼうずだから、帽子被ってないとダメ!」

 またしてもソニアが大声で邪魔をする。

 リリスは席を立つと、ぐるりと回ってラムリーザの傍にやってきた。そしてラムリーザの手を引っ張ると、そのまま教室の外まで連れて行った。

 ソニアが慌てて追いかけてくるが、リリスは素早く隣のクラスへラムリーザを連れ込むと、ぴしゃりとドアを閉めた。

「リリス! どこに行った?!」

 ソニアの叫ぶ声が、徐々に遠くなっていった。

 リリスは、隣のクラスの生徒がじっと見つめているのも気にせずに、ラムリーザの方へ顔を近づけた。そして、同じ質問をする。

「昨夜、ソニアは何をしていたのかしら?」

 ラムリーザは、その誘惑的な瞳に戸惑ってしまい、チラチラと目線を周囲に向けながら、ぼそぼそと答えた。

「何かマイコンで自分の動画を見ながらクリックしていた……。たぶんひたすら画面更新していたんだと思う……」

 リリスは、チッと舌打ちをしてラムリーザを開放した。そこでようやく周囲の視線に気が付き、逃げるように隣のクラスから飛び出していった。

 その日はずっと、ソニアとリリスの二人はギスギスした感じになっていた。

 

 放課後、ユコはわくわくした口調でみんなに語りかけた。

「カノコの依頼、第二弾が完成しましたわ、さっそくゲームをしましょう」

「私今日はパス、帰る」

 リリスは、さっさと帰宅準備をして教室から出て行ってしまった。おそらく家に帰ってから、自分の動画の画面を更新し続けるつもりなんだろう。

「あたしも帰る!」

 ソニアも、後を追うように教室から飛び出す。リリスに昨夜のことがばれてしまった以上、今後はクリック合戦になることは間違いないと見える。

「何ですの?! 前もこんなことありませんでしたか?!」

 前回のリードボーカル合戦、ネトオク勝負の時に、ソニアは仕入れのために、毎日学校が終わるとすぐに帝都へ通っていた。

 そのため、ユコの用意したゲームは一週間塩漬けにされる結果になっていた。

「ははは、僕は今回はプレイできるよ」

 ラムリーザは笑って慰めるが、まったく意味が無い。戦闘の主力二人が抜けてはゲームにならないことは明白だ。

 ユコは憤慨するが、ラムリーザに怒りをぶつけるわけにもいかず、振り上げた拳の落とし所に迷っているようだった。

 こうなるとリゲルも、ロザリーンと一緒にさっさと天文部へと行ってしまう。

「よぉラムさん、久しぶりに遊びに来たぜ」

 そこにレフトールが現れる。しかし、すぐにユコに捕まってしまった。

「いい所に来ましたわ、レフトールさん。これからゲーセンに行きますの!」

「ゲ、ゲーセン?!」

「そうですの! ラムリーザ様も来てもらいますわ!」

 とりあえず、来週の決着の日まで、テーブルトークゲームはお預けだろうね。

 ラムリーザは、日がくれるまでユコとレフトールと一緒に、ゲームセンターで遊んで帰った。

 

 その夜――。

 ソニアはゲーム実況動画を作るという興味は、既にどこかへぶっとんでしまっていた。

 ただひたすら、マイコンで自分の動画が表示されている画面を更新し続けるのだった……。

 
 
 
 
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