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面白いゲーム実況って何?

 

 この日の昼休み、ソニアは嬉しそうに自分の持っている携帯型情報端末キュリオをリリスに手渡した。早速昨日作ったゲーム実況の動画を見せようとしているのだ。

「キュリオがどうしたのかしら?」

 リリスはよくわかっていないようなので、ソニアは少し操作して、端末内のアーカイブから動画を呼び出してスタートさせた。

「あっ、ちょっと待った」

 ラムリーザは、二人の様子を察知してすぐに声をかけた。

「できれば、イヤホンでも使って聞いてくれないかな?」

 自分の恥ずかしい台詞を、教室内でぶちまけて欲しくなかったのだ。

 リリスは素直にイヤホンを取り付けて聞き始めた。教室内はざわざわしていて、イヤホンで聞かないと、大音量で流さない限り音はほとんど聞こえないというのもあった。

 ラムリーザは、リリスの反応を見るのが怖くて、身体の向きを変えると外の景色を眺め始めた。

「ラムリーザ様」

 そこにユコが話しかけてくる。ラムリーザは、リリスの姿が視界に入らないように調整してユコの方を振り返った。

「なんだい?」

「新しい楽譜が完成しましたの。四国無双のエンディングテーマ、生路ですの」

「お、おう、それはすごいね」

 ラムリーザは、四国無双というゲームタイトルを聞いてビクッとした。どうしても、リリスが見ているゲーム実況動画が気になってしまう。

「ラムリーザ様、今度一緒にプレイしません? ラムリーザ様の屋敷に遊びに行きたいですの」

「ソニアが邪魔をすると思うぞ」

 そう言いながらも、ラムリーザは気が気ではなかった。どうしても、昨夜の事を気にしてしまう。

 ちらっとリリスの方を見てみると、ちょうどその時目と目が合ってしまった。

 ラムリーザはすぐに視線を逸らしたので、リリスがその後どう見ていたかわからない。しかし、おっぱい揉み揉み発言を聞かれるのも時間の問題だ。

 リゲルの方を見ると、リゲルも携帯端末にイヤホンを挿して何かを聞いている。

 ラムリーザが「何の動画を見ているの?」と聞くと、リゲルは「何も聞いていない」と答えて端末を隠してしまった。妙な行動をするものだ。

 その内、ソニアの作った動画をリリスは見終わったようだ。

 携帯端末をソニアに返して、いの一番に発言した内容がこれまたぶっ飛んでいて、ラムリーザは嫌な予感しかしなかった。

「さっきユコは、新しい楽譜ができたって言ったよね? じゃあ次のリードボーカル争奪戦は、ゲーム実況動画の再生数で勝負しましょう」

 ラムリーザは、何も答えることができなかった。

 少なくとも、リリスはソニアの動画を見て、自分もやってみたいという気になったのは間違いない。

 だがラムリーザは、自分のおっぱい揉み揉み発言をリリスがどう受け取ったかが気になって仕方が無かったりしている。

「その勝負、受けた!」

 そんなラムリーザの心配は他所に、当然ソニアも承諾する。

「僕は――」

「ラムリーザ」

 リリスに発言を遮られ、ラムリーザは「はい」と答える。リリスは、ラムリーザの目をじっと見つめながら、言葉を続けた。早速おっぱい揉み揉み発言に対しての突っ込みか?

「ソニアの手伝いをするのは禁止よ」

 ラムリーザは、ホッとした。リリスに言われるまでもない、もともと「僕はやらないよ」と言いたかっただけだ。

 わざわざ卑猥な発言を全国放送してしまう危険性を犯す気は無かった。普段通りにソニアと会話するだけで、絶対おっぱい発言してしまうのは間違いない。

「それとラムリーザ」

 リリスはまだ何か言いたいことがあるようで、ラムリーザから視線を外さない。

「マイコン買って頂戴」

「む……」

 動画を作るためには、一般向けのコンピューターのマイコンが必要だ。これは決して安い物ではなく、リリスにとって手が届くようなものではなかった。そこで、早速たかりにきたようだ。

「あ、ずるいですわ。私もマイコン使って音楽の打ち込みとかやってみたいと思っていたのに」

「ラムリーザ、ソニアには買ってあげたのに、私には買ってくれないの?」

「いやそれはその、ね」

「買ってくれないの?」

「…………」

 リリスはラムリーザに接近して、誘惑的な視線でじっと見つめてくる。どさくさにまぎれて、ユコもねだってくる。

「誰がリリスなんかに買ってあげるか! ラムはあたしに買ってくれるだけでいいの!」

 ソニアは、ラムリーザに接近するリリスを押しのけて叫ぶ。

「まあいいわ。買ってくれないのなら、さっきの動画を広めるから」

 リリスは身を引きながら、サラッととんでもないことを言い出した。

「ま、待ってくれ、何だそれは?!」

 ラムリーザは慌てて問いただす。

「今の動画、私の端末のアーカイブにもコピーしておいたわ」

 どうやらリリスにしてやられたようだ。

 ラムリーザは観念して、リリスとユコにマイコンを買ってあげるハメになってしまった。

「それでは、お互いに動画共有サイトにアカウント作って、これから一週間の再生数を競い合うというルールでスタートね」

 エルム街での別れ際、リリスはそう宣言して帰っていった。

 

 その日の夕食後、ソニアは早速ゲーム実況動画の作成に取り掛かっていた。

 むろんラムリーザは見ているだけ。余計な口出しをして、わざわざ全国に恥ずかしい台詞を流す危険を避けた。

 リリスからソニアの手伝いを禁止されていたが、別に禁止されていなくてもやる気は無かった。やるなら一人でやる。ソニアと一緒にやれば、ろくなことをしゃべりそうな気がしない。というか、実際におっぱい発言という前例がある。

 ゲームは昨日に引き続き、今が旬の四国無双。ソニアは、「うりゃ~、とりゃ~」等と言いながら、一人で敵陣に突入している。相変わらず掛け声ばかりで、全然実況していないようだ。まずは字幕を読み上げるところから手をつけてもいいとラムリーザは思うが、好きにやらせることにした。ラムリーザには関係ない。

 ラムリーザは、やることが無いのでとりあえず先に入浴を済ませることにした。

 ソファーから立ち上がると、ソニアは「何処に行くの?」と聞いてきた。収録中じゃなかったっけ?

 ラムリーザは、「風呂に入ってくる」と答えて、あっと小さく言って口に手を当てたが、時既に遅し。ソニアのヘッドセットのマイクが今の発言を拾ってなければいいと考えたが、特に恥ずかしい台詞じゃなかったので考えるのを止めた。

「待って、あたしも一緒に入る」

 しかし、その後のソニアの台詞が問題発言だった。

 マイクの感度が良ければ、これで男性の声で「風呂に入ってくる」という台詞が流れた後に、女性の声で「待って、あたしも一緒に入る」という台詞が収録されたことになる。

 ラムリーザは、頭を抱えたくなって、そのままソファーにどしんとしりもちをついて座り込んだ。

 結局、収録が終わるまで、ラムリーザは口をつぐんでじっとしている他無かった。いっそのこと、「おい、引き篭もり!」などと茶々を入れてやっても良いのだが、そんなしょうもない台詞を全国に晒す勇気は無かった。

 

 収録と編集が終わり、エンコードの時間中に二人は一緒に入浴を済ませることにした。

 そして、入浴から戻ってきてから、ラムリーザは早速先程の動画のチェックを始めた。

 動画の出来はともかく、問題発言というか、問題の会話が入っているかどうか確認しておく必要があった。

 もしもラムリーザの台詞が入っていたら、再編集して消してもらうことにするつもりだった。

『何処に行くの?』

 該当する箇所に到達した。ゲーム内容と関係の無いソニアの一言。

 だが、その次に発したラムリーザの声は、小さくてゲームの音にかき消されているのか入っていなかった。

『待って、あたしも一緒に入る』

 ラムリーザは安心した。入浴に関する会話は、ソニアの独り言になっていた。

「ねぇラム、どう? 面白い?」

「あ、うん。面白いよ」

 とりあえずラムリーザは無難な返事をしておく。

 ソニアの作った動画は、ゲーム実況と謳っているが、はっきり言って実況になっていない。傍で聞いていたとおり、「うりゃ~、とりゃ~」だけで、全然話をしていない。

 それでも、ソニアが不機嫌にならないように、ラムリーザは面白かったということにしておいた。

 この動画でリリスと勝負をすること自体が無謀だと思うが、まぁソニアのやりたいようにさせておけばよい。別に誰かに害が出るわけでもないのだから。

 ソニアは、再びマイコンを操作している。

「まだやることがあるのかい?」

 ラムリーザは、ソニアの後ろからマイコンの画面を覗きながら言った。

「動画共有サイトにアカウント作っているの」

 ソニアは、カタカタとマイコンのキーボードを叩きながら答えた。画面には「フニフニ動画」などと載っている。それが動画共有サイトの名前なのだろう。

 ソニアの作ったアカウント名は、「面白いゲーム実況大集合」だった。タイトルはともかく、面白いのかどうか分からない動画が載っているページになるだろう。だが別にページタイトル詐欺でもいいだろう。先程も述べたが、別に誰かに害が出るわけでもないのだから。

 それで先程の動画は、「面白い四国無双実況」とネーミングされていた。安直なネーミングだが、ソニアは「面白い」にこだわっているようだ。

 面白い奴だ。

 ラムリーザは、面白いソニアを後ろからぎゅっと抱きしめ、そのまま二人は寝る前の運動に移った。

 面白きかな、面白きかな――。

 
 
 
 
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