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なんかもう初日から無茶苦茶

 

 二年目の学校生活始まりの朝、去年と同じような座席配置となったラムリーザは、いつも通り引っ付いてきているソニアに背を預けもたれて、窓から外の景色を眺めていた。

 前の席からレフトールがしきりと話しかけてくるが、ラムリーザは「うん、うん」と返事するだけだ。それでもレフトールは、べらべらとしゃべり続ける。

 そこでラムリーザは、レフトールの子分一号マックスウェルが、いつもぼんやりしているのが何故だかわかったような気がした。レフトールの相手をしていると、適当に相槌を打つだけでどんどん話が進んでいくので、ほとんど聞いているだけでいい。

 そんな感じに、まるでラジオでも聞いているかのように、ラムリーザもぼんやりしかけた時である。

「レフトールさん、そこは私の席です、退いて下さいですの!」

 聞き慣れた声、しかし、ここに居るはずのない声。

「あらぁ? お前、おらんようになったんとちゃうん?」

 いきなり席をどくように言われたレフトールは、驚いたような声をあげるが、驚いたのはラムリーザも一緒だった。おそらくこの場にいる者全てが驚いているだろう。

「ユコ? なんで?」

 そこに現れたのは、ユコ・メープルタウン。ラムリーザにとっては去年知り合った友人で、リリスとは中学以来の付き合いだ。しかし彼女はこの春、親の仕事の関係で新しい街へと引っ越すことになり、お別れ会までやったはずだ。それが急に現れたのだ。

「引越し先、新しい街って、フォレストピアのことでしたの……」

 ユコは顔を赤らめ、決まりの悪そうな表情で、ちらちらと視線を泳がせながら答えた。

 フォレストピアへの引越しなら、ラムリーザも同じなのでわざわざ転校する必要は無い。

「そういや去年はお前がここに座っていたな」

 レフトールはしぶしぶユコに座席を明け渡し、その前に座っていた生徒に対して「どけやコラ!」と凄んで見せて追い払い、ユコの前に当たる座席を確保した。

 レフトールが移動すると、すかさず隣の席に座っていた生徒は怖がって逃げ出してしまった。やはりラムリーザ達にとってはお調子者でも、それ以外の生徒にとってはまだまだ脅威の存在であるようだ。

 レフトールはさらに、自分の前の席にマックスウェルを呼びつけたりしている。

 ラムリーザは、グループの中でただ一人顔色を変えないリゲルが気になった。いつも通りの平静さなのか、それとも――。

「リゲル、ひょっとして知ってた?」

 おそるおそる、ラムリーザはリゲルに尋ねてみた。

「ああ、知ってた」

「な、何故?!」

 ラムリーザは絶句した。知っていてなぜ黙っているのだこの男は?!

「お前が俺の親にあいつについて頼んでくれと言った時に話をしたが、仕事の移転先がフォレストピアだと聞いて、転校はないなと分かったので、気にしなくていいと答えただろ?」

 確かにリゲルは、先月にフォレストピアの最終視察に行った時、行きの車の中でユコについて尋ねたときに「気にしなくていい」と答えた。だかその一言だけで、転校は無いとは言っていない。

 ラムリーザは、リゲルが父親との会話が上手くいかなかったのではぐらかしたのかと思ったが、まさかこんなオチが用意されているとは。

 そういえば、ユコの引っ越しを見送りに行った日、「茶番劇」と評していたような気がする。なんて男だ全く、一杯食わされた……。

「しかしそれなら何故春休みに会わなかったのだろうか? ユコも言ってくれればよかったのに」

「いえ、その……、お別れ回まで開いてもらって、それで出てくるのってなんだか恥ずかしくて……、春休み中ずっと引きこもってましたの……」

 だがリリスにとってはそんなことはどうでもいいようで、またユコと一緒に暮らせる喜びを身体全体で表現している。席に座ったままだが、ユコに抱きついていたりする。

「よかった! また一緒に遊べるね!」

 リリスは朝一番に会った時は元気が無い感じだったが、今ではもうなんだかはしゃぎまくっている感じだ。

「ええ、これからもよろしくですわ」

 ユコも、リリスに抱きつき返している。二人はしばらくの間、抱き合ったままもぞもぞとしていた。

 そこに、ソニアの怒ったような声が響いた。

「ココちゃん返して!」

「はい?」

 ユコは、険しい表情のソニアを見て、不思議そうな顔をする。

「ユッコが居なくなるからあげたんじゃなくて貸しただけ、再会したら返してもらうことになってた。だからココちゃん返して!」

 ココちゃんとは、ソニアが可愛がっていた(?)、白いずんぐりむっくりとしてぬいぐるみのことだ。

 お別れ会のプレゼントで渡していたが、確かに「また会う日まで貸すだけ」とは言っていた。

 しかし、ユコもココちゃんは前から欲しいと思っていたぬいぐるみだ。

「もらったものは私のものですの」と答えて知らん振り。

「あげてない! 貸しただけ! 返せこの引退するする詐欺!」

 ソニアは、さらにリゲルを批判してきた。

「リゲルが最初から本当のこと言ってくれてたらココちゃん渡さなかった! リゲルのせいでユッコにココちゃん取られた! 責任もって取り返して!」

「それはそうだな、リゲル、君のせいでこうなったんだ。ココちゃんはソニアお気に入りのぬいぐるみだから、返してやるように言うべきだな」

 ラムリーザも助け舟を出すが、ソニアは「ぬいぐるみじゃない! クッション!」とこの期に及んでもクッションとぬいぐるみの違いを気にしている。

 リゲルは、ぬいぐるみ騒ぎなどどうでもよいが、確かに自分のせいでソニアが困っているのはわかったので、ユコに言って聞かせた。

「ん、そうだ。約束は約束なのだから、そのぬいぐるみを返してやるのだな」

 ぬいぐるみの言葉が上がるたびにソニアは否定するが、そんなことはどうでもいい。

「でもぉ……」

 だがユコはしぶる。ユコ的には返したくない。ココちゃんをずっと自分のものにしておきたい。

「返してやれ」

 リゲルは、責任を持って取り返すために、じっとユコの瞳を見据えた。そのするどい眼光に押されてユコは、「わかりましたわ、明日持ってきます」と答えることになった。

 どうやらソニアは、無事にユコからココちゃんを取り返せたようだ。

 

 そうこうしている内に、新しい担任の教師が入ってきたので、全員席について落ち着き始めた。

 教師は挨拶と自己紹介を済ませた後、転校生の紹介を始めた。年の変わりだから、この時期に転校生が入ってきてもそれほど目立たないが、とりあえず形式というやつだろう。

「今日から皆さんと一緒に学校生活を送る友人を紹介します、入ってきなさい」

 ユコが転校していくのではなく、新しい転入生。まあいいだろう。

「先生ー、そいつは野郎ですか? 女ですか?」

 レフトールの軽口が教室に響く。

「君が何を期待しているのかはわからないが、男子だ」

 教師は、レフトールの軽口にも毅然と答える。

「ちぇっ、ギャルゲーの展開だと、ここは普通女だぜ? んでツンデレでさ、主人公と新しい関係ができてさ、幼馴染をぶっちぎって勝利するんだぜ?」

「ここはギャルゲーじゃないし、レフは主人公でもないし幼馴染も居ないけどな」

 レフトールがぼやくのを、マックスウェルはめんどくさそうに言い返した。

 すぐに転校生は入ってきて、元気良く挨拶を始めた。

「初めましての人は初めまして、そうでない人はおはよう、こんにちは、こんばんは――」

「なんだそりゃ、ベタベタなゲーム実況者の挨拶じゃねぇか……」

 レフトールは、興味無さそうに机に突っ伏している。

「おまっ、何でっ?!」

 転校生の挨拶を遮って、その場に立ち上がって叫んだのはラムリーザだ。

「お、おおっ、お前は?!」

 転校生も、驚いたような表情――、というか、笑いをこらえたようなにやついた顔でラムリーザを見返してくる。

 教室内は一瞬ざわっとして、視線がラムリーザに集中してきた。

 ラムリーザはすぐにクラスメイトの視線に気が付き、しまったと思った。つい取り乱してうかつな行動に出てしまった。

「……リゲル、どうしたらいい? この妙な空気……」

 困ったときのリゲル頼み、ラムリーザは小声で後ろに居るリゲルに助けを求めた。

「ん? 初対面じゃねぇかと言え」

「初対面じゃねぇか?!」

 すっかりうろたえているラムリーザは、リゲルの言うがままに叫び、それを聞いたリゲルは「フッ」と笑う。

「だよな! だよな! じゃねぇ、んなわけねーだろが! どこが初対面だ?!」

 転校生のノリツッコミも決まっている。

「なんでここに来るんだよ、初対面のジャン!」

 ラムリーザも自棄だ。あくまで初対面を貫き通させてもらうことにした。

「フォレストピアの二号店勤務になったから、近くの学校に転校することにした。それで君が居るところを選んだ、それだけだよ。初めまして、ラムリーザ君」

「初めましてじゃねぇ! しかもこの場面は、普通美少女の転校生だろ? 何で男なんだよ! これじゃあ物語が盛り上がらないじゃないか!」

 ラムリーザは、もうなにがなんだかわからなくなって、レフトールがぼやいていたようなことを口走ってしまう。

「ほ、ほんまや! なんで俺は男なんだ? 美少女になれ! というか女体化! TS! あーあ、水でも被ったら女体化するふざけた体質にならねーかな、そしたらさ、お前とさ」

「要らんわ!」

 ラムリーザの常軌を逸した突っ込みにも、平然と乗ってくるから話の収拾がつかない。しかも話を膨らませて、余計に話を分かりにくくさせてしまう。

 この調子の良い転校生は、ジャン・エプスタイン。彼は、中学時代までは帝都でラムリーザと同じ学校に通っていた古くからの付き合いのある親友で、帝国有数の高級クラブ、シャングリラ・ナイトフィーバーの経営者の息子だ。

 この年から、フォレストピアで二号店に当たるフォレストピア・ナイトフィーバーが開いたので、そこの経営をするためにこの地へやってきたのだ。

「はい、二人の世界を作っていないで、えーと――」

 教師は教室内を見渡して、「――そこが空いているからそこの席に行きなさい」と指差した。

 その場所はレフトールの隣、誰も怖がって空いていた席だ。

「おっ、転校生が俺の隣に来る、やっぱり俺が主人公? ほら、こういう展開でさ、不自然に席が空いていてさ、そこに転校生がさ――」

 レフトールは小声でマックスウェルに囁いている。マックスウェルは「それでいいんじゃないか?」と適当に流す。さすがに「レフが怖いから誰も座らなかったから空いていただけ」とは言わなかった。

「ちっ、てめぇが女ならな、俺との新しい青春性活が始まるってーのにな」

 レフトールは、隣にやってきたジャンを睨みつけながらぼやいた。

「男だと不都合か?」

 レフトールの悪名を詳しく知らないジャンは、平然と軽口を返す。

「ほう、やらないか?」

「あ、リリスじゃないか、奇遇だな! いや、いい席をもらった、君の前だとはなぁ。あのさリリス、今日は暇?」

 ジャンはリリスの姿を見つけると、レフトールには返事をせずにいきなりリリスと話を始めた。リリスも調子に乗って、ジャンの頬をなでたりしている。

「ジャン、いきなり教室でナンパを始めるなよ。みんな見ているよ?」

 ラムリーザは、以前とちっとも変わらない親友の姿に、懐かしさと嬉しさ、それと戸惑いを混ぜ合わせながら諭した。

「みんなが見ているということは、俺とリリスは公認の仲ってことになるのかな? ありがたいねぇ」

「なっ……、まぁそれでもいいけど」

 ラムリーザは、もうジャンの好きにやらせることにした。リリスと仲良くするのは別に問題は無い。

 だがそれを気に入らないと思うのは、軽口をスルーされたレフトールだ。

「なんだてめーは、いきなりラムさんと親しくするわ、根暗吸血鬼を口説き始めるわ、なんなんだよ」

 レフトールにとっては、突然現れた転校生に、自分の主人を取られたようなものだ。

「――などと言ってるよ、このおっかないあんちゃん、誰?」

 ジャンは、凄まれても平然と言った感じで、肩をすくめてラムリーザに尋ねてくる。

「えっとね、レフトール。なんだろ、悪そうに見えるけど、根はいい奴なんだ、たぶん――」

 ラムリーザは、少しぎこちなくレフトールをジャンに紹介した。

「――んでね、こいつはジャン。僕の昔からの親友で、帝都に住んでいたときはコンビを組んでいたんだよ。ほら、前回帝都のライブに連れて行ったとき、会場の司会をやっていただろ」

 続いてレフトールにジャンを紹介する。

「げっ、あいつか、そしてラムさんの親友か、それは失礼した失礼した、へっへっへっ」

「レフも凄んだり大人しくなったり、忙しいねぇ」

 マックスウェルにからかわれた通り、とたんに低姿勢になるレフトール、クラスの朝礼が始まっているというのに、ラムリーザの周囲は雑談全開だ。

「ねぇ、ジャンが来るってことは、メルティアも来るの?」

 ソニアは、不安げに尋ねるが、ジャンが「来ないよ」といったら、ほっと胸をなでおろすのだった。

 なんだかもう、二年目は初日から無茶苦茶。でも、寂しいのよりは断然こちらの方がいいと思う。これではちょっと賑やか過ぎるけどな。

 ラムリーザはざわつく周囲の中、遠い空を見つめてそう思っていた。

 
 
 
 
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