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増えるココちゃん

 

 今日も朝から教室で雑談三昧だ。

 リリスは、ユコが少しやつれているのと、唇が妙に腫れているのが気になって尋ねてみた。

「ユコあなた、何だか様子がおかしくない? 妙にやつれているのとその唇は何かしら?」

 リリスの問いを聞いて、ラムリーザはじっとユコを観察する。

 丁度一年前の今頃に発生した徹夜ネットゲーム事件以来、ラムリーザはこの問題児達の健康管理に目を光らせてきた。何かおかしいところがあればすぐに問い詰めたりして、問題があれば注意して止めさせたりしてきた。

 しかし今日のユコは、これまでの問題パターンとは微妙に違っていた。

 確かにちょっとやつれた、というか痩せたような気がする。しかし、目つきはしっかりしているし、瞼が腫れぼったくなっているわけではない。異変があるとしたら唇だ。

「何をやったんだい?」

 リリスに続いて、ラムリーザもユコに問い詰めてみた。何か変なことに熱中しているのなら、止めさせるべきだ。

「なんでもないですの!」

「いや、なんだか痩せているし、唇も腫れているし、何か病気?」

 ラムリーザに問い詰められて、ユコは開き直ったかのように白状してきた。しかしその内容は、しょうもないものだったりする。

「ココちゃんマグマカレーを食べ続けているんですの!」

「マグマカレー? ああ、あの激辛カレーか。しかしなんでまた……」

 ユコが辛党だという話は聞いたことが無い。しかし、ここ数日間毎日通っているのだとか。

「ココちゃんぷにぷにクッション、昨日で五つ集まりましたの」

「なっ……」

 ラムリーザは、そのあまりにもくだらなさに絶句する。そういえばキャンペーンで、激辛カレー完食の褒美にぬいぐるみをプレゼントしていたっけ。確か五百体限定プレゼントとかなっていたはずだ。

 ユコはこの春先の転校騒動で、ソニアから例のぬいぐるみをプレゼント、いや再会まで貸してもらうことになったが、結局転校は無かったので取り戻されている。

 しかしユコはそのぬいぐるみが非常に気に入っているらしくて、わざわざ連日通ってプレゼントを貰い続けていたのだ。

「ぬいぐるみのために激辛カレーを食べ続けるなんて……」

 ロザリーンも呆れている。

「違う! あれはぬいぐるみじゃなくてクッション!」

 そこに修正を入れてくるのがソニア。ぬいぐるみとクッションの違いを妙に指摘してくるのはいつも通りだ。しかしユコの話を聞いてから、なんだか不機嫌になっているような気がする。

「とにかく、私はココちゃんを集めますの。これは誰にも止めさせませんわ」

 ユコはきっぱりと言い放つ。

「無理しすぎると味覚が変になるぞ」

「ココちゃんが無くなるまでの我慢ですわ」

「まいっか……」

 五百体限定のうち何体残っているのかわからないが、未来永劫続くわけではないのでここは好きにやらせることにした。

 しかしここでソニアがラムリーザに注文を付けてきた。

「ラム、あたしもマグマカレー食べる!」

「なんでまた……」

 そう答えながらもラムリーザはなんとなく察していた。

 ソニアはいつもココちゃんに辛く当たるが、結構気に入っているのだ。実際ユコに貸してしまった後は少し落ち込んでいたし、最近でも暇でやることが無くなればココちゃんを抱きかかえてなんやかんや文句を言っている。

 文句の内容は、「ココちゃんはクッションなのだからクッションらしくしろ」とか、「そんなはげぼうずなぬいぐるみは無い」とか、あまり意味のある内容ではない。

 さらにラムリーザが可愛がろうとしたら怒る。なぜなら、ソニアが言うには「ぬいぐるみなら可愛がられる権利があるけど、クッションを可愛がるのは変」とか言ってきて意味が分からない。

 さらにベッドの上に置くと――、これは後述しよう。

 とにかくソニアもユコに負けないぐらいの数のココちゃんが欲しいのだというのだ。まったく困ったぬいぐるみ、いやクッションだ。ここまで好かれるのも、ココちゃんとしてはまんざらでもないだろう。

 

 放課後、今日はジャンの店にあるスタジオでレコーディングしようという話になった。

 以前からジャンは、ユライカナンにラムリーズを広めてみようという名目で、レコードを作ってみようと言っていた。そこで今日、実際に作ってみようということになったのだ。

 バベルの塔が建たなかったこの世界では、言葉の壁が無い。この点でもやりやすいと言えばやりやすかったりするのだ。

「とりあえずシングルレコードというものを作るから、二曲レコーディングしよう。お得意の二曲を選んでくれ」

 ジャンの提案で、主に女性陣があれやこれやと揉め始める。これはまあ普通に予想通りの展開だ。

 ラムリーザは選曲はソニアやリリスに任せて、やいのやいの言い合っているのを尻目にレフトールのドラム指導をやっていたりした。

 普段はつっぱっているレフトールも、ラムリーザの前ではまるで猫かぶりのように素直になるのでやりやすい。より強きものに従うというレフトールの信念でもあるが、去年の秋の決闘以来、ラムリーザはほんとうに便利な番犬を手に入れた、などと考えていた。もっとも、犬扱いするのはどうか? とも思っているわけだが。

「さて、今日はドチタチドドタチをゆっくりでいいからやってみよう」

 ドラムの基本となる8ビートのフレーズだ。

 レフトールがサブドラマーとしてやっていけるようになるのがいつの日になるかわからないが、これまで不良生徒として恐れられるようなことばかりしてきたことを考えると、立派に更生したというか何というか。

 もっとも、普段ラムリーザ達と絡んでいない時、子分達と何をやっているのかまではわからないが、そこまでラムリーザに責任は持てなかった。

 ソニア達の方からは、「ミーシャも歌うー」などと聞こえてくるが、二曲なんだから新入りの意見は一蹴されていたりした。普通にソニアとリリスだけでそれぞれ一曲ずつ歌うことになるだろう。

 この時ジャンは退室している。先日話していたユライカナンのバンドグループが早速数組やってきたので、その品評会を行なっているらしい。グループが増えれば店は盛り上がるし、ラムリーザ達の負担も軽くなるので良い事ずくめだ。

「ラムさん、スティック回しの練習もやっといた方がいいかな?」

「いや、僕は回さないから自己流でやってね」

 ラムリーザは、別にパフォーマーとしてのドラマーではなかった。元々ソニアに無理やりやらされたことが、いつの間にか趣味でなんとなく叩く日常になっているだけだ。

 ソニアは「ラムが叩かないとベースやらない」などと常日頃から言っているが、ラムリーザもソニアが歌やギターを止めれば、その内ドラム叩きも自然消滅してしまうだろう。

 あくまでラムリーザにとってのドラムとは、ソニアとのコミュニケーションの一つであるのだ。

 

 しばらくしてスタジオにジャンが戻ってきた時、ソニア達の間でレコーディングする歌が決まったようだ。

「あたしの歌うきーらきーらと、リリスの歌う私の子猫はほっといての二曲に決まったよ」

「おう、それか。そういえばラムリーズにはオリジナルソングは無かったな」

 ジャンは、今更のようにラムリーズの欠点を指摘する。楽譜はユコが書けるのだが、誰も作詞ができないのだ。

「一つはゲームソングだけどいいのか?」

 リゲルの問いに、ジャンは大丈夫と答えた。

「そのきーらきーらがエンディングで流れるゲームはユライカナンには無い。だからほとんどオリジナルのようなものだ。まぁ曲の使用料をゲーム会社とかに払うぐらいはいいだろう。ヒットしたり売れたりしたら儲け物、ほとんど道楽でやってるようなものだし、使用料とかラムリーザにとっては微々たる物だろうし。というかラムリーザ、何かオリジナルソング無いのかよ、思いつきでいいから歌ってみろよ。俺はお前のセンスを信用しているんだぞ」

 ジャンの長々とした説明の後、急にラムリーザにオリジナルソングを歌うように要求してきた。センスを信用しているとか、妙に持ち上げてくる。

 ラムリーザは、作詞のセンスをジャンに披露した経験は無いのだが、折角だからドラムを叩きながら思いつくままにメロディと歌詞を口ずさんでみた。

 

 たんたんたかたん、大きな風船ロケットくるりんばびゅ~ん――

 

「――ってダメじゃないかそんな歌を歌うなんて!」

 今回はすぐに我に返って歌を途中で止めることに成功した。どうやらソニアは反応していないようだ。

「誰もダメとは言ってないぞ、ロケットの歌とは変わっているな、続けてみろよ面白そうじゃないか」

「いや、これはダメなんだ。僕には荷が重過ぎる」

「私が続きを歌ってあげるわ」

 リリスの突然の申し入れ。当然ラムリーザは丁寧にお断りした。しかし――

 

 大きな風船ロケットくるりんばびゅ~ん、お化けサイズの風船おっぱい、エルエルエル――

 

「黒魔女! 根暗吸血鬼!」

 後の祭りだった。

 

 しばらくの間騒動が続いた後、ようやく落ち着いたところでジャンはレコードの説明に入った。

「それでレコードだが、A面とB面とある」

「L面は?」

「蒸し返すな」

 リリスの要らん一言に、すかさずラムリーザは突っ込みを入れる。

「当然ながら、A面がメインでB面がサブになる」

「じゃあきーらきーらがA面で、リリスの歌がB面ね」

 これまたソニアの当然な反応。しかしリリスも黙っているわけがない。「私がA面」と当然の反応を見せる。

 そこでリリスは、いつもの勝負をソニアに持ちかけてきた。

「今週末にギュードン屋に行くんでしょ? そこで大食い勝負でA面をどちらが歌うか決めましょう」

「いやだから大食いはやめなさいって」

 ラムリーザは、先に釘を刺しておくことにした。

「じゃあ早食い」

「食べ物で遊ぶのはダメだ」

「遊びじゃないわ、勝負よ」

「せめて他の機会にしなさい。ユライカナン文化体験の場を荒らすのはいかん」

 ラムリーザとリリスのせめぎ合いが続く。とりあえず初めて行く店、しかもユライカナンとの文化交流目的の店でまた問題を起こされては困る。

 リョーメンやスシでの出来事を、ラムリーザは忘れていなかった。

 それでもとりあえず曲は決まったので、レコーディングを進めることにした。数回のテイクを要したが、ひとまずは納得の行く形でマスターテープを作り上げることに成功したのだった。

 

 レコーディング後、皆がゆったりとくつろいでいる所でジャンはリリスにあることを提案してきた。

「リリス、うちの店ってここな、ここの上の階は結構豪勢な部屋もあるホテルになっているんだ。どうだ? ここに引っ越してきて住まないか?」

 ジャンは前々から思っていたことを提案してきた。

 ユコの一家がフォレストピアに引っ越してきたことで、リリスだけがポッターズ・ブラフに残される形になってしまっていた。ジャンは、リリスを身近に置きたかったので、このような提案をしてきたのだ。

 さらに話が進めば、ラムリーザが何の権利も無いソニアをパーティに連れてきていることと同様なことを、ジャンはリリスに持ちかけるつもりでいた。本気でジャンは、リリスに惚れているのだ。

 今回の事も、その目的に向かう第一歩目だということだ。

 リリスがどう答えたかは、この地点ではラムリーザは知らなかったのである。

 

 その夜――。

 いつものようにラムリーザとソニアは連れ立ってベッドに向かう。

 その時ラムリーザは、三匹に増えたココちゃんのうち一匹を持ってベッドへ向かい、小脇に置いてから布団にもぐりこんだ。

 すぐに右隣にソニアが引っ付いてくる。

 ラムリーザは、自分の左隣にココちゃんを寄せ付けた。

「あっ、ココちゃんがベッドの上に居る!」

 ベッドの上にココちゃんの存在を確認したソニアが文句を言ってきた。

「なんね、ココちゃんも一緒に寝ようじゃないか」

 別にラムリーザはぬいぐるみと一緒に寝る習慣はない。ただ、ソファーには既に二匹のココちゃんが陣取っているので、今日増えた一匹はベッドに置こうと考えただけだ。

「ココちゃんはクッションだからベッドに居るのは変! ぬいぐるみならベッドで一緒に寝てもいいけど、クッションはダメ!」

 何がダメなのかさっぱりわからないが、ラムリーザはソニアの言うことは無視してココちゃんも抱き寄せた。自然とココちゃんとソニアは顔を見合わせることになる。

 しばらくの間静かな時間が過ぎたが――

「クッション」

 ソニアの吐き捨てるようなつぶやきで、ラムリーザはうとうとし始めたところを急に呼び戻された。

 目を開いてソニアを見ると、じっとココちゃんを見つめている。ただしベッドから突き落とそうとはしないようだ。ただただじっと見つめていた。

 ラムリーザはとくに何も考えずに、今度はココちゃんを二人の上へと乗せてきた。

「ココちゃんも一緒」

「あっ、クッションなのに上に乗ってきた! クッションは下に敷くもの!」

「上でも下でもいいからもう寝よう」

 ラムリーザは、そのまま眠ることにした。しかし――

「クッション」

 ソニアの吐き捨てるような一言でまた起こされてしまう。

 仕方が無いので、ココちゃんはソニアの後ろに置いてソニアから見えなくすることにした。これだとソニアも大人しくなるだろう。

「ココちゃんが後ろに居ると何か気になる!」

「ええやん」

 その後も何度かソニアは「クッション」とつぶやいたが、いつの間にか眠ってしまったらしく、静かな時間が流れ始めた。

 
 
 
 
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