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ギュードンに入れる赤い粉

 

 この日もまたラムリーザ達のグループは、フォレストピア駅前の大倉庫へ集まっていた。

 ユライカナンの食文化を伝えるための店舗は、まずはここで仮店舗を開き、一度体験してみて問題なければ町のどこかに本格的な店を構えるという流れになっていた。

 今のところは口に合わない食文化に遭遇することはなかったが、さて今回はどうだろうか。

 

 今日は文字通りのフルメンバーが集まっていた。

 ラムリーズの元の六人に加えて、ジャン、レフトール、マックスウェル、ユグドラシルの男性陣、ミーシャとソフィリータの女性陣を加えた総勢十二人の大所帯。

 いつも間にかグループも大きくなったものだ。

 ユグドラシルは、おいしいメニューはそのうち学食にも取り入れると語っており、既にリョーメンとスシが動き始めている。ただしスシは高価なのが学食には向かなそうだけどね。

 今回体験するのは「ギュードン」という食べ物。前回聞いた話では主に牛肉と米を使ったメニューだそうだが、いったいどんなものなのやら。

 店の名前は「ジェンショウ」というらしい。赤い大きなどんぶりがキーアイテムになっているようだ。

 十二人がぞろぞろ群れると狭っ苦しいので、店主と話をするためにラムリーザとジャン、リゲル、ユグドラシルの四人がカウンター席。後はレフトールとマックスウェルのテーブルと、ソフィリータとミーシャのテーブル、残りはいつものメンバーが集まったテーブルとなった。

 ギュードンと言ってもいろいメニューがあるようだ。

 玉子ギュードンに、ジェノヴェーゼギュードン。肉は牛肉だけに限らず、豚肉を使ったブタドンに、鶏肉を使ったトリドン。魚まで使ったギョギョードンがあってごちゃごちゃしている。ギョギョになっているのは、ギューとギョーの発音が似ているので注文間違いを防ぐためにギョギョにしているとか。いろいろ考えているものだ。

 とりあえず今日は、一番オーソドックスなギュードンを選ぶことにした。メインメニューがおいしければ、その他のサブメニューは住民の好みに任せればいいだろう。

 そうなると違いは量だけとなる。

 ラムリーザはひとまず並を注文しようとしたが、ちょっと空腹が過ぎていたので大盛りにしておいた。リゲルとジャンも付き合いで大盛りを注文する。

「おい、俺は特盛りだ」

 そう言ったのはレフトールだ。ラムリーザのおごりということになっているので遠慮しない。ラムリーザに敬服しているが、たかれるときはたかる、それがレフトールの流儀だ。というよりもむしろ、金持ちや権力者にたかってそのおこぼれを頂くといった感じな部分が多いのだが、まあよい。

「ギュードンキングってのがあるわね。ソニアと私はそれにするわ、どちらが早く完食するか勝負よ」

「やめなさい!」

 ラムリーザは、リリスとソニアがまた大食い勝負を始めようとしたので、注文を取り消させて二人には並を贈呈した。

「いいじゃないのよ」

 不満そうな顔をするリリスにラムリーザは、「試食会で無茶はやめろ。やるなら正式採用後に本店でやりなさい。くれぐれも入店禁止にならない範囲で」と言い聞かせることになった。

 その他のメンバーもそれぞれ自分にあった量を選択したが、ミーシャがなにやら特殊な注文を言っていた。

「大盛りで」

 甘ったるい声で注文するミーシャに、リゲルは「大盛りで大丈夫か?」と心配の声をかける。

「いいの、ネギだくで」

「は? 何だそれは」

「んーとね、んーとね、ネットで調べたんだけど、ネギが多めに入っていて肉が少ないから食べやすいみたい」

「ほお……」

 リゲルはそう答えるしかできなかった。

「あとね、玉子もつけてね。ミーシャ、玉子大好きだから」

「あいよっ、大盛りネギだくギョク一丁ね。後は特盛り一丁、大盛り五丁、並五丁っと」

 店主の応答が入り、これにて注文は一通り終わった。

 

 しばらくすると、白いご飯の上に細切れにした牛肉が乗った食べ物が出てきた。これがギュードンというものらしい。

「ん~、肉が熱いなぁ、ご飯も熱いなぁ。つゆも熱い」

 ラムリーザの呟きが耳に入ったリリスは、「せそ汁勝負」の時を思い出してソニアを睨みつけたりしていた。相変わらず、ラムリーザは熱い食べ物が苦手だ。

「これは手軽に作れそうだから、すぐに学食に取り入れられるね」

 ユグドラシルは、早速レシピについて尋ねてきた。そのレシピを学食の料理人に見せれば学校でもギュードンを楽しめる。

「牛肉とタマネギだけでこれほどおいしくなるなんてね」

 ラムリーザもギュードンは気に入っていた。多少熱いのが難点だが。

「それだけではないぞ」と店主は説明をする。「そょうゆや酒、砂糖などを組み合わせて作ったつゆがいいんだ」

 そょうゆ、それは先日ソニアとリリスの勝負で使った「せそ」同様、ユライカナン特産の調味料だ。砂糖、塩、酢、せそ、そょうゆ、これがユライカナン五大調味料。この組み合わせで様々な味を作り出すのだという。

 今回のギュードンでは、そょうゆと砂糖を使っていて、後は料理酒を組み合わせたものらしい。

 そういうわけでしばらくの間、平穏な時間が過ぎていった。しかし、今回も何事も起きずに終わるというわけにはいかなかった。

 リリスはふとテーブルの端を見ると、調味料入れに赤い粉が入ったビンを見つけた。

 これは何だろう? と思いながら、少しだけ手のひらの上に出してみる。少しばかり黒い粒や、大きめの粒が混じっているが、基本的には赤い粉だ。

 リリスはペロリとなめてみる。とたんに舌の先に鋭い刺激が、辛い――。

 そこで毎度のイタヅラ心が生まれてきて、隣で食べているソニアが余所見をした隙に振り掛ける。

 しかし、ふりかかった量が少量だったためか、それともココちゃんマグマカレーで舌が馬鹿になっているのかわからないが、ソニアは食べても平気なようだ。

 面白くないリリスは、今度はビンの内蓋を取ってから大量の赤い粉を、再びソニアが余所見をしている隙にどんぶりに注ぎ込む。気がつかないソニアはその大量に入った赤い粉ごと牛肉を口に運び――。

「ふっ、ふえぇっ――!」

「どしたっ?!」

 突然のソニアの悲鳴にラムリーザはカウンター席からテーブル席を振り返る。ソニアは舌を出して苦しそうな表情をしていた。ソニアのどんぶりの中は、赤い粉でいっぱいだ。

「ああ、それはシチミというものだ。サンショやゴマなどが入っているが、主な材料はトーガラシだな。かけすぎると辛すぎるが、適量を使えば良い味付けになるぞ」

「あたしこんなにかけてない! 勝手に入ってた!」

 店主の説明にソニアは大声で反論し、それを聞いたリリスはクスクスと笑う。それを見たソニアは、「またこの根暗吸血鬼にやられた!」と叫びだした。

「君たちはまた要らん事をやってるな? しょうがないな、店主さん悪いけど一杯取り替えてくれ」

 ラムリーザは、ソニアの分を新しい別のものに代えてあげることにした。

「リリスがこれ持っていって!」

 ソニアはリリスに赤い粉、シチミまみれのどんぶりを渡して、交換に向かわせた。リリスがドンブリを持って席を離れたとき、ソニアは当然ながら反撃に出た。

 そのやり方はリリスよりも多少陰湿で、リリスのどんぶりに残っている牛肉を脇にどけて、ご飯の上に大量のシチミをぶっかける。それから牛肉を元の位置に戻して何事も無かったかのように振舞っていた。

 ラムリーザはシチミが大量に入った物を、ジャン達四人と四等分してそれぞれのどんぶりに加えて分散して、残さずに頂くことにした。これならシチミの量も丁度良くなる。

 代わりのギュードンを持ってリリスはテーブル席へと戻り、ソニアに手渡した。ソニアは受け取ると、そのまま窓のほうを向いて知らん顔をして新しいギュードンを食べ始めた。

 何も知らないリリスは、残った自分のギュードンをほおばり、そして――

「ぶふぉっ! ごほっ、ごほっ!」

「汚いですわね!」

 リリスは豪快に噴き出し、正面の席に座っていたユコの顔を汚す。

「ちょっとこのLカップ魔神! やったわね!」

「あたし知らない! 何勝手にあたしのせいにしているのよ!」

 リリスはソニアに怒鳴りつけながら、自分のギュードンの肉をどけてみる。もちろんそのご飯の上には、シチミの絨毯がしかれていた。

「また騒ぎ出したぞ」

 リゲルに促されてラムリーザは、仕方なくソニア達の居るテーブル席へと向かった。

「今度は何だ?」

 ラムリーザは二人に問いかけると、リリスは自分のシチミまみれのどんぶりをラムリーザに見せながらソニアを非難してきた。

「この乳妖怪が、私のギュードンにこんなイタズラをしてくるのよ」

「根暗吸血鬼もさっきやったじゃないの!」

「知らないわ、あなた被害妄想すぎるわ」

「妄想じゃなくて実際に被害に遭った!」

「わかったから騒ぐな。店長さん、もう一杯代わりに作ってくれ」

 ラムリーザはリリスのどんぶりを取り上げ、さらに一言追加する。

「それと、そのシチミの入ったビンは没収。二人ともスシの試食会の時と同じような悪ふざけをするんじゃない」

 そう言い残して、シチミの入ったビンとリリスのどんぶりを持ってカウンター席へと戻った。

 リリスに代わりのギュードンが届けられ、シチミの入ったビンも無くなったテーブル席に、ようやく平穏が訪れていた。

「あいつら毎回同じだな」

 リゲルは皮肉を言ってくる。それを聞いてラムリーザは、ジャンに念を押すように言っておいた。

「リリスを引っ掛けるのはいいが、ソニアを美人にしたようなものだと理解しておいた方がいいぞ。美少女に見えて、精神的にはソニアと同レベルだからな」

 そう言いながらラムリーザ自身も、ソニアが幼稚だということを自覚せざるをえないことに参っていた。

 しかしジャンは、そんなの関係ないとばかりに言い返してきた。

「すげークールな美少女」

 どこがや、と突っ込みたい気持ちを押えるラムリーザに、ジャンはさらに言葉を続けてきた。

「しかし中身は幼稚、そのギャップが良いんじゃないか。所謂ギャップ萌えってやつだ。お高く止まった高慢ちきな美女よりはよっぽど良いぜ」

 ジャンはますますリリスが気に入ったようだ。そしてさらにラムリーザに要求してくる。

「さっきのリリスから取り上げたギュードン、残りは俺が食べる」

「いや、あれはやばいぞ? また四等分して――」

「いや、リリスのは俺が全部食べる」

 細かい所までの事情を知らないジャンは、リリスのギュードン――肉とご飯の間にシチミたっぷり――を掻き込んで、盛大に噴き出したのであった。

 

 こうして多少の問題は生じたものの、それはソニアとリリス二人の間だけのイタズラ騒ぎなだけであり、ギュードンの味は好評ということでめでたくギュードン屋「ジェンショウ」は、フォレストピアに店舗を構えることになったのであった。

 少しずつ、少しずつ、フォレストピアは発展しているのだ。

 これでよい、よい。

 
 
 
 
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