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自由行動最終日 ~ぱふりんこ~

 

 今日は修学旅行最後の自由行動の日。

 ラムリーザ達はユライカナンの街へと繰り出し、土産物屋を物色していた。

「木刀か、これいいぞ」

 レフトールは、木で作ってある模造刀を見つけてきて掲げていたりする。

「大判に小判? 昔使っていたが、今は使われていない貨幣ねぇ」

「このミニチュアの鐘とかよさそうじゃない?」

 鐘といえば、昨日ソニア達が遊んでいたあれか。たまに聞こえると風流だが、連打されるとうるさいだけだった。

 そんな中、ユコがラムリーザの側へあるものを持って現れた。

 ユコの手にあるのは木でできた……、どう表現したらよいものやら、まるで頭蓋骨のようなものだった。頭頂部にでもあたるような場所は、丸くつるつるとなっており、二つの鱗のようなギザギザのついた目のようなものもついてあり、ニコッと笑ったような口に見える切れ込みも入っている。顎に当たる部分はギザギザで、まるで髭でも生えているようだ。

 大きな眼をした髭もじゃの、つるっぱげの人が笑っているような、そんなイメージを持つアイテムだ。

「その髑髏みたいなものは何だい?」

 ラムリーザの問いに、ユコは「木魚という物みたいですの」と答えた。

 魚? どう見ても魚には見えない、剥げ頭の笑った髭もじゃにしか見えない。

「その木魚がどうしたんだ?」

「ええと、これはこうやって使うみたいなの」

 ユコはそういうと、木魚とセットになっていたバチで叩いてみせる。店の中に、ポクポクと小気味のいい音が鳴り響いた。

「なんだか気持ちが落ち着くような音だね」

「これをラムリーザ様のドラムセットのパターンに増やしてみたら、新しいサウンドが増えると思いますの」

「なるほどね」

 ユコからそう聞いて、ラムリーザは木魚を一つ買っておくことにした。この音でどんな音楽に合わせるのかわからないが、ユコは既存の曲のアレンジも得意だ。そこは任せるとしよう。

 一方リゲルとロザリーンは、今旅行に来ていない人達のための土産を選別中だった。リゲルはミーシャに、ロザリーンは兄のユグドラシルに。

「自分の土産だけでなく、家族や友人の土産も探しましょうね」

 ロザリーンの一言で、ソニアは両親への土産を選んで決めた。父にはヌンチャクという武器を。母にはトンファーという武器を。どちらもユライカナン特有の武器を模造したものだが、ソニアが何故武器を選択したのかは誰にもわからなかった。

 ラムリーザも両親と兄妹への土産を考えていた。父と兄はめったに会えないので、買って帰っても夏季休暇までは渡せないだろう。妹のソフィリータには、トンファーかなとか考える。何気にソフィリータは格闘技を実際にやるのが趣味だったりしていた。

 

 土産物屋を一通り見て回り、荷物が増えるのもアレなので残りはまた後で別の店に寄ることにして、しばらく街を散策する。

 すると、町外れに「ぱふりんこ屋」というのがあるのを発見した。

 男性陣はその店に興味を持ち、なんとか入れる機会をうかがおうとしていた。しかしそのためには、女性陣と離れる必要がある。

 そのぱふりんこ屋を通り過ぎてしばらくしたところで、ジャンが提案してきた。

「よし、ここから男女別に分かれよう」

「なんで?」

 真っ先に聞き返してきたのはソニアだ。

「男には自分の世界があるんだよ。例えるなら、空を駆ける一筋の流れ星のようなね」

 ジャンの説明にソニアは首をひねりながらも、ラムリーザに尋ねてきた。

「ラムも流れ星?」

「うん、それは銀牙のように……」

 言いかけてラムリーザは口をつぐんだ。その先の設定が出てこない。さすが設定士ジャン、すらすらと言葉が出てくるものだ。

 レフトールも別行動しようと言い出したので、女性陣は不審がりながらも一旦男女で別行動をすることになった。

 さて、お目当てのぱふりんこ屋。

 なんだか怪しげな響きと、美女の看板が三人の興味を引いていた。いつもの五人ではなくて三人、リゲルとマックスウェルはさほど興味を示していないようだ。リゲルは本当かもしれないが、マックスウェルはのんびりとした表情に出てきていないだけかもしれない。

「さて、誰から入る?」

 ラムリーザは一同を見渡して言った。

「ラムリーザ、君からどうぞ」

 ジャンは一歩下がってラムリーザに勧めてくる。

「なんで? ここに行こうと提案したのは君じゃないか?」

「領主様に一番の栄誉を与えようではないか」

 ジャンはここに来て尻込みか? リリスには遠慮なく話せるのに、妙なところで度胸が無い。

「大体ぱふりんこって何ね?」

「知らん、ユライカナン独特の文化みたいだ。折角だから体験しようじゃないか。後で話を聞かせてくれよ」

「いや、自分で入れよ」

 しかしもたもたしていても埒が明かないし、別行動した女の子達が戻ってくるかもしれない。ラムリーザは意を決して店の中へと踏み込んだ。

 店の中に入ると、ラムリーザはすぐに綺麗なお姉さんに声をかけられた。

「あらすてきなお兄さん、ぱふりんこを所望なのね?」

「う……ん」

 ラムリーザは、ややぎこちなく返事する。確かに店の中に居たお姉さんは美人だ。それいじょうに、パフパフという響きが聞きなれない。

「安くしておくわ、ぱふりんこして欲しいならたったの50ゴールドよ」

 ゴールドとは、ユライカナンの通貨だ。今回の旅行に合わせて、通貨を両替しておいたので問題ない。

 前払いで小銭を支払うと、ラムリーザはお姉さんに奥の部屋へと連れて行かれた。奥の部屋には椅子が一つあるだけ。

「そこに座っててね。明かりを消して暗くしていいかしら?」

 よくわからないので、ラムリーザは「いいよ」と答えた。窓の無い部屋、周囲は鼻をつままれてもわからないような暗闇に閉ざされた。

 

 ………

 ……

 …

 

「どうだった?」

「…………」

 外に出るなりジャンが尋ねてきた。しかしラムリーザは何も答えなかった。いや、答えられなかった。

「そうか、じゃあ行こう」

 ジャンは軽やかな足取りで店の中へ入っていった。

 

 ………

 ……

 …

 

 若干気分が悪そうな顔をしているジャンを尻目に、レフトールは三番手として店へ乗り込んだ。

 

 ………

 ……

 …

 

 さらにリゲルとマックスウェルも、多少は揉めたが先に入った者達の圧力に押されて入店することになった。

 

 ………

 ……

 …

 

 五人は無言で顔を見合わせていた。

「こういうのが、やりたかったのか?」

 しばらく沈黙が続いた後、ラムリーザは重い口を開いた。店の中で起きた出来事は、暗い部屋で美女がではなくて、その――

「詐欺だーっ!」

 ジャンは頭を抱えて叫んだが、被害は小銭の50ゴールド。帝国とユライカナンの通貨換算は一対一だから、50エルド。缶ジュース一本も買えない、缶ジュースま半額分しか支払っていないので、返せと文句言うのもみみっちい。

 小銭を失って、気持ち悪い体験をしただけであった。

 

 無口になった五人がのそのそと移動していると、前方から女の子の悲鳴が上がった。

「やだーっ、誰か助けて!」

 ラムリーザ達は顔を見合わせる。

「今の、ユコの声に似てない?」

 急いで悲鳴の聞こえた方へと駆け寄った。するとそこには、五人の男性に囲まれた女の子達がいた。なんだかよくわからないが、ユコを含むソニア達が囲まれている。集団ナンパか? それにしてはガラの悪そうな見た目だ。

「何をしているんだ?」

 ラムリーザが少し離れた場所から問いかけると、その姿を確認したユコがまくし立てる。

「ちょっと肩が当たっちゃってごめんって言っているのに、この人達聞いてくれないんですの! それで遊んでくれたら許してくれるって言っているけど怖い!」

「やれやれ、あいつはよく絡まれるな」

 そう答えたのはレフトールだ。彼は以前絡まれたユコを救出している。

「相手は五人だが、こっちも五人だ。やっちまおう」

 レフトールは、突っかかる気満々だ。しかし冷静にリゲルが突っ込む。

「お前はまたラムリーザを戦わせるのか?」

「――だな、俺一人で十分だ。コラ! ユコから手を離せ!」

 とりあえずまだユコは手を掴まれていない。それと、囲まれているのはユコだけでなく、ソニア、リリス、ロザリーンの三人もだ。

 そういう突っ込みは置いといて、突然現れた乱入者に五人の男性――便宜上不良少年と呼ぼう――はユコ達に絡むのを止めて振り返った。

「レフ……」

 それでもユコは、いつも通りに現れたレフトールに少し違った視線を向けていた。

「なんだてめーは!」

 最初にレフトールに近寄ってきた一人に、レフトールは強烈な下段蹴りを放った。対ラムリーザとして編み出した、フォレスター・キラーだ。

 吹っ飛びこそしないが、そのまま横になぎ倒された一人は、立ち上がろうとするが蹴られた足がふらついてよろよろとしりもちをついてしまった。それほどまでに重い下段蹴りだ。

「くっ、相手は一人だ、囲んでやっつけてしまえ!」

 残った四人は、レフトールを囲むように移動する。しかしその移動で四人のうち一人は、ラムリーザ達残った四人に背を向けることになった。

 そこにリゲルがスッと近づいて、後ろから羽交い絞めにする。いや、少し違う。後ろから片腕をロックして首をひねり上げている。所謂羽根折り顔面締め、チキンウィングフェイスロックだ。

「ふんっ」

 リゲルが少し力を加えてひねり上げると、ゴキリと鈍い音が響く。どうやら肩の間接を外されたようで、締められた不良少年は肩を抑えて呻きながらうずくまった。

「な、何?」

 やられた一人に気をとられた隙をレフトールは見逃さなかった。レフトールから視線を外した相手に、再びフォレスター・キラーをぶっ放す。これも綺麗にヒットして、横殴りに倒された。彼も同じく立ち上がれない。

「下段蹴りだから上段蹴りと違って疲れないし狙いやすいし、これは最高だなっははっ」

 レフトールが倒れた相手に笑いかけると、その隙に手の空いていた一人がレフトールに突っかかっていった。

「おっと君、待ちたまえ」

 その不良少年の振り上げた右手首を後ろから左手で掴んだのはラムリーザだ。

「なんだお前も邪魔をするのか? ぐ、ぐおぉ……」

 振り返ってラムリーザを威嚇しようとしたその不良少年は、とたんに苦悶の表情を浮かべる。その様子を見て、味方のレフトールまでもが顔をしかめた。

 要するに圧倒的な握力で、その不良少年の手首を握り締めただけなのだが。

 不良少年は顔を歪ませながらも、空いている左手でラムリーザに殴りかかろうとしてきた。しかしその瞬間ラムリーザは、掴んでいた左手を思いっきり引っ張る。バランスを崩した不良少年は、殴りつけることはできずによろよろとラムリーザの側に引き寄せられてしまった。

 その瞬間、ラムリーザは相手の顔面を右手で鷲掴みした。

 それを見たレフトールは、思わず顔をそむけてしまった。あの嫌な夜を思い出される行動、要するにアイアンクローを再び見せ付けられたのだ。

 ラムリーザは、相手の顔面を掴んだまま持ち上げた。この攻撃も、レフトール相手に見せた技の一つだ。アイアンクローの体勢のまま持ち上げる、ラムリーザの腕力の凄まじさを物語っていた。

 一人残っていた不良少年も、その異様な光景に一歩も動けずにいた。

「うーむ……」

 おもわずそうつぶやいたのはリゲルだ。これまではレフトールの話から断片的に聞いていただけであまり気にしていなかったが、こうして実際に見ると怖いものがあったりした。

 ラムリーザはこのまま爪を食い込ませて、あの時のレフトールのように顔に穴を開けてやるか、それとも研究中の技を試してみようか考えたりしていたが、ここは試しにやってみることにした。

 助けを叫んだユコだけが襲われていたように見える場面だが、実際のところはソニアも襲われていた。ここは目に物を見せてやる、という考えに至ったのだ。

 ラムリーザは右手で相手の顔面を掴んだまま、右足を相手の前へ出す。その状態から、まるで大外刈りでも仕掛けるかのように、地面へ頭を叩きつけた。

「うおっ、えげつない……」

 その様子を見て、レフトールは呻いた。

 叩きつけられた不良少年は、倒れたままぼんやりと空を見上げている。

「これが、なんだっけ? アップル・クラッシャーだっけ? それの最終形態になる予定だよ」

 ラムリーザはレフトールの方を見返して語った。アップル・クラッシャーというのはリリスがラムリーザのアイアンクローに勝手に名づけただけで、正式名称かどうかは不明だが。

「やめてくれ、それやばいって……」

「いや、要するにアイアンクロー・スラムだろ?」

 リゲルは冷静に技を分析する。確かにラムリーザの仕掛けた技は、所謂アイアンクロー・スラムという技に間違いは無かった。しかし、ローキックをフォレスター・キラーと名づけるのなら、アイアンクロー・スラムにも独自の名前を付けても不都合は無かろう。

 なにはともあれ、残るは一人だけだ。さて、どうするだろうか?

 ――と思ったけど、一気に四人やられて戦意を喪失したか、足を引きずったり肩を押さえながらみんな逃げていってしまった。

「すごいですの! 蹴り技のレフトールさん、関節技のリゲルさん、力技のラムリーザ様ですのね!」

 ユコは嬉しそうに言うが、レフトールは少し不満げに言った。

「相変わらずラムさんだけ様付けなのな」

「ジャンは何なのかしら?」

 一方リリスは、とくに行動しなかったジャンに尋ねてきた。

「出遅れただけ――、あいやいやい、戦わずして勝つとはこのことだ!」

 なんだか「キリッ」という単語が聞こえてきそうな雰囲気で、ジャンは言い放った。

「苦しいわね」

 リリスは微笑を浮かべ、ジャンは「リリス~」と泣きついた。なんだかんだで、ジャンとリリスの仲も進展しているように見えるのであった。

 この後は自由時間最後まで土産物屋を巡って、いろいろと買い物を楽しんだとさ。

 最後に多少は荒れたものの、こうして修学旅行は全日程を終えた。

 すごく思い出深い修学旅行だったとさ。
 
 
 
 
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