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前方宙返り式二段踵落とし

 

 今年の軽音楽部は、去年よりも賑やかだ。

 去年は三年生はほとんど顔を出さなかったので、実質三人増えたことになる。

 部長不在が問題点だが、ソニアとリリスが互いに功を競って譲り合わず、全然決まる気配が見えない。しかも普段はすっかり忘れているようで、ラムリーザが「そういえば部長は?」と聞くことで、二人の争いが始まってしまう。

 ラムリーザは、「部長」という言葉が二人の口論のトリガーになっているとわかったので、別に部長が居なければ困る、ということもあり放っておくことにした。実質去年も、部長はほとんど部活に顔を出さなかったので、居ないも同然だった。

 ま、いずれ決着を付けてくれれば、それでよい。

 メンバーは、去年の六人にプラスして、ジャンとソフィリータとミーシャが加わった。

 ユコはテーブル席で楽譜の作成中、ロザリーンはピアノを奏でて部室にBGMを流している。

 リゲルはソファーで、まとわりつくミーシャの相手を、ロザリーンを気にしながらやつているようだ。ダイスを転がしている、チョボイチか?

 残りの四人、ラムリーザとソニア、ジャン、ソフィリータは、リリスを加えて簡易ステージで簡易演奏を行なっていた。これは、二年前に帝都のシャングリラ・ナイトフィーバーを賑わせた、J&Rの復活を意味していた。

 

 ――眠りの妖精さん、俺に夢を見せてくれよ。

 可愛い彼女を俺に作ってくれよ――

 

 などとジャンのメインボーカルで、久々のコンビを堪能していた。

 一曲歌い終わった所で、ラムリーザは「そういえば部長はどうなった?」と聞いて、すぐにしまったと思ったが遅かった。

「リリスが文句言わなかったらあたしに決まるのに。リリスを退部させてあたしを部長にしようよ」

 すぐにソニアは無茶な事を言い始める。

「あなたが部長をしたら、ここは爆乳部に名前が変わるから、それだけは阻止するわ」

「民主的に、投票で決めるというのはどうだい?」

 ラムリーザは、口論を止めるべく提案したが、リリスは「ラムリーザはソニア贔屓するから中立保留で」と答えた。

「ソニアとリリスなら不安しかないから、俺は白紙投票で」

 そう答えたのはリゲルだ。

「ん、リリスでええんとちゃーう?」

 あくまでリリス贔屓のジャン。

「揉めるんだったらミーシャがやるぅ!」

「「一年ぼーは引っ込んでろ!」」

 ミーシャの口出しには、声を揃えてソニアとリリスは否定する。こんなところだけ息が合う妙な二人だ。

「こうなったら、ロザリーンに決めてもらおう」

「私ですか?」

 だがロザリーンは、ソニアとリリス二人に睨みつけられて、目を逸らして言った。

「こういうのは、やりたい人にやらせるのが一番です」

 それはラムリーザもそう思っていた。だが、それだと決着がつかないのだ。

 こうしてしばらくの間、無意味な時間が過ぎていった。

 

 数十分後、場は平静を取り戻していた。

「ところでミーシャってダンス得意なんだよね」

 ラムリーザは、ソニアとリリスが息切れを起こしたところですかさずミーシャに話題を振って話を変更させた。

「うん、ミーシャ、ミラクルダンスマンだよ」

「そこはダンスウーマンじゃないと男だ」

 リゲルの突っ込みに、「相変わらず細かいなぁ、リゲル兄やんは」とミーシャは肘で小突く。

「何か即興で踊って見せて、伴奏なら任せておいて」

「ぽこぽこ太鼓が伴奏なら、ルーツ島の腰ミノダンスになっちゃうけど、んーとね、んーとね……」

 ミーシャは首をかしげて考えながら、部員一人一人を見渡して、ソニアと目が合った。

「これだっ」

 その一言を合図に、ミーシャはクネクネと踊りだした。

 その踊りを見て、リリスとユコは笑い出した。ラムリーザは、「アレをここまでコピーできるとは……」と感心し、ジャンも「何か見たことあるな?」と答えた。

 ソニアは「何よこの変な踊り」と言ったが、それがさらにリリスとユコを笑わせる結果になった。

 ミーシャが即興で踊り始めたのは、伴奏も何も必要としない、そもそもダンスと言えるのかどうかもわからない物だったが、ラムリーズの面々には、ソニア以外には馴染みの深いものであった。

 そう、ソニアがステージ上で気分が高揚したときにいつも見せていた「不思議な踊り」を、ミーシャは細かい動きまで完璧にコピーして見せたのだった。

「まぁ、ソニアは見たことが無いから知らないのも仕方ないな」

 ラムリーザは、納得したように頷いた。

 しかしリゲルは、眉をひそめてミーシャに問い詰めてきた。

「ミーシャはこれをどこで見たんだ?」

「んーとね、んーとね、初めて見たのは昨年末のライブ。その緑のお姉ちゃんが、歌の始まる前とか、誕生日プレゼント貰った後、えんえんと踊っていたよ。その後もライブのたびに毎回踊っているから、見ているだけで覚えちゃった」

「12月24日のそいつの誕生日パーティのあれか。……ってか、ミーシャは何度も俺たちを見ていたのかい?」

 リゲルは、さらに眉をひそめて問い詰める。

「うん、ミーシャ見てたよ」

「何故会ってくれなかったんだい?」

「だって二階席にしか入れなかったし、ライブが終わるとリゲル兄やんすぐにどこかに行っちゃって居なくなるし」

 リゲルは別にどこにも行っていない。ただ、遠く帝都でのライブだったので、終わり次第急いで帰らないと、ポッターズ・ブラフに戻ってくる時間が遅くなってしまう。だからライブが終わると、すぐに電車に乗って帰っていたのだ。

「声ぐらいかけてくれればよかったのに、ミーシャの声ならすぐにわかったのに、ね」

「だから、ミーシャはリゲル兄やんを驚かせようとしてね、してね」

「う~む」

 リゲルとミーシャの会話を聞きながら、ラムリーザはリゲルの口調に違和感を感じていた。

 

「おいっす~!」

 その時、軽快な挨拶と共に部室の扉が開いて、三人の男子生徒がなだれ込んできた。

 ある時は恐怖の対象、ある時はお調子者のレフトール登場だ。今日は子分二人、いつものマックスウェルと、もう一人は誰だろう?

「こらこらレフトール、ここは部室、部外者が居たら怒られるぞ? それにまた新しい仲間を連れてきて、マックスウェル以外にも子分は――、居たか」

 ラムリーザは、レフトールとの夜半の決戦時、十人近く子分を連れてきていたことを思い出した。

「ああこいつ? ピート・サトクリフ。さっき外で会ったからついでに連れてきた。今日から俺もこの雑談部の部員になるぜ」

 レフトールは部員になる気満々だが、二人の子分はいやいやと首を横に振っている。どうやらレフトールに無理やり連れてこられたらしい。

「雑談部? 何それ?」

 しかしラムリーザは、レフトールが言い出した謎の言葉に首をかしげる。

「あれ? 以前ユコとゲーセン行った時に聞いたけど、お前ら雑談部でゲームして遊んでいるんだろ?」

 ラムリーザは、「ユコも何嘘を教えているんだ」とつぶやき、マックスウェルも「ここはどう見ても軽音楽部だろ?」と言っている。

「とりあえず入部届け持ってきたぞ。誰に出したらいい? 部長はラムさんだろ?」

 レフトールは入部届けを持ってきたが、子分二人は持ってきていない。やはりレフトールの独断のようだ。

「いや、部長は――って、了解、僕が預かるよ」

 ラムリーザは、またソニアとリリスの争いが始まると予測して、自分が受け取ることにした。ジャンの入部届けもテーブルに置かれたまま、これは一体どうしたものか。先輩から何も聞いていなかったことを、今更のように悔やんだがそれも一瞬のことで、まいっか、と適当に流すことにした。

「それで、レフトールはどのパートができるんだい?」

 ラムリーザは、当然の質問を繰り出す。

「楽器? やったことないぞ。あ、ラムさんみたいにドラムやってみたいな、うんそうだ、俺はドラムをやる」

 どうやらレフトールは、今では完全にラムリーザ信者だったようだ。しかし、そこにいつもの文句を唱えてくる者が居た。

「やだよ、あたしラムがドラムやらないとベース弾かない」

 ソニアは、いつもの決まり文句を言う。

「ならベースはマックスウェル、お前がやれ」

「やなこった」

 レフトールはソニアの反論も気にせず、身内でメンバーを作ろうとしていた。当然マックスウェルは断る。そもそもベースなどやったこともない、と言いたげでもあった。

 このままでは、レフトールの軍団で一つのバンドメンバーを作り上げそうな勢いだ。

 

「あっ! ひょっとしてあなたが?!」

 

 そこで突然大声をあげたのは、ソフィリータだった。

 レフトールと、その彼のバンド構成を、うんざりとした顔で聞いていた子分二人、ラムリーザ達も黙り、一瞬の静けさが部室を支配した。

 ソフィリータは、眉をひそめて険しい表情でレフトールを睨みつけている。

「「なんぞ?」」

 ラムリーザとレフトールが同時に問いかけ、そのことに二人はびっくりして顔を見合わせ、くすっと笑う。

「去年の秋、リザ兄様を学校で失神させた!」

「リザニイサマって誰や?」

 レフトールの問いかけに、ソフィリータは怒ったように「お兄様、ラムリーザです!」と答えた。

「あ、そんなこともあったっけ」

 ラムリーザ自身は、レフトールに失神させられた時の事は自分の記憶としては残っておらず、周囲の人に聞いた範囲でしか覚えていないのだが、その時ソフィリータはものすごく心配して何度もメールを送ってきたことを思い出した。

「蒸し返すなって、俺もあの時は悪かったって思ってるよ。報復で酷い目にあったしな」

 別にラムリーザが報復したわけではない。レフトールが決闘を望んできて、逆撃に合っただけだ。

「ソフィリータ、あの時の事はもう決着がついているから、もう許してやってくれよ」

 ラムリーザは、あの日以来レフトールが少なくともラムリーザ達の前では真人間になろうとしているのを知っているので、激高する妹を抑えた。

「リザ兄様は気がすんだかもしれませんが、私の気がすみません! あの日あの時あの場所に私が一緒にいたら、リザ兄様をあんな目に合わせなかったのに……。あの日から不安で不安で、私がリザ兄様と同じ学校に通うと心に決めたのはあの日なんです。私が居る限り、リザ兄様に危害は加えさせない!」

「やった、用心棒ソフィーちゃんの復活ね!」

 緊迫した空気の中、ソニアは嬉しそうに言う。

「ああ、あの時ソニアが言っていたソフィーチャンって、ソフィリータのことだったんですのね」

 ユコも、何か納得したように手を叩いて頷く。

「わかったよ!」

 レフトールは、ヤケになったような、めんどくさそうな様子を浮かべて「ほれ、一発入れろや」とソフィリータに頬を差し出して言った。
 

 
 事実、レフトールはめんどくさいと思い、暴力の報復は暴力で受け入れると考えて言ったのだ。さらに言えば、相手が女だからたいしたことは無いと考え、一発ぐらいで気が済むならそれはそれでよいと考えたのだ。ラムリーザに一発蹴りを入れて失神させたのなら、ソフィリータから一発もらっても仕方が無いと。

「いや、それはちょっと待って」

 ソフィリータの事をよく知っているラムリーザは、レフトールの身を案じて止めに入る。

 ラムリーザとソニア以外は、それでいいんじゃないの? という気持ちでその場を傍観していたが、リリスはふとあることを思い出していた。

 去年の春、苦手克服ののためにラムリーザに連れられて特訓するために帝都を訪れた時、ソフィリータと会ったことがあった。その時、ソフィリータの穏やかな物腰や声に対して、脚だけがその雰囲気にそぐわなかったことを。

 その時の事を思い出しながら、リリスはソフィリータの脚へと視線を向ける。あの時の違和感が、記憶違いではなかったのかと確認するために。

 果たして、そこにはリリスがあの時感じた違和感はそのまま存在していた。

 ソフィリータの脚は制服の黒いサイハイソックスに覆われているが、その布越しにでも良く見れば分かるぐらい、妙に筋肉質でがっしりとしている。見るからに普通の女の子の脚ではない。

 レフトールは前に進み出て、ソフィリータと対面する。

 それに対してソフィリータは数歩下がって距離をとった。

「なんでぃ? お嬢ちゃん怖いのならやめにしてもいいんだぜ。俺はもうラムさんには危害を加えることは無いからさ」

 レフトールが言い終わるか終わらぬかぎりぎりのところで、突然ソフィリータは飛び上がった。普通ではない、かなりの跳躍力だ。

「う、うおあっ?」

 レフトールは、目の前で飛び上がる娘にびっくりして、慌てて身構える。

 レフトール目掛けて弧を描くように飛び上がったソフィリータは、彼の目の前で前転、宙返りをして見せる。そのまま身体の回転を利用した左足の踵落としのような蹴りが、レフトールへと突っ込んでいった。

 レフトールも負けていない。一発入れろや、とは言ったものの、攻撃に対して本能的にガードが働いた。右腕を振り上げて、ソフィリータの左足の踵落しが叩きつけられる前に受け止めていた。

 その次の瞬間――。

 ソフィリータの右足の踵落しが、左足を叩き付けた速度よりも素早くレフトールに襲い掛かった。

 二段攻撃を予測していなかったレフトールは、無防備な脳天にソフィリータの右足の踵落としを食らうハメになってしまった。

「だわがっ!」

 レフトールの蛙を潰したような悲鳴が部室に響き渡った後には、レフトールを除く部員全員が、両足を叩き付けた勢いで再び飛び上がり、再び宙返りしてレフトールの後方へと着地するソフィリータを呆然と眺めていた。

 頭を抱えて膝をつくレフトール。

 レフトールの後方に立っていたために、突然間に割って入るようにソフィリータを迎え入れて、思わず左右に仰け反り避けるレフトールの子分、マックスウェルとピート。

「なっ、なんだこいつは?! ただのお嬢さんに見えていたけど、なんて動きしやがるんだ……」

 レフトールは振り返って立ち上がろうとしたが、そのままフラフラとよろけてしりもちをついてしまった。脳天に直撃を食らって足がふらついたようだ。見ると額に一筋、血が流れていた。

「……失神しませんでしたか、まあいいでしょう」

 ソフィリータは不満そうだったが、一発食らわせて気がすんだようで、涼しい顔をしてラムリーザの脇へと移動していった。

「よし、これでおしまい、ソフィリータも遺恨を残さないこと。レフトールも大丈夫かい?」

 レフトールは二人の子分に両脇から抱えられて立ち上がっていた。

「なんてスピードしていやがるんだ、パワーの兄と、スピードの妹かよ」

「僕ならソフィリータは、捕まえてしまえば怖くないんだけどね」

「んだんだ」

 レフトールは、ラムリーザ相手に虚勢を張っていた。それほどまでに、ソフィリータの動きは、常軌を逸していたのだ。

「今の蹴りって、ダブルニープレスに似ていない? 前方宙返りして二段蹴りだったし」

 ソニアの一言に、リリスとユコは嫌な顔をする。二人にとってその技は、ソニアの操る格闘キャラのハメ攻撃の一部でしかなかった。

 そういうわけで、部員が十名に到達した、ある夕暮れの一時であった。

 
 
 
 
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