home > 物語 > > 最後の石版探し

最後の石版探し

 
 7月26日――

 

 この日は、朝からラムリーザはリゲルと一緒にコテージ内のテーブル席で、石版についていろいろと思案を巡らせていた。

 手元にある石版は二枚、それに加えて昨日砂金採集場近くの食堂で見つけた石版に書かれてあった呪文を記したメモが一つ。

「なんか篭り気味だったのは、こんな事やっていたからか」

 リゲルは今日は珍しく釣りを始めずに、朝からコテージでのんびりしていたところにラムリーザが石版を持って現れたわけだ。

「宝の隠し場所か何か分からないけど、地図と呪文なんだよね」

「ムイルコベレトジシヨキマか、確かにパスワードに見えんこともないな」

 リゲルはメモ書きの方を見ながら、呪文をつぶやいてみる。

「地図は確実にこの島なんだ。そして呪文の中で意味がありそうな部分と言えば、テイカン――諦観ね、それとブタなんだ」

「そんな一部だけ読み取っても意味は無い。全体で考えないとダメだ」

「それじゃあメチシナって何?」

「まぁ待て、地図上の印はもう一つあるのだろう? 最後の一箇所に行ってみて、それから考えよう。このパスワードはそこで使うものなのかもしれない。そこはここから一番遠い場所だしな」

 そこで今日は、石盤に描かれた地図にある最後のバッテンを目指してみることになった。バッテンの場所は、島の南側近くに描かれている。

「それじゃあ距離があるから、またリゲル運転手よろしくね」

「二人で行くのか?」

「そうだな、運動能力の高い人を連れて行こう。これは冒険みたいなものだからね」

 ラムリーザは、レフトールとロザリーン、そしてソフィリータに声をかけて、この遠征隊に加える事にした。五人パーティで前衛はその三人、後衛がラムリーザとリゲルと言ったところか。しかし――

「ラムが行くなら行く!」

 当然ながら、おまけが付いてくる事になってしまった。

 六人となったメンバーは、今日はバンではなく普通の車に乗り込んで、島を一周したときとは反対のコース、反時計回りで南へと向かっていった。東回りだと、途中で例の奇岩が目に入るので、なんとなく避けようという気になったりするのだ。

 

 先日ラムリアースに連れられて見た原油採掘施設を通り過ぎて、さらに南を目指す。

 初めてここを通ったときは雨だったので、晴れた景色を見るのはこのキャンプでは初めてのことになる。もっともラムリーザとソニアの二人は、昔訪れた時に見たことがあるのだが。

「南の端まで行くと、あの不自然な大渦があったところになるな」

「石版の地図によると、そこまでは行かなくていいみたい。島の南南西辺りかな、海岸線ギリギリに印があるから、海辺の洞穴? それとも離れ小島があるのかな?」

「それならば、あれを当たってみよう」

 リゲルは、車のスピードを落として海岸の傍に停めた。そこは砂浜ではなく、岩場になっていて所々潮溜まりができている。そして海には、小さな島がある。その島に向かって、岩が点々としていて、まるで飛び石のようになっていて島までの道を確保しているように見えた。

「あの島、そして飛び石みたいになっている岩、何だかできすぎに見えないか?」

 リゲルに言われてラムリーザも確認してみたが、確かに人の手が加えられたようにも見える。自然にできたものにしては都合が良すぎるのだ。

「探検隊みたいだね、戦士レフトール、武闘家ソフィリータ、盗賊リゲル、僧侶ロザリーン、魔法使いラムリーザだ。六人パーティ、洞窟探検ゲームみたい」

「レフトールとソフィリータだけ現実の能力で、残りはテーブルトークゲームの設定だね」

「ソニア姉様は何ですか?」

 ソニアのメンバー解析に、ラムリーザの突っ込みとソフィリータの質問が投げかけられる。

「あたしはロード!」

「何がロードだ、おっぱいちゃんは裸ニンジャになれ!」

 レフトールからの無茶な注文が入り、口論に発展してしまうのだった。

 二人の言い合いを背景音ににしながら岩場の潮溜まりを進んでいくと、リゲルは突然「しめた」と言いながら潮溜まりに手を突っ込んでいた。手を引き上げたときには、硬い殻で覆われた体に八本の足と二本の大きなはさみを持った生物を捕まえていた。

「ロザリーン、今夜はカニ鍋だ。おっ、あそこにも大きなのが居る。俺はカニを集めるから、石版探しはお前らでやっていろ」

 ここに来て、リゲルが探検隊から脱落してしまった。それでもさほど問題は無いだろう。リゲルの考察力は、石版が見つかった後に発揮されるものだ。探すのは体力自慢だけでいい。盗賊と言うのはあくまでゲームの設定であり、リゲル自身がピッキング能力などを有しているわけではない。

 リゲルは最初に捕まえたカニに対して、足を四本ずつそこらに生えていた草のつるで縛り上げる。そして二匹目を捕まえに行ってしまった。

「盗賊脱落。海からシーサーペントとかマンオーウォーが襲ってくるから気をつけてね。海賊船が来たら船を奪えるけど」

「それはあのゲームか、俺は騎士、レンジャー、シスター、魔術師でクリアしたぞ」

 レフトールはソニアの言う内容に心当たりがあったらしく、話をあわせてきた。

「魔女と科学者が入っていなければどんなメンバーでもいい」

 それに対してソニアはまたしても魔女下げを言ってくるのだった。

「魔女はもったいないよな、見た目は良いのに性能がカスだ」

「現実の魔女は見た目も吸血鬼だけどね」

「しかしあれって、職業と性能をもうちょっと整頓した方がいいよな。魔術師の魔力はそのままで良いとして、法力の使い手はシスターじゃなくて僧侶が相応しいよな。で、法力の半分は魔女じゃなくてシスターであるべきだ。魔力の半分は科学者じゃなくて魔女な。そんで、魔力と法力の両方が使えるのが科学者だったほうがしっくり来るぜ」

「最強の鎧は誰でも装備できるから、戦士は法力が使えないから騎士の劣化版。騎士、騎士、シスター、魔術師がベストメンバー。盗賊は要らない」

「同じ職業がダブっているのは美しくないぜ」

 口論は終わり、今度は二人のゲーム論を背景音に、ラムリーザは先頭を切って飛び石のようになっている岩場を落ちないように進んで、小島へと向かっていった。

 小島に到着してから気がついたのだが、そこには陸から見えないように沖の方に面した洞穴の入り口があるのだった。ここは満潮になっても沈まないようになっているらしく、内側の壁は岩だけで海草などは付いていない。

「おっと、ここからは俺が先頭に立つぜ。俺はラムさんの騎士だからな」

 レフトールは、ラムリーザの肩を掴んで足止めさせて、自分が先に洞穴の中へと入り込んだ。

「騎士は足が白い植木鉢ブーツの女。レフトールは女じゃないから騎士じゃない」

 ソニアはまだゲームの話をしている。

「俺は女騎士でもいいぜ、くっころくっころ」

 不思議なフレーズを発しながらレフトールは、洞穴の奥へと進んでいった。ラムリーザも急いで後を追う。

 洞穴は海岸の方へ向かって降りていく感じになっている。ということは、奥の方は海面よりも低い事になっているのだろう。入り口はかがんで入らなければならない大きさだったが、奥に行くにつれて広くなり、普通に立っていても天井に頭が届かないような高さになっていた。

 しかし洞穴の奥は薄明るく光っている。何か光源があるのか? それとも輝く物が置かれているのか? 石版の四つの印、謎の呪文をすっ飛ばして四番目の印の位置でお宝発見か?

「なんかおるぞ」

 先頭を歩くレフトールが小声で言った。薄明るい光の中で、影が動いた。

 素早くソフィリータがラムリーザの前に躍り出る。ソフィリータもラムリーザの警護を自称しているようなものだ。そのために格闘技にも手を染めている。

「出て来いゴルァこのバカチンが!」

 突然レフトールは奥に向かって怒鳴りつける。この辺りの強引さがレフトールならではだ。

 洞穴にレフトールの声が響いた次の瞬間、フッと奥の明かりが消えた。

「これやばくないか?」

「リザ兄様は私の傍を離れないで」

 ソフィリータはラムリーザの前にぴったりと張り付いて、洞窟の奥を凝視している。

 原住民でも住み着いているのだろうか? しかし何十年以上も前からフォレスター家が開発を進め、島民の話では土着民は居ないとの話だが、秘境の奥へ隠れ住んでいたということか?

 次の瞬間、奥から小さな影が三つ飛び出してきた。

 すかさずレフトールは二つを捕まえ、残る一つはソフィリータが捕まえた。

「おらぁ化け物め! てめーは原始猿人バーゴンか?!」

「痛い痛い痛い!」

 レフトールの怒声に続いて、妙に舌足らずな高い声が返って来た。

「ちょっと待てよ」

 ラムリーザは、影をレフトールが捕まえた際に地面に転がったものを拾っていた。それはどこにでもある懐中電灯だった。原始猿人が懐中電灯を使うだろうか?

 いや、そもそも原始猿人って何? バーゴンって何?

「おいおいレフトール無茶をするな、相手は子供だ」

 ラムリーザは懐中電灯を灯した。レフトールが二人、ソフィリータが一人捕まえていた者は、まだ小さな子供の男の子だった。

「何で洞窟からガキが出て来るんだよ」

「ここはボクたちのひみつちきなんだい」

 子供と分かるとすぐにソフィリータが開放した一人が答えた。

「ちきじゃなくてきちじゃねーか、このがいきちが!」

「いいからレフトールも離してやれよ」

 レフトールは、未だに二人を小脇に抱えたままだった。

 

 明るいところまで戻ってから、ロザリーンが対応する。

「ねぇボクくんたち、この奥に石版のようなものは無かったかな?」

「この洞穴に月の石版があるって聞いたんだけど、みつからないんだなぁー」

「月の石版?」

「うん、この島には愛、太陽、月、死の四つの石版が有って、それを四つ見つけたときに何か起きるんだって。でも一つも見つからないんだ。でもこの場所はなんだか面白かったからひみつちきにしているの」

 不思議がるロザリーンだが、ソニアは心当たりがあるようだ。

「エクソダスを封印するのかなぁ?」

 ソニアはさらに不思議なことをつぶやいている。

「君達はもう帰りなさい」

 ロザリーンは子供達を帰そうとするが、「えー」とか言って動こうとしない。しかしレフトールが威嚇すると、三人とも洞穴から飛び出して行ってしまった。

「あ、懐中電灯返してない。まあいいか、後で返すとして今は使わせてもらおう」

 ラムリーザは、子供達が落としていった懐中電灯で洞穴の奥を照らしてみた。それほど深くない洞穴で、辺りにはお菓子の袋やおもちゃが散乱している。確かに子供達の秘密基地になっていたようだ。

「あっ、ここに相合傘が書いているよ。リンゴとモーリンだってさ」

「そんなものはどうでもいい――ってソニア、お菓子食べるんじゃない。それはあの子達のものだろうが」

「石版は有りそうにないですね」

 ロザリーンは周囲を見回して言った。こんな場所に石版があれば、子供達が発見して持ち帰っているはずだ。しかし先ほどの話ではまだ見つかってないと言う。ここはただの洞穴で、場所違いだろうか。

「おいラムさん、ここ照らしてくれよ」

 しかしレフトールが何かを見つけたようで、洞穴の壁面の天井付近を指差している。洞穴はつるっとした岩肌でできているが、そこだけ不自然な亀裂が入っていたりするのだ。

「んー、亀裂に手が届かないなぁ」

「私が登ってみます」

 ソフィリータは岩肌を登ろうとするが、足を引っ掛ける場所がないのでそれは難しかった。

「ん、俺の手を足場にしな」

 レフトールは手を差し出してソフィリータをその上に乗せる。ソフィリータはそのまま亀裂の中に手を突っ込んで調べ始めた。

「あ、何だかロープのようなものがありますね。引っ張ってみます」

 ソフィリータは亀裂からロープのようなものを取り出して引っ張ってみた。

 

 ガコン!

 

 なんだか大きな音がして、ビックリしたレフトールはソフィリータを乗せていた手を引っ込めてしまった。しかしソフィリータは空中でバランスを取り戻してそのまま普通に着地できた。

 亀裂からはロープが少しだけ垂れている。でもこの高さだったら地面からでもロープの先には手が届く。

「このロープを引っ張ったら洞穴が崩れたりして」

 さらっとソニアは怖いことを言う。

「じゃあみんなで入り口側から見守っていてやるから、お前が引っ張ってみろ」

 レフトールは、ソニアをロープの傍に押し込む。

「なっ、なんであたしが?!」

 そこでラムリーザはこの先の会話を予測してつぶやいた。

「次に君達は引っ張れ、ふえぇと言う」

「何ですか?」

 傍に居たロザリーンが聞き返すが、「なんでもない」とだけ答えておいた。

 レフトールとソニアが「引っ張れ!」「ふえぇっ!」と言い合っているのを他所に、ソフィリータは改めてロープを掴んでゆっくりと引っ張ってみた。

 ロープを引っ張るには多少力が要るが、それでも引っ張れないことは無い。そして引っ張るに連れて、ゴリゴリとどこかから音がする。

「ちょっとソフィリータさん、危なくないですか?」

 ロザリーンは心配そうに声をかける。

「洞穴全体が揺れているわけではないので、崩れる可能性は低いと思われます。あ、これ以上ロープは引っ張れないみたいですね」

 ソフィリータは、ロープから手を離す。するとまたゴリゴリと音がしながらロープは引っ込んでしまった。

「これは、ロープを引っ張るとどこかが開いて、手を離すと閉じるような仕組みになっているみたいですね」

「それ面白い、あたし引っ張ってみる」

 安全が確認されてから、ソニアは引っ張り役を名乗り出てきた。

「それじゃあもう一度ゆっくりと引っ張ってみて」

 ラムリーザはそう言いながら、懐中電灯の光を周囲へと向けた。

 耳を澄ましてゴリゴリという音がしていそうな方向を読み取って、その方向へと光を向けてみる。

「ん、岩肌の一部が開くみたいだな」

 ロープとは反対側の岩肌に、まるで隠し扉のような小さなスペースが生まれていた。ラムリーザはそのスペースを覗き込む。

「あっ、石版だ。ビンゴ!」

 こうして、簡単な仕組みで最後の石版を発見したのだった。

 ソニアがロープから手を離すと、その小さなスペースを塞ぐように上から板のような岩が降りてきて、完全に降りた後には周囲と見分けが付かなくなっていた。

「よし、これで目的は達成したから戻ろうか」

 意気揚々と洞穴から出て行くと、飛び石がやたらと海面から高くなっていた。

「引き潮かな、満ち潮だったら飛び石が沈んでいたかもしれない。危ない危ない」

 飛び石を渡って潮溜まりに戻ると、リゲルはまだせっせとカニ集めをしていたようだ。

「お、戻ってきたか。ほら、大きなカニを八匹捕まえたぞ」

 なんだかリゲルが高揚しているように見える。

「リゲルはカニが好きなのか?」

 ラムリーザの問いに、リゲルはいつもの様子からは想像も付かないような早口でまくし立てた。

「カニはいいぞ、帰ったらカニ鍋の準備だ。カニはカニだけにヒザラガイやウツボよりは、はるカニ美味いぞ」

「リゲル……」

「リゲルさん……」

 ラムリーザとロザリーンは、微妙な視線をリゲルに向ける。

「おっと、帰るのだったな」

 途端にリゲルはいつもの表情に戻って、捕まえた八匹のカニを抱えて車へと戻っていったのであった。

 ソニアは一言、「リゲルきもい」とだけつぶやいた。
 
 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2021

return to page top

©発行年-2021 フォレストピア創造記