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四呪文の解読

 
 7月27日――

 

「これで、四枚の石版が集まったわけです。今日は、その呪文を解読する作業を行いたいと思います」

 コテージの広間、三枚の石版と一枚のメモ用紙を置いたテーブル席にラムリーザ、リゲル、ジャン、ユグドラシルの四人が集まっていた。他の仲間は、今日も海や町へと遊びに出かけていた。

 ラムリーザの宣言で、呪文解読チームの活動が始まったのである。

「正確には地図の石版が一枚、呪文の石版が四枚の計五枚だけど、その内一枚はお店の魔除けになっていたので呪文のメモだけ取ってきました」

「それでは秘密の儀式を開始します――ってか?」

 ジャンは一枚の石版を手に取って茶化してみせる。

「それもあながち間違いではないな」

 リゲルも石版を見つめながら、肯定してみせる。

「その地図は何かな?」

 ユグドラシルの質問に、ラムリーザは「地図のバッテン印の場所に、これらの呪文が書かれた石版があったのだよ」と答えた。

「メチシナテイカンヘサガト?」

 ユグドラシルは石版に書かれた呪文を唱える。

「トヘオナストカレスハブタ」

 続いてジャンが復唱する。

「メイエウテアボニヘナシハ」

 リゲルも唱えてみる。

「ムイルコベレトジシヨキマ」

 最後にラムリーザは、書き写したメモを読み上げた。

 

 少しの間、沈黙が続いた。

 

 そして、お互いにキョロキョロと視線を交し合う。

「何も起きないな」

「声が小さいのかな?」

「部屋を暗くしないとダメかな?」

 などと意見が上がる。怪しい儀式のあり方、これは如何に?

 しかしリゲルは落ち着いた様子で、「これは呪文じゃなくて、それぞれの文章に意味があるのだ」と言った。

「例えば最初の石版の一節、テイカンとは諦観と読める。悟りの境地と考えたら、何か意味がありそうじゃないか」

「その前のメチシナは?」

「シナは品物の事だろう。メチ……、メチルアルコール……、目地、目知……、何かの目的かな? 目的の品と解読してみよう」

「ほー、さすがリゲルだね。古文書の解読とか得意だったりする?」

 ラムリーザは、感心したようにリゲルを褒める。やはりリゲルはこのグループの知恵袋だ。

「とあるゲームに石版みたいなのが出てきてな、地図という名称になっているが書かれているの文章。しかしその文章が抽象的で、意味をいろいろ考えないとダメなのだ」

「ふ~ん、例えばどんなの?」

「一字一句覚えているわけではないが、『四なる角に添え物をなし、光を通さざる色合いとす』とか出てくるのだ。この場合、部屋の四隅にアイテムを設置して、枠を黒く染めたら先に進めた。光を通さざる色合いとは黒のことな。だからこの文章も呪文ではなく、何かを曖昧に示したものだと考えられる。ブイイレから、青、赤、赤、黄の順番を発見しなければならない謎解きもあったからな」

「では最後のヘサガトは?」

「へサガト……、何々へ下がると。下がれと、こんなところかな」

 そこでリゲルは一呼吸置いてから言葉を続けた。

「つまり通して考えると、何かの目的の品を悟りの境地で下げよと。下げよではないな、この場合は捧げよの方が意味としてつながりやすい。何かの目的を持った品物を、悟りの境地を開いて捧げよ。これがその石版の意味だ」

「何かの目的を持った品物を、悟りの境地を開いて捧げよ」

 ラムリーザは、リゲルの解読した文章を復唱する。何だか知らないが、壮大な冒険が始まったような気分になっていた。

「それで、その何かの品とは何だい?」

 ユグドラシルは、新たに生まれた疑問をぶつけてくる。

「品として目につくのは、そっちの石版の最後に書かれているブタだな」

「トヘオナストカレスハブタ?」

「ある宗教では、ブタを神聖な生き物として神に捧げるために食べないという文化があったりする。しかし藁でできた小屋に隠れたブタは、息を吹きかけて藁を吹き飛ばして捕まえるのだ」

「木でできた小屋に隠れたブタは?」

「木の板はそれほど強度は無い。体当たりでもして壊せばブタは捕まえられる」

「レンガでできた小屋に隠れたブタは?」

「レンガ小屋は出来上がるまで時間がかかるので、完成する前に捕まえる」

「さすがリゲル!」

 持ち上げられてリゲルは、フッと笑う。何気にいい気分になっているようだ。

「ヘンコブタは?」

 ついでにラムリーザは、噂について尋ねてみた。

「ヘンコブタ? ヘンカラ峠に出没するらしいが、単なる噂だ。で、雑談しながらこの呪文についていろいろ考えてみたが、これはノイズ系が含まれているな」

「ノイズ系?」

「例えばスハブタ、これはハがノイズだ。除けばスブタとなり酢豚だ」

「酢豚を捧げるの? おかしくないか?」

 ずっとリゲルを持ち上げていたラムリーザは、一転して反論してみる。

「さっきも言ったとおり、ブタを神聖な生き物とする宗教もある。ほかの文化から見たら、それはおかしいとか考えないか?」

「言われてみたら、文化それぞれだね。ユライカナンには山移動大会という謎のスポーツもあったし、いろいろな文化を受け入れなくちゃね」

「つまり、この石版を記した者にとっては、酢豚が重要だったのだ」

 なんだかリゲルにまくし立てられてしまったが、言われてみればそんな気になってしまうから不思議だ。

「嫌待てよ、酢豚じゃなくて豚その物でいいかもしれんな。その前の五文字、ストカレスはストレスを枯らす。つまりストレスを無くすものはブタということなになる。ストレスを枯らすはブタだ」

「トンカツ美味いよな」

 ジャンは納得したようだ。

「では冒頭のトヘオナは何かな?」

「オナはアレだよアレ、ふふっ」

「こらこら、何を言い出すのは君は」

 ユグドラシルは、年齢制限のかかりそうなことを言い出すリゲルに注意をする。

「知らん、書かれているのだからそうなるのだ。先輩はオナるとか言わないか?」

「なっ、ちょっ、まっ――」

 動揺するユグドラシルを見てリゲルはフッと笑うと、解読を続けた。

「トヘ、トヘロス……、徒へ、何かの信徒かな。都へとも取れるが、続くのがオナるだからな、う~む……、待てよ? オナるじゃなくて、自慰だと捕らえたら解釈は増える。自分を慰める、ト、頭、頭へ自分の頭を慰めるために、ストレスを枯らすブタを使えだ」

「自分の頭を慰めるために、ストレスを枯らすブタを使え、すごく強引だな」

 今度はジャンが復唱して、感想を述べる。

「先に進めるぞ、次は何だ?」

「メイエウテアボニヘナシハ」

「う~む……」

 リゲルは石版を見つめながら黙り込んだ。

「メイエは名絵、名のある絵にならないかな?」

 ユグドラシルの一言に、リゲルは「それだ」と答えた。

「続くウテは、撃て。絵を撃てはおかしいから、ここは絵を売ると解釈しよう」

「ボニ、ボ、歩、母、母親かなぁ? つまり、母にとなる?」

 ラムリーザも、リゲルの要領を覚えていろいろと解釈できるようになっていた。

「それでいい、名のある絵を母に売るだ。いや、撃つをぶつける、与えるとも取れる。名のある絵を母親に与えるとなるな」

「最後のヘナシハは?」

「これはアナグラムだな、並べ替えるとハナシヘ、話へだ。つまり、名のある絵を母に売る話へ、となるのだ」

「すごいな、あっという間にどんどん解読が進む」

「まぁ考古学ってこんなものだ。辞書も無いのに、前後のパターンや文字の使用頻度から意味を割り出す。祠とか行けば、古代文字とか出てくるかもしれん」

「実はこの石版に書かれているものは古代文字で、文章から現代の意味を割り出すのは意味が無いとかだったらどうする?」

 ここに来てジャンは、新たな理論を持ってきた。

「どういうことだ?」

 リゲルの問いに、ジャンは「えーと……」と少し間を置いてから語りだした。

「メイエウテアボニヘナシハ。例えばメイエウテは大きな木を意味するとする。そしてアボニは根元を意味する。最後にヘナシハは埋めたという意味だとしたら、大きな木の根元に埋めたという意味にならないかな?」

「それは何語だ?」

「エルフ語で魔界語でも宇宙語でも竜語でもいいぞ」

 どうやらジャンの頭はファンタジーな方向へ向かっているようだ。

「それが竜語だとしたら、ベリィドアットベースオブアビッグツリーとならないかな?」

 ユグドラシルが、宗教学の学びがあるところを見せる。帝国を含め、この周辺各国で信仰されている竜神伝説には、竜語という独特の言語があるのだ。

「じゃあエルフ語でもいいよ」

「ふっ、そういうのならどうとでも解釈できる。トヘオナストカレスハブタをこう解釈してやろう。トヘオは黒髪、ナストは女、カレスハは求める者、ブタは振られるとしよう。つまり、黒髪の女を求める者は振られるという意味となる。どうだ参ったか?」

 リゲルは謎の勝負をジャンに挑んでくる。これにはジャンもムッとして反撃を試みる。

「それじゃあメチシナテイカンヘサガトは、解釈は中略して、二股の悪魔は自滅の道を辿るという意味だったらどうするのだ?」

 リゲルは無言でジャンに冷たい視線を浴びせかける。ジャンも負けじと、目を見開いてガン飛ばしを仕掛ける。

「ファンタジー解読の勝負はいいから、ムイルコベレトジシヨキマについても解読してくれよ」

 ラムリーザは、冷戦の始まってしまったテーブルに、仲裁役として乗り込んできた。

「そうだな、現実的な解読をやろう」

 リゲルは、ラムリーザから最後に残った呪文を写し書きしているメモを受け取った。

「まずはムイルコ、これは無為るこ、無為る事、静かにするという意味だ。最後のシヨキマも簡単だな。シヨはシオとも読める、つまり塩。キマはキヨマルを短縮したものとなり、塩で清めるという意味になるのだ。残りはベレトジか……」

「トジは閉じるとか?」

 ラムリーザは、これまでのリゲルが行ってきた解釈法から推理してみた。

「そうなるとベレという単語が謎だ。ベレを閉じる、ベレを閉じる」

「喋れとか?」

「なるほど、喋れを閉じる。つまり口を閉じると解釈できる。全てを通して解釈すると、口を閉じて静かにし、塩で清めよ、という意味になるな」

「これやっぱり島の四箇所に、悪霊か何かを封じているんじゃないか?」

 ジャンは少し不安そうだ。

「有りうるね、ここマトゥール島に昔何があったか知らないし」

 ラムリーザは同意するが、ユグドラシルは「海賊が本拠地にしていたって言ってなかった?」と聞いた話を覚えていた事を示す。

「海賊が四箇所に何かを封じたのだ」

 結局ファンタジー物語風になってしまうのであった。

「さて、これで四つの呪文が全て解読できた事になる。全てを合わせてみるぞ」

 

 メチシナテイカンヘサガト:何かの目的を持った品物を、悟りの境地を開いて捧げよ

 トヘオナストカレスハブタ:自分の頭を慰めるために、ストレスを枯らすブタを使え

 メイエウテアボニヘナシハ:名のある絵を母に売る話へ

 ムイルコベレトジシヨキマ:口を閉じて静かにし、塩で清めよ

 

 リゲルは、ラムリーザの持っていたメモ帳にこのようにまとめた。

「えっと、つまりどういうことだろう」

 まとめてみたものの、ラムリーザにはこれをどうすればよいのか分からなかった。

「四つをさらに混ぜて解釈すると、名のある絵を、精神を慰めるために口を閉じて静かにして、悟りの境地を開いて、聖母に捧げ塩で清めよ。こんなところか?」

 リゲルは一同を見回して、同意を求めた。

「なんだか啓示みたいだね」

 これはユグドラシルの感想だ。

「宗教絡みの話だったか」

 ジャンにはあまり興味を引くような結果ではなかったようだ。

「僕の母か、ソニアの母に何か絵を描いて持っていこうかな?」

 ラムリーザは、啓示っぽい文章を実行してみようとする。

「それはあまり意味が無い行動だと思う。それよりも四つのバッテン印を線で結んで、その中央にも行ってみたい所だな」

 リゲルは、今度は地図が描かれた石版の方へ興味が向かってきた。

「中央は、リン鉱石の採掘場があるだけだぞ?」

「四箇所は何かを封印するための地点となっていて、本体はその中央にある場合があるのだ」

「そこに行くには車は使えないから、かなり歩きになるよ?」

「後日暇になった時に行けばいいだろうが」

 そう結論が出たところで、これにて石版の呪文解読作業は一旦終了となった。

 昔神の教えを石版に残しただけなのだろう。そう考えて、ラムリーザ達はテーブル席を立って各々好きな場所へと散っていくのだった。

 しかし最後に残されたリゲルは、腕組みをしたままテーブルの上に並んだ石版を見ながら考えていた。

「この結果が出たから何だというのだ? 何か壮絶な思い違いをしているような気がする」

 しかし、石版は黙ったままで何も教えてくれないのであった。
 
 
 
 
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