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今日の世迷いごと その二

 
 8月4日――

 

 この日は――、というよりも正確には昨日から、洞窟探検から戻ってきてからと言ったほうが正しいだろう。

 壷一杯の金塊が元となり、ラムリーザ達の宿泊するコテージは、一部騒動が発生していた。

 静観組みと騒動組み、まぁ騒いでいるのはソニアとリリス、ユコにミーシャと言った女性陣なわけだが、金塊を巡ってやれ誰それが一杯取っただの、誰それが隠し持っているだの騒ぎが納まらない。

 臼ほどの大きさの壷の中に入っていた金塊は、半分以上がその姿を消してどこかへと行ってしまっていた。

 その四人以外は、記念にと各々気に入った金塊を一つだけ持ち出していたので、大半はこの四人がどこかへ持ち去ってしまったことは明らかだ。

 金塊は握りこぶし大の大きさで固められているもので、所謂インゴットという物とは違っている。おそらく大昔の海賊が、盗んだものを無造作に固めて置いていただけなのだろう。

「あっ! ミーシャの部屋から金塊が出てきた!」

 コテージの広間の外から、ソニアの叫び声がする。ミーシャは慌てて広間から飛び出していった。

「やーん、ミーシャの金塊取らないでーっ、折角一つずつ運んだのにーっ」

 だがソニアは纏わり付くミーシャを振り払って、持てるだけの金塊を抱えて部屋から出て行った。持てるだけと言っても、精々四つだけであったけどね。

 しかし今度はソニアが文句を言う番であった。

「あっ、ユッコ! 何してんのよ!」

 ソニアの部屋――ラムリーザと同室――に忍び込んでいたユコは、ベッドの下にあった金塊を見つけ出して、二つほど手に持っていた。

「あっ、戻ってきたのね? 撤収しますの!」

「あたしの金塊返せ!」

 ソニアは持ってきた金塊をベッドの上に投げ出すと、そのまま外へ出て行ったユコを追いかける。部屋の外で二人は金塊をつかみ合ったまま、引っ張り合っている。

 そこにコテージの広間から出てきたリリスと鉢合わせ、リリスは広間に置いてある壷から新たに金塊を持ち出してきたようだ。

 そこにミーシャがやってきて、リリスの抱えている金塊を上から一つ奪うと、素早くリリスの後ろへと回り込んだ。そしてさらに素早く、その金塊をリリスのパンツの中に忍び込ませた。金塊の重さでパンツはストーン!

 びっくりしたリリスは、持っていた金塊を放り出して慌ててパンツを戻す。ミーシャは落ちた金塊を二つ奪って自分の部屋へ逃げ込んだ。

 ユコともみ合っているソニアは、床に転がった金塊に足を取られて尻餅をつく。運の悪い事に、尻をぶつけた床に丁度金塊が落ちていて、思いっきり踏んづけたソニアは尻を抱えて悶絶する。

 その隙にユコは金塊を持って逃げようとするが、同じく転がっていた金塊に躓いて転等。持っていた金塊はごろごろと転がって廊下の端まで行ってしまった。

 

「いい加減にしろっ!」

 

 コテージの廊下に出てきたラムリーザは、朝から大騒ぎをしている四人に怒鳴りつける。その隣ではリゲルが冷めたような目つきで、「みみっちい庶民が」などと嫌味をつぶやきながら、床に転がっている三人を見下ろしていた。

 そこに部屋からミーシャが出てきて、廊下に転がっている金塊を拾おうとして――

「こらっ!」

 今度はリゲルが怒る。どうやらリゲルはミーシャのことが好きだが、甘やかさないタイプであるようだ。

 ラムリーザはこの騒動を静めるために、混乱の元はやはり傍に置いておかない様にすることにした。

 ロザリーンとソフィリータにお願いして、廊下の端にソニア達四人を並ばせて動かないように監視させる。

 その間にラムリーザとリゲルは、ソニア達が持ち出した金塊を全て回収して壷へと戻した。

 壷に戻している最中、レフトールが壷から金塊を持ち出そうとしているのを見かけたので、彼もソニア達の列に加えて監視させ、彼の部屋も捜索することになったのである。

 30分ほどかけて、壷の中の金塊は元に戻った。

 そこでラムリーザは、ソニア達に改めて金塊を一個ずつ与えてから、島民を数人呼び出した。そして金塊の入った壷は、島民たちの手によって島の倉庫へと運ばれていった。

 こうして金塊騒動は、ようやく静まったのである。

 

 昼食時、金塊の壷が消え去ったコテージは、平穏を取り戻していた。

「あーあ、あんなに一杯金塊があったのに、リリスが欲張りだから一つを残して全部没収された」

 しかしソニアは、まだぶつぶつ文句を言っていた。

「あなたの方がたくさん持ち出していたでしょ? 金塊は地底人のエネルギー源なのだから、無駄にしたらダメなのよ」

 それに対してリリスは、不思議な設定を持ち出してくる。エネルギー源?

「えっ、これが?」

 ソニアは驚いて、持っていた金塊を口に運んでみた。

「あっ、ふえぇちゃん金塊食べた」

 ミーシャはそう言うが、食べられるようなものではない。ソニアはすぐに金塊を口から離す。

「全然味しないじゃないのよ!」

「チョコレートのような味がするとでも思ったのかしら?」

 リリスはくすっと笑って、昼食メニューの一つ、ウミガメのスープを人さじ口へと運んだ。

「ミーシャ、金塊は重たいから宝石の方がいいなぁ」

「それじゃあその金塊あたしに頂戴」

「やーん」

 金塊騒動は、まだ少しだけくすぶり続けているようであった。

 そんなわけで、誰かの所有物である金塊を盗んだものが出てきたら、その場できついお仕置きをするといったルールがラムリーザによって制定され、リゲルもそれに賛同するのであった。

 さらにソニアからの提案で、パンツの中に物を入れてきたらそれも同じぐらい罰して、というものが挙がってきた。ラムリーザはなんでそんな馬鹿馬鹿しい事まで決めなければならないのだと思ったりもしたが、馬鹿馬鹿しいからこそ防がなければならないと考えてそれも制定した。

 騒ぎを起こさなければ、壷一杯の金塊がみんなのものだったのに、欲張るから一つずつになってしまった。ほんと馬鹿だね。

 

 昼食後、皆はそれぞれ自由に過ごしだし、昨日と違い少し退屈な日常が戻ってきた。

 ミーシャとソフィリータなどは、太い木の枝二本を立てかけた間に、地面と水平になるように横棒を設置した。そして腰ぐらいの高さに調整された棒の下を、仰向けになって倒れないようにしながら潜りだした。棒潜りゲームだ。

 ミーシャはダンスが得意の面目躍如、柔軟な身体とバランス感覚を使って難なく棒の下を潜っている。それに対してソフィリータは、筋肉質でちょっと身体が堅くて苦手そうだ。

「あら、懐かしいことやってるじゃないの」

 リリスは、そんな二人を見て笑みを浮かべながら、ソニアに対して話を続けた。

「また勝負しないかしら?」

「絶対やだ!」

 ソニアは胸が大きすぎるので、上体反らしでの棒潜りゲームは不利過ぎる。去年のキャンプで、十分すぎるほど学習済みであった。それでなくとも去年よりもさらに膨らんだLカップ、見てみたい気はするが、ソニアは絶対にやってくれないだろう。

「でもまた一曲楽譜が完成しましたの。またリードボーカルが誰か決めてもらわなくちゃ」

「それでは先日お流れになったビーチフラッグスはどうですか?」

 ロザリーンの提案で、ソニアとリリスのビーチフラッグス一騎打ちが決まった。

「砂浜を走って旗を取るだけ、これだとソニアのおっぱいがそれ程ハンデにならないわね」

 リリスは少し難を見せる。リリスとしては、圧倒的にソニアが不利な競技で勝負がしたかったりする。

「いちいちおっぱい言うな! そんなんなら、胸の大きさで勝負。大きいほうがリードボーカル決定」

「世の中には貧乳が好きな人も多いわ」

 そう言うリリスも、90(G)だったりするから説得力が無い。ただソニアの103(L)が異常なだけだ。相対的に考えると、10減らしてソニアが93の巨乳だとしたらリリスは80と普通になる。

「うるさい! 貧しい胸がいいなんて、そんな歪んだ発想は、人として何かを失って生まれてきた奴らが持っている病的な発想なんだ!」

 リリスの言葉に、ソニアは無茶苦茶な理論を展開する。これにはユコが黙っていられない。

「バストは搾乳するためにあるんですの! 寄せたり上げたり、ましてや谷間を作れることに何の意味もないんですの!」

「じゃあユッコ、搾乳してみてよ!」

 ソニアはすぐに揚げ足取りをしてくるが、ユコも負けてはいない。

「ラムリーザ様との間に子供ができたら、立派に搾乳して見せますの!」

「寝取るなこのライスラデラムネカス!」

「なんですのそれは!」

「ほら、旗を持ってきましたよ。つまらない諍いをやってないで、勝負したらどうですか?」

 ソニアが騒いでいる間に、ロザリーンはコテージにあった旗を持ってきた。小型の帝国国旗だ。

「えーと、旗とは反対向きにうつぶせになった状態からスタートですの」

「ソニア用のスタート地点、作ってあげたわよ」

 リリスの方を見ると、スタート地点にするべく少し離れた場所に二つの大きな穴を掘っていた。

「何落とし穴掘ってんのよ」

「ここにうつぶせになってごらんなさい」

 リリスに身体を捕まれて、ソニアはそこに無理矢理うつぶせにされた。リリスの掘った穴にソニアの胸はぴったりと収まる。

「なっ、これはっ!」

「ほら、スタートの合図お願い」

 ソニアは穴の意図に気が付いてリリスを責めようと思ったが、そのままビーチフラッグスの勝負は始まってしまった。

 旗の前で待つユコ、そしてスタート地点にはロザリーンがやってきて、「位置について――」と言う。

 スタートの合図で、ソニアとリリスは同時に立ち上がって走り出した。ただしスタート時そのままの方向へ。

「逆ですの!」

 ユコの叫び声で気が付いた二人は、慌てて走る方向を変える。

 しかし振り返るときに、二人の足が交錯して二人とも転倒してしまった。

 ソニアは急いで起き上がって駆け出そうとするが、リリスは素早くソニアの足をつかんで再び転倒させる。そして今度はリリスが起き上がろうとするが、ソニアは無理矢理しがみついたまま離さない。

「ちょっと離しなさいよ!」

「逃がすもんか!」

 二人は砂浜に転がってもがいている。それでも少しずつ少しずつ、旗へと近づいていた。

「なんだか全然競技の意図と違うものになりましたね」

 その様子を見て、ロザリーンは呆れた様につぶやいた。

 元々走力や反射神経を鍛えるためのスポーツだったはずだが、二人がやっているのは何だろう? キャットファイト? そもそも腕を使って相手を妨害する事は、ルール違反になっていたはずだ。

 砂浜の一角で行われている謎の勝負にミーシャ達も気がつき、棒潜りゲームを中断してやってきた。

 二人の謎の勝負は、通常なら十数秒で終わるはずのゲームにじっくりと一分近くかけ、ようやく二人同時に旗を取った!

 ――と思ったら、竿の部分で真っ二つに折れてしまった。

「くっ、まさか旗が折れるとは……」

 リリスは、半分に折れた旗の竿を持って、荒い息をついている。

「旗の方はあたしが持ってるから、あたしの勝ち!」

 ソニアも肩で息をしながら勝利宣言をする。

「何を言うのよ、私が先に竿を掴んだのに、あなたが後から掴んで折っていったんじゃないのよ」

「うるさいなぁ! ユッコ、これはあたしの勝ちよね?!」

 ソニアはゴールで審判をしていたユコに尋ねる。しかしユコは首を横に振って答えた。

「何を言っているんですの? さっきのどこがビーチフラッグスですか。こんなの無効試合ですの! リードボーカル争いは、次の勝負に持越しです!」

 ユコの宣言に驚き、文句を言ってきたのはミーシャだ。ソニアとリリスは疲れ果てていて、反論する気力は残っていないようだ。

「ちょっとー、ミーシャも歌うのにハブってたー!」

「では三人でできる勝負を考えましょう」

 ロザリーンは次の勝負を考えるが、ソニアとリリスは疲れ果てているので小休止。もっともミーシャ相手に格闘技するなら、ちょうど良いハンデになるかもしれないけどね。

「しりとりで勝負しようよ!」

 そこで提案してきたのはミーシャだった。また勝ち目の無い戦いを挑まれるよりは、十分に勝算のある競技を自分で提案したほうが望みがあると言ったものだ。

「じゃあミーシャから、リンカンコンチネンタル!」

 これは車の名前だ。かなりの大型の高級車として有名だ。

「ル、ルンカンコンチネンタル!」

「何よそれ!」

 二番手のソニアは力強く続いたが、正式名称の最初の一文字をルに変えただけの、意味を成さない言葉だった。

「うるさいなぁ! これは新車なのよ、新鋭ルンカン社から出た車なの。リリスは時代遅れだから知らないの!」

「そんなのでいいのかしら? それならルンカンコンチネンタ――」

 そこまで言ってから、リリスは言葉を止めた。このままだとソニアと同じ事を言ってしまい負けとなる。そこでリリスの取った手は?

「――ア!」

「何よそれ!」

 今度はソニアが問い詰める番だ。しかしリリスは涼しい顔で答えた。

「あなたの言ったルンカン社から出た、コンチネンタアという車よ、知らないのかしら? くすっ」

「アンカンコンチネンタル」

 流れを読み取ったミーシャが、何の迷いも無く言ってのける。どうせ問い詰めても、アンカン社の車と言い張るのだろう。

「ルンカンコンチネンタイ」

「インカンコンチネンタル」

「ルンカンコンチネンタウ」

「ウンカンコンチネンタル」

「ルンカンコンチネンタエ」

「何をやっているんですの!」

 意味の無い言葉の連発に、ユコが割り込んできてストップさせる。こんなしりとりは初めて見たものだ。一応しりとりの体裁は整っているが、意味は全く無い。

「じゃあやり直すよ、卵焼き!」

 ミーシャが仕切りなおして、別の言葉でスタートしてきた。

「き……、ハンバーグ!」

「何よそれ!」

 二番手ソニアの奇行に、リリスは突っ込みを入れてくる。

「うるさいなぁ! もうめんどくさいからこれでいいの! はい次リリス、ぐよ!」

「ふーん、そんなのでいいのね。それじゃあ――、サイコロステーキ」

「コーンスープ」

 流れを読み取ったミーシャが、何の迷いも無く以下同文。

「ベッド」

「机」

「風呂」

「スズメ」

「ネコ」

「何をやっているんですのさっきから!」

 再びユコが割り込んできて、勝負を中断させてしまった。いや、勝負になっていない。今度は完全にしりとりの体裁は整っていない。適当に単語を述べているだけだ。

「しりとりはもうやめなさい。そうねぇ、あの岩場に居るフナムシを、誰が一番たくさん捕まえるとかどうですか?」

 真面目に勝負をしようとしないので、ロザリーンは別の勝負を提案してきた。

「ミーシャやだ、フナムシおいしくないもん」

「食べた事あるんですかっ?!」

「もういいわ、ボーリングで勝負しましょう」

「あれはもう嫌だ」

 ソニアはボーリング――穴掘りが嫌なのではなく、再び鉄球が現れるのが嫌なのだ。

「もういいわ、勝負はまた今度」

 そう言うと、リリスは砂浜に横たわって目を閉じた。ソニアとのビーチフラッグス――いや、キャットファイトに疲れ果てていたようだ。ソニアもそんなリリスの様子を見て自分も横たわった。

 ミーシャもソフィリータと一緒に棒潜りゲームへと戻っていき、こうして砂浜に静寂が訪れたのだった。

 今日の世迷いごとは、ここらでおしまい。
 
 
 
 
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