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雑貨屋の家宝どくばそ

 
 8月8日――

 

 「今夜は隠し芸大会をするぞ」

 マトゥール島でのキャンプ生活も残り少なくなったと言うことで、矢継ぎ早にイベントを盛り込んでくるようになった。

 これまたジャンの提案で、怪談に続いて隠し芸大会と来た。朝一番の通達で、今日一日でネタを探して何かをやろうということだ。

 そんなこともあり、昼食後ラムリーザは今日は一人で町に出かけていた。島にある狭い町、都会と違って便利な物がいろいろあるわけでもない。しかし、気分転換やネタ出しのために一人で訪れていた。

 そもそも隠し芸を一日で完成させろというのも無理がある。本来なら、数日ぐらいかけて、練習をしっかりやってから披露するものではないだろうか?

 ラムリーザはそんなことを考えながら、寂れてはいないが地味な町を歩いていた。

 すると、以前来た時とは少しばかり雰囲気が違う。なんだか町の一部が騒然としているのだ。ラムリーザは、その騒ぎの元へと近づいて行ってみた。

 そこは村の雑貨屋、ボールダックス商店という場所で、何やら店主が店の中をあちこちひっくり返したりして騒いでいる。どうやら何か大事な物が無くなってしまった様だ。

「おーい、かあちゃん! 昨日掃除の時に店の隅に置いてあった箱、本当に触ってないだろうなーっ?」

「知らないよ、クラウディオがどこかやったんじゃないのさ?」

「変だな、あん中に入っていた大事な『どくばそ』が無くなっちまっんだよー」

 丁度ラムリーザが店に入った時、探し物をしている店主とその間代わりに店番をしている奥さん、そして店の周囲に数名の野次馬が居るだけだった。

「何か困り事でも起きたのですか?」

 ラムリーザは、自分にできることなど少ないだろうと思っていたが、なんとなく気になってみて声をかけてみた。

「あっ、これはこれはフォレスター家の坊ちゃん。大きくなったねー」

「クラウドさんも元気そうで何よりです」

 雑貨屋の店主、クラウド・ボールダックスは少しの間だけ探す手を休めてラムリーザにお辞儀をする。そしてすぐに、探し物を再開するのだった。

「商品が消えたり盗まれたりしたのですか?」

「違う違う、盗んだところでこんな島、逃げるところなんてどこにも無くてすぐに捕まるよ。それに無くなったのはどくばそなんですよ」

「どくばそ? そんな日用品、見たことも聞いたことも無いなぁ」

 ラムリーザは、どくばそについていろいろと思案を張り巡らせてみたが、残念ながら何も出てこなかった。

「違う違う、どくばそは売り物じゃないよ。死んだ爺さんの形見で、この島に昔から伝わる彫像だよ」

「彫像ですか……」

「爺さんから『今に必ずこのどくばそを必要とする者が現れる、大望を抱き、人々のために戦う者が』と聞かされているんだ。それまで大事に取っておくつもりだったのだがなぁ……」

 だんだんと、店主クラウドの元気が無くなっていく。

 その様子を見たラムリーザは、隠し芸の事は忘れてこの人を助けてあげたいと思い始めていた。

「どうでしょうか? 僕がそのどくばそ探しを手伝ってあげましょうか?」

「そっ、そんな、フォレスター家の坊ちゃんの手を煩わせるなんて」

「いいのいいの、休暇で遊びに来ているだけですし。今日もいろいろと考え事をしていたので、ちょうど良い気分転換になりますよ」

「そうですか、それではお願いさせていただきましょう」

 こうしてラムリーザは、ボールダックス家に代々伝わる彫像である「どくばそ」とやらを探すのを手伝うことになったのである。

 まずは聞き込みから開始だ。どくばそが一体どんなものなのか、それが分からなければ探しようが無い。

 まずは店主からだ。

「どくばそとはどういったものですか?」

「大きさはナイフぐらいで、格好は細長い円錐形をしているんだ」

「トーテムみたいなものかな」

 形が分かったので、ラムリーザは今度は店を出て周囲を探索し始めた。ひょっとしたら、どくばそはそれなりに魅力がある物で、見つかれば一晩だけ貸してもらって隠し芸のネタに使えるかもしれない。そんなことを考えていた。

 手始めに、見物している野次馬に聞いてみた。だが、雑貨屋にあるのは知っていたが、無くなったことは知らないと言う。昨日は騒ぎは起きていなかったので、無くなったのは今朝一番。怪しい人は見かけなかった、そもそも島で知らない人は居ない。

 島民以外となると、土着民は居ないとのことなので、キャンプに来ているラムリーザ達一行しか居ないはずだ。レフトールの手癖の悪さは知っているが、朝から一緒に居たので犯人ではないだろう。

 ひょっとしたら知られていない土着民が居るのか?

 そんなことを考えながら、ラムリーザは町を回ってみた。しかしそれほど大きくない町なので、30分もしないうちに全てを回りきってしまった。当然怪しげな人は居ないし、この広さだと店主の言うとおり居たとしてもすぐに捕まるだろう。

 島にある他の場所は、あとは居住区と港ぐらい。島の中央部に逃げられていたら、探し出すのは大変だろう。

 ラムリーザが居住区と港を見て回り終わった時、太陽は西の空真ん中辺りに移動していた。

 雑貨屋に戻って「進展はありましたか?」と聞いたが、進展無しだったので、今度は少し島の内部に向かって移動してみた。

 町から南に向けて、林の中を通る道が一本だけ続いている。作業員はこの道を通って、島の中央付近にあるリン鉱山へ向かっているのだ。

 林道へと入ると周囲は静かになり、時折鳥の鳴き声がするぐらいになってしまった。

 その時ラムリーザは、林の中に人影を見たような気がして立ち止まった。

「誰か居るのか?」

 まさか居ないと思われていた土着民? と思いながら、周囲を警戒しつつ声をかけてみる。

「ちっ、見つかっちまったか」

 木の影から出てきたのは、一人の男性であった。背の高さはラムリーザとそれほど変わらないが、まだ童顔で年下のような感じがする。そして、割と体格が良くて力がありそうだ。

「君は誰だ?」

 ラムリーザは問いかけてみたが、その童顔の若者は問いには答えずに話してきた。

「お前、見たことがある。ラムリアースだろう?」

「おしい、それは兄の方だ。まぁ兄弟だから、似ている所はあるのだろうけどね」

「ラムリーザの方だったか。フォレスター家の写真で見たことがある。俺の親父の雇い主、帝国宰相」

 多少情報が交錯しているが、その若者はラムリーザのことを知っているようだった。

「父親は何をやつているんだい?」

「雑貨屋」

 若者は短く答えたが、それだけで十分だった。土着民ではない、普通の島の住民だ。それなら危険なことはないだろう。

 ラムリーザは少し安心して、今取り掛かっている問題について少し語ってみた。

「雑貨屋の主人、つまり君のお父さんが困っていたよ。なんでももどくばそという家宝を何者かに盗まれたらしいんだ。君は何か知っているかい?」

「これのことだな」

 その若者は、ふところから何かを取り出してラムリーザに見せてきた。ナイフぐらいの大きさで、は細長い円錐形の格好をしている。雑貨屋の店主クラウドから聞いた物と一致する。

「その彫像を持ち出してどうするんだい? それが無くなってお父さん大騒ぎだよ」

「そっか、うまくいって何よりだ」

 ラムリーザの話を聞いて、若者は少し笑みを浮かべた。してやったりといった感じだ。

「なんでまたそんなことを……」

 そこで、若者は自分の不満をラムリーザにぶつけてきたりした。

「俺はこんな何も無い田舎の離島なんで嫌だ。都会に行っていろいろ遊びたいのに、親父の奴島から出ることを許してくれないんだ。昨夜もそのことで喧嘩して、腹が立ったので朝一で親父が大切にしているこれを持ち出してやった。誰も知らないところに隠して困らせてやるんだ」

「う~む、犯人は君だったのか」

 ラムリーザは、彼の気持ちも分かる気がしたが、店主が困っているのも事実だ。ここは説得して、持ち帰らせるべきだろうと考えた。しかしそれよりも早く、若者は飛び掛ってきた。

「取り戻しに来たんだな?! そうはさせるかっ!」

「むっ?!」

 ラムリーザは素早く身構えたが、それよりも素早く影から飛び出してきた者が居て、掴みかかってきた若者の腕を受け取り捻りあげてしまった。ラムリーザの目の前で、若者は突然現れた男に締め上げられて、地面に押さえつけられた。

「くっそぉ、誰だよいきなり」

 押さえつけられた若者は、悔しそうな悲鳴をあげる。

「警護の人」

 ラムリーザは短く答えた。相手に名前を教えてあげる必要も無い。

 レイジィは若者を、後ろ手に掴んだままラムリーザの前に立たせた。

「ああ、俺も馬鹿だな。ラムリアースぐらいの人となると、警護の人が付いていることぐらいわかっていたのに」

「それは兄の方ね。この人は別に悪い人では無さそうだから、離してあげても良いよ」

 ラムリーザの指令を聞いて、レイジィは若者の手を離す。しかし、また襲い掛かってくるようならすぐにでも止められる場所に留まっている。

 若者は、レイジィの方をちらちらと意識しながら、どうしたものか考えているようだ。

「親父に頼まれてここに来たのか?」

「いや、困っているみたいだからこっちから手伝いを名乗り出ただけなんだ」

「お人好しめ。そうだ、何も見なかったことにして見逃してくれないか?」

「そうも行かないのだよなぁ。先にお父さんの方と契約してしまった、僕は取り戻す側で依頼主を裏切れないね」

 すると若者は、開き直ったようにどくばそを差し出してきた。返してくれるのか?

 ラムリーザが差し出してきたどくばそを握ったが、若者は離さない。

「こうなったら勝負だ。このどくばそをお互いに握ってそれぞれ逆方向に捻る。力比べでひねられたほうが負け。俺が勝ったらこの場所は見逃してもらう。お前が買ったら返してやるよ」

 唐突に勝負を挑んできた。こうなったら、売られた喧嘩は買うしかない。

「それはいいけど、円錐形だから細い方を持った方が不利だね。あと、君は力がありそうだけど、そんなことをしてどくばそは壊れないのかい?」

「先が尖っているだけで、中央辺りは同じ太さだからそこを持ったら大丈夫。あとこれは鉄製っぽいから、よっぽどのことがないと壊れないはず」

「それなら良いけどね。壊れても知らないよ」

 ラムリーザは、細くなったところよりも根元側、若者が持つのと同じぐらいの太さの部分を握った。そしてレイジィにスタートの合図をお願いして、どくばそを握る手に力を込めた。

 

 ………

 ……

 …

 

 その若者は、ラムリーザが思っているよりも力があったが、リンゴやゴム鞠を握りつぶし、片手で人の顔をつかんで持ち上げるラムリーザの腕力も伊達ではない。

 どくばそがギリギリと悲鳴をあげるようなこの勝負は、ラムリーザの勝利で終わった。

「くっそー、腕力には自信があったのになーっ!」

 若者はどくばそから手を離す。これにより、どくばそはラムリーザの手に渡ったことになった。

「腕力自慢をしたいなら、リンゴやゴム鞠を握りつぶせなくちゃね」

「ゴム鞠はやったことないけど、リンゴなら爪立てて潰せるぞ」

「へー、力がそこそこあるなら、プロレスとかどう? 機会があったら見せてあげられるかも」

「プロレスかー、いいかもな。それよりそのどくばそは返すよ。でも親父には絶対謝らねー」

 こうしてラムリーザは、どくばそを探し出すのに成功したのだった。

 そういえば名前を聞き忘れたなと思ったが、既に別れた後で、若者は林の中に消えて行ってしまっていたのだった。

 

 ラムリーザは町の雑貨屋に戻り、店主のクラウドにどくばそを見せて「これですか?」と尋ねた。

「おおっ、これですこれです! いやぁ、戻ってきてよかった。もしもこれが見つからなかったら、祖先の呪いが発動して、私は末代まで祟られるところだったよ」

「それって、呪いのアイテムになってませんか?」

「はっはっ、祟りは冗談。ところでこれをどこで見つけたのかな?」

「町外れに落ちていましたよ。たぶなカラスか何かが店から摘んで持ち去って落としていったのでしょう。ところで息子さんのことですが――」

 ラムリーザは、先ほど出会った若者――どくばそを盗み出した犯人だった――について尋ねてみる事にした。彼が言っていたことは本当なのか。本当ならばなんとかしてあげたいと思ってもいた。

「ん? クラウディオがどうかしたのですか?」

「彼はクラウディオというのですね。ちょっと彼と出会って話を聞く機会があっていろいろと聞いたのですよ」

 そこでラムリーザは、店主のクラウドに、先ほど会った若者――クラウディオが話していたこと、不満などについて説明してあげた。島を出て都会に行きたいと思っていることなどを――

 クラウドは黙って聞いていたが、話を聞き終わると「それではこの店はどうなるのですか?」と尋ねてきた。

「店主さんが息子に継いで欲しいという気持ちも分かりますが、彼には彼のやりたいこともあるのですよ。もしも人手が足りないというのなら、いくらでも補充は効かせられます。それに雑貨屋の店主は年を取ってからもできますよ。クラウディオ君でしたっけ、彼も若いうちは自由にやらせても良いのではないでしょうか?」

「う~む……」

 クラウドは腕組みをして考え込む。

「ね、クラウディオ君の話も聞いてあげてくださいよ。むろん悪いことや無茶なことをやろうとしているなら全力で止めるべきですが、それ以外の事だったら彼の可能性を試してみるのも悪くないと思います」

「坊ちゃん」

「は?」

「立派なことを言うようになって、成長しましたな」

「いやぁ、僕はまだまだですよ。人に頼ってばかりいることも多いし」

「わかりました、坊ちゃんの成長を考慮して、私も愚息の成長に賭けてみましょう。早速今夜は家族会議ですな」

「穏便にね」

 こうして、どくばそを巡るトラブルも解決し、雑貨屋の息子クラウディオの未来も開かれそうになったのである。

 

 いろいろあって、気がついたらもう夕方になっていた。隠し芸大会まで、もう時間が無い。

「やっぱりこれしかないか……」

 結局ラムリーザは、八百屋に寄ってリンゴを二つほど買ってからコテージに帰るのだった。
 
 
 
 
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