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ふえぇ・エル・ソニア

 
 8月8日――

 

「それでは一発芸大会、続きましてはふえぇプロレスのセミファイナルマッチを行います!」

 ジャンの似非大流血もふき取れば何も無くなり、何事もなかったかのように司会進行へと戻っていった。ただし、プロレスの名前はやはりふえぇプロレスのままのようだ。

「それでは、61分三本勝負を――」

「三本なんてめんどくさい!」

「一本勝負を行います」

 ジャンは三本勝負と言いかけたが、ソニアに文句を言われて一本に訂正することになった。

「だいたいなんで中途半端に61分なのよ、57分でもいいじゃないの」

 ソニアはさらに追求してくる。57分も中途半端だと思うが、気にしない。

 ジャンは、「この1分にいろいろなドラマが詰め込まれるのだよ」などと、曖昧な回答を示しておく。そもそもソニアに60分もプロレスを続けられるだろうか? ジャンとマックスウエルの試合は、精々5分ぐらいだった。

「とにかく始めるぞ、青コーナーよりソフィリータ・カスミ・フォレスター選手の入場です!」

 軽快な入場テーマは流れないが、ソフィリータは青コーナーのポストに飛び乗り、そのまま飛び上がってリングと向かい合わせの状態から後方回転しながらリング内へ着地した。

「おおっ、シューティングスター・リングイン!」

 観客席がそれだけで沸く。

「何よそんなの! あたしだってドラゴン・リングインって凄いの見せ付けてやる!」

 ソニアは、まだコールされていないのに、赤コーナーのポストにもたもたと登り、コーナーポストの上に垂直立ちして腕を組んでいたが、少し顔をしかめてそのままリング内に飛び降りた。結局の所、クルリと回ったりしてやろうかと思ったけど、怖くてできなかったようだ。

「あ、ソニア姉様はこれつけてください」

 ソフィリータは、ソニアにヘッドギアを渡す。これである程度は衝撃を吸収できるので、ソフィリータも技を出しやすくなる。

「なんかバクシング思い出すからやだ」

 ソニアはこのヘッドギアをつけてバクシングの試合に挑み、ラムリーザに一応勝つことができた。しかしその代償として、ブラウスのボタンが飛んで、その巨大な胸を観衆に晒す結果になったことがあった。

「蹴られたら痛いですよ、私は蹴りますよ」

「むー、ソフィーちゃんもつけろ」

「わかりました」

 ソフィリータがヘッドギアをつけるのを見て、ソニアもしぶしぶ装着するのであった。

「なんかプロじゃなくてアマチュアみたいだな、アマレスをやるのかな?」

 ジャンはソニアを煽ってくる。しかしソニアも負けていない。

「ジャンはパロレスでもやってたらいいんだ。寝転がって足だけで戦う競技のパロレス! 戦士がチャンピオン!」

 なんだかよくわからなかった。

 

 こうして、ふえぇプロレスセミファイナルマッチ、ソニア対ソフィリータの試合が始まった。

 試合開始直後は普通の流れ、ソニアとソフィリータはリング中央でがっちりと組み合う。そこでソフィリータはソニアに小声で忠告めいたことを言ってきた。

「これからジャンさんに負けないような魅せる動きをしますので、しっかりと頭をガードしてください」

「なにをするつもりよっ」

 ソフィリータは忠告した後、ソニアと組んでいた腕を振り払って、反対側のロープへと駆け出した。そして縄でできたロープに飛び乗って体を反転させてソニアの方を向き、そのままロープの反動を利用して高く飛び上がった。

 ソニアはびっくりして腕で頭を抱えて身を守る。そこにソフィリータは、前転しながらかかと落としを放ってきた。以前レフトールに放った前方宙返り式二段踵落とし、派手な飛び技だ。

「あれを使ってきたか、あれは二段攻撃だから初見殺しだぜ」

 レフトールは、以前食らったときのことを思い出して顔をしかめる。飛び上がってのかかと落としと思ったら、反対側の足も振り下ろしてきて痛い目にあったものだ。

 ソフィリータは、ソニアがしっかりとガードしている場所を選んで、まずは右足のかかとを叩きつけた。すかさず左足も振り下ろして、これもガードの隙間を狙うようなことはせず、固めた腕に振り下ろした。ガチ勝負ではないので、ソニアに対するダメージを極力少なくできる手加減をする技能はあるようだ。

 二連発のかかと落としを放った後、その勢いで再び飛び上がり、ソニアの後方にあるロープへと飛んでいった。

 ソニアはまだ少し腕がジンジンしていたが、振り返ってソフィリータの姿を追いかける。

 ソフィリータは、再びロープの上に飛び乗る形になり、またしても反動を利用して飛び上がった。まるでサーカスの演技でも見ているような錯覚に捕らわれる。

 再びソニアの方へと飛び上がったソフィリータは、今度はソニアの頭の上に着地した。すかさず直立して胸の前で腕を組む。ソニアが頭の上に居るソフィリータを捕まえようとしたときには、再び素早く飛び上がって、バク転をしながらソニアの前方へと着地した。

 この一連のソフィリータのムーブで、数少ない観衆は大騒ぎ。しかしリリスは、ちょっと変わったツッコミを入れてくる。

「ソフィリータ、ダブルニーの後は少し硬直してあげて、相手の技を食らってあげるものよ。その後に攻撃を続けてはいけないわ」

「黙れ吸血鬼! そんなクソゲーの話なんかするな!」

 ソニアは、その変わったツッコミに一人憤慨している。

「どんどん行きますよ、ソニア姉様しっかりと耐えてくださいね」

 しかし試合はまだ続いているので、ソフィリータは今度は上へ下へと蹴りのラッシュを放ってくる。ソニアは押されてばかりとなった。

 コーナーポストに追い込まれたソニアは、苦し紛れにソフィリータの身体を押し返す。ソニアも力だけは多少あるので、ソフィリータは突き飛ばされて尻餅をつく。そこにソニアは飛び掛るが、ソフィリータはクルリと身体を反転させてタックルから逃れてしまった。

 二人は距離を取り、再びリング中央で対峙した。

「私だけが攻撃していたらしょっぱいので、今度はソニア姉様が攻めてください」

 格闘技ではソニアより慣れている分、ソフィリータが試合展開を指示する余裕があった。

 ソニアは今度は自分の番とばかりに、ソフィリータの肩の辺りを強打した。これはハッキョイの試合でリリス相手に見せた、ただの張り手だ。

 ハッキョイの時と違ってヘッドギアもつけているので、ソニアは遠慮なく頭も叩いてくる。

「なんか派手な試合が、一転して泥臭い試合になったな」

 ジャンはそうつぶやいたが、マイクを持ったままだったので会場に響きソニアの耳に入ることになってしまった。

「黙れドロヌリバチ! 最強のソニアちゃんスペシャルを見せてやる」

 ソニアはソフィリータの背後に回り、首に腕を絡み付けた。なんてことはない、ただのスリーパーホールドだ。ただし、何てこと無い技にちょっとアレンジを加えてオリジナルホールドにするということは珍しくない。ソニアは、立ってスリーパーホールドに固めたまま、後ろからソフィリータの尻に膝蹴りを連打している。

「あーっと、ふえぇちゃんスペシャルが極まりました! これには流石のソフィリータもふえぇだーっ!」

 勝手に名前を変えて実況するジャン。しかしふえぇプロレスにふえぇちゃんスペシャルだと、そのふえぇちゃんが主役に見えてしまう。困ったものだ。

 しかしソフィリータも負けてはいない。おんぶをするようにソニアを持ちあげると、そのままコーナーポストに背中からぶつかっていく。

「ってか俺、あのふえぇちゃんスペシャル食らってみたいわ」

 試合を観戦していたレフトールは、おもわずそうつぶやいていた。

「スリーパーホールドだろ?」

 ラムリーザはそう答えるが、レフトールは「違う違う」と首を横に振った。

「思いっきり背中におっぱいちゃんを押し付けているじゃないか」

「それか……」

 布団の中で毎晩プロレスごっこをしているわけではないが、いつも引っ付かれているラムリーザには思いつかぬ発想であった。

 そこでレフェリーが居ないことに気がついたラムリーザは、リゲルに促すが彼はソニアのレフェリーは拒んできた。仕方が無いので、代わりにロザリーンがレフェリーとしてリングに上がることになった。

 突然リングに上がってきたロザリーンに、ソニアは飛び蹴りを放ってきた。

「ちょっと! 私はレフェリーです! あなたの相手はそっち!」

 ロザリーンは、ソニアの蹴りを受け止めて、身体を掴んで反転させてソフィリータの方を向けた。

 その隙に、ソフィリータは飛び上がって再び前方宙返り式二段踵落としを仕掛けてきた。

「またダブルニーだ! あたしには一度見た技は二度と通用しない!」

 ソニアはそう叫んで、勇猛果敢にも飛び上がったソフィリータに突っかかっていった。

「ちょっとそれ危ないですっ!」

 ソフィリータはそう叫ぶが遅かった。

 かかとを命中させる場所がずれたことで、まずはソニアの肩にソフィリータの右足の太ももがぶつかる。そのまま左足も落ちてきて、ソニアの肩の上に座る形になってしまった。

「ちょっとなんであたしの上に乗るのよ!」

「ソニア姉様が突っ込んできたからです!」

 ソニアは腕を上げてソフィリータの腰を掴んだ。これでソフィリータは、ソニアの上から動けなくなってしまった。そしてそのまま、ソニアはソフィリータを前に落としてリングに叩きつけた。パワーボム?

「むっ、あいつのダブルニーの弱点がわかったぞ」

 その一連の流れを見て、レフトールはにやりと笑った。飛び上がったときに前に突っ込めば、かかとを頭にぶつけられることは無い。

「でもプロレスは相手の技を受け止めてこそ、強さを誇示できるってものだぞ」

「ガチ勝負なら俺はあいつに勝てる」

「戦うのかよ、ソフィリータと」

「あいや、もし戦ったとしてだよ」

 レフトールは、ラムリーザにじろっ睨まれて、慌てて言葉をつくろった。

 リング上では、仰向けに倒れたソフィリータを上からソニアが押さえ込んでいる。寝技の展開といった場面だが、あまりプロレス技を知らないソニアは、ソフィリータをリングに押し付けるだけでなんだかよくわからない。

 ソフィリータはもがいて逃れようとするが、ソニアは足をつかんで離さない。

「ギブアップしたら負けでしょ? ギブアップしろっ!」

「何も技をかけてないじゃないですか!」

 リング上ではそんなやりとりを言い合いながら、試合展開はグダグダだ。

 ソフィリータは立ち上がって体勢を整えようとするが、ソニアはしがみついて立たせない。仕方ないので、ソフィリータは寝転がったままソニアに蹴り攻撃を仕掛けてきた。しかしソニアは蹴ってきた足をつかんでしまった。こうなったら膠着するしかない。

 ソニアはソフィリータの足を捕らえたまま次の攻撃に出ないし、ソフィリータは倒れたまま足をつかまれて動けない。

「何か技をかけてください、それで私はギブアップして負けますから」

 ソフィリータは、仕方が無いのでソニアに花を持たせようと攻撃をしかけるよう促した。八百長か? いや、プロレスに八百長という言葉は相応しくないだろう。この試合はソニアが勝つ試合なのだろう。

 しかしソニアは、膝十字固めもアキレス腱固めも知らなかった。精々叩くぐらいしか戦うすべを知らない。うつぶせになったソフィリータの膝の部分を抱えたまま、どうすればいいのか分からなくなっていた。ソニアの目の前に見えるのは、ホットパンツを履いたソフィリータの尻、そこから覗く過度の筋肉質である太もも、そして薄水色のサイハイソックス。

 そこでソニアはこの状態で思いつく攻撃を仕掛けるのだった。

「なっ、何を?!」

 ソフィリータは驚き絶句し固まり、リングサイドでは観戦していたリリスが「ぶっ」と吹き出す。

「またソニアは……」

 にやにや笑いが止まらないレフトールの隣で、ラムリーザは頭を抱えたくなるのであった。

 ソニアの攻撃を受けたソフィリータは、右足のサイハイソックスをくるぶしの辺りでだぶつかせる結果となってしまった。主にリリスがその毒牙にかかっている、ソニアの謎の靴下ずらし攻撃がプロレスでも炸裂。

 その隙にソフィリータは右足をソニアの腕から引き抜くが、残っていた左足も同じ攻撃を食らってしまうのだった。

「あーっと、ふえぇ・ストライクが炸裂! ソフィリータ、生足を晒す結果となりましたーっ!」

 変な技に変な名前をつけるジャンの実況は続いていた。

「しっかし、あいつの足見たらガチだよな。かなり鍛えこんでいることがわかるよなぁ」

 レフトールはソフィリータの生足を見た途端に、にやにや笑いは消えてマジな顔つきになっている。

「ソフィーは蹴りの練習とか、下半身の鍛錬に余念が無いからね。女の子のしては鍛えすぎ感もあるのか、そのガッチガチの足を晒すのを恥ずかしがってか、いつもあの長い靴下履いて隠しているけどね」

 ラムリーザは、それでも一応ソニアの攻撃は、ソフィリータの精神的にダメージを与えているだろうなぁとは思っていた。

 ソフィリータは、ようやくソニアのグラウンド地獄――なにも技は仕掛けられていないけど――から抜け出したが、そのままごろごろと転がってリングの外に降りて行ってしまった。リング下でうずくまって、ソニアにずらされた靴下を直している。

 一方ソニアはリング上で仁王立ち。それにソフィリータに効果的な攻撃を仕掛けたことで、ちょっと得意気だ。

 しばらくしてからソフィリータはリングの上に戻ってきたが、ソニアはすかさず足に飛び掛ってきた。

「ちょっ、ちょっとソニア姉様?!」

 ソニアはソフィリータの太もも、正確に言えばサイハイソックスに手を伸ばす。今度はソフィリータは身を捻ってソニアの手から逃れようとした。それでも左足の膝辺りまでずらされてしまった。

「ちょっとやめてくださいっ」

 ソフィリータは試合どころではなくなった。ソニアの謎の攻撃に防戦――というか逃げることしかできなくなってしまった。

 左足の靴下を直そうとかがんだところにソニアに接近されて、今度は右足を脛の辺りまでずらされてしまった。

「ちょっとレフェリー! 反則取ってください! コスチュームに手をつけるのは、マスクに手をかけるのと同じことです!」

「えっと、反則は――」

「5カウント」

 リゲルからアドバイスを受けて、ロザリーンはソニアに5つのカウントを取ろうとする。しかし靴下ずらしは一瞬なので、反則カウントを取ったところで1だけで終わってしまう。

 ソフィリータはたまらずリングの下に転がり降りた。

 ソニアがリングの端まで寄ってきて、ソフィリータを上から見下ろしている。もう少しリングに近づけば、ソフィリータの姿はソニアの巨大な胸の死角に入り込むことになるのだが、それでところではなかった。

 リングに上がれば、ソニアの気色悪い攻撃を食らってしまう。

 ソフィリータはそのことで頭がいっぱいになっていた。常人には理解できないソニアの奇襲戦法、それはソフィリータの戦意をかなり引き下げてしまっていた。

「リングの外には20秒だぞ」

 再びリゲルのアドバイスで、ロザリーンは1、2とカウントを取り始めた。

 結局ソフィリータは、リングの下からソニアとにらみ合ったまま上がってくることはなかった。なんだかよく分からないが、ソニアのリングアウト勝ち。

「なんかしょっぱい結果になったけど、ソフィリータのリングアウト負け、ふえぇ・エル・ソニアの勝利です!」

「何よその変な名前!」

 勝手に付けられた妙なリングネームにソニアはジャンに噛み付いていった。

「Lカップのふえぇちゃん、という意味だ」

 ジャンもしれっとしたものである。

 一方でソフィリータは、グダグダになった試合の終わらせ方に不満そうな顔をしていた。

 ソニアが負けたら後からうるさいので花を持たせてあげるのに抵抗はないが、こんな意味不明な終わらせ方をされたのではたまった物じゃない。

「まぁ気にするなよ。なんというか、ソフィーの空中殺法はすごかったよ」

 ユグドラシルに慰められて、ようやくソフィリータは平常心を取り戻した。

「今度またソニア姉様とプロレスの試合――、いや何でもいいから格闘技の試合をすることになったら、コスチュームはパンタロンスタイルで挑みます」

 こうして、ソニア対ソフィリータの試合は、ソニアの勝利で終わったのであった。

 あとはメインの試合を残すのみとなり、一発芸大会、ふえぇプロレスは最高潮に――達しているのかな?
 
 
 
 
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