home > 物語 > > ユライカナンツアー始まる

ユライカナンツアー始まる

 
 8月18日――

 

「ラムっ、対戦しよう!」

 朝食後部屋に戻ってきてから、すぐにソニアはラムリーザにゲームの対戦を申し込んできた。

 タイトル画面には、グンバゲンベリイの文字。

「またぁ? もう、飽き飽き」

「あたしの帝国にラムが勝てるまで続くのよ」

「勝手に一人でやってろ、僕はこれからユライカナンに出かけるから留守番よろしくな」

「あっ!」

 ソニアは、慌ててゲーム機の電源を落として、ラムリーザと一緒に出かける準備を始めた。

 

 今夜はユライカナンでの二度目のライブがある。そしてそのまま翌日から、その近辺数カ所を回るツアーとなっている。

 ラムリーザは、ソニアがブタガエンの入った小瓶を持ち出そうとしていたので、取り上げて部屋の片隅に置いてソニアを引っ張って部屋から出た。

 同じく準備を終えてやってきたソフィリータを加えて、三人は屋敷を出発した。フォレストピア駅で他のメンバーと合流して、それからユライカナンへと向かう手はずになっていた。

 いつもの道を通って駅に到着。フォレストピア組みはラムリーザ、ジャン、ソニア、リリス、ユコ、ソフィリータの六人。ポッターズ・ブラフ組は、リゲルとロザリーン、ミーシャの三人。今回のツアーには、合わせて九人が参加する。

 東から電車がやってきて、駅に到着した。時間から言ってこの便にリゲル達が乗っているはずなので、ラムリーザ達も乗り込む。客席でリゲルと合流して、別室へと移動する。

 ラムリーザは、ジャン、リゲルの三人で固まり、女子達は先輩組みの四人と後輩組みの二人に分かれて座っていた。

「ジャン、ユライカナンでは成功しているのかな?」

 電車が発車したところで、ラムリーザはジャンに尋ねてみた。

「まぁあれだな、交流都市相手である町の領主様が率いるバンド、盛り上がらなければ国交に影響がでるってのもあって、ユライカナンもいろいろと宣伝しているからね。ひょっとしたらあちらさんは、サクラをたくさん用意しているのかもしれないぞ」

「それでいいのか?」

「いいんだよ、盛り上がっていれば」

「実力はどう見られているのかなぁ?」

「まあ精々高校生バンドだからな。それなりに演奏力はあるグループだけ思うけどね」

 ラムリーザは前々から気になっていた。学校の文化祭レベルかもしれない自分たちの演奏で、そんなに人は動くものなのだろうかと。そりゃあ普通に聞くだけではそれなりにまとまっているし、きちんと演奏できている。しかしオーディションすら受けたことの無い、アマチュアバンドの類なのだ。そんなものが、こうして外国で公演なんてありえるのだろうか、と。

「これが交流だ。失礼な言い方になるが、歌が上手いのかどうか知らないけど例えば皇帝陛下がライブするぞ、レコード出すぞということになられたら、どのくらい人が集まると思う? どのくらい売れると思う?」

「集まらない奴、買わない奴は不忠だとみなされる?」

「そういうことに近いのだよ、ラムリーザ率いるグループは」

「なんですのそれは! 私たちは下手だけど権力で見せ付けているって言うんですの?!」

 ジャンの話が聞こえていたユコが、思いっきり不満の声を上げてきた。

「下手と言ってないぞ、俺も店で堂々と恥ずかしくなく使えるレベルの演奏はできている。だが知名度と言えば、そのような土台が無ければそれほどといったところなのだ、ということだ」

「まぁそうだろうな」

 リゲルは冷静にジャンの意見に同意している。

「いいですの! これからどんどん有名になっていくんですの!」

「賛成です!」

 ユコの宣言に、ソフィリータも同意する。

「実はラムリーザ以外の知名度がさほど、というのには根拠があるのだよ」

「伺おう」

「これほど活躍しているグループの二枚看板が、それほど世間には知れ渡っていない地方レベルなのだという証拠があるのだよ」

「二枚看板じゃない、ミーシャも主役だよ! だよ!」

 横槍が入るが、ジャンは話を続けた。

「そのメインヒロインがあることをやったけど、ちっとも注目されなかった。わかるかな?」

「いつも変なことばかりやっているけどな」

 ラムリーザは困ったようにつぶやく。今朝もソニアはブタガエンを持ち出そうとしていた。あんなものを持ち歩かれては、どんな迷惑行為に発展するかわかったものじゃない。

「なんでそのメインヒロインが、ゲーム実況動画を公開したけど全然伸びなかったのかな? 普通なら内容はともかくとしても、知名度だけで初動は伸びるはずだ。つまらなければその後伸び悩むにしてもな」

「そんなことあたしやってないから知らない。リリスが一人でつまらない動画を作っていただけ」

 ソニアの中では、無かったことになっている出来事らしい。

「そんな昔のことは忘れたわ」

 リリスも、つい半年前の出来事を忘れてしまったらしい。

「まぁ俺はリリスの動画は面白いと思ったけどな」

「うそつけ」

 ジャンのリリス持ち上げに、ツッコミを入れるラムリーザであった。

「しかしこの大部屋は何だ? この電車にこんな部屋が有ったのか?」

「十人は余裕で乗り込めるVIPルームだ。空いていたから折角だから乗せてやった。本来なら高いのだぞ?」

 それに答えたのはリゲルだった。家が運輸関係を取り仕切っているので、その辺りはいろいろと融通を利かせられるらしい。

「まぁ、バンド自体は高校生バンドだけど、その構成メンバーは特殊だからな。未来の領主様、鉄道王、首長の娘、一流クラブのオーナー、その彼女である絶世の美女、メイドの娘」

「なんかいきなりランクが落ちたな」

 ソニアの部分で、すかさずリゲルが合いの手を入れる。

「うるさいっ! 後は媚び媚び娘と呪いの人形! 終わり!」

「わっ、私は?!」

 ソニアは強引にメンバー紹介を終わらせるが、一人外されたソフィリータは慌てている。

「そんなことより、ジャンとリゲルは付き合っているのか?」

「リザ兄様っ、私がはぶられているのがそんなことですか?! ソニア姉様も酷い」

「あーもー、トリを勤めるのは、格闘王ソフィリータ!」

「かっ、格闘王ってそんなっ」

 ソフィリータは、ラムリーザに持ち上げられすぎて恐縮してしまっているようだ。

「ちょっと待て、さらりと流したけどお前変なこと言っただろ?」

 リゲルはラムリーザに冷たい視線を向けながら言ってきた。

「誰が? 僕が?」

 ラムリーザは心当たりが無いようだ。

「お前俺とジャンが付き合ってるとか妙なことサラッと言っただろが?」

「うほっ!」

 すばやくソニアが合いの手を入れる。

 リゲルはソニアをじろりとにらみ、訂正させてきた。

「ジャンとリリスだろ? 何がオーナーの彼女である絶世の美女だ。お前ら付き合っているのか?」

「付き合っているよなー?」

 ジャンは、リリスの方へ優しい視線を向けながら同意を求めてきた。

「さあ、どうかしら」

 しかしリリスは、怪しげな微笑を浮かべただけであった。

「なかなか落ちねー……」

 ジャンはがっくりとうなだれるのであった。

 

 それで、今回行われるツアーの日程と言うと――

 まず今夜は、前回に引き続いてエド・ゲインズショー二回目、夏休みスペシャル公演が前回と同じステージで行われる。

 明日19日は、地方都市サロレオーム最大の公園である、メサシアル・パークでの野外演奏。

 一日休んで21日にサロレオームからちょっと北に行ったところにある町ビエダにある、シロヴィーリ・パークでの野外演奏。

 再び一日休んで、サロレオームにあるクラブハウスのスタークラブでライブ。

 最終日となる22日に、再びエド・ゲインズショーで三回目の公演となる。

 丁度一週間の行程となっているのだ。

「一週間で五回のライブかぁ、ハードスケジュールですの」

 ユコは少し心配そうだ。

「なぁに、大丈夫さ。一回のライブはどのくらいの時間だい?」

「そうだな、一時間から二時間ってところだな」

「僕達は、去年の文化祭で十時間ぐらいぶっ続けで演奏したじゃないか。あれに比べたら、一日二時間なんて大した事無いよ。それに公演は全部で五回。総時間にしても、十時間は越えないだろうね。ほら、もう経験済みのことじゃないか」

 ラムリーザは、不安そうなユコを励ましてあげる。

「そうね、文化祭のイベントで私たちはタフになりましたの」

「そういうこと」

 電車はミルキーウェイ川に差し掛かり、みんなは再び国境を越えている。

「下海、下海」

 ソニアは窓から下を眺めてうれしそうにそう言っているが、残念ながら海ではなくて川である。

 川を渡り終えると、そこはもうユライカナンの地である。しばらくの間陸地を移動して、サロレオーム東端の町ゾーフィタスに到着。そこは通り過ぎて、都市中央のサロレオームシティ駅まで移動となった。

 そのまま駅前のホテルに移動して、夜の公演まで休憩を取ることになった。二度目となると、手馴れたものである。九人はそのまま適当に部屋を分かれていった。

 ラムリーザは、どうせソニアが夜に忍び込んでくるのはわかっていたので、最初からソニアとの相部屋を要求していた。他のメンバーがどう分かれていたのかは割愛とする。

「さてと、公演までの時間何して過ごそうか」

 ラムリーザは、ベランダに出て外の景色を眺めているソニアに尋ねてみた。

「散歩でもする?」

「ん~、どうせ明日から色々回るからなぁ」

「じゃあしりとりしよう」

「なんでそうなる?」

 ソニアの唐突な提案に、ラムリーザは面食らってしまう。

「あたしから、ブタガエン」

「いや、終わってるし」

「ふえぇ……」

「何がやりたいのだ……」

 そこに、リリスとユコが部屋に入ってきた。二人はホテル内にゲームセンターを見つけ、ソニアを誘いに来たようであった。

 一人残されたラムリーザは、ベランダに置かれているデッキチェアに腰掛けて、異国の青空を眺めていた。

 

 夜になり、会場に移動。いよいよ第二回エド・ゲインズショーの開幕だ。

「夏休みスペシャル! ラムリーズの登場です!」

 エドの司会で、公演は前回と同じように始まった。ソニアも前回と同じように不思議な踊りを披露しているが、それは毎回の事なのでメンバーにとっては日常だ。

 ライブは二枚目のシングルレコードのA面で発表したものから始まった。リリスの歌う、カラーに口付け、これはラムリーズ最初の舞台公演、シャングリラナイトフィーバー一号店で演奏したものだった。

 一時間で十曲ほど演奏して、とくにトラブルも起こることなく今夜の演奏は終わり。

 この様子は、事前に設置していたスクリーンにより、フォレストピアにあるジャンの店でも公開され、一種のテレビ中継のような感じになっていたのだった。

 ラムリーザ達は再びホテルに移動して、ユライカナン産の晩御飯を堪能して部屋に戻って、慌しい一日は終わった。

 結構大変なスケジュールだが、フォレストピアとユライカナンの交流のため、ここは一つ苦労しよう。ラムリーザはそう思いながら、ソニアの重い胸を持ち上げて遊んでいたりする。

 こうして、ユライカナンツアーの初日は過ぎていくのであった。
 
 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2021

return to page top

©発行年-2021 フォレストピア創造記