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メサシアル・パーク公演

 
 8月19日――

 

 この日は朝から快晴、絶好の野外公演日和だ。

 ラムリーザは、ソニアと共にホテル最上階に用意された部屋で目を覚ました。

「おはよ~ラム、チョコレートが食べたいなぁ」

 なんだかソニアは寝惚け眼でそう言ってくる。

「チョコレート? リゲルにねだってこいよ」

 チョコレートはなかなか手に入らない。ごくまれに、リゲルが独自のルートから手に入れてくるらしいのだが、これまでに一度しかもらったことは無かった。

 ホテルの部屋割りは、贅沢にも基本的に全員個室というものだった。いくつか動きがあって、空室ができたかもしれないという話はここでは置いておこう。

 今日のスケジュールは、午前中は自由時間。午後の二時から二駅ほど離れた場所にあるメサシアル・パークで公演。それが終わると、今日の仕事は終わりで残りは自由時間となっていた。

 しかし、あまりホテルからの外出は遠慮願いますという話になっていて、割と暇を弄ぶことになってしまった。

 幸いホテルの中にゲームセンターがあったりしたので、ソニア達はそこで遊ぶことで暇つぶしをしているみたいではあった。

 十時を回った頃、ミーシャとソフィリータの二人が警備員に連れられて戻ってきた。

「こらっ、何をやらかした?!」

 リゲルはミーシャに注意をしてくるが、ミーシャは「何もしてないよー」とだけ答える。

「申し訳有りませんが、ツアー中の外出は控えてください」

 警備員はただそう言っただけで、元の仕事へと戻っていった。

「……で、何故捕まった?」

 リゲルは再びミーシャに問い詰める。

「わかんない、こっそり抜け出して繁華街を散歩していたら捕まったの」

 どうやら、メンバーに対して厳重な警備が敷かれているようだった。

「安全を確保してくれるのはいいけど、ちょっと窮屈じゃないかな?」

 ラムリーザは、ジャンに少し非難めいた感じに訪ねてみた。

「そりゃあお前達は超VIP待遇ということにしているからな。ユライカナンの警備員達も、神経を尖らせている」

「たかが一バンドのグループに? 世界的有名でもない、こんな一地方で盛り上がっているだけのに?」

「表面だけを見たらその程度だが、実質的な中身を見てみると、国同士の親善大使みたいなものだ。他のメンバーはいいとしても、お前はその相手国の交流都市の領主となる身だ。迎賓ってやつにもなっているんだぞ」

「僕は安全にホテルの中で大人しくしているよ。でも他の人は自由にしてもいいじゃないか」

「それでミーシャやソニアに何かが有ったら、お前の心象は悪くなるだろ? メンバーも同じような待遇なんだよ。だからミーシャも部屋で大人しくしてろってこった。そのために、立派な部屋を宛がっているんだ。あの部屋だと缶詰にされたとは感じないだろ?」

「まあいいか、みんな部屋に戻るぞ」

 こうして午前中は、少しトラブルが有ったりしたが平穏無事に過ぎていった。

 昼食時、ユライカナンでの新作ゲームの話が上がってきた。何やら、ミシェイルトンサーガというRPGが出るらしい。

 ソニアとリリス、ユコの三人は、既にユライカナン産のゲーム機も揃えている。最近ソニアが頻繁にラムリーザを対戦に誘うグンバゲンベリイも、その系統だ。

 そしてその新作RPGも面白そうと言うわけで、このツアー中にゲーム屋に寄って買って帰ろうといった話になった。

 

 昼食が終わると、時間的に余裕を持ってすぐに野外ライブを行うメサシアル・パークへと移動を始めた。そこは公園でもあるので、時間まで散歩でもできるだろう。

 パークでは既にステージは仕上がっており、前座バンドが演奏していたりした。まだ始めたばかりのメンバーで、それほど上手くない?

「ラムリーズの影響で、この地方の高校生の間で学生バンドが流行っているんです。その中で抽選で選んで自由に演奏させているけど、オーディションじゃなくて抽選だったので腕の方はバラバラになりまして」

 案内人はラムリーザにそう説明してきた。

「なんでまた抽選に……」

「オーディションは、ジャンの店で使えるバンドを探すのに使ってますので」

「そんなものかなぁ?」

 しかし一方のソニアは、前座バンドグループに文句をつけてきた。

「なんであのグループみんな、クソ長い靴下履いてるのよ、あたしあの靴下大嫌い」

 どうやらラムリーズの衣装も流行したようで、女性メンバーは揃ってミニスカートにサイハイソックスといった出で立ちだ。

「衣装も流行っているのですよ」

 案内人の説明に、ジャンは「いいじゃん」と答え、ソニアは「馬鹿みたい」と答えた。

 そこで案内人に衣装の由来を利かれたので、ラムリーザは通っている学校の制服をジャンが気に入っただけ、と答えておいた。エロいように見えて、それほど露出が無いのが良いところらしい。一方の男性用はコート風、これも学校の制服そのままだ。

 そうしているうちに前座の演奏は終わり、いよいよラムリーズのライブが始まる時間となった。

 今回は、オープニングをミーシャが担当することになった。たまには目立たせてあげようという、リゲルからの特に強い要望だった。

 ソニアとリリスを黙らせるために、その後のリードボーカルの配分を、ミーシャ少なめにすることで納得させたりしていた。

 

♪ぼーくは、たーだの、子供に見えるけどー、ホントはあの有名な「おまーた少女」なーのさっ――

 

 ミーシャの甘ったるい媚々声が、スピーカーを通してパークに響き渡った。

 どうやら観客の中にはダンス動画を知っている者も居たようで、「あれ? あの娘、S&Mの踊り子ちゃんじゃないか?」などと話し合っているようだ。

 続いてリリスが二番手としてリードボーカルを取る。

 

♪思い出の歌目に浮かぶわ、あの星空思い出の町。そう歌って、あの日の歌を。月がかがやく行こう手をつないであなたと二人、そういつの日も、あの歌のように――

 

 オーソドックスな力強い声がリリスの特徴だ。視線恐怖症を克服してからというもの、リリスの歌声の力強さはより強力な物となっていった。

 続いてソニアが三番手として登場。

 

♪変わらない毎日、そんな中で走ってみても明日見えなくて。不安定な足元を見つめながら、夜明けの街角で私は一人きり――

 

 ひときわ高い高音。下手すれば耳障り、リリスとはまた違った、ボリュームのある熱唱じある。

 そんな感じでライブは進み、一時間弱演奏したところで終了となった。

 

 異変は、その時発生した――

 

 観客もライブが終わったと気を抜き、ラムリーズのメンバーもやれやれと息をついた時である。

 ステージから見て右側の観客席でざわつきが少し発生した次の瞬間、一人の男がステージに向かって突進してきた。熱狂的なファンか?

 いや、違う。その手には、短剣が握られている。

 警備員が慌てて駆けつけるが、男はそれよりも素早くステージの上に飛び上がってきた。

 男は丁度目の前に居たリリスを突き飛ばすと、一直線にドラムセットの場所へ向かいラムリーザめがけて短剣を突き出してきた。

「死ねや! 帝国の手先!」

 短剣に対して、ラムリーザはドラムのスティックを振りかざして対抗する。しかしそれよりも早く、脇から影が動いたかと思うと、男の手を横から蹴り上げた者がいた。レイジィだ。

 短剣は中を舞い、ステージの端まで飛んで、ユコの近くに落ちて床に刺さった。

「キャアアァァーーッ!」

 そこにユコの悲鳴が響き渡る。

 警備員の群れも、急いでステージに駆け上がろうとしているが、突然現れた暴漢は、短剣を失いながらも走ってきた勢いでラムリーザに向かってくる。

 その顔面を、ラムリーザは右手で受け止めた。素早く立ち上がり、暴漢の顔を掴んだ腕を振り上げた。暴漢は、顔面を鷲掴みされたまま宙吊りとなる。ラムリーザの右手の指の間から、鮮血がほとばしった。

 もがく暴漢にレイジィは素早く接近し、短剣を持っていた右腕を極めた。ゴキと鈍い音がしたと思ったら、暴漢の右腕はダラシとぶら下がった。肩の関節を外したようだ。すかさず左腕にも同じ極め技を疲労し、暴漢はラムリーザに宙吊りにされたまま両腕をダラーンとぶら下げる形となってしまった。

 そこでようやくラムリーザは、暴漢の顔面を掴んでいた腕を外した。顔には五つの小さな穴が開き、そこからダラダラと血が流れている。

 そこにレイジィの放った下段蹴りの一撃が、暴漢の右足にクリティカルヒット!

 足は不自然に曲がり、暴漢は崩れ落ちた。どうやら足を折られたらしい。

 両腕と右足の自由を失った暴漢は、倒れたまま動けない。

「失敗することになるぞ、足を一本残している」

 ラムリーザは、レイジィに指示を出す。そこでレイジィは、暴漢の左足を取り、股関節の辺りで鈍い音を発しさせてまたしても関節外しを披露した。

 そこにようやく警備員がドラムセットの近くに集まった。

「遅い! 接近させられる前に捉えられんで、何が警備兵だ!」

 珍しくリゲルが声を張り上げるが、その顔は元々白っぽいが今はさらに青白い。

 ユコはキーボードの前にペタリと座り込んで泣きじゃくっているし、ロザリーンもピアノの席に座ったまま顔面蒼白だ。リリスとミーシャは、魂が抜けたように立ちすくんでいる。その一方で、ソニアは不満そうな顔をしているが、血色はしっかりとしていて動じていない様子を見せていた。

 最後の一人ソフィリータは、飛び上がって警備員の群れを飛び越え、暴漢のわき腹あたりに膝を落としてきた。そして、「この狂人が!」と言いながら、なおも蹴りを入れ続けるが、流石にそれは警備員二人に羽交い絞めにされて引き剥がされてしまった。

 パークの周囲は騒然となっていた。ユライカナンの関係者はみな蒼白。起きてはならない事態が、初日から発生してしまった。まさか帝国の辺境に作った親善都市、その領主が襲われる可能性は低いとたかをくくっていたところもあった。そもそもこちら側、ユライカナン側の親善都市の住民も、ラムリーザ達に好意的であった。しかし、全ての人間が好意的なわけは無い。一人のゴミによって、何もかも失ってしまう場合がある、そのことに頭が回らなかったのかもしれない。

 ラムリーザ達の華やかさが気に入らない者か、それともフォレストピアに店舗を出すことの選考に漏れた者の腹いせか、帝国とユライカナンが友好化すると都合が悪い人種か、それともただの狂人か?

 だが、その暴漢にも明確な目的はあったように見える。もしも見境無しに攻撃するのであれば、途中でリリスを突き飛ばしたりせずに、リリスもその短剣の餌食にできていたはずだ。しかしリリスには目もくれず、ラムリーザへ一直線に向かってきたのだ。

 ステージ上では、暴漢を取り押さえた警備員が、「どうしてこんなことをした!」「どこから入った!」などと尋問している。一方で暴漢は、押さえつけられたまま「パクりやがって!」とか叫んでいるが、意図は明確ではない。

 そしてラムリーザ達は、そのままホテルへと退避することになった。

 泣いているユコは両方から抱えられ、呆然としているリリス、ロザリーン、ミーシャは手を引かれている。リゲルはかろうじて正気を保っているようだが、相変わらずソニアは不満顔で動じていない様子。

 そして一瞬係員の手が離れたソフィリータは、素早く取り押さえられている暴漢の傍まで走り寄り、その頭部に蹴りを放ったのだ。ソフィリータは再び警備員に捕まれる。

「ふんっ、あんたなんか、レフトールが居たら死んでいたね」

 警備員に再び引きずられながら、ソフィリータは捨て台詞を吐いた。

 そしてメンバー全員は、そのまま車に乗り込み、ホテルへと戻っていったのであった。

 

 警備の厳重なホテルの一室に戻ったとき、ようやく一同は胸をなでおろした。ユコなどはまだうなだれているが、リリスたちは何とかいつもの様子を取り戻したようである。

「いったい、何者なのでしょうか……」

 最初に口を開いたのはロザリーンだった。

「明確な意思を持ったテロリストだろうな。奴は一直線にラムリーザを狙ってきていた」

 リゲルは、あの状況でもなんとか事態を把握する気力を保っていたようだ。

「うん、だから対処しやすかったよ。無差別に襲われていたら、誰か怪我をしていたかもしれない」

 ラムリーザは、血に汚れた右手を眺めながらそう言った。別に右手を怪我したわけではない。アイアンクローで握った際に傷つけてしまった際に、暴漢の顔から飛び散った返り血がついただけだ。

「私と反対側から登ってくるなんて、あのキチガイも考えたものです」

 まだ憤りを見せているのはソフィリータだ。あの中で、唯一反撃に出たのが彼女だけ、そのために格闘技をかじっているというのもあった。

「でも、レイジィさんでしたっけ、やっぱりあの人は早いですね」

 ロザリーンは感心したように言った。

 ラムリーザの個人的な警護人レイジィは、誰よりも早く暴漢の凶器を弾き飛ばしたのだ。それもあって、ラムリーザは落ち着いて暴漢に対処できたというのもある。

「彼はそれが仕事だからね」

「それにしてもソニアさん、怖くなかったのですか?」

 ロザリーンは、あの騒ぎの中全然動じなかったソニアに質問を投げかけてきた。

「別に、またか、って思っただけ。別にもう、いまさら驚かない」

 ソニアは、吐き捨てるように言った。

「またか――って、あれが初めてじゃない?」

 ロザリーンは驚く。

「いやまぁ、最初の頃は危なかったからね。だから僕はレイジィと訓練して、対処方法をいろいろと訓練してきたんだ」

「それがあの顔面握り潰しですか?」

「あれは視界を奪うという意味でも効果的だからね。持ち上げられると知ったのはレフトールと戦ったときだけど、襲い掛かってくる物を正面から受け止めることはもう慣れているよ。サメとか――」

「あ――」

 そこで一同は思い出した。南の島へキャンプに行った時、海で襲ってきたサメを、ラムリーザは正面から受け止めたことがあった。

「相手の動きを少しでも止める事ができたら、後はレイジィが何とかしてくれるから」

 事実、ラムリーザに動きを止められた暴漢は、その後素早く両腕の関節を肩から外されていた。

「あんなの殺してやればいいのにっ」

 ミーシャは怒ったように言ってきた。

「それはダメだよ。ただの実行犯を消してそれで終わりでは、また次の実行犯が送り込まれてくるだけ。生かして捕らえて、背後関係を聞くのがいつものやりかたさ。たぶんもう兄の所に連絡が行って、動き出しているはずだよ」

 レフトールとの喧嘩程度で大騒ぎになったのだ。命を狙いに来たとなればどうなることやら。

「まあ恐らくアレだな。帝国とユライカナンが親密になると都合の悪い奴らの仕業だろうな」

 リゲルは、腕を組んだままそう締めるのであった。

 ユライカナンでの初ツアー、いきなり暗雲が立ち込めるような展開となってしまったが、この先大丈夫であろうか――

 

 それから数時間後、ラムリーザに襲い掛かった暴漢は、帝国に収監されたといったニュースが流れた。
 
 
 
 
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