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文化祭の出し物は何ですか?

 
 10月7日――

 

 定期試験も、試験開けの休みも終わり。学校生活にも日常が戻った。

 そして休み時間もいつもと同じ雰囲気を作り出している。

「シューエキショーって知っているかしら?」

「知らない」

 今日もリリスの雑学タイムが始まっていた。同じように例題を挙げてきて、ソニアは知らないと答える。知っていると答えたことはあっただうか? リリスが博識すぎるのか、ソニアが無知すぎるのか。これまでの傾向から言ってただ一つ確実なのは、リリスの知識は偏っているということだ。

「歌手よ」

「どんな歌が有名なのよ」

「そうねぇ――」

 リリスは少し考えてから、おもむろに歌いだした。

 

 アリワー、キャルラキャッチュッキャールナー、ゼツマー、キョルラレツニュー、ラニラウィーマーラッテラウィーマーラッテラ、タッチッタッチッ、ウォー!

 

「どこの言葉よ、わかんない!」

 ソニアの指摘はもっともなもので、リリスは聞いたことの無い言葉を使って歌いだしたのだ。

「呪文ですの? ひょっとして呪歌?」

 ユコは自分の知っているゲームから、なんとか答えを導き出そうとしていた。これまで何度か遊んできたテーブルトークゲームの設定では、呪歌という古代語を使った歌があり、その歌を敵に聞かせることで戦意を喪失させたり眠らせたりして、逆に味方に聞かせて戦意向上を引き起こせたりする魔法の一種だ。

「呪歌なら『ほなら』とかあるけど、その呪歌は設定にあったかしら?」

「ほならって何よ」

「教えてあげようか?」

 ソニアの問いに答えたのはリリスだ。

「うん、教え――」「ほなら!」

 ソニアの台詞に被せるように、リリスは身体を乗り出してきて「ほなら」とソニアの耳元で叫ぶ。

「なっ、なにすんの――」「ほなら!」

 同じように、ソニアの言葉を邪魔するリリス。それを見て、ユコはくすっと笑う。

「しゃべるの邪魔し――」「ほなら!」

「うるさい――」「ほなら!」

「ふえぇ……」

 ソニアが困ったようないつもの悲鳴を上げたところで、リリスはソニアの言葉を邪魔するのをやめて、身を引いたのだ。

「交渉の邪魔などに使える呪歌ですの。この魔法をかけられると、しゃべり始めると頭の中で『ほなら!』と響いてきて動揺してしまうのですわ」

 それは使い道があるのか、効果的に使えるシチュエーションはどこかなどといろいろと考える必要のある魔法であった。

「そもそもほならって何よ」

「あなた、ホイミって何よって追及するタイプなのね、くすっ」

「ホイミは回復魔法、でほならは何よ」

「さっき説明したじゃないの」

「意味わかんない」

「ホイミって単語の意味は何かしら? 効果じゃないわよ」

「ぐぬぬ……」

 ソニアが返答に詰まったところで、とまぁそういうことである。創作された魔法や呪文の名称に突っ込むのは野暮なことなのだ。効果が重要であって、名前や詠唱文句は重要ではない。例えば雷撃魔法の名前がシャングリラであっても、何の不都合も無い。サンダーである必要は無いのだ。

「呪歌じゃなくて、一部流行している竜言語歌でしょう? 神秘的な言葉の羅列を使用し、あくまで声を楽器の一部として考えられたもの」

 呪歌の講座が終わったところで、ようやくといった感じにロザリーンは口を開いた。

「そう、それよ。その竜言語歌をメインコンテンツとして活動しているグループが、シューエキショーっての」

「ふーん」

 ソニアは竜言語歌にあまり興味が無いようだ。

「一番有名なのは、竜の血族って歌ね」

 そしてリリスは、再び歌いだす。いや、声によって作られた楽器を奏でだした。

 

 フ! フォア! フェイ! フ! フォア! フェイ!

 ヌーズアンソー、フェンターローック、フォーフィンドゥー、ドゥヴァノゥー!

 フェンコスナー、ロマフェー、ラークァールゥー!

 

 曲が盛り上がりを見せた所で、ユコも声の楽器を重ねる。

 

 パズケイザール、フェンコスティン、ノールベイン、アードイジョーッ!

 ドヴァ――

 

「えーい、静まれーいっ!」

 リリスとユコは、突然後ろから大声を掛けられてビックリして演奏を中断した。歌を歌っているように見えるが、声を楽器の一部とみなして作られた曲なので、歌っていたのではなく演奏していたのだ。

 振り返ると、そこにはクラスメートのレルフィーナの姿が。彼女は普段は別のグループの中心人物で、クラスのムードメーカー担当なのだが、今日は珍しくラムリーザのグループへ顔を出してきたようだ。

「どうしたんですの? レルフィーナさん」

 黙っているリリスに代わって、ユコが声を掛ける。

「聞いて喜ぶのだ。また楽しい文化祭の時期がやってきたのだ」

「そういえばそんな時期ですのね」

 帝立ソリチュード学院では、夏休み明けの定期試験が終わると文化祭モードに切り替わる。約一ヵ月後に開催される文化祭目指して、思案、検討、準備の期間に入るわけだ。

「その準備に向けた打ち合わせをするから静かにしていてねっ」

 レルフィーナはソニア達から離れると、教卓へと向かっていった。そして黒板にチョークで、『文化祭統合作戦会議』と大きく書いた。しかしさすがにそれは大袈裟だろう、軍事作戦じゃあるまいし。

「レフトールさんは去年別のクラスだっけど、何をやりましたの?」

 ユコは自分の前の席に居るレフトールに尋ねてみた。

「知らね、俺出てねーから」

 要するにサボっていたわけだ。番長のレフトールならこれも仕方が無い。

「去年の文化祭、番長なら運動場で頭丸めていかめしの屋台出してたよ」

「勝手に丸めるな! ってかんなことやってねーよコラ!」

 ソニアは茶化してきて、レフトールは凄んでくる。やはり恐怖のレフトールも、ソニアにかかっては今では愉快な番長さんだ。

「それでジャンは何をやったのかしら? 去年は帝都の学校でしょう?」

「ん? なんか劇やっていたみたいだけど俺はぽこぽこ太鼓役だったな」

「劇? 演劇じゃなくて劇?」

「あたしできるよ!」

 ソニアは立ち上がると、突然その場で踊りだした。少し前かがみになって、膝の少し上を手のひらでバンバン叩きながら、小刻みに足踏みをする。そしてその場でゆっくりと回りだした。これが帝国が建国される以前から、この地域の土着民族に古くから伝わる民族舞踊、劇である。単純でやたらとせわしない踊りではあるが、帝国よりも歴史があるのでそれなりに有名だ。

「はーいそこ! 騒がない!」

 劇を踊りまわるソニアを、レルフィーナはビシッと制する。

「それでは、文化祭実行委員のあちき、レルフィーナより、今年の文化祭の出し物を決める会議を開催します!」

 ソニアは踊りを止めて、レルフィーナを睨みつける。しかしレルフィーナも口をへの字に曲げて負けていない。

「席に着く」

 ラムリーザの一言で、ソニアは不満そうな顔をしながら戻ってきた。何が不満なのか、さっぱりわからない。精々行動を阻害されたためだろう。劇を。

 レルフィーナは、去年はカラオケ喫茶で大盛況を収める事ができたが、今年は何をするつもりだろうか。また出し物の投票でも行うのであろうか。ラムリーザは去年、ソニアやリリスの暴走を止める為に茶番に付き合わされたことを思い出していた。

「それでは今年の出し物ですが、カラオケ喫茶をやろうと考えています」

 なんてことはない、二番煎じだった。というよりは、恒例事業にするつもりなのだろう。クラスメイトは去年から何人か入れ替わっているが、演奏メンバーは去年と同じで集まっているのだから。

「では実行委員のグループを決めるよ。委員長はあちき、メンバーにラムリーザを推薦します」

「なっ、なんで?!」

 突然何の断わりも無しにメンバー入りを命じられて、ラムリーザは思わず叫んでいた。

「去年の実行委員メンバー、クラス替えで居なくなっちゃったのでお願ーいっ。ラムリーザなら、十分に任務に応えられるよっ」

「でもこっちはいろいろと忙しくて、部活とか――」

「軽音楽部の部室に、カラオケ喫茶委員会本部を設置します。部活の一環にするから、全然問題ないでしょう?」

「……まぁいいけど」

 ここまで言われたら、大人しく従うしかない。カラオケ喫茶をやるとしたら、また楽器をジャンの店にあるスタジオから部室に運ばなければならないな、などとラムリーザは考えていた。

「ラムがやるならあたしもやる!」

 ソニアの持論に近い言葉が久しぶりに炸裂した。ラムが行くなら行く、やるならやる、嫌なら嫌、そんなところだ。

「はい、ソニアの立候補。他に立候補居ませんか? あと三人ほど欲しいのですがー」

 レルフィーナは、教卓からクラスメイト一同を見渡した。

「ちょっと待って? 立候補を募っておいて、僕だけ指名制って何?」

「うるさいなー、男の子なんだからそのぐらいビシッと引き受けてよー」

「いや、性別は全然全くこれっぽっちといっていいほど関係ないと思うぞ」

「立候補居ませんかー?」

 レルフィーナはラムリーザの不満をスルーして、再びクラスメイトに声を掛けはじめる。

 ラムリーザはこうなったら仲間を全員引き込んでやろうと考えた。

「ユコやらない?」

「またカラオケ喫茶やるなら、さらにレパートリー増やそうと思うので、楽譜量産するから無理ですの」

 断わられてしまった。

「レフトール……は、やめておくか。ジャンとリリスも加わってくれよ」

「めんどくさいから嫌だわ」

「リリスが嫌なら嫌」

「そんなソニアみたいなこと言ってないでさー」

「いや、俺店あるし」

「あ、そうか」

 しかたなくラムリーザは、後ろを振り返った。しかしリゲルとロザリーンは、掛け持ちの天文部の方で、展示物発表のための記事作成があるとのことで、演奏の練習ぐらいはやるけれどそれ以外までは手が回らないとのことだった。展示物さえできてしまえば、あとは案内役を数人置くだけでよいので、当日はカラオケ喫茶に集中できるのだ。

「チロジャルもやろうよ!」

 ラムリーザとは別の方向で、ソニアが勧誘を行っていた。お気に入りのチロジャルに声をかけている。

「でっ、でもぉ……」

 気弱なチロジャルは、ソニアの押し攻勢に怯んでそのまま押し切られてしまいそうだ。彼女はソニアとは正反対に大人しい分真面目なので、メンバーとなったら仕事は言葉通り嫌とは言えずにこなしてくれるだろう。

「レルフィーナ! チロジャルがやってくれるって言っているよ!」

「そうなの?! ありがとー、チロジャル! あと二人居ないかなー?」

「えっ、えええっ……?」

 可哀想なチロジャルは、ソニアに押されて実行委員のメンバーに選ばれてしまった。

「そうはいかんぞ、俺もやる」

 この状況に黙っていられないのは、チロジャルの幼馴染で彼氏であるクロトムガ。自ら立候補してメンバーに加わってしまった。クロトムガ的にも、自分の居ないところでチロジャルとソニアを一緒にさせておくのは危険と判断しての行動であった。

「いいねいいね、あと一人! あっ、そうだ!」

 レルフィーナの求める定員にあと一人と迫ったところで、彼女は何か思いついたようだった。

「ピクリスさん、やってみない? やってみようねっ」

 そういえば、夏休み明けから転校生が入っていたのだった。レルフィーナは、この機会に打ち解けようと考えて、ピクリスもメンバーに誘ったのであった。しかしピクリスは、何も答えない。

「はいっ、お疲れ様。文化祭実行委員のメンバー決定。ラムリーザ、ソニア、チロジャル、クロトムガ、そしてピクリスさんよろしくねっ」

 否定も肯定もしないピクリスは、レルフィーナに強引に押し込まれてしまった。

 こうしてメンバーは決まった。出し物は去年と同じでカラオケ喫茶。レルフィーナは一人、去年よりも盛り上げよう! と張り切っているのだった。

「それじゃ、あちきはこれから生徒会に報告してきまーす。絶対に他のクラスと被らないから、絶対採用されて楽だわーっ」

 レルフィーナは、意気揚々と教室を飛び出していった。他のクラスと被るとは、例えば「お化け屋敷」をやろうというクラスが複数出てきたら、抽選で一クラスだけに絞られてりするのである。

 とにかくラムリーザにとっては、強引に実行委員メンバーに選ばれ、強引に出し物を決められてと、全てレルフィーナに振り回される形となったのだ。ソニアがついてきたのは良いとして、自分を嫌っているピクリスまで入れてしまって、この先大丈夫かな、などと考えていた。レルフィーナは、ラムリーザとピクリスの確執を知らないのだ。

 

 

 放課後、生徒会室にて――

 

「おおっ、今年もラムリーザくんのクラスはカラオケ喫茶か。楽しみだねー」

 ユグドラシルは、各クラスからの出し物申請書を一つずつ確認しながらそうつぶやいた。

「でも会長、それのおかげで、軽音楽部が体育館で舞台演奏しないのが残念ですね」

 他の生徒会メンバーはそう言うが、いろいろと知っているユグドラシルは気にしない。

「彼らの本格的な演奏が聞きたければ、フォレストピアにある唯一のナイトクラブに行ってみたらいいよ。それに、体育館で数曲だけ演奏するより、カラオケ喫茶で一日中いろんな曲を、一緒歌ってに楽しめるほうがずっといいじゃないか」

「ナイトクラブですって? 学生が出入りするのは感心しませんね」

 それに噛み付いてきたのは、副会長で風紀委員も務めているケルムだった。

「いいじゃないか、住民も楽しんでいるし、ジャン君自身が経営している店なんだ。それにとやかく言う権利は、自分達には無いよ。それこそ帝国の臣民が持つべき信念に反する」

 ユグドラシルに諭されて、ケルムはふんっと顔を背ける。ケルムは、少し前にラムリーザに逢瀬をぶちこわしされて、彼らにかなり否定的になっているといった面があった。だから、会長のユグドラシルが彼らを持ち上げるのがおもしろくなかったりしていた。

 そこでユグドラシルは、思い出したかのように言った。

「ああそうだ、来月ぐらいから軽音楽部の顧問のリセッテ先生が産休から育児休暇に入って居なくなってしまうので、その間の代理顧問を決めておかなければいけないんだった」

「それは私に任せてください」

 それにすぐに飛びついたのはケルムだった。ラムリーザに恩を売って、今度こそ自分の方に振り向かせようとでも言うのだろうか。

「よろしく頼むよ」

「ご安心を」

 ユグドラシルの委託に対して、ケルムは何か企んでいるかのような笑みを浮かべるのであった。
 
 
 
 
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