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月見だんご美味い美味い

 
 10月15日――

 

 帝国ではあまり意識されていないが、実は今日は一年でたった一度きりの日だったりする。

 ネレウテリアの空に浮かぶ、二つの月。しかし、この日だけ一つになる。年に一度、二つの月が重なり、地上から見上げると空に浮かぶ月は一つだけとなるのだ。さらにそれが満月なのは、この月だけだった。

 この事象は、帝国では完全にスルーされていたが、ユライカナンでは特別の日として扱ってきていた。今日はその話について、ラムリーザ達は触れることになったのだ。

 

 ごんにゃにて――

 学校帰りに喫茶店に寄るという話はよく聞くが、ラムリーザの周囲ではそれがごんにゃだったりしていた。ちょっとお茶して――などというものではなく、一杯リョーメン食ってくかといった話になる事が多かった。それほどユライカナン産のリョーメンが気に入っているのだ。

 ごんにゃ店主もそういった利用に備えてメニューも追加していたりする。つまり、ミニリョーメンの類で、満腹にはさせずに安く少量を出すといった物も用意していた。

 学校帰りにソニアがおなかすいたというので、ラムリーザはちょうど目の前にあったごんにゃに入り込んだわけだ。帰り道はのんびり遊びながら帰ろうという日は、つねき駅まで行かずに以前のようにフォレストピア駅で降りて、町並みを見物しながら帰っている。ごんにゃは最初の店ということで立地条件がよく、駅から歩くとすぐに目に入るのだ。

 そこで、店主から冒頭の月の話を聞いたわけだ。

「今夜はエルナークの夜、お月様が真の姿、すなわちウティキサマとなる日だぞ」

 店主は、二人を窓際に連れて行きながら説明する。

「お月様に真の姿ってあるの?」

「ふっふっふっ、見たまえ。ああやって月を祝うのさ」

 店主は、ソニアの質問に答えるかのように、窓から空を指差す。東の空に、大きな月が一つだけ。空中見渡しても、もう一つの月は見当たらなかった。そして店内の窓際、そこには台座のようなものが備え付けられていて、その上には丸くて白いものが四角錐型に積みあがっていた。

「この丸いのなぁに?」

 ソニアは珍しそうに積み重なった白いのを見つめながら尋ねた。

「別に特別な物じゃないさ、だんごだよ。米を砕いてできた粉を練って作ったものさ」

「えっ? だんごだったの? 食べる!」

「だめだめ、それはお供え物。勝手に取って食べるとバチが当たるぞ」

「むー」

 ソニアは、だんごの山を恨めしそうに見つめながら呻いた。その様子を見てラムリーザは、ソニアをだんごから引き剥がす。このままほっといたら、こっそり食べてしまう恐れがあった。

「領主さんもお月様を祝ってやりなよ。ほらこれサービスしとくよ、余った米の粉だ。作り方は――たぶん小麦のだんごと同じでいいと思うぞ」

「ありがとうございます」

 ラムリーザは、店主から粉の入った袋を受け取りながら、お礼を言った。ソニアは、まだチラチラと窓際に目を向けている。よっぽどだんごが欲しいに違いない。

「今夜はだんごを作って楽しむか」

「それはそうと領主さん?」

「なんでしょう?」

「今日はいつもの緑ちゃんだね」

「それはいいってことです!」

 ラムリーザは慌てて誤魔化す。店主の言っていることは、昨日リリスと訪れた事に触れているのだろう。

「今日はって何? いつもは違うの?」

 細かいところをよく聞いているソニア。

「昨日は黒髪の美女と――」

 ラムリーザはもう聞いていなかった。急いでソニアの手を取って店から飛び出していく。

「ラっ、ラムっ、何っ?」

「早く帰ってだんごを作ろう!」

 昨日の事をあまり詮索されたくないし、せっかくだんごの粉をもらったのだ。らむりーざは早く屋敷に帰って、だんご作りをしてみたかった。

「黒髪の美女ってリリスのこと?」

 ラムリーザに引っ張られながら、ソニアは尋ねてきた。やはり先ほどごんにゃの店主が言いかけたことが気になるようだ。

「リリスって黒髪の美女なのか?」

 しかしラムリーザは落ち着いて言い返す。ソニアの言った事を逆に並べ替えただけだ。しかしいつも通りにソニアが単純思考で返してくれば、グダグダにできる自信があった。

「違う! あれは吸血人間スネーク!」

 やはりソニアは、リリスの事を美女と認めない。こうなると、後は単純な実りの無い押し問答に持ち込める。

「吸血人間スネークの特徴とはどんなのかな?」

 後は屋敷に辿りつくまで、ソニアはもはやリリスの悪口にすらなっていない、いろいろな設定を語ってくれましたとさ。例えば人類がこの先生き残るには蛇、すなわち爬虫類に変化するしかないなどと、トンデモ理論を述べてくれました。ちゃんちゃん。

 

 屋敷に帰ったら、すぐに晩御飯だった。そして晩御飯が終わると、ラムリーザは部屋に戻らずに調理場へと向かった。ソニアもついてくる。

「おや? ラムリーザ様珍しくこんなところへ?」

 そこでは、いつも通りに晩御飯後の食器洗いをしていたメイドのナンシーと使用人が居たりする。

「ちょっと作りたいものがあってね」

「そうですか? 作ってさしあげますよ、何でしょうか?」

 ナンシーは愛想笑いでラムリーザに近寄ってくるが、その後ろにソニアの姿を見つけて急に真顔に戻る。ラムリーザの前では愛想よいメイドでも、ソニアの前ではきちんとした母親を演じる。その顔の使い分けが器用だ。

 そこでラムリーザは、ごんにゃ店主からもらった米の粉と調理メモを差し出した。ナンシーはそれを見て、「だんごですね」と答えた。米はユライカナン産でも、小麦だんごなら帝国の料理に元々あったので、同じように作れるというものだ。

「ではソニア、こちらへ来なさい」

 ナンシーは、ソニアを呼びつける。

「なぁに?」

「あなたがだんごを作りなさい。作り方はこちらで指示しますから大丈夫」

「やだ! あたし食べる人! お母さん作る人!」

 ナンシーは黙ってソニアを捕まえようとしたが、ソニアはすばやく身をかわして調理場から逃げ出していってしまった。ソニアに逃げられたナンシーは、ため息をついてから銀のボウルを棚から取り出して、その中に米の粉と水、砂糖を少々混ぜ始めた。そしてしばらく調理が続き、ボウルの中に出来上がっただんごが山積みになった。

「全部食べるのですか?」

「いや、そっちの皿を使うよ」

 ラムリーザは手ごろな大きさの皿を取り出して、その上にだんごを積み上げ始めた。ごんにゃの窓際で見た光景を思い出しながら、四角錐の形を作っていく。三段だと少ないかな、四段かな、五段かな? ラムリーザはだんごの数と、積みあがったときの美しさを考慮しながら調整していった。

「それをどうするのですか?」

「ごんにゃの店主が言っていたけど、今夜はエルナークの夜だってさ。お月様を祭ってあげようと」

「あらお月様を? それはいいですね」

 エルナークの夜という言葉は、ユライカナン産で帝国では馴染みの無い言葉である。それでもナンシーにも、お月様を祭るということは理解できたようだ。

 以上でお供え物の準備ができたので、ラムリーザはだんこを積み上げた皿を持って自室へと戻っていった。

 

 部屋に戻ると、先に逃げ出していたソニアはココちゃんを一匹抱いて部屋をうろうろしていた。しかしラムリーザがだんごを盛った皿を持っているのを見つけると、ココちゃんを放り投げて寄ってきた。

「だんごだ、それ食べたい」

「たーめ、これはお供え物」

 ラムリーザはソニアを押しのけると、窓際の台に皿を置いた。そしてごんにゃで見た時と少し違うなと感じ、皿の下に皿より少し小さめの箱を置いてみる。これで見た目はそっくりとなった。ちなみにこの形の台付き皿のことを、ユライカナンではサンボウと言うらしいが、それは今は特に気にするようなことではない。

 窓から空を見上げると、夜の空に大きな満月が一つだけ浮かんでいた。

「エルナークの夜かぁ、語感がいいね」

「クソゲーのタイトルに流用されそうな名前ね」

「なんやそれ」

 ラムリーザは一人、月の輝きに照らされているだんごの山の向こうに輝く月を見ながら優雅な気分に浸っていたが、ソニアはだんごを凝視しているだけだった。隙あらばだんごを狙うといった感じで一筋の涎も見える、まことだらしない。

「エルナークの夜ってゲームがあるとしたら、どんなのになるのかな?」

 ソニアがだんごを狙っているとは知らずに、ラムリーザは暢気に問いかける。

「財宝探しかなぁ。トレジャーハンターが主人公で、遺跡に隠された財宝を見つけるの。聖なる光により善なる言葉は復活するだろう、とか言ってね」

「なるほどね。さて、準備も出来たことだし、お月様にお祈りをしよう」

 ラムリーザは窓際から一歩下がって、ソニアを傍に呼び寄せた。二人で並んで、銀色に輝く大きな月と、積み上がっただんごに手を合わせ――

「ハーゴンのお顔は、お月様~」

「なんやそれ」

 ソニアはまだ手を合わせていない。

「もうだんご食べてもいい?」

「だめだな」

 やっぱりだんごの事しか考えていない。

「んん、ちょっと便所行ってくるから、その間に願い事を考えておくのだぞ」

 ラムリーザは、部屋にソニアを残して便所へと向かった。そんなことをすれば、何が起きるかは自明の事だったが、生理現象には敵わない。ここでソニアを一緒に連れ出すと、ソニアがたまに言ってくる「つれしょんしよう」という無茶なことを認めてしまうことになる。

 果たしてラムリーザが便所から戻ってきたとき、だんごの山の一部が消えていた。一番上に乗っただんご、二段目にある四つのだんごの内一つが無い。

「むっ、食べたな?」

 他に理由は考えられない。ラムリーザは、ソニアを睨みつける。

「あたし食べてない! 勝手に減った!」

 しかしソニアも負けていない。あくまで自分は悪くないということを強調する。この場合、何も説得力を持たない反論だが、ソニアは全く気にせずにいけしゃあしゃあと言ってのける。目の前で消えて驚いた、などと言っている。

「勝手に減るわけないじゃないか、誰かが食べたから無くなった。そしてこの部屋にはソニアしか居なかった」

 ラムリーザは淡々と正論を述べる。言い逃れはできるはずがない。

「あたし知らない! お月様が食べた!」

「ほーお」

 それでもソニアは、自分に非が無いことを主張してくる。まったく根拠がないのだが、この虚勢、というか自信はどこから出てくるのだろうか? 元々お月様にお供えしたものだから、お月様に食べられたのなら本望だ。しかしそういう問題ではない。

 ラムリーザは内側のだんごを崩れないように取り出して、ソニアに食べられたところに積み上げた。そしてだんごの山を積みなおしてからは、じっとソニアを監視していた。しかしソニアを見ていても、時々ちらりとだんごの山を見るだけで、手を出そうとしない。

 そこでラムリーザは、単純な芝居を打つことにした。

「もう食べるなよ」

 そういい残して、一旦部屋から出る。部屋の中からは「だからあたし食べてない!」と声がするが、聞く必要は無い。そして一呼吸置いて、部屋の中に飛び込んだ。

「あっ!」

 果たしてソニアは、両手にだんごをつかみ、すでに口の中に一つくわえ込んでいた。

「こらっ! なんしょんな!」

「わっ、たっ、うんっ、ぐおっ、うっ、うむむっ……」

 ソニアは妙なうめき声を上げて、だんごを掴んだ手で喉を押さえている。どうやらラムリーザの登場に驚いて、だんごを喉に詰めたようだ。

 ラムリーザはソニアの傍に駆け寄って、両手のだんごを取り上げた。そしてそのだんごを、ふたたび皿の上へと積みなおす。一つはもう食べられていて無くなっているので、また内側から一つ取り出して外側に積む作業が発生した。

 一方ソニアは部屋に備え付けられている小型の冷蔵庫へ駆けていって、中から豆乳のパックを取り出してそのまま一気にあおった。

「ごほっ、ごほんっ! なっ、何すんのよ!」

「何もしとらんがな」

 ソニアは怒るが、ラムリーザは言葉通りただ部屋に入ってきただけで何もやっていない。

「死ぬかと思ったじゃないの!」

「だんご食べたよね?」

 ラムリーザはソニアの怒声を無視して、冷静に問い詰める。今回はもう言い逃れできないだろう。しかし――

「ユライカナンのだんご、美味い美味い!」

 これはもう開き直っているようだ。だんごを食ったけど、何か悪い? とでも言った感じの顔で、ラムリーザの顔を見つめてくる。

「誤魔化すな」

「ふたさらななせん!」

「意味わからんわ」

 ソニアはひたすら適当な事を言って、ラムリーザの関心を他所へと持っていこうとしていた。しかしラムリーザは、そんないい加減な作戦に引っかかるような者ではない。

 最初よりもいくつか減ってしまっただんごを、元の様に積みなおしてからソニアの方へと振り返った。だんごでできた山の内側は、今では完全に空洞になっていた。

「ほら、食ってないでお月様にお祈りをするぞ」

 つまみ食いをいちいち怒っていたのではきりがないので、一人勝手に憤慨しているソニアを手招きして傍に呼び寄せようとした。

「だからあたし食べてない!」

 この期に及んで否定するソニア。これではまるで万引きを現行犯逮捕されたにも関わらず、無罪を主張しているようなものだ。

 だからラムリーザは、ソニアの言うことには耳を傾けずに話を進める。

「僕から行くよ。お月様、お月様、願わくはソニアの食いしん坊が治って、つまみ食いをやらなくなりますように、どうかお願い致します。お願い致します」

 ラムリーザは月に向かって祈るように手を合わせて、願掛けをしてからソニアの方へどや顔を向けた。

「まっ?! なっ?!」

 その願い事を聞いたソニアは、真っ赤な顔で口をパクパクさせながら喘いでいる。

「はい、今度はソニアの番だよ」

 ラムリーザは、ソニアをやり込めて得意顔を浮かべている。ソニアは不満そうに口を尖らせて、ラムリーザの傍へとやってきた。

「むー、ラムがいじわるなこと言わなくなりますように!」

 別にラムリーザはいじわるはやっていない。むしろ今回はソニアの方が、意地の悪い事をやっていると言えるだろう。だからラムリーザは、ソニアに飛び掛りながら言った。

「ふっふっ、残念ながらお供え物に手を付けた祟りで、願い事が逆流してくるのだ!」

「なっ、何それっ?!」

 ラムリーザに抱え上げられて、ソニアは驚いたような声をあげる。じたばたともがくが、ソニア程度の力でラムリーザを振り払うことはできない。

「ラムがいじわるなことをやってくるのだ!」

 ラムリーザは自分のことをラムと呼びながら、ソニアを抱えたままベッドの上にダイブ。そしてソニアの着ていた服を剥ぎ取って、下着に手をかけ――

 その前に部屋に鍵をかけてと――
 
 
 
 
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