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リリスの相談

 
 10月14日――

 

 放課後、ごんにゃにて――

 ラムリーザとリリスという珍しくもあり、危険な組み合わせが店内に存在していた。

 ラムリーザは一度屋敷に帰った後、電話でリリスに呼び出されていた。丁度傍にソニアが居なかったので黙って出てきたわけだが、リリスが個人的に話がしたいと言ってきたので、たまにはいいかと付き合うことにしたわけだ。逢瀬では? という考えも浮かんだが、友人としてすら会わないのは酷だと考えた。ケルムと違ってリリスは大切な友人だ。

 リリスは現在ジャンの店の上階にあるホテルにもなっている部屋に住んでいた。リリス自身もラムリーザ達に近いフォレストピアに住みたいと考えていたので、そこはジャンに感謝しているようだ。

 それでごんにゃで待ち合わせという話になり、二人で店に入ったところだ。

「らっしゃいって領主さん。んん? 珍しい組み合わせだね、いつもの緑の娘はどうしたんだい?」

 リリスは、ごんにゃ店主の方に顔を寄せていって、いつもの演技がかった艶かしい声でささやく。

「ラムリーザとソニアは別れたわ。今は私がラムリーザの新しい彼女」

「ええっ? それは初耳!」

「冗談だからね、店主さんも真に受けないで下さい」

 ラムリーザはキッパリと否定しておく。そんなラムリーザに、リリスは微笑を浮かべて言ってきた。

「そんなつれないこと言わないで」

「なんだよ、そんなことやりたかったんだったらもう帰るよ」

「あっ、冗談よ冗談」

 唐突にリリスは演技の表情を止めて、真顔――というよりごく普通の笑顔に戻ってラムリーザを引き止める。ここまで雰囲気の変わる娘も珍しい。二重人格ってわけでもないが、リリスの妖艶な演技はなかなかのものがあった。ただしその艶かしい皮が剥がれると、ソニアと同レベルの馬鹿であることは、今では衆知の事実であった。

 

 二人は、適当な席に差し向かいに座り、つめたいぶんとえーぶんを注文する。

 ごんにゃのリョーメンには、えーぶんとうまいぶんの二種類が主流なのだが、基本的にラムリーザやジャンの奢りであることが多いので、わざわざ下のランクのうまいぶんを頼むことはまずなかった。といっても、二つの違いは肉片が乗っているかどうかの違いだけなのだが、無いより有る方がいい精神なのかどうか知らないが、ソニアたちはえーぶんしか注文しない。

「文化祭の話は順調かしら?」

 リリスから振ってきたまともな会話は、当たり障りの無い文化祭の話題から始まった。

「よくわからないけど、去年と同じようになるんじゃないかな」

「よくわからないって、打ち合わせしたのでしょう?」

「ちょっとね……」

 そこでリリスは、くすっと微笑を浮かべて続けてきた。この微笑が妖艶で、ソニアには表せないリリス特有の個性だ。

「ピクリスでしょう、大丈夫かしら?」

「それなんだよねぇ。僕はあまり関わらないようにしようとしているのだけど、同じ実行委員に加えられたら嫌でも顔を合わす。レルフィーナも人選誤ったね」

「どうしてもピクリスのせいで回らなくなったら、私が代役に立ってもいいわよ」

「えっ? それはありがとう」

 ラムリーザとしては、リリスがピクリスと代わってくれるならばなるべく早くそうしてもらいたかった。あそこまで敵意を持たれている相手に、無理にこれ以上近寄るのは意味が無い。

 ただし、ピクリスとリリスが入れ替わると、ラムリーザとピクリスの問題は解決しても、新たにソニアリリス問題が発生するのは目に見えていた。ベストではないとしても、どっちがよりベターか、ラムリーザは真剣に悩むのであった。

「ユコとレフトールって付き合っているのかしら」

 唐突に話題を変えてくるリリス。やはりリリスから見てもそう見えるのか。ラムリーザは、先日フォレストピアのゲームセンターで見かけた二人を思い出してそう考える。

「レフトールからは、付き合っている風には言ってこないけどね。ユコがそう言っているのかい?」

「ユコはレフトールは自分の騎士と言っているわ。ところでソフィリータとユグドラシルはどうなのかしら?」

 リリスは矢継ぎ早に話題を転換させてくる。男女の関係の話ばかりだ。

 ラムリーザは、女子の会話なんてこんなものかなどと考えながら、この二人に関しては自信を持って答えた。

「それはきちんと付き合っている。うちの屋敷に時々ソフィリータ目当てでユグドラシルさん来るし、ソフィリータも逆にユグドラシルさんの所に行っているみたい」

「兄にベタ惚れの妹じゃなくて残念ね、くすっ」

 リリスは再び微笑を浮かべてきた。ラムリーザはリリスのこの顔は絶対に作っているが、完成度は高いと感じている。

「ギャルゲーの世界だと、キャラの設定ミスだね」

 だからラムリーザは、適当にそう答えておいた。たぶん現実の妹は、今のラムリーザの兄妹みたいな関係になるのではないか、と勝手に想像しながら。なにしろ今では、少しでも妹が兄に甘えるそぶりを見せたら、すぐに一言何か言ってくる者が傍に居るのだ。

「リゲルはどうするのかしらね」

「彼は二股、僕は何も言わないよ」

 そこに店主が、どんぶりを二つ持って現れた。注文した品だ。

「おもちどう、えーぶんとつめたいぶんどうぞ」

 それから少しの間、二人はリョーメンを黙々と頂いていた。

「あなた、あいかわらず熱いの食べないのね」

 リリスは、熱々のリョーメンに息を吹きかけながらそう言ってくる。

「指を入れて平気な物しか食べないよ」

「そうなのよねぇ……」

 リリスからしてみると、ラムリーザのこの特性を知らなかったために、ソニアとの料理対決で敗北したという苦い記憶があった。そしてその時から、リリスの気持ちは少しずつ変わっていったのだ。

「好きとか嫌いとか、最初に言い始めたのは誰なのかしら?」

 リリスは窓の外を眺めながら、ほぅとため息をついてそうつぶやいた。

「歴史研究家に聞いてみたらどうだろう? 古生物学者……違うかな」

 ラムリーザの真面目な答えに、リリスはくすっと笑った。リリスは特に深い意味があってつぶやいたわけではなく、最近出たギャルゲーのテーマソングの歌詞を述べてみただけなのだ。ひょっとしたら近いうちに、ユコが楽譜化させるかもしれないものである。

「というより、そんな恋話をするために僕を呼び出したのかい? こんな話ならわざわざ二人きりにならなくても、明日学校で聞いてあげたのに」

「違うわ、前置きが長くなってごめんなさい。どうしてもあなただけに聞いてもらいたい事があって」

 リリスは箸を置いて、少しの間じっとラムリーザの顔を見つめてきた。今の表情に作りは無い、真顔と呼べるものだった。

「ソニアとは別れないよ」

 だからラムリーザも、先に釘を刺しておく。どうせリリスの言ってくることなど、そんなものだと先読みしてやったのだ。

 しかしリリスは静かに首を横に振ると、いつもの誘うような口調ではなく、ごく真面目な声で問いかけてきた。

「ジャンってどんな人なのかしら?」

「親友……かな?」

 リリスの言うどんなの範囲がわからないので、ラムリーザは差し障り無い答えを示す。ただし、それは本心であって偽りではない。

「リゲルとどっちが大事?」

「リゲルもジャンも、出会った時期が違うだけでどちらも同じ親友だよ」

 ラムリーザには、リリスが何の話がしたいのか未だに掴みかねていた。人間関係の話がやりたいだけなのだろうか?

「あのリゲルが親友ねぇ――」リリスは少しだけ微笑を浮かべたが、すぐに真顔に戻って続けた。

「――まあいいわ。ジャンの昔ってどんな人だったのかしら?」

 どうやらリリスの聞きたいこととして、リゲルのことはあまり重要ではないようだ。

 現在リリスは、傍から見てもよくわかるぐらいジャンにかなり良くしてもらっている。自分のホテルの一室を提供してリリスをフォレストピアに住ませてあげたり、何かとリリスに対して好意的に捕らえている。

「昔かぁ、これは話したかな? J&Rのこと」

「あなたとジャンが、以前組んでいたユニットの名前でしょう?」

「そのとおり。そこでジャンは、メインボーカルとリードギターを担当していたね。今のリリスと同じパート。ジャンとリリスって、実は似たもの同士だね」

 リリスはくすっと笑って、話を続けてきた。

「ジャンって、彼女居たことあるのかしら?」

 なるほど、リリスはジャンと付き合ってもいいかどうか探りを入れてきているな、とラムリーザは考えた。それならば、親友としてジャンを持ち上げて援護射撃をしてあげる場面だ。

「そうだねぇ、特定の誰かと付き合っていたってのは無いかな。僕やソニア、メルティア辺りとつるんではいたけど、男女の関係という感じにはならなかったね。僕もソニアとは、去年の春に恋人として扱うと決めるまでは、ただの幼馴染で兄妹みたいなものだったし」

「メルティア?」

 聞きなれない名前に、リリスは首をかしげる。

「彼女とは最近はとんとご無沙汰だけど、去年の帝都ライブとか見に来ていたの知っていたかな? ソニアによくちょっかい出していた」

「ああ、去年の文化祭に、ジャンと一緒に来ていた娘ね」

 そこでリリスは、一呼吸置く。そしてトーガラシの入った瓶を手に取って、自分のリョーメンに少し入れた。リリスがその瓶に手を伸ばしたとき、無意識に身構えるラムリーザが居たりするのだが、それはまあよい。今ここにはソニアは居ないのだ。

「ジャンって、そのメルティアと付き合ってたんじやないのかしら?」

 リリスから見たら、ジャンに連れられてわざわざ帝都から文化祭を見物しに来た娘だ。何かしら関係があると見るのも無理は無い。

「どうかなぁ? メルティアはジャンよりもソニアに執着していたし、仲のよい四人組、いや他にも居たか。ヒュンナとかアキラとか――まぁそれはいいか」

 あまり帝都での仲間達の名前を挙げても、リリスが混乱するだけだ。

「ジャンはリゲルみたいに二股はしないと思うよ。リリスの事だけを大事に思っているさ」

 だから、こう締めくくった。

「やっぱりジャンは私狙いなのね」

「ジャンはいい奴だよ。僕が言うのだから間違いない」

 その根拠が何処から出てくるのかは不明だが、ラムリーザはリリスにそう言い放った。少なくとも、ラムリーザから見たらジャンはいい奴で、それは嘘偽りではない。

「エロトピアなのに?」

「ごほん――」

 それを言われると、ラムリーザ的に辛い。確かにジャンには、エロオヤジっぽい一面がある。ラムリーザから見たら、昔からのことなのでもう慣れていた。しかし知り合って日の浅い、しかも女の子のリリスから見たらどうだろうか?

「エロトピアが気になるようならば、やめるように言っとくよ」

「別にいいわ、私は気にしない」

 ラムリーザの提案を、あっさりと遠慮するリリス。確かにユコなどは、ジャンのエロトピア発言を嫌がっているが、リリスは嫌うどころかさらに調子に乗って挑発している節があった。そんな点からも見ると、意外とお似合いの二人なのかもしれない。

 リリスはさらに、ラムリーザの関わるジャンの昔話を要求してきた。

 ラムリーザは、ソニアと兄ラムリアースと妹ソフィリータの四人で兄弟バンドをやっていたところから話すこととなった。その内兄が学校を卒業して城勤めを始めると、メンバーは三人となって少し盛り下がっていた。唯一作詞のできた兄が抜けたのも大きかった。そこにジャンが加わったわけだ。

 ジャンはメンバーに加わると同時に、自分の親が経営するナイトクラブ――帝都にあったシャングリラ・ナイトフィーバー――で演奏させ始めてくれた。普通はいきなりそんな大舞台に立てないものだが、親友特権というやつだ。

 ラムリーザがジャンと知り合ったのは、小学校時代。たまたまクラスが一緒となり、妙にウマがあって、それ以来時には親しく、時にはグダグダに、時にはダラダラとその関係は続いてきた。ちなみに帝都でからんでいたメルティアとは中学時代、ソニアは物心がついたときから傍に居た。

 ジャンとは、ラムリーザがポッターズ・ブラフに来た時に一旦離れ離れになったが、文化祭には遊びに来てくれたり、さらには新設したフォレストピアで二号店を出すなど、また近くに来たのは今年に入ってからだ。

「一つ言えるのは、僕がずっと親友関係を続けている相手だ、ということだよ」

 リリスにとっては、おそらくこの一言がジャンを信用に値することを十分に思わせる一言となるだろう。ラムリーザの近くに変な人や厄介な人が集まることは考えづらい――といいつつ、ソニアはどうよ、レフトールはどうよ、などと言われたらそれまでだが。

「まぁ、リリスとユコみたいな関係だよ」

「私達は中学時代からだわ」

 ラムリーザとジャンが昔からの親友であるように、リリスとユコも同じような物だ。だからこそ、

「転校騒ぎが転校詐欺でよかったね」

 リリスとユコが離れ離れにならなかったことは、リリスだけでなくラムリーザもよかったと思うのだ。

「ジャンの計らいでフォレストピアに住めたし、今までどおりユコと同じ町に住めたからね」

「実は不安だったの」

「何が?」

「去年のおみくじで、『連れ添った恩者が離れていくであろう』という災厄が出たのが関係したのかなと思ってたの」

 リリスはおみくじの内容をよく覚えていた。少なくとも二年目が始まるまでは、その内容は事実だった。

「ああ、そんなのだったか」

「あなたはどうなのかしら?『望まぬ縁談が平穏を壊すであろう』って出ていたけど、縁談会ったのかしら?」

 リリス記憶力に、ラムリーザは色々な意味で驚愕し思わずのけぞる。勉強に記憶力を発揮しない者は、時にどうでもいいことに記憶力が発揮されるものだ。リリスもその例に漏れないことに驚き、さらに先日のケルムからの縁談を思い出してさらに驚いていた。

 ラムリーザが黙っていると、リリスはくすっと笑い「あったのね」とつぶやき声で言った。

「僕のことはいいだろ? それよりもジャンはいい奴だよ。もしもジャンが付き合ってくれと言ってきたら、受け入れてあげるんだぞ」

 ラムリーザは、ダメ押しとばかりに最後の援護射撃を放った。

「どうかしら」

 しかしリリスは、真顔からいつもの怪しげな微笑を浮かべた顔へと戻っていたのである。真面目モードは終わりということか。

 二人はリョーメンを食べ終わり、二つ三つどうでもいい雑談をしてから店を出て別れた。

 

 ラムリーザは、カモフラージュに薬屋に寄ってブタノールを少々購入して屋敷に戻った。

 部屋に戻ったときに、ソニアが待ち構えていて「どこに行ってたの?」と問い詰められたので、ブタノールの入った小さなボトルを見せて「これを買ってきた」と答えた。

 単純なソニアは、早速ブタガエンの生成に向かったのであった。
 
 
 
 
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