帝都でデート、ただし共通ルート
6月18日――
この週末も、先週末と同じように、ラムリーザはソニアとリリスを連れて帝都を訪れていた。
連れてくる必要があるのはリリスだけなのだが、二人きりで泊りがけで出かけるのはソニアが許さないということでついて来ているのだ。
ソニアは、「二人きりで出かけるとリリス個別ルートになるから、あたしもついていって共通ルートということにする」というよく分からない持論を展開している。
持論はともかくとして、ラムリーザはソニアに変に誤解されたり、不安にさせるわけにもいかないというわけで、特に気にせず連れてきているのである。
三人は、日のあるうちは繁華街で時間をつぶし、帝都でも有名なクラブである「シャングリラ・ナイト・フィーバー」の営業が始まる時間を待っていた。
その時、リリスは申し訳なさそうにラムリーザに聞いた。
「ねぇラムリーザ、毎回帝都のクラブに行かなくても、地元のクラブでもいいんじゃないの? どこでも場慣れすることはできるでしょうし」
「うん、そうだろうね」
「こんな有名クラブに潜り込ませてくれるなんて、なんだか申し訳なくて……」
「いいんだよ、ここだと顔が利くし、ジャンは親友だからいろいろと無理通してくれるし。でも向こうだと、僕の影響力あまり無いからねぇ」
「ほんとうに、いつもありがとう、ラムリーザ」
こうしてラムリーザとリリスの二人がいい感じになると、気に入らないのがソニアだ。
「リリスに対してフラグ立てまくるな!」
そう言いながら、自分の立ち位置を変えて、ラムリーザとリリスの間に割り込んでくる。ラムリーザを中心に横に並んでいたが、これによってソニア中心に立つことになった。
「フラグって何だよ……」
「ソニアは涙イベントでも発生させて、ラムリーザに対して敵対落ちしたらいいのに、くすくす」
「敵対落ちって何だよ……」
「くっ、本気で寝取るつもりだ……」
ソニアはリリスを睨みつけるが、リリスは微笑を浮かべながら余裕のある態度で、その視線を眺めている。そんな二人を、困惑した表情でラムリーザは見つめている。
「とりあえずだが――」
ラムリーザは、わけのわからないことを並べ立てる二人を見ながら静かに語った。
「――包丁や鋸を振り回すような事態は、二人とも避けるように、ね」
「はぁ?」
「いや、そこまではしないよ……」
ラムリーザの、無茶苦茶な展開を語られて二人が言葉を失った時、横から突然声をかけられた。
「ヒアーズ、ジョニー!」
「びっくりした!」
そこに突然現れたのはジャンだ。
「ジャンか、驚かすなよ」
「いや、さっきのはアレだろ? ほら、二人の女が一人の男を奪い合って、男は女に殺され、残った女同士殺しあうというあの話だろ? あ、ジョニーじやなくて、ナイスボートと挨拶した方がよかったかな?」
「いや、意味分からんて。というか、そんな猟奇殺人事件は避けようね、みんな」
「そんな大げさなこと、あたしやらないよ!」
「しかしラムリィ、優柔不断は感心せんな。リリスかソニアがはっきり決めないとな。中途半端だと、いよいよ刃物が飛び交うぞ?」
ジャンは、登場時のおどけた態度を消して、真顔になってラムリーザに忠告めいたことを言ってきた。しかしそのようなことを言われても、ラムリーザは困る。
「いや、僕は最初からソニア一筋だって。ソニアが勝手に騒いでいるだけだし、リリスはグループのために練習で連れてきているだけだよ」
それを聞いて、リリスは一瞬困ったような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻り、「今はそれでいいわ」と呟いたのであった。
「ま、お前ならハーレム築いたところで、世間は表立って責められないだろうけどな」
「ほーお、そのハーレムとやらを築いてもいいのか……」
「ダメ! そんなの嫌!」
ジャンに唆されて、ちょっとその気を見せたラムリーザを責めるソニアであった。
日が暮れて、シャングリラ・ナイト・フィーバーの宴が始まった。
この日も、他のグループに頼み込んで、リリスをサブギター扱いで加えてもらい、ステージに上げて演奏させた。
そのグループのリーダーも、「リリスを正式メンバーとして欲しい」と言ったのだが、「それだけは申し訳ない」と言って断り続けるのだった。やはりリリスは、帝都では人気者だ。
「私、ボーカルとリードギターなんだけどな」
リリスは不満そうにラムリーザにそう呟いて来たので、ラムリーザは、「『「ラムリーズ』の、な」と言ってたしなめる。それでも、そう呟くということは、それだけ心に余裕が生まれてきたということだろう。
ラムリーザとソニアの二人は、今日は客席の方でまったりとしている。
「ラム、リリスは慣れてきているかな」
「もちろん、慣れてもらわないと、リリスの夢も潰れちゃうからね」
「ねぇ、リリスの夢の手伝いもいいけど、あたしの夢の手伝いも……」
ソニアはそう言いかけて、ラムリーザから視線を逸らしてステージのほうをチラッと見る。
「んー? ふむ、結婚前提に付き合ってる、これってソニアの夢の手伝いになってないか?」
「んー、んー、んーっ」
ソニアは、それを聞いて何だかうれしそうに悶えている。
それを見たラムリーザは、とりあえず言ってみたが、それがソニアの夢なのか……と一人納得する。そして、さっさと結婚してしまえば、こいつの暴走も思い込みも無くなるのかな、などと考えるのであった。
「んんーっ、んー、んんんーっっ!」
その時、ソニアの悶え方が先程よりも強烈になってきた。よく見ると、後ろに誰かが居て、ソニアの大きな胸を揉みしだいている。
「ソニアちゃーん、また来たのねー?」
「……メルティアか」
今日もソニアは、帝都の友達メルティアの揉み揉み攻撃の洗礼を受けていた。
その時、ラムリーザとソニアの持っていた携帯型の情報端末キュリオから着信音が鳴った。
ステージ上のリリスも、一瞬ポケットに目をやったということは、彼女の方にも着信が来たということだろう。
メルティアの攻めを受けて悶えているソニアを横目に、ラムリーザはキュリオを取り出して覗いてみた。そこには、一通のメールを受信していることが、表示されていた。
差出人:ユコ
宛先:ソニア、ラムリーザ、リリス
件名:明日の件
内容:明日昼から誕生日パーティするのに、みんな帝都に居るみたいだけど大丈夫?(´・ω・`)?
「あ……」
ラムリーザは呟いた。
「しまった、ユコの誕生日忘れてた、ソニアちょっといいかな?」
「ふっ、ふえぇっ! やめっ、メルティア、やめってっ、んっ」
「…………」
こっちもそれどころではない。
ラムリーザは、やれやれと言った表情でメルティアに言った。
「悪いなメルティア、ちょっと用事ができて帰ることになったから、今日はその辺りでソニアを許してやってくれ」
「あらそう? しょうがないなー、じゃ、今日はこれで許してあげるわよん」
「ま、待ってよ、はぁ、はぁ、あ、あたし何も悪いことしてなっ、い、のに許すって、なに、よっ!」
「それじゃソニア行くぞ」
ラムリーザは立ち上がり、ソニアの手を引っ張って立たせる。
息の荒いソニアはふらふらと立ち上がり、そのままラムリーザの方に寄りかかるようにして力ない足取りで歩いていく。
舞台袖に回る途中、ラムリーザはステージ上のリリスの方を見て、彼女と目が合ったら「その曲が終わったら引き上げるように」という意味をこめて手招きする。そしてリリスが頷いたのを確認して、舞台袖に入っていった。
「ジャン、悪いけど急用ができたから、今日はここらで帰ることにするよ」
「そっか、仕方ないな。それじゃあ来週の本番楽しみにしているよ――」
そこでジャンは、なんとなくソニアの方に目をやった。ソニアは先程から、「はぁ、はぁ」と息が荒い。
「――と、それよりも、ソニアどったの? なんか発情しているみたいでエロいんだけど」
「そっとしておいてくれ、メルティアのアレだ」
「ああ、アレね」
と言った具合に、意味深なようで実はとくに意味も無い会話をしている所に、丁度やっていた曲を終わらせたリリスが、グループを抜けて戻ってきたので、ラムリーザは二人を連れて、ジャンの店を出て行った。
「さて、明日のユコの誕生パーティだが、今からだと今日中に戻ることができるね」
「プレゼント買ってないわ、そういえば今日買いに行くつもりだった」
ラムリーザは、これから急いでポッターズ・ブラフに帰ろうと思ったが、リリスはプレゼントを用意することを提案した。
「プレゼントね、よし、この近くの大型デパートを散策して選ぼう。固まって動いてもしょうがないので、別行動ね。終わったらこの入り口付近で待機、いいね」
というわけで、三人はデパート内で散らばり、それぞれ自分の思うプレゼントを探しに行ったのであった。
一人になってしばらくしてラムリーザは、しまった、と思った。リリスからユコの好みを聞いておくのを忘れていた。
だが、リリスを探すのも、自分で考えている時間ももったいないので、ラムリーザは、特に深く考えずに宝石店に入った。とりあえず、宝石なら気に入ってくれるだろうと考えたのだ。実際、ソニアにもいろいろ買ってあげたが、その度に喜んでいた。
しかし、ユコの好きな色がわからない。これがソニアだったら、迷うことなく緑色の宝石を与えるのだが。
そこでラムリーザは、誕生石をプレゼントすることにした。
「六月と言えば、パールとムーンストーンか……」
指輪はサイズが分からないので、ネックレスにするか、と考えた。丁度いい具合に、パールとムーンストーンが組み合わさったものがあったので、ラムリーザからのプレゼントはそれに決めることにした。
各自プレゼントを選び終わり、デパートの入り口に戻ってきたとき、時刻はすでに夜の九時を大きく回っていた。
これから汽車に乗って帰っていたのでは、ものすごく遅くなってしまうので、今夜は再びフォレスター邸に泊まることにしたのであった。
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