キャラクター作成~後編~ 不思議な集団
12月2日――
放課後の部室にて。
「次は知力を決めますわ」
現在テーブルトークゲームで使うキャラクター作成中だ。
次に決める項目は知力だ。知力は、主に魔法ダメージや成功率に影響を与え、時には罠などを見抜く能力にも関わってくる。
知力と聞いて、リリスはニヤニヤしながらソニアの顔を見始めた。逆にソニアは面白く無さそうだ。
「これは試験の結果で判断しよう。これまでで一番順位が高かったのはリゲルだね。次はロザリーンと」
「50点取れないソニアは一番低い、くすっ」
どうしてリリスはいちいちソニアに一言多いのだろう。
ソニアはジロッと睨みつけるが、それは紛れもない事実なので唇をかんで何も言い返せない。
そういうわけで、最大値はリゲルで22。天才ってわけでもないので、マックス24ではなく22に控えるところが謙虚とでもいうのだろうか。
次点はロザリーンの20。リゲルには負けるが、十分優等生の範囲内に納まるロザリーンも、高パラメータである20以上を獲得することに、誰も文句は言わなかった。
平均点前後のラムリーザとユコが14、平均点から劣っているソニアとリリスが12ということで決めようとした。そこでリリスが文句を言い出す。
「なんで50点取れた私と、50点取れないソニアが同じ値になるのかしら?」
「リリスてめぇ……」
ソニアは、今にもリリスに飛び掛りそうだ。
「待て、喧嘩するな。平均点が14、赤点が10、0点が最低値の4、間を取って12ということだ」
「ソニアは11にしなさいよ」
ラムリーザが説明しても、リリスはソニアと差をつけたがる。リリスは50点にこだわっているが、リリスが一番できたテストで51点、ソニアの一番できたテストが48点となっているが、平均点からは二人とも10点以上低いという点においてはでさほど変わらない。
「ダメ。二人とも12、文句は言わない」
リリスはむぅと剥れるし、ソニアは「リリスの知力は3にしろ」とか言い出すので、ラムリーザはユコを促してさっさと次の項目に移ることにした。
「はい、次は生命力ですわ」
生命力は、そのまま生命に直結していて、この値が0になるとキャラクターは死亡してしまう。よって、この値が高ければ高いほど打たれ強くなるわけだ。
さて、この生命力はどのようにして判断するか。
「んとね、足の先から少しずつ切っていって、死んだ順に生命力が低いことにしようよ。で、まずはリリスから」
ソニアは、知力の件でリリスにやられた分、突拍子も無い方法を提案してくるが、もちろん誰も賛同しなかった。
「風船おっぱいを少しずつ削いでいって――」
「ストップ! ソニアとリリスはお口にチャック!」
ラムリーザの鋭い一言にソニアは口をつぐみ、リリスはじっとラムリーザの目を見つめてくる。だが、その視線を気にせずにラムリーザは生命力について考えた。
生命力、打たれ強さ……。
「やっぱりラムが最大になるのね?」
「ラムリーザ様のボディは最強ですわ」
これは、打たれ強さのステータスを細かく設定できるなら、頭防御最低、胴体防御最大といった感じに表すことができるが、このゲームだと4~24の間で設定しなければならない。ラムリーザの身体は、ステータスとしては高いものとなるだろう。
そこでラムリーザは、最強にするのは遠慮して、22を選択する事にした。
「ラムリーザ様は、レフトールに身体を蹴られても平気なのだから、最大値でいいと思いますわ」
「いや、僕はソーサラーだから前衛に出ないからこれで十分だよ」
次に頑丈なのは、リゲルだろう。
最強というわけでもないので、ここは20ぐらいにしておく。後は体格順にロザリーンが16、ソニア、リリス、ユコは同じぐらいで、特別劣ってもいないので、平均値の14ということにしておいた。
ここまでの結果に、初めてユコがぼやいた。
「なんだか私のキャラ、平凡でぱっとしませんわね。まぁ、主にゲームマスターやるからいいですけど……」
「大丈夫、ソニアが一番総合値少ないみたいだから、くすっ」
「いい加減怒るよ」
ラムリーザはリリスを軽く睨んだが、リリスは気にしないといった感じで、怪しげな笑みを返してくるだけだった。
「さて、最後の項目、精神力ですわ」
これは、意志の強さなどを表し、精神的な攻撃に対する抵抗値に繋がっている。また、魔法を使う際には、この値を消費して使うことになるのだ。
このグループだと、みんな強めな気がするが、一番気が強いのはソニアだろうか?
「ソニアは馬鹿騒ぎしているだけ。むしろ、知力が低いだけで――」
リリスは、また知力の話に戻す。
「なによ! あんただって人前に出たら、あ……、お……、おあ……、あ、あ……ってなるくせに!」
「そんな昔のことは忘れたわ」
昔のことといいつつ、半年前の話なのだが。
リリスは、ソニアの胸に手を伸ばしながら言葉を続けた。
「そんなことより、胸を触っただけで『ふえぇ』って喘ぐ女のどこが精神力高いのかしら?」
「うるっさいわね!」
ソニアはとうとう完全に怒ってしまい、ソファーの間にある低いテーブルを乗り越えてリリスに掴みかかる。その手はリリスの太ももに伸び、サイハイソックスの裾に手をかける。リリスもずらされてなるものかと、ソニアの手を掴んで防いでいる。
何をやっているのだか……。
「馬鹿は放っておいて考察するぞ」
リゲルは、不思議な争いをしている二人を無視して、ラムリーザの方を見た。
「あの、間で暴れられると、私話し合いに参加できないのですけど」
ロザリーンも、うんざりしたようにぼやく。
仕方ないので、ラムリーザはソニアの腰を掴むと、引っ張って元の場所に座らせることにした。
「精神力かぁ」
この分だと、みんな20ぐらいに設定してもよさそうだ。
「ラムリーザを一番高くしとけ」
「えっ?」
リゲルの急な提案に、ラムリーザは思わず聞き返す。
「お前はソーサラーだから、精神力が高い方が有利だ」
「それはマンチキンですの」
ユコは、今回も謎の単語を発してくる。
だがリゲルは、それでかまわんと言って、手元のキャラクターシートに書き込みを進めた。話し合いが始まった時から、リゲルは全員のステータスをシートに記入していたのだった。
精神力については、考察する要素が少ないし、みんな高そうなので、リゲルの独断で書き込まれていくことになった。
ラムリーザを22にして、リゲルを20。ソニアを18、リリス、ユコ、ロザリーンは16ということになった。一応リゲルは、ソニアの図太さを認めているようだ。
「さてと、これで全てのステータスが決まったな。ここで一度まとめてみよう」
ラムリーザ
筋力24、敏捷度18、器用度12、知力14、生命力22、精神力22
ソニア
筋力14、敏捷度14、器用度20、知力12、生命力14、精神力18
リリス
筋力14、敏捷度16、器用度22、知力12、生命力14、精神力16
ロザリーン
筋力16、敏捷度22、器用度22、知力20、生命力16、精神力16
リゲル
筋力18、敏捷度18、器用度24、知力22、生命力20、精神力20
ユコ
筋力16、敏捷度14、器用度20、知力14、生命力14、精神力16
「なんか、固定値で考察したから、14と16が多いわね。一ずつずらすとかして微調整しない? 例えばソニアの知力を11にするとか」
「なんかあたしのパラメータ微妙なんだけど!」
「リゲルさんも、マンチシーフですわ。器用度と知力高すぎ……、というか、リゲルさん全体的に高すぎますわ」
「まぁいいんじゃない?」
ラムリーザは特に気にしなかった。リゲルは半分ゲームマスターをやるので、参加する時は少し強いNPCといった感じでよさそうだ。
それはともかくとして、リリスの言うようにパラメータに同じ数字が多いので、微調整してもう少し特徴が出るようにしてみた。
その結果、以下のようになった。
ラムリーザ
筋力24、敏捷度18、器用度12、知力15、生命力23、精神力22
ソニア
筋力14、敏捷度15、器用度20、知力12、生命力16、精神力18
リリス
筋力14、敏捷度16、器用度21、知力12、生命力15、精神力17
ロザリーン
筋力16、敏捷度21、器用度22、知力20、生命力17、精神力16
リゲル
筋力19、敏捷度18、器用度24、知力22、生命力19、精神力20
ユコ
筋力15、敏捷度14、器用度20、知力14、生命力14、精神力16
これで文句無いということにして、話を進めることにした。ソニアとリリスはお互いの勝ち負けにこだわってうるさいので、総合値を同じにしておいたのは内緒だ。
「次はキャラクターの生まれを決めますわ」
生まれによって、元々所持している技能とかに違いが出てくる。
「えっと、ダイス振るのかな?」
「いえ、私たちが異世界に飛ばされたという設定だから、現実の私たちの生まれで決めましょう」
そう言いながら、ユコはルールブックのキャラクターの生まれ項目をみんなに見せた。
「ラムは貴族だね」
「ロザリーンも貴族みたいなものだし、リゲルもそうですわね……」
「この軽音楽部、割とセレブ集団なのかしら?」
リリスとユコは、軽く溜息をつきながら言った。
「貴族のシーフか、わけわからん奴だな」
一方リゲルは、自分のキャラ設定に笑っていた。貴族生活に飽き飽きして、自由気ままに盗賊をやっているとでも言うのだろうか。
「戦士なら傭兵が有利だけど、私は一般市民かしら」
「あたしは貴族夫人ということで、貴族にしちゃお」
「そうはいかないわ、あなたは蛮族がお似合いね、くすっ」
「何だとこの魔女! あたしが蛮族なら吸血鬼のあんたは悪党だ!」
「何ですって?!」
また喧嘩が始まる。これはゲームが始まってからも悩まされそうな二人だな。
「ええと、私は――」
ユコが自分の生まれを決めようとした時、ソニアがユコにも噛み付いた。
「呪いの人形は、呪い師!」
「何ですの!」
「よし、それで行こう。一般市民より個性が出るからその方がいい、決まりだ」
ラムリーザが止めに入るよりも早く、リゲルがその場をまとめ上げて締めてしまった。
文句を言うソニアたちを無視して、リゲルはキャラクターシートにそれぞれの生まれを記入していった。
貴族三人に、呪い師、悪党、蛮族……。
普通にありえない、不思議な集団が出来上がってしまった。
「よし、能力値と生まれと初期職業が決まった。こんなところだな、メイン職業はレベル2で、サブ職業をレベル1にしてある」
リゲルの差し出したキャラクターシートは、以下のようになっていた。
ラムリーザ 貴族
筋力24、敏捷度18、器用度12、知力15、生命力23、精神力22
ソーサラーLv2、ファイターLv1、セージLv1
ソニア 蛮族
筋力14、敏捷度15、器用度20、知力12、生命力16、精神力18
ファイターLv2、レンジャーLv1
リリス 悪党
筋力14、敏捷度16、器用度21、知力12、生命力15、精神力17
ファイターLv2、シーフLv1
ロザリーン 貴族
筋力16、敏捷度21、器用度22、知力20、生命力17、精神力16
プリーストLv2、ファイターLv1、セージLv1
リゲル 貴族
筋力19、敏捷度18、器用度24、知力22、生命力19、精神力20
シーフLv2、ファイターLv1、セージLv1
ユコ 呪い師
筋力15、敏捷度14、器用度20、知力14、生命力14、精神力16
バードLv2、シャーマンLv1
「うむ。前衛以外貴族を多くしたから、ファイタースキル持ちが多くて死に難くていいかもな」
「やっぱり私はパッとしませんわね。ゲームマスターメインでいきますわ」
「ソニアが勝手に悪党指名したからシーフ技能付いたじゃないの……」
「レンジャーってさ、まりょくとほうりき使えて戦闘も罠外しもできる万能キャラなんだよね」
「プリーストね、龍巫女プレイでもやったらいいのかな」
キャラクターが一通り作成完了して、各々感想を述べているうちに、気がついたら窓の外は真っ暗になっていた。
そろそろ帰宅する時間だ。
テーブルトークRPGで遊ぶのは後日に回すことにして、今日はここで部活を終わらせることにした。
今日は音楽の練習は全くやっていない。