ぼぉんばあまぁん
6月26日――
この日の夕食後、ラムリーザの自室にて。
ソニアはいつものようにゲームをプレイしていて、その隣でラムリーザは、十二体に増えたぬいぐるみのココちゃんのうち、一体を抱きかかえ、一体を足の間に挟んだ状態でソニアのプレイを眺めていた。
ソニアが今日プレイしているゲームは、なにやらロボットのようなキャラを操っているようだ。そして時折黒い爆弾を仕掛けては、それを爆発させて敵を退治して回っている。
白いブロックに緑の通路、白いレンガ状のブロックは爆弾で破壊できるようで、道が塞がれていたら爆弾で道を作って先へと進んでいる。レンガ状でないブロックは一つおきに設置されていて破壊できず、そのため爆弾の炎は十字の形に広がっている。名付けて十字ボム?
「なんだか荒っぽいゲームだね。敵は風船かな?」
ラムリーザは、爆弾がボンボン爆発しているゲームをそう評し、退治している敵の形が風船に似ていたのでそう尋ねてみた。
「風船言うな!」
何故かソニアは怒る。ラムリーザは一瞬不思議に思ったが、すぐに風船おっぱいお化けを思い出して笑いそうになるのをこらえて言った。
「でもその敵は風船にしか見えないよ」
ソニアは、画面上の敵キャラがラムリーザの言うとおりにしか見えないので、それ以上怒ることはなかったが、不機嫌そうな顔になってしまった。ゲームを開始してまだ五分も経っていないのにである。
前回の金塊集めに引き続き今回のゲームも、実は国産のゲームではない。ゲーム交流という名目で、ユライカナン産のゲーム機を取り入れてみて遊んでいるのだ。
ソニアだけが遊ぶのはずるいというわけで、リリスやユコもゲーム機を受け取っていた。また、フォレストピアのゲーム屋も近々オープンする予定で、その時に本格的にこのゲーム機も販売していこうという話になっていた。
ゲーム交流ということで、当然帝国産のゲーム機もユライカナンに輸出している。ラムリーズが演奏しているゲームの一部がエロゲソングだということがバレる日も近いかもしれない。
ラムリーザは、抱いていたココちゃんを左隣に置くと、右隣に座っているソニアに抱きついた。
「ソニア、いい匂い」
「えっ?」
突然抱きつかれて横からささやかれて、ソニアはびっくりした。ラムリーザも、何を言っているんだ? と我ながら妙だなと思っていた。
「ああいや、今日もソニアはいい匂いだなぁ、と思って」
言葉を続けながら、ラムリーザは次の言葉を考えていた。リリスはソニアのことを臭そうとか言うが、全然そんなことはない。ラムリーザは、そのままソニアの巨大な胸へと手を伸ばしていった。
「胸揉むな!」
ゲーム機のコントローラーを持ったまま、ソニアは自分の腕で胸をガードして隠す。ゲーム中に胸を揉まれると集中できないので嫌みたいだ。
ラムリーザは仕方なく、ソニアから離れると再びココちゃんを抱えてゲーム画面を眺め始めた。
ゲームは一面をクリアして、二面へと突入していった。風船みたいな敵キャラだけでなく、なんだか水色のタマネギ(?)みたいな物も動き回っている。その水色は風船よりも素早く動き回っているが、ソニアの操るロボットも、一面で火力をアップさせるアイテムを取ったようで、爆弾の炎が一ブロック長く伸びるようになっていた。
「ココちゃんを二体抱えていたら、僕たちの間に双子が生まれたみたいだね」
ラムリーザは、さらに一体追加して二体抱えながら、ココちゃんをソニアの方へと押し付けながら言った。ちなみに二体抱えて足元に一体居るが、部屋を見渡せばまだ九体も転がっている。多すぎ。
「ココちゃんは子供じゃない!」
しかしソニアは、そっけない――というよりは、否定的な言葉を投げかけた。確かにぬいぐるみは子供ではない。
「夢がないねぇ」
ラムリーザはぼやいた。ソニアには母性みたいなものは無いのか?
「ココちゃんがぬいぐるみだったら子供代わりに可愛がっても不思議じゃない。でもココちゃんはクッションだから子供じゃない。クッションを可愛がるのはおかしい」
母性うんぬんではなかった。ソニアはいつものクッションとぬいぐるみのこだわりと違いについて、感想を述べただけだった。
ラムリーザは、クッションでもぬいぐるみでもいいじゃないか、と思うが、ソニアには譲れない何かがあるのだろう。そういえば、クッション反省会などをソニアはココちゃんと一緒に輪になってよく行っている。クッションらしくしろだの、ぬいぐるみじゃないなど、ココちゃんに言い聞かせているかのように……
ゲームの方は問題なく進み、ソニアは二面をクリアして三面に突入していた。先日プレイしていた金塊集めゲームと違い、パズル要素はなくてただ敵を爆破して、同じようにブロックを爆破して出口を探すゲームなので頭を使わない。そんな要因もあり、順調なようだ。
三面ではなんだか紫色の樽みたいな敵が追加されて、うろうろしているようだ。ロボットに風船にタマネギに樽、不思議な世界だ。
「足触るよ」
胸を触ろうとしたら怒るので、今度は足に手を伸ばす。ラムリーザは、ソニアの表情をうかがいながらソニアの足を触ってみる。
いつもの際どい丈のミニスカートでふとももはほとんど露出している。
以前学校帰りに公園で遊んだときは、「足さわってもいいけど、靴下触るな」という謎の制限をかけたが、今はミニスカートから下には何も身につけていないので文句は言わない。
胸を触ろうとしたら文句を言うが、足なら文句は言わない。靴下触るなと文句を言うが、生足を触ることには何も言わない。妙なところにこだわりのある娘だ。
「ぴちぷにょ」
「や」
あっさりと拒否されたので、ラムリーザは今度はココちゃんを一体抱いたままソニアの太ももの上に頭を乗せて横になる。いわゆる膝枕というやつだ。
そのままゲームをプレイしているソニアの表情をうかがおうと視線を上に向けたが、目に入ったものは巨大な胸の下側だけで、顔を見ることはできなかった。さすが足元が見えない爆乳だ。
仕方がないので、ソニアの足の上に頭を乗せたままゲームの画面へと視線を戻す。ソニアはラムリーザが自分の足で遊んでいることをまったく気にせずにゲームを進め、今度は四面に突入していた。今日は「ふえぇ」が発動しない。
なにやらまた新しい敵が追加されていて、表現するならお日様? 丸い顔がものすごいスピードで動いている。少しずつ難易度が上がっているようだ。
しかしソニアの操るロボットも強くなっている。ロボットの強さというよりは、むしろ爆弾の性能と言うべきだろうか。最初は一つしか設置できなかった爆弾も、今では二つ設置できるようだ。火力も最初に比べたら大きくなっているし、なにやら自分の好きなタイミングで爆発させているようだ。
そんな感じで、効率よく敵を爆破している。ひたすら爆破させている。単純明快だが、見ていて豪快で爽快だ。
そんな中、ラムリーザは少し顔を動かしてソニアの太ももをペロリとなめてみた。すべすべでやわらかい舌触り。ソニアの足はおいしそうで、食べてしまいたい。だがソニアはゲームに集中しているのか反応しない。胸は少し揉んだだけで「ふえぇ」なのに、足は鈍感なのだろうか?
「ソニアの足、食べてもいいかな?」
ラムリーザは、我ながら妙な質問をしているな、という自覚はあったが思わずそう尋ねていた。
「食べちゃったら二度とあたしの足を楽しめないよ」
ソニアの返事も妙なものだが、間違ってはいない。ラムリーザは、食べてみたいけどソニアの綺麗な足が無くなるのがもったいないので、食べるのはやめておいた。
「あ」「あ」
その時二人の声が重なった。画面上のソニアの操るロボットが、お日様のような丸い顔に衝突してやられてしまった。敵の動きが早い分逃げ切れなかったようだ。
ソニアはラムリーザと顔を見合わせようとうつむいたが、ラムリーザの顔は見えず、見えるのは自分の巨大な胸だけだった。
「そうだ、対戦やろうよ!」
一度やられただけでソニアは他のことをやろうとした。
「またぁ? もう、飽き飽き」
ラムリーザは、いつもの返事をする。ソニアと対戦ゲームをすると、ろくなことがない。ラムリーザの周りでは、ソニアのずるい戦い方という悪名は十分に広まっていた。ただし格闘ゲームに関しては、ソニアの愛用キャラがバランス調整の名のままに弱体化してからは、対戦することはなくなっていた。
「このゲームの対戦だよ!」
ソニアはプレイした面までを記録してタイトル画面に戻り、対戦モードを選択していた。
ラムリーザは、またソニアのことだからずるい手を使ってくるだろうと思ったが、このゲームをプレイするのは今日が初めて。まだずるい手も開発されていないだろうと思い、食わず嫌いもなんだから膝枕から身を起こしてソニアの差し出すコントローラーを受け取った。
というわけで、第一戦目――
ラムリーザは操作がわからずに、スタート地点のブロックに囲まれた狭い場所で一歩も動かずに爆弾を仕掛け、そのまま爆風から隠れることもできずに自爆しておしまい。
「ちょっとラム~、まじめにやってよ!」
ソニアの不満そうな声を浴びながら、ラムリーザは「ごめんごめん、やりかたがわからなくて」と答えて、姿勢を正して本格的に挑み始めた。
気を取り直して第二戦目――
今度は爆風から身を隠せるように考えて爆弾を設置して、レンガ状のブロックを破壊しながら行動範囲を広げていった。
そこにソニアが突進してきて、ラムリーザをブロックに閉じ込めるような形で爆弾を仕掛けてきて、ラムリーザは爆死させられておしまい。
「やったー、ラムに勝った!」
「よかったなぁ!」
ソニアを褒めながら、ラムリーザも夢中になっていった。まだずるい作戦が開発されていない分、ソニアの動きも素直でやられても好感が持てる。
三戦目――
今度はラムリーザも慣れてきて、ソニアの突進を避けたり自分の爆弾で牽制したりしてかわしていく。
いつの間にか爆弾を蹴って動かせるようになったラムリーザは、ソニアが隠れているところへ爆弾を蹴り入れて閉じ込めた。爆死したソニアは文句を言った。
「爆弾を蹴るなんてずるい!」
「なんだよ、別にインチキしてないだろ?」
「むー……」
四戦目以降となると、今日始めたばかりのゲームでは二人の技量はほぼ同じになっていて、白熱したバトルが展開されていった。
そんな中、突然携帯端末がメールの着信を示すメロディを奏でた。メールはリリスから、以前買ったヘッドセットをつけるようにとの指示だった。
ラムリーザは、テレビ横の戸棚からヘッドセットを取り出してきて装着して通信回線を開いた。すぐにリリスからのメッセージが入り、今日始めたゲームの通信対戦をしようとのことだった。なんでも同時に八人まで対戦ができるらしい。
『魅惑の壷というルームを立ち上げているので、そこに入ってちょうだい』
「また魅惑の壷かよ」
懐かしい名前だ。リリスやユコがゲームのグループで名前をつけるときはいつもこれだ。よっぽど思い入れがあるのだろうな。ラムリーザはそう思いながら、ソニアとともにそのルームへと入っていった。
『ユコと対戦していたけど、八人まで参加できるみたいだから誘ってみた』
『こんばんはですの』
ヘッドセットの向こうから、リリスとユコの声が聞こえる。
そういうわけで、四人に増えた対戦がスタートした。
『ソニア包囲網発動よ』
まずリリスはラムリーザやユコを引き込んでソニアに対する集中砲火を画策した。そんなことを言ってもなかなかうまくいくものではない。
なんだかリリスとユコのキャラがソニアを追い詰めている中、ラムリーザは三人を囲い込むような形で攻撃してみた。何か知らんけど、漁夫の利でラムリーザの勝利。
『ラムリーザ様は裏切り者ですの!』
『今度はラムリーザ包囲網よ』
「なんやねんお前ら」
しかし連携しようとしてもそう上手くいかない。連携しているふりをして今度はユコが裏切った。先ほどのラムリーザと同じ手口で三人を巻き込んでドカン。
『う、裏切り者ばかり』
リリスの歯軋りが聞こえる。
『敵の敵は敵ですの』
ユコの言葉はなんか違う。
こうして裏切り劇場ばかり展開されていったが、四人ともどんどんのめりこんでいった。全く協力プレイが発生しない。隙あらば絶対どこかで誰かが裏切って漁夫の利を得る。そんなバトルばかり繰り返されていった。
気がついたときには、深夜の二時を回り三時になろうとしていた。
「流石に止めよう」とのラムリーザの一言で、ようやく対戦大会は終わることとなった。ゲームに熱中しすぎるのは恐ろしや。
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