のだまリベンジ 前編 ~思い出した復讐~
11月20日――
あいかわらずリリスは姿を見せないまま数日が過ぎた。
ラムリーザは、この機会に自警団を正式に組織化して憲兵に格上げしようとした。後に帝都の憲兵隊の本部から正式に隊長を要請するとして、それまでは自警団でリーダーを務めてくれた人を隊長代理としてこれまでどおり機能させたのだ。
ほとんどがボランティアで参加してくれていた人なので、憲兵なんて恐れ多い……などと尻込みする者も出たが、正式な憲兵となると帝国から給金も出るので、それなら良いかと残ってくれたりした。
そもそもフォレストピアに集まった人がまともな人ばかりだったので、ここまで本気で憲兵を置こうとしなかったラムリーザの怠慢なのだ。その結果、失踪事件という困ったことが発生してしまった。
憲兵が機能していたら防げたか? と言えば疑問だが……
そんなわけで、フォレストピアにおける憲兵隊の初任務は、失踪したリリスの捜索というものになった。
この日、学校が終わると即解散となって、部活動は無しとなった。やはりリリスが居ないと、やる気が出ないというものだ。
ソニアはユコと二人でゲームショップへと向かい、ラムリーザとジャンはごんにゃで一杯食べてから帰宅していた。
ラムリーザは、リリスを失ったジャンが落ち込んでいるのでは? と慰める気満々で居たが、当のジャンは、「付き合い始めて蜜月がしばらく続き、その後トラブルが発生して、それを解決してハッピーエンド」などと言って、何やらこの状況を楽しんでいるようだ。
「いや、まだ付き合ってなかっただろ?」
ジャンの様子を見て安心したラムリーザは、突っ込みを入れてみる。
「なぁに、周囲からはほとんど付き合っているように見えていても、卒業の日に校庭の木の下で告白されないと付き合っていることにはならない場合もあるんだ」
「なんやそれ……」
とまぁ、ジャンは無事なようだ。
晩御飯前にラムリーザとソニアは偶然揃って帰宅。そして晩御飯の時間には何も起きなかった。しかし、部屋に戻って事が動き出す。
ソニアは、ソファーでゆったりしているラムリーザの前に立ちはだかり、今日の戦利品を掲げた。
それは、一本のゲームソフト。
タイトルは、四国のだま?
「のだま?」
のだまと言えば、握りこぶし大の球を投げて棒で打ち返して走り回る、九人でプレイするスポーツだ。この春先、ラムリーザたちは運動公園でのだまをやって遊んだこともある。それがなぜ突然今日ゲームとして現れるのか?
「新しいのだまゲームが出てたのよ。前ラムに負けてから悔しくてずっと眠れない日が続いてた! 今日こそ、その雪辱を!」
「嘘こけ!」
ソニアの言うことは嘘だ。昨日も一昨日も、ラムリーザに引っ付いて熟睡していた。
今の台詞を正確に言い直すとすれば、『ゲームショップに行ってみたら、たまたま新しいのだまゲームが出てた。ラムにのだまで負けたのを思い出したので、このゲームでリベンジしてやる』といったところだろう。
「このソフトを店で見た時にビビビッと来たんだ。対戦を受けろ!」
「店で見た時に思い出したんだね」
「対戦しろ!」
「わかったよ」
ラムリーザは、適当にプレイしてお茶を濁そうと考えた。難しいゲームなら程々の所で負けてやったらいいし、簡単なゲームだったらいつもソニアにしてやられてばかりいるのに対して一矢報いるのも手だ。
まずは、先攻と後攻を決める勝負から始まった。
「先攻後攻じゃんけんぽいぽいどっち出ーすのっ」
ソニアの合図で、勝手に両手じゃんけんが始まる。ラムリーザの出したのはチョキとパー、ソニアは両方ともグー。相変わらずなぜかソニアはこの両手じゃんけんで、両手とも同じものを出すことが多い。当然ソニアの負け、ラムリーザが先攻に決まった。
一回の表――
ラムリーザの攻撃はゲームに慣れていないところもあり、ソニアの操る投手の球に対して全くタイミングが合わずに三者三振。
ちなみにこれは普通ののだまゲームではなくて、四国のだま。例のゲーム実況に付き合わされたゲームである四国無双のキャラクターたちが、のだまで対戦をするという謎の世界観をした物だった。
ラムリーザの選んだチームは「ギョク」であり、以前の時と同じ緑色が国のイメージになっているチームだ。ソニアは青いチームを選んでいる。
チームを選ぶと、今度は先発メンバーを決める画面。ラムリーザはよくわからないので、そのままのメンバーを選ぶ。ソニアも打順をいじったりせずに、そのままの状態を選んだ。
いよいよ試合開始だ。
一回の裏――
ソニアの攻撃も慣れていないらしく、同じくタイミングが合わず三者三振。
表面上だけを見れば、いい感じの投手戦だ。
二回の表――
同上。
二回の裏――
同上。
淡々と、面白いのかつまらないのか、よくわからない展開が続いていた。
良いように捉えると、高レベルな投手戦。悪くとらえると、地味。
三回の表――
初めてラムリーザはボールを捉える、しかしタイミングが合わずにファール。
そして、ファールが三回ほど飛び出しただけで、結局の所は三者三振。
それでも少しずつ操作に慣れて、数球に一発は球に当たるようになっていた。
三回の裏――
ラムリーザの操る投手は、振りかぶって第一球投げた。初めて当たった! 球は内野手の頭上を越え、外野へと転がっていった。
「ラム~、おなかすいた」
そこにソニアが、もう何度目か? とも言えるぐらいの言葉を発した。
「なんで? 晩御飯食べたばっかりじゃないか」
「だって~……」
ソニアは甘えた声を発してくる。
仕方がないのでラムリーザはプレイを一旦中断して、ソファー前のテーブルにあるアメ入りの缶に手を伸ばした。少し前に買ってやった、アクマ式ドロップスの缶だ。
そう言えばソニアはしょっちゅうおなかすいたとラムリーザに訴えてくる。
缶を手に取ると、カランと軽い音。どうやら一個だけ残っているようだ。
「それ要らない」
缶を差し出すラムリーザの手を、ソニアは押し返す。
「一つ残っているぞ」
「それハッカだから要らない」
「なんで分かる?」
「知らない」
「戻したな――」
ラムリーザは、缶をさかさまにして振ってみる。すると白いアメが一つだけ転がり出た。ハッカアメだ。そのアメをソニアに差し出す。
「要らない」
「おなかすいてるんだろ?」
「要らない」
ラムリーザは、困った奴だと思いながら、その白いアメを口に運んだ。さわやかな味がするが、これをソニアは歯磨き粉の味だと言って嫌うのだった。
その時、ゲームの方から「ホームイン!」の声と歓声が響く。ランニングホームランが発生したのだ。
「あっ――」
ラムリーザが気がついた時には遅かった。
「やったー、一点取ったー」
ソニアは一人喜んでいる。ラムリーザはせこいと思ったが、後の祭りであった。打った瞬間、空腹を訴えてラムリーザをゲームから意識を外させる。思いやりを逆手に取ったずるい戦法であった。
「そういうことするのね、わかったよ」
この時、ラムリーザは本気で勝ってやろうと思ったのである。
この回は、後続を押さえて一点止まりだった。
四回表――
とは言うものの、操作に慣れていないラムリーザは、未だにソニアの投げる球を捉えられていなかった。三者三振、ソニアは十二者連続三振を記録していた。
四回裏――
「さて、外角から攻めるかな」
ソニアは、打者を打席の内側に寄せてくる。
ラムリーザは内角に投げて空振り。
「嘘つき!」
「知らんな」
そんな感じに、ささやき戦術みたいな物を実行して、三者三振に押さえたのであった。
五回表――
ソニアの投げた球を、初めて捉えた。しかしタイミングが合わず、ファールとなった。
「外角に投げるよー」
ラムリーザは、打者を打席の内側に寄せてくる。
ソニアは言ったとおりに外角に投げた。
カキーン!
「あっ!」
「おっ、当たった!」
ラムリーザの打った球は、三塁側にボテボテと転がっていった。
ソニアは素早く三塁手を動かして捕球、そしてすかさず二塁に送球――?
「あっ!」
「何をやっているのだか……」
なんだろう、野手選択? 失策? よくわからない行為であった。とにかく、ラムリーザに初安打が出たのであった。
しかし続く打者は三振、その次も三振と一気に追い込まれた。しかし、その間に数球はバットに当ててファールになっている。徐々にどんどん球に当てられるようになってきていた。攻撃はまだまだこれからだ。
続く四人目の打者、ソニアの投げた球をピッタリのタイミングで打ち返した。鋭い当たり、ピッチャーライナー! チェンジ!
「ま、コツはつかんださ」
スリーアウトを取って「どうだ」と得意顔を向けてくるソニアに、ラムリーザはニヤリと不気味な笑顔を浮かべてみせるのだった。
五回裏――
「外角に投げるよー」
「騙されるもんか」
ソニアは打者を打席の外側に寄せる。
ラムリーザは言ったとおりに外角に投げた。バットは届かず空振り!
「嘘つき!」
「ついとらんがな」
まだまだささやき戦術は、有効なようであった。二者連続三振に仕留めた後、三人目は二塁ゴロでちゃんと一塁に投げてアウト。ソニアのようなミスはしない、チェンジ!
六回表――
一人目の打者、ソニアの投げる球をバットで捉えた! 二塁方向に転がったボールを二塁手はキャッチ、間違えずに一塁に投げてアウト!
ラムリーザの操作する打者は、ソニアの投げる球に対してバットに当てられるようタイミングが分かってきているのだ。
二人目の打者、また打った。一塁と二塁の間を転がっていって、シングルヒットとなった。ソニアは「な、なによ一発ぐらい」と不満そうだ。
ソニアはラムリーザが打ってくるので慎重になったのか、きわどいコースに球をなげるようになった。
しかし、当てるタイミングと球筋を見るのとは別だ。ボール球が三つまで溜まったところで、当てやすい球を投げてきたのを叩いた。
球は内野の頭上を越えて、センターを守る野手の手前に落ちた。二者連続ヒットだ。
「ん~っ!」
ソニアは不満そうに鼻を鳴らした。
「ふふ~ん」
それに対してしてやったりと鼻歌で返すラムリーザ。
三人目の打者は、再び三振に仕留められたのであった。しかし――
「あっ!」
四人目に対して投げた一球目は、不用意な真ん中直球だった。打ちやすい球を見逃さず、ラムリーザは強振一発! 真芯で捉えた! バックスクリーン一直線!
「おお~っ」
「ざっ、けんっ! ざっ、きゃん!」
ラムリーザは自分がやったことながら驚いており、ソニアはなんだか意味不明な叫び声を発して怒っている。
強打者という設定らしいブンシューという選手は、走者一掃の特大ホームランを放ったのであった。ラムリーザチーム、逆転ーっ!
その次の打者に対してソニアは――
「あっ」
今度はラムリーザが驚く番だった。なんとソニアは、打者めがけて直球を投げた。いわゆる死球、しかもビーンボールというものに近い。
さらに次の打者に対しても、故意に死球をぶつけてきた。ゲームでなければピッチャー退場! といった具合になるだろう。
「なにするんだよ?」
「ふんだ、ラムのチーム壊滅させてやる」
「でもぶつけたら塁に出たぞ?」
「む~……」
このままぶつけ続けたら、さらに点を取られてしまうと理解したようだ。
「ラム~」
突然甘えたような声をソニアは投げかけてくる。
「なんだ?」
ラムリーザが振り返った瞬間に、「ストライク」の掛け声。またずるい手を使ったようだ。
「胸揉んでいいよ」
「えっ?」「ストライク」
そして次は、投球と同時にラムリーザに抱きついた。ストライクバッターアウト、チェンジ!
六回裏――
ラムリーザは立ち上がりソファーの座る位置を移動して、ソニアから距離を取る。今日はいつもずるいソニアに絶対に勝つ、そんな信念を持って挑んでいた。
先ほどのホームランで動揺しているソニアに対して、きわどい所に球を投げ続けて最初に打者は三振に仕留めたのだ。
ゲーム画面の視界も、プレイヤーのそれと同じならば、ソニアが打席に立つと内角低めギリギリのところに投げてやれば安全だ。おっぱいが大きすぎて、その場所は死角になる――とまぁ、それはどうでもいい。
続く打者は、一球目を真上に打ち上げてしまった。捕手が捕球して、キャッチャーフライに打ち取った。
三人目の打者は、空振りの後大きな当たり! 球はライト側に大きく飛び上がった。ライン際だがどうなるか?
「やった、ホームランだ!」
しかし球場右側のポールを反れてしまった。特大ファールだ。どれだけ大きな当たりでも、フェア地域に飛ばなければ意味がない。
「あぶねーな」
「も~……」
そして次は空振り。所謂三振前の特大ファールというやつだった。
「ラムの馬鹿!」
「知らんな」
ソニアの悪態を、淡々とかわすラムリーザであった。
現在三対一でラムリーザが二点リードしている。勝負は後半戦へと突入。このまま逃げ切るか、ソニアの反撃あるか?
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