第八回フォレストピア首脳陣パーティ ~クリボーの噂~
1月5日――
「――というわけでさ、クリボーが実はまだ生きていたんだよ」
今日の夕方から始まった、フォレストピア首脳陣パーティ。昨日は昼前からまた半日ほどかけて戻ったのだ。
フォレストピアに着いた時は、もう日付が変わる寸前。リゲルとレフトールは、そのままラムリーザの屋敷に一泊することに決めていた。二人が泊まるというなら、ユコもついでに泊まるなどと言い出して、結局全員が泊まった。ユコなどは、フォレストピアの住人だから帰ろうと思えば自宅に帰れたのに、「旅の最後までご一緒しますの」などと言ったのであった。
一泊して夜が明けると、レフトールはすぐに帰宅。リゲルとユコは、ラムリーザの屋敷でパーティが始まるまで時間をつぶしていた。
ソニアはユコとゲーム大会を繰り広げ、ラムリーザはリゲルとテーブル席で旅の記録をまとめていた。そうこうしているうちに夕方になり、今に至ると。
「クリボーって何だよ、お前らクッパを探しに行ったんじゃなかったのか?」
ラムリーザたちから話を聞いたジャンは、不思議そうな顔を向けた。
「クリボーを知らないのか? 犯罪学の教科書にも乗っている奴だぞ」
「そのぐらい知っているさ。クッパ国を滅亡に導いた張本人だろ?」
「微妙に違う。一因ではあるが、本質はそこではないのだよなぁ。とにかく話を聞けば聞くほど、クッパって妙な王様だったらしいぜ」
そこでラムリーザは、コトゲウメや宿のマスターなどから聞いた話、図書館で調べた話をジャンに聞かせた。要するに、少年の重用や実子の冷遇などである。
「ひでー奴だなクッパ王」
「そうだよ! クッパ酷い!」
「そう、酷いんですの!」
相槌を打つソニアとユコは、自分たちがクッパのを取られたからであって、歴史上のクッパ王に関してはどうでもよかった。
「しかしそこまで酷いと、クッパ王は意図的に国を潰そうとしていたのか? と勘ぐってしまうよな」
「そんなことして何になるんだよ」
「知らねーよ。ところでそのクリボーから何を聞いたのだ?」
「パタズモウだっけ? リングが女人禁制で、ハッキョイみたいなルールで――ってこれはどうでもいいか。最後の最後で会ったから、時間が無くて同じことしかまだ聞けてないよ」
同じこととは、クッパの誕生についての逸話である。クッパ王がクッパタを求めて――うんぬんだ。
「そのクリボーが本当のクリボーなら、凝尿について聞いてきて」
そこで話に割り込んだのは、妖艶なる黒髪の美少女リリス。しかしその実態は、ジャンの恋人で内面的にはソニア並みの幼稚な女だ。
「いやだよそんな気色悪い物」
リリスは以前、「クリボーフォローチョ凝尿」なる物を話題にあげた。文字通り、凝縮した尿。あまり気分の良いものではない。
「次に行くときに、リリスが聞いたらいいさ。ジャンはどうする?」
今回の旅は、ジャンとリリスの付き合いたてというものに遠慮して、二人きりの場面を作ってあげて旅には連れて行かなかった。しかし次に行く時は、そろそろ皆と一緒でもよいだろう。
「あー、それ無理。俺、お前らに追い付くために自動車の免許取得に向けた取り組みを始めたんだ。この休みにできるところまで進んで、学校始まったら平日は夜、休日はガッツリ訓練して、俺も運転できるようになってやる」
「そこまで無理せんでも」
「だめだ、お前らだけ運転できて、俺だけできんのは癪だ。ソニアですらウルトラCの運転を見せるって言うじゃないか」
「いや、そんなことさせないって」
ソニアはしょっちゅう豪語するが、車がひねりや旋回を加えて飛び跳ねられてはたまらない。というか、大事故だ。
「んじゃリリスは? その凝尿とかクリボー老人に聞いてみるといい」
「ダメよ。ジャンと一緒に教習所に行くわ」
「そこまで一緒に――居たいのか」
「暇だから、トラックとか大型車の免許を狙ってみるのよ」
「なんでまた……」
ラムリーザは言葉に困る。リリスも変わったものだとものだと思う。ジャンと言う支柱ができただけで、ここまでいろいろと動いてみる気になれるのだろう。
「リリスだけトラック運転するのずるい」
ソニアはまた変なところに噛みついてくる。人間とは、他人が得をするのが許せないという、困った生き物になりがちだ。
「安心しなさい。大きな荷台にあなたの大きなおっぱいを載せて運んであげるから」
「何よ! あたしはダンプカーで町を走り回ってやるんだから!」
「やめなさい」
変なところで対抗するので、またしてもラムリーザが仲裁に入ることとなる。
「そんなことよりもさー、なんか魔女がドロヌリバチに引っ付いているの、変!」
なぜかソニアは、ジャンとリリスに文句を言った。ソニアが言うには、リリスは魔女でジャンはドロヌリバチだという。
と言っても、事実リリスはジャンに腕を絡めてべったりだ。
「もうずっとこれですの」
この冬休み、ユコはリリスと二人で出かけていない。降竜祭が終わってから、ずっとこの調子であった。付き合いたての恐ろしさとは、こう言ったものを言うのだろうか? だからユコは、クッパ国跡地ツアーに参加したのだ。クッパのを取られた一人でもあるし、まぁそれはいいだろう。
「ふっふっふっ、ジャンは私の物よ。寝取らないでね、風船さん」
「散々ラムを寝取ろうとしていた癖に、ジャンの物好き!」
「何とでも言え、エル。お前を好きだという男は、みんなおっぱい星人だ」
「こら、なんやそれ」
おっぱい星人にされたラムリーザは文句を言う。
「そんなことよりも、とにかくクリボーには、凝尿、クリジュゲ、フルーツ牛乳とかいろいろと逸話があるから、いろいろと聞くことがあるわ。クッパ王なんかよりもずっとネタに富むのよ」
リリスがなぜクリボーについて知識があるのかは謎だが、クッパのを取られたわけではないので興味はクッパ王ではなくクリボーに向かっている。
「わかったわかった、次に行った時にまた会えたら聞いてみよう」
ラムリーザもクッパの事件に巻き込まれたわけではないので、クッパ王に固執しているわけではない。ただ、ユライカナンと交わることで異国の文化に触れる楽しみを知ったので、パタヴィアの文化も触れられるだけ触れたいという思いがあった。
「ところで、今年は竜神のお告げは聞かなかったのか? 外国に行ってたし、竜神殿のお参りしてないだろう」
ジャンの一言で、話題はクリボーからお告げへと移動した。
「今年はクッパ国――いや、パタヴィアで炎魔獣の神殿にお参りしてきたよ」
「へー、竜神テフラウィリス以外の神も居たんだ」
エルドラード帝国とユライカナンは、同じように竜神テフラウィリスを神として祀っている。それがパタヴィアでは、炎の神である炎魔獣だ。他にも水と風と大地の神、すなわち四神信仰となっているようだが、ラムリーザたちが訪れたのは炎魔獣の神殿だった。
「それで、今年の運勢は?」
「それがね、お告げじゃなくて『おまくじ』っていう独特なものだったんだ。まぁ内容は同じようなものだったけどね――って待てよ? そういえばジャン、何か企んでないか?」
ラムリーザは、自分が受け取ったお告げの内容を思い出して、ジャンに疑いの目を向ける。
「何だよ藪から棒に」
「僕の運勢は、確か『親友に嵌められて敗北を喫するであろう』とかそんな内容だったはずだよ。親友と言ったらジャンかリゲルぐらいだろうからね」
「知らんぞ、リゲルが企んでいるんだろ? いや待てよ、お告げに従うならば、俺はお前を嵌め殺せばいいんだな?」
「いや、そんな物騒なことせんでいいから」
嵌め殺すと言えば、ハメ殺す、ハメ技、ソニアの格闘ゲームだ。これが二年前なら、親友のソニアにゲームで嵌め殺されるといった図式も成り立っていただろう。
「あたしは『出会いの場を失う』とか出てきたよ。ラムが居るのに誰と出会うのよ、失う以前に必要ないよ」
ハメ技の達人ソニアも、今年の運勢評論に加わった。確か「我を通しすぎて、出会いとなった物を失うであろう」だったはずだ。
「あら、偶然ね」
それに反応したのはリリスだった。
「私も『我を通しすぎて、出会いとなった物を失うであろう』って出たわ。もちろんディザスター、冗談じゃないよ」
「わかった! 吸血魔女はわがままだから、折角出会ったジャンも愛想をつかして去っていくんだザマーミロ!」
早速リリスを煽りにかかるソニア、しかしそれは諸刃の剣であることまでには気が回っていないようだ。
「あなたも同じなのでしょう? つまりわがまま言いすぎて、ラムリーザに愛想憑かされるのよ」
なんだろうか?
今年は破局の一年なのだろうか?
「ふふっ、ラムリーザもジャンも、精々破局に気を付けるのだな」
二股野郎のリゲルが、彼らしく皮肉を投げかけてくる。
「マジかよ、リゲルは二股の癖に」
リリスは失わないぞとジャンはリリスを抱き寄せながらリゲルに反撃する。
「残念ながら俺は、『二兎追えば二兎得るであろう』とか出てきていた」
「ロザリーン、あんなこと言っているぞ」
ジャンは、この場に居るリゲルの二兎の内一兎に話を振る。
「ノーコメントです」
ロザリーンは、現状を受け入れているのか淡白だ。逆にミーシャとも仲良くしているのだから、リゲルにとって都合が良すぎるというものだ。
「で、ユコのは?」
「私は幸運、フォーチュネイトを引きましたわ。運命の人に出会える――だったかな、ラムリーザ様」
ユコはラムリーザに寄りかかろうとしながら自分の結果を述べた。
「ユコの運命の人はクリボー!」
ソニアはその間に無理矢理入り込んできて、ラムリーザとユコの接触を阻んだ。
「そんで、ジャンはどうだったんだ?」
ソニアとユコが騒ぎ出しそうになるのを察したラムリーザは、さっさと話を先に進めた。
「俺か? 順風満帆、障害にも臨機応変に対処できるであろう、そんな感じだったぞ」
「ジャンはずるい!」
ユコを押し出しながら、ジャンに噛みつくソニアであった。
「いいんだよ運勢なんて、信じるも信じないも、気持ちの持ち方一つだ。それよりもクッパ国の調査は、学校始まったら週末か?」
結果の良かったジャンは強気だ。そして来週からは、学校も始まる。のんびりと旅行を楽しんでいられなくなるのだ。
「そうだね、これから毎週、週末の休みはパタヴィアに行こう」
「がんばれよ。お前らがクッパだのなんだの言っている間に、俺は車の運転免許を取ってやるから」
パーティと言っても、報告会が終わればこのように雑談の場となる。町のイベントなどは、こうした雑談の中から生まれるものだ。
今回のパーティでラムリーザが驚いたり困ったりしたことは、前回のパーティでとっさに見せた謎の敬礼を、住民は未だにやっている――というより広まっているということだった。
最初に「新年あけましておめでとう」の挨拶を、ごんにゃ店主など一人ずつラムリーザの所に来るものだが、その都度例のポーズ――敬礼の姿勢を取って同時に右目前に指を持ってきて、これまた同時に指を開いて見せる――をしてみせるのだ。
報告会では、先月目安箱に届いた意見書から病院が建てられることとなり、まだ建設中。来月までには完成するということで、医師を集める段階に移り始めた。
もう一つ、動物園については、町の東外れに建設が始まった。西側に遊園地があるので、一極集中しないよう分散させるためだ。それに町の東には、まだこれと言った施設は無かった。
そしてさらに新しい提案として、町の中心に領主さんの巨大な像を建てようというのが挙げられたが、これはラムリーザが領主の権力を最大限に利用して却下を飛ばした。初の却下だ。誰かが言った台詞だったか、ラムリーザも自分の巨大な像など作られてはたまらないとといったところだ。
「あたしの像なら建ててもいいよ」
ただし、ソニアはまともな人間ではない例外タイプのようだ。
「あらそれいいわね。おっぱいの下が日陰になって、避暑地になりそう」
「やめようね」
口論に発展する予感を覚えたラムリーザは、さっさと話題を終わらせてしまった。
今月は他には提案は無かったようだ。
憲兵隊を結束させて、詰所は独自に作らせた。さすがに憲兵隊の詰所には妙な名前はつけようという話にならず、普通に「憲兵隊詰所」と命名された。
町の進捗と言えば、そのぐらいである。
「それでは最後に、領主さんから締めの言葉を!」
「えー?」
突然ごんにゃ店主に促されて、ラムリーザは顔をしかめるが、新年の最初に景気よく一発ぶちかますのも悪くない。
壇上に登ったラムリーザは、お酒――はまだ飲んだらダメなのでリンゴジュースの入ったグラスを掲げて、
「それでは、新しい年に乾杯――」
「かんぱーい!」
ソニアが大きな声で呼応する。
「――と言ったら、乾杯しましょう」
みんなの視線が集中する中、ソニアは同じくリンゴジュースを一気に飲み干してしまった。そして周囲をどや顔で見返している。これではラムリーザがジョークをかましたのかどうか分からなくなってしまった。
もしもフォレストピア歴があれば、この年は二年となっただろう。
こうして新年早々の第八回フォレストピア首脳陣パーティは終わった。