クッパ国跡地に行けない?!

 
 1月10日――

 

 学校にて、休み時間。今日もソニアたちは、パタちゃんクエストの話で盛り上がっている。第一部が終わったとかどうとかで、いよいよ冒険も盛り上がってきたようだ。

「クッパ王に会えたけど、あれがクッパなのかしら? あなたたち二人ともクッパにあったのでしょう?」

 唯一クッパのを取られていないリリスは二人に聞いた。

「う~ん、小さなドット絵だからなぁ」

「よくわかんないですの」

 そんなところであった。でもクッパ王が出てくるとなると、いよいよクッパ国の物語で、まるでドキュメンタリーだ。

 ラムリーザは、いつものように引っ付いてきているソニアに瀬を預け、時々聞き耳を立てていた。だが今日は、主にリゲルの方に興味が向いていた。リゲルは、図書室で見つけてきたと言っているが、「クッパ国の歴史」という本を持ってきていた。

「クッパ国の歴史って、どんなだい?」

 ラムリーザは、リゲルが調べたところまで尋ねてみた。

「どうも国王のアホみたいな行動が多いな」

 これまでに聞いた話では、クッパ王の正式名称はカバサン・ユビ・クッピンゲリアということ。そして妙なエピソードも多かった。リゲルはページをパラパラとめくると、一つのページで止めた。

「こんなのを記録して残している自体、妙なのだがな」

 そのページに書かれていた物は、しっぽズボン? 見た感じは普通の半ズボンだが、尻の所からまるで猿のようなしっぽがニョキッと伸びている。

 クッパ王は、一時期このしっぽ付きズボンを愛用していたそうなのだ。どういった製法なのかわからないが、本人の意思にそって動き、威嚇のポーズ、おどけのポーズなど、いろいろ披露していたようなのだ。むろん国民は、そんな国王の行動に大困惑していたとか。

 ページをめくると、そこは風呂の話。クッパ王の風呂は、全部で九個あり全てが隠されている。そして、その日の気分に応じてそれぞれの風呂を使い分けていたそうだ。ただ、「隠されている」「九個ある」と言った伝聞だけで、実際に見つけたわけではない。どうでもいいような、何か秘密があるというのか、何とも言えない情報だ。

 まだある。クッパ王がとあるビルの屋上でパーティをしていた時のことだ。そのビルに火災が発生して、その炎が屋上まで到達するだろうという危機に直面した時だ。クッパ王は、脱出するのではなく、そこからエレベーターを増築して、さらに上へ上へと炎から逃げていったのだそうだ。炎が迫る速度と、エレベーターを増築して登っていく速度の競争となった。最終的に、そのエレベーターは月まで到達し、クッパ王は無事に炎から逃げられた、と。

「これは嘘だろう?」

「映画にもなっているそうだぞ」

「では映画好きのリゲルに、今度視聴してきてもらおう」

 クッパ国から派生して生まれたパタヴィアになら、その映画も残っているだろう。

「しかしそんな作り話を歴史書に載せるなんてね」

「まぁ歴史なんざ、作り話もいろいろ混じっているって話だ。妙なエピソードはまだあるぞ」

 リゲルの示した次のページでは、クッパ王にとって病人の扱いというものだった。

 クッパ王は、ある日病人に出くわしたのだ。その時、「苦しい……」と訴える病人に投げかけた言葉が、「どうした、馬鹿」の一言だった。そしてその病人が亡くなった時に発した言葉は「あ、死んだ。捨てよう」とのことだった。さらにその病人の遺品に対して、「俺の側に置くな」などと言い放ったのだそうだ。

「えっと、この病人は政敵とか?」

「そこまではわからん」

「身内に対してなら異常だけど、敵に対してなら、礼節はわきまえてないけど、ありえなくもなくなくなく……」

「どうした?」

「いや、例え敵でも死者に対しては礼節を示すべきだよね」

「そうだな。この場合、捨てようではなく埋葬しようが正解だ」

 クッパ王は、気に入らない相手にはとことん冷遇する人物だったようだ。クリボー全責任説もそうだが、この死者に対する礼節の無さ、さらには自分の息子たちを「腹が立つ」との理由で投獄した話もコトゲウメから聞いていた。

 逆に気に入ったものに対しては、常軌を逸した優遇ぶりも聞いた。その筆頭が例えば国の重役に、五歳の子供をあてがうなど、いったいどうなのだ? という話だ。

「暴君というより、狂王ってところだな」

 リゲルは、うまく表現して見せた。狂王か、確かにそうだ。血なまぐさい残虐さはそれほど見られないが、行動が異常と言えて国民一同大困惑といったところだ。

 それを思えば、パタヴィアは普通の国だった。そこはおそらく、クッパ国を反面教師にしてきたのだろう。

「次のクッパ国探索は、春の長期休暇までお預けだがな」

「どうして? この週末は?」

 しかしリゲルは、春休みまで行かないと言うので、ラムリーザは慌てて尋ね返す。

「どうしてって、お前忘れたのか? パタヴィアまでの距離を」

「距離? 朝早く出かけたらいいじゃないか」

「やれやれだ。いや、領主がしっかりしていたら参謀役は不要になる。俺に任せてもらおうか」

 リゲルは腕を組んで背もたれにもたれ、居丈高に反り返ると噛んで含めるように説明を始めた。

 フォレストピアを朝一番に出発したとして、車で飛ばしてパタヴィアに付くのは日も暮れて夜になった頃になる。逆もまた然りで、パタヴィアを朝早く出発して、フォレストピアに帰ってくるのは夜になる。移動に車でほぼ一日――二十四時間ではないが、行動可能時間のほぼ全てを使ってしまうとみて良いだろう。そして、週末の休みは二日間である。

 これは初日の朝出発して着くのは夜。そして二日目の朝出発して帰ってくるのは夜となる。つまり、移動だけで週末二日の休みをほぼ全て使ってしまうのだ。調査できるとしたら、二日目の午前中に少しだけだろう。

「そ、そうだったね。そんなに遠かったんだ」

「国交もないし、汽車が開通しているわけではない。ここから帝都まで超特急で一時間ぐらいだが、その比ではないぞ」

 超特急のおかげで、去年は週末ライブで帝都に毎週行っていたが、そんなものはパタヴィアとの間には無い。

「そうか、移動だけで……、そうなっちゃうんだな」

「ま、春休みの初日までに準備を万全にして、すぐに出かけられるようにしよう」

「そうだね……」

 そこで休み時間の終わりを示すチャイムがなった。授業が始まったが、ラムリーザは何とかできない物かと考え続けていた。

 しかし、物理的な距離だけは変えようがない。

 例えば、週最後の学校が終わればそのまま夜通し移動する。すると、パタヴィアに到着するのは翌日の朝か昼ぐらいになる。そこから丸一日調査して、翌日の日暮れあたりに出発。そして帰ってくるのは翌日の朝。

 これなら一日調査に当てられるが、車の運転はどうする? かなりの重労働になるぞ。そして翌週の学校に影響が出るようなことは、リゲルはやらないだろう。

 パタヴィアは、行って帰ってくるだけでも大変なのだ。

「ラムリーザくん、前に出てこの問題を解きなさい」

「それどころじゃない」

「なっ、なんですと?!」

 そこでラムリーザは、ハッと我に返った。数学教師は、ぽかあんとした顔で教壇からラムリーザを見つめている。周囲では、くすくすといった小さな笑い声が上がっていた。

「あっ、ごめんなさい」

 ラムリーザは慌てて席を立って教壇へと向かった。小さな笑い声の中、仏頂面の教師に見られながら、なんとか問題を解くのであった。

 クッパ国の調査は一旦お預けかな、ラムリーザはそう考えた。でもラムリーザは別にクッパので被害に合ったわけではない。ソニアとユコを何とか諦めさせて――などと考えると、気が重くなるばかりだ。

 結局この日は、放課後までラムリーザはぼんやりとしたままであった。途中ソニアに心配されたが、どう切り出してよいものか分からなかったので、今は黙っているしか無かったのである。

 春休みまでパタヴィアに行けなくなったなどと言うと、おそらく「あたしのクッパのどうなるのよ」などと騒ぎ出すに違いない。学校を休んででも行こうよなどと言い出すかもしれない。

 本当に、何か良い方法はないものだろうか?

 

 何の解決方法も見つからないまま、放課後を迎えた。

 今日は、年が明けてからラムリーザたちと同じ学校に通うようになったジェラルドも一緒だ。そして、なぜかゲームセンターに寄って帰ろうという話になった。

 ゲームセンターと聞いたら、ユコはともかくレフトールもわざわざフォレストピアまで遊びに出てきている。

「んんん? こいつ誰?」

 ジェラルドに一番馴染みのないレフトールが凄んでくる。フォレストピアの住民なら、騎士団の一員をどこかで見る機会はあるものだが、レフトールは違うのでまだ見たことなかったのだ。

「フォレスト騎士団長のジェラルドであります」

 ジェラルドは、騎士団らしく礼儀正しく答えるが、かなり吹かしている。将来的にはそうかもしれないが、今は騎士団見習い。暫定的騎士団長は、壮年男性のメトンだ。

「騎士団長だぁ? このガキが?!」

 しかし知らないレフトールを騙すことはできた。それに、ジェラルドの言った言葉はレフトールにとって見逃せない物であった。なにしろ彼自身、ラムリーザの騎士を自称しているところがあるのだから。

 それにラムリーザはすぐには修正しなかった。今のラムリーザは、パタヴィアに行く方法を考えることで一杯なのだ。

「そうかそうか、てめぇが騎士団長か。それだったら、それなりの力は持っているんだよなぁ?」

 レフトールは、ジェラルドの肩に手をまわしてゲームセンターのある場所へと引っ張っていく。

「なんですかあなたは、乱暴だなぁ」

 ジェラルドは困ったような声を出すが、相手がラムリーザの同級生なら先輩に当たるので大人しく従っている。この秋に帝都からやってきたばかりのジェラルドは、レフトールが悪の双璧と呼ばれているとは知らない。ちょっと強引な怖い先輩といったイメージってところだ。

「こいつを殴ってみろや」

 レフトールが連れて行った場所は、パンチングマシーンの前だった。確かラムリーザが140ギガのパンチを見せ、ソニアが70ギガとラムリーザの半分だったっけ?

 まずはレフトールが殴ってみせる。120ギガとなかなかの数字だ。

「格闘技はたしなむ程度なのだけどなぁ」

 それでも、剣を振り回す訓練を続けているジェラルドも、腕力はそれなりのものであった。結果はレフトールと同じ120ギガを繰り出したのは流石というべきか。

「おおっ?! やるじゃねーか」

 レフトールは並ばれたのを評価するが、恐れてはいない。なぜならレフトールは殴り専門ではないからだ。今度は一歩下がって構えると、的を思い切り蹴飛ばした。鋭い上段蹴りだ。結果は138ギガと、かなりの威力を示したのであった。

「ま、こんなもんだ」

「お客さん、このマシンはパンチ用です。危険ですので蹴るのはご遠慮願います」

 すぐにフロアの係員がやってきて、レフトールに注意する。

「何だとオラァ!」

 なんだか以前にもあったような雰囲気だ。

「ラム~、また番長が問題起こしているよ~」

 ソニアに指摘されて、ラムリーザはパンチングマシーンの傍までやってきた。ちなみにソニアは、もう格闘ゲームはやっていない。持ちキャラが弱体化されてからは全然やっていない。今日は、クレーンゲームに熱中していた。そしてユコも、メダルゲームではなくソニアと競うように、クレーンゲームをやっている。その枠の中には、白くてずんぐりむっくりのぬいぐるみ――じゃなくて馴染みのクッションを手のひらサイズに小型にした物が入っていた。また増えるが、それは小さいから箱詰めにでもしていれば、邪魔にならない。

「レフトール」

 ラムリーザは、ちょっと気持ちがどこかに行っているような感じでレフトールに呼びかける。

「はいはいはい」

 レフトールもめんどくさそうに、引き下がった。

「兄貴はパンチ力すごいんですよね?」

「ん? ああ」

 相変わらずぼんやりしているラムリーザは、パンチングマシーンを殴りつけた。バシーンと鋭い音がして、記録は135ギガ。

「おおっ、今日は調子悪いのかな? 俺、勝っちゃったぞ」

 レフトールはなんだか嬉しそうだ。ラムリーザは調子が悪いというより集中していない感じだ。本気で打てば、唯一140ギガ越えを見せる力の持ち主だ。

「そうだ兄貴、ブランダーバスでそれ撃ったらどのぐらいの威力がでますでしょうかね?」

 そこでジェラルドは、とんでもないことを思いついた。確かにかなりの破壊力だが、パンチ力に換算したらどのぐらいになるか興味深い。

 しかし普段のラムリーザならば、その提案は却下していただろう。これは殴って遊ぶ物、レフトールのように蹴ったら怒られるし、武器などを持ち出した日には――。

「そうだねぇ」

 ラムリーザは一メートル程下がると、腰に吊るしてあったブランダーバスを手に取り、弾薬を込めてパンチングマシーンの的へと向けた。さすがにこの距離なら、外すことは有り得ない。

 今日のラムリーザは、パタヴィアに行く方法を考えることで頭の中が一杯であった。だからジェラルドの提案に何も疑問も抱かずに、そのまま実行に移したのだ。

 

 ズドンバターン!

 

 店内に、轟音が響き渡った。

 所々で小さな悲鳴や驚きの声が上がり、客のほとんどの視線がパンチングマシーンへと向かった。

 もともとゲームの音が鳴り響いているゲームセンター、シーンとすることは無かったが、時間が止まったような雰囲気になっている。

「あ、相変わらずすげー音だぜ」

 ようやくレフトールは口を開いた。平然としているのは、ラムリーザとジェラルドの二人だけだ。この二人は、ブランダーバスのことをよく知っていた。ソニアもよく知っているのだが、背を向けてクレーンゲームに夢中になっていたので、突然の轟音に驚いていた。

「ほえ~、196ギガも出てますよ」

 しかしジェラルドも、記録を見てようやく驚くこととなった。

「マジかよ? 俺の蹴りやラムさんのパンチの1.5倍の破壊力なのかよ?! ってそれ武器だったのかよ!」

 残念ながらレフトールはラムリーザの練習を見ていないし、パタヴィアでは命中するところを見ていない。相手を驚かせて怯ませるアイテムだと思っていたのだ。

 これでわかったこととして、命中させられれば相手を戦意喪失させることは間違いないだろう。

「お、お客さん! ってか領主さん! 困りますね!」

 ようやく我に返ったフロアの係員が、ラムリーザに注意しに来る。

「ああっ?! あ、ごめんなさいごめんなさい!」

 同じく轟音でぼんやりしていた頭が元に戻ったラムリーザは、自分がとんでもないことをしでかしたことに気がついて平謝りだ。よく見ると、弾の当たったパンチングマシーンの的のクッションの部分が、少し吹っ飛んでいる。

 ラムリーザは出入り禁止にまではならなかったが、修繕費は弁償しますということでこの場は収まったのである。

 

 さて、パタヴィアへの旅はどうなってしまうのか?

 距離が問題で時間が足りない、何か良い方法はない物だろうか?

 このままでは、調査は打ち切りとなってしまう。クッパのなどの調査はラムリーザにとってはどうでもいいが、ソニアやユコは許さないだろう。

 しかし、この状況を打破する方法は、意外なところから出てくることとなる。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き